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『フェイクとリアル 川口 クルド人 真相』 https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/8ZVZ4PZ41V/ | |||||
NHK ETV特集 | |||||
兵庫県知事選といい、川口市のクルド人の件といい、この国の人々は、いったいどうしてしまったのだと全く気持ちが悪くなってくる。二年前に映画にもなった『福田村事件』のことを想起したりもした。 こういうことが顕著になって来たのは、やはり在特会の出現が大きいような気がしてならないと思っていたら、案の定、長年ヘイト問題に関わってきている弁護士という師岡康子氏が言及していた。また、日本クルド友好協会の会長を務めている日本人が大アジア主義に立つ右翼人だったことに驚いた。インタビューに応えてネトウヨによる排外運動を非難していた。川口自警団を名乗る一団を率いる東京人へのインタビューもあって、インプレ稼ぎのほうが評価されると悪びれず語っている姿に唖然とした。アテンションエコノミーの問題点は既に顕著になっているわけだが、ここでもまたイーロン・マスクの名が登場していた。立花孝志など比較にならないパブリック・エネミーだと改めて思った。 それにしても、かように狂信的な人々がここまで顕在化してくると、その絶対数そのものは、そう多くはなくても拡散や反復によってインフルエンサーたり得てしまう現実を突き付けられているようで遣り切れない。なんかヤバそうになってきたから止めたとか言っている“やっている側の軽々しさ”と“ダメージを受けている側の深刻さ”の落差の余りの大きさに、暗然たる思いが湧いてくる。気分直しに「中島みゆき ~春・旅立つひとに贈る名曲選~」を視聴することにした。 すると、高校の二年後輩が「…番組はレイプ事件や暴行未遂のことは一切触れない徹底ぶり。これではネトウヨが罪もないクルド人を一方的に虐めていると見える。だが仮放免中に女子中学生に性的暴行を加えて逮捕された20歳のクルド人が「遊んだが暴行はしていない」と嘯いて被害者や捜査当局を激怒させたケースなど何故紹介しない?…」などと煽っているらしい投稿に触れた。その方便たるやまるで、被差別部落問題の啓発番組に対して部落出身者にかくかくしかじかの犯罪者がいるが、何故紹介しない?と難癖をつける次元と同じで、芯から呆れてしまった。いや、ビジウヨには無理か…と嘆息していたら、門田隆将の発言の真意はメディアにおける「両論併記」に言及しているのであって、おかしな発言ではないのではないかとのコメントをもらった。加えて、再放送予定日当日になって急遽、再放送番組が差し替えられて、この番組の再放送が中止になったことを教えてくれるコメントも寄せられた。 毀誉褒貶著しい反響があったので、そのまま再放送するのではなく、政治問題化までしている背景などをもっと詳しく取材するのであればいいが、そうとも限らない気もして悩ましい。もし更に取材を重ねて充実させるのであれば、労働規制や入管法、難民認定などについて、クルドに限らない外国人問題のなかで、何ゆえクルドが突出する形で炎上したかという事情なども明らかにしてほしいと思う。 門田隆将擁護のコメントを寄せてくれた方は番組自体を観ていないとのことだったが、視聴した僕の受け取りでは、門田が記しているような「ネトウヨが罪もないクルド人を一方的に虐めている」ことを見せようとしている番組ではなかった。ましてや彼の投稿を受けて“クルド人が言われ無き「差別」を受けているという番組作りの方向性”を以て製作していると未視聴者が受け取るような内容でもなかった気がする。 映画でも絵画でも人によって受け取りは様々だから、私見でしかあり得ないが、そもそもこの番組、いわゆる差別問題に主軸を置いたりはしていなかった気がする。このファナティックなまでのクルド人叩きがネットを軸に起こっていることについて、騒ぎ立てられていることの実体が何なのか、火をつけているのは誰なのか、何故なのかを追おうとしていたように見受けられた。この炎上は、いったい何なんだ、という立ち位置からの検証のように感じた。 近ごろ耳障りな用法が目立つ両論併記という言葉に関しては、数々の事象や人物について解説や紹介をしているだけであれば「論」はないのだから、そこに論の話を持ち出すのは筋違いだ。世間的には、事象と論との区別なく両論などと言い出す人がいるのだが、それは大きく違うと思う。 論ではなく取り上げる事象のバランスということでは、クルド人たちに対する苦情や顰蹙の声も拾ってはいたが、そこに軸足はなく、むしろ現地の近隣在住者とネトウヨの声との温度差のほうが際立つ拾い方にはなっていたものの、番組自体はそこに不条理・不可思議・乖離が生じていることを炙り出していただけのような気がする。そもそも後輩が煽っているような事象“紹介”バランスで言えば、番組としてはむしろネット界隈で流布されている誹謗中傷とのバランスを図ることの必要から、現地取材に立脚した齟齬を“紹介”している感じを受けた。一つの番組内でのバランスという近視眼的バランスと状況全体を踏まえて取るべきバランスというのは、同じバランスという言葉を使っても中身が違ってくるのは道理で、俗に部分最適と全体最適とは異なるといったレトリックで語られるものとも通底するものだ。 そして、論じるうえでは素材に触れずして論じるのはナンセンスだから、当該番組について論じるには矢張り観ないことには始まらないわけで、観る機会が奪われるのは大変に残念なことだと改めて思った。 すると、番組に映し出されていた市議が「私のXの動画を無断で使ったことをNHKに抗議した結果、再放送は無しになりました」という形で再放送差し止めに成功したというアピールをしていると教えてくれた。当該市議が抗議をした本音は、確かに常識人なら見過ごせないような顰蹙もののかなり酷い行状が映し出されていた自分の映像を観られない状態にしたうえでなら、己が威力アピールのネタにも出来ると考えたところにあったのかもしれない。もともと制作サイドからすれば、議員という公職者だったので、公道や公園での振る舞いや自身が公表しているものを使用することに許諾を求めていなかったのだろうが、もしかすると、そのことを盾にできると踏んで敢えて事前照会をせずにそうしていたのかもしれない。 この番組を観て僕に最も強く響いてきた部分は、まさにこの部分でもあったからだ。翌々日に観たBS世界のドキュメンタリー『ドイツの内なる脅威 躍進する“極右”政党』['24]でも感じた「政治家が扇動し始めることの影響力と恐ろしさ」にも繋がるものだ。トップ当選というのは、番組でも報じていたことだが、真底驚いた。このような人物をトップ当選させるのかと呆れて、本番組の感想として記した冒頭の一文が「兵庫県知事選といい、川口市のクルド人の件といい、この国の人々は、いったいどうしてしまったのだと全く気持ちが悪くなってくる。」となったのだった。 聞くところによれば、件の市議は戸田市議なのだそうだ。川口市の隣の蕨市の更にまた隣の戸田市から乗り込んできていたわけだ。番組でインプレ稼ぎとか言っていた人物は東京だった。千葉という輩もいたように思う。ともかく目立って騒ぎ立てている人物たちが現地住民ではないことに呆れる。番組紹介に「2023年4月を境に爆発的に増えている」と記されている現象をみるにつけ、その前年に製作された『マイスモールランド』['22]でも提示されていた問題が滅茶苦茶にされているように感じる。政治家であれネットインフルエンサーを企む者であれ、クルドをネタに火をつけて煽ることで利得を得ようとするビジウヨのごとき振る舞いは、本当に許しがたい。 | |||||
by ヤマ '25. 4.12. NHKプラス | |||||
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