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『アット・ザ・ベンチ』['24] | |||||
監督 奥山由之
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昨年末に観逃したのを残念に思っていたので、機会が得られて嬉しかったけれど、悪くはないものの、思ったほどには響いてこなかった。第2編「まわらない」で、第1編「残り物」のリコ(広瀬すず)以上に、何ともめんどくさいナナ(岸井ゆきの)を観ているうちに、これはもしかすると元公園のベンチを軸に低予算で撮った今風『ラブ・アクチュアリー』['03]なのかもとの思いがよぎったことが、仇になったような気がしなくもない。 第1編での只の幼馴染ではなさそうなリコとノリ(仲野太賀)の対話と沈黙の間が好く、第2編の四年間同棲しているナナとカンタ(岡山天音)の会話のずれが可笑しく、第3編「守る役割」での姉妹を今田美桜と森七菜が演じていたことに驚いた。第4編「ラストシーン」での父子関係に唖然とし、第1編から一年ほど経ったと思しき第5編「さびしいは続く」では、工事に入る前から立ち入り禁止になっているはずのベンチに現れた二人をどう観るべきか惑わされた。第4編がなければ、もっと素直に観られた気がするが、草薙剛、吉岡里帆の怪演と監督(神木隆之介)との演出談義を見せていた挿話のせいで、オムニバスとしての構成が破綻してしまったように感じる。 第5編でのリコの「もう一年ニートかぁ」という台詞の「もう一年」は、一年に加えての一年というわけでは必ずしもないから、経過時間は一年未満なのかもしれない。ノリの服装がまるで変わっていたのは、必ずしも職を得たことを示しているのではなく、第1編では偶々休日だっただけなのかもしれない。などなど妙にモヤモヤするものを最終編に感じたために、些か味が悪くなったように思う。 感心したのは、第3編での満たされぬ恋情を持て余している姉を演じた今田美桜で、「わけわかんない」となじる妹に向けて放った「わけわかろうとして聞いてないからでしょ」との台詞が利いていた。また、リコを演じた広瀬すずの少女の顔ではなくなった面立ちのなかで差し挟まれる台詞回しのあどけなさに魅せられると同時に、公園がなくなっていることに気付かなかった悔いに対して「長年連れ添った旦那の大病」に擬える台詞を発する歳になったのかとの感慨を抱いた。 もろもろの愛の実相として最もよく出来ていたのは、やはりリコとノリのエピソードだろう。ネタ的に最も面白かったのは、元公園に現れベンチが空くのを待っていた中年男(荒川良々)にお株を奪われて不貞腐れていたカンタとナナのエピソードで、役者が最も頑張っていたのが、不倫と思しき男を追って上京し宿無しのまま戻ってこない姉を連れ戻しに来た妹のエピソードだったように思う。 ナナが山葵を仕込んだ寿司ネタはサーモンで、その意はバイク乗りではないくせにバイク乗りのような格好をするところだったが、実のところ彼女が最も気に入らないのは、最初に部屋に入れたときに綺麗に片付いていたことから勝手に潔癖だと思い込み、いまだに飲み掛けのペットボトルには口を付けないようにして飲んで返したりするところだったような気がする。 ともあれ、いかにも今どきの映画だという感じで、ノリもカンタもめっぽう優しい男たちだった。こうでないと今どきのマーケットではやっていけないということかもしれないが、他方で、確実に現代の若い男性の気質を写し取っているような気もしないではない。半世紀前の僕が若い時分の映画に描かれていた“男の優しさ”とは根本的なところでの質的差異があるような気がして、隔世の感を覚えた。 | |||||
by ヤマ '25. 3. 9. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター | |||||
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