MANUEL ROCHEMAN
これは眠れないアルバムである
"CACTUS DANCE"
MANUEL ROCHEMAN(p), SCOTT COLLEY(b), ANTONIO SANCHEZ(ds)
2006年3月 スタジオ録音 (NOCTURNE : NTCD412)

フランスのピアニストだという。このピアニストに今話題のサポート陣、SCOTT COLLEYとANTONIO SANCHEZを配して話題性でもアピールという構図らしい。購入してからもう随分と長いこと聴いているが、正直に言って「どこがいいのか僕には分からない」
一聴、BILL EVANS風ではあるが、「似て非なるもの」と言わざるを得ない。EVANSを荒っぽくした印象。このピアニストの左手は退屈だ。流麗多弁な右手に対して鈍重と言いたくなるほどワンパターンで抑揚のない左手なのだ。

一流といわれるピアニストに共通しているのは「左手の多彩さ」だ。BILL EVANS、KEITH JARRETT、CHICK COREA、KENNY BARRON、BRAD MEHLDAU、 STEFANO BOLLANI・・・これらのピアニストの左手は単にコードを充てるだけではない。ある時は重低音を奏で、ある時は右手同様のメロディを奏で、ある時はリズミカルなバッキングに徹する。単に右手を補充するためにあるのではなくて、左手が音を主張し多彩な表現を演出するためにあるのだ。
このROCHEMANの左手はコードによるバッキングのみで、そのリズムも変化に乏しくてワンパターンの印象を拭えない。だから、どの曲も曲想が似てしまい、どれもモーダルな演奏のように聞こえてしまう。

@"AULNAY BLUE" 
A"YOU MUST BELIEVE IN SPRING" 
このピアニスト、BILL EVANSの影響を受けているし、意識もしているようだ。奇しくも、EVANSのアルバム、"YOU MUST BELIEVE IN SPRING"(JAZZ批評 412.)にはこのアルバムと同じように2曲目にこの曲が入っている。EVANSはそのアルバムの中でピアノと電気ピアノを交互に使い分けているが、この辺も意識してのことだろう。ROCHEMANのピアノが突然、電気ピアノに切り替わるが、あまり必然性を感じない。
B"BATIDA DE COCO" 
C"CACTUS DANCE" 
同じリフがくどいほど執拗に繰り返される。
D"SO TENDER" 
E"PRATO FEITO" 
F"COMRADE CONRAD" 
G"I DO IT FOR YOUR LOVE" 
H"EL MOSQUITO" 
I"WALTZ FOR MARIANNE" 
J"I LOVE YOU 7/4 VERSION" 
なんで7/4拍子で演奏する必要があるのか?生理的に不快。寝覚めも悪くなりそう。
K"I LOVE YOU 4/4 VERSION"

5つ星に選定しているお気に入りアルバムというのは基本的に耳に心地よい。夜、寝るときにCDを掛けっぱなしにして寝るのが日課なのだが、いいアルバムは眠りに入るのも早い。心地よさが睡魔を呼び込んでくれるのだ。(余談だが、CDはこの点、便利。1枚、最後まで行くと自動で電源が切れてくれる。アナログLPではこうはいかない)
ところが、このアルバムは逆に目が冴えてしまうのだ。実に、寝つきの悪いジャズなのだ。不快とまでは言わないまでも、決して気持ちいい状況にはしてくれない。眠れないので、別なCDに交換したことは2度や3度ではない。これは眠れないアルバムである。   (2007.04.30)



独断的JAZZ批評 411.