『好き嫌いと嗜好の違い』
「こうち食品産業情報」No26['92.秋号]掲載
[発行:高知県食品産業協議会]


 食と好き嫌いの問題には、とても興味深いものがあります。子供の時分には、好き嫌いは悪い事だと大人に叱られ、直すよう求められますが、大人になると好き嫌いはあって当たり前と受け取られるどころか、何でも食べられるのは、悪食か味覚音痴のように言われかねません。本来好き嫌いと味が分かるということは違うはずなのですが、現実にはその区別が明確にされていない場合が多いような気がします。では、その違いとは何なのでしょう。
 大雑把に言えば、好き嫌いというのは、食を食として味わう以前に生理的に受け付けない状態による選好であり、味を問題にするに至っていないのではないかと思われます。味覚がさまざまな味の体験を重ねるなかで形成される嗜好だとするならば、好き嫌いは幼少の一時期の食生活のなかで刷り込まれた型枠だというべきではないでしょうか。だから、子供の時分の好き嫌いは悪いことだとされるのです。単に栄養バランスのためだけではなく、より豊かな食文化を堪能するためにも、好き嫌いはないほうがよいのです。
 毎度のことで申し訳ないのですが、これと非常に似たことが映画の楽しみにおいても言えると思います。映画にあっては、好き嫌いが悪いとされる時期がないぶんだけ、よけいに片寄りがちなのではないでしょうか。そして、味の違いを楽しむ場において、好き嫌いによる偏好と拒絶が大手を振って罷り通りやすいのも、映画の味わいに関してだという気がします。でも、好き嫌いだけで食している人のことを食の楽しみを知る人とは呼べないように、映画も好き嫌いだけで済ませているうちは、嗜好とは言えませんし、映画の楽しみを知る人とは呼べないように思います。
 より豊かな映画の味わいを楽しむためには、先ず好き嫌いをなくし、バランスのとれた食生活ならぬ映画生活を始めることです。そして、可能な限り、そのバランスの良い状態を継続してみることです。ある程度の質的バランスが取れ始めると、量的バランスにまで厳密にこだわる必要はありません。でも、著しい量的アンバランスが質的バランスに全く影響しないとは言えませんから、量的バランスにも多少は留意したいところです。それを重ねていくことが、単なる好き嫌いではない“映画の嗜好”を造りあげていくはずです。
by ヤマ

'92.Autumn 季刊誌「こうち食品産業情報」No26



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