『チャタレイ夫人の恋人』(e'Amante)['91]
『レディ・チャタレー』(La Storia Di Lady Chatterley)['89]
『東京チャタレー夫人』['77]
監督 フランク・デ・ニーロ
監督・脚本・原案 ローレンス・ウェッバー
監督 藤井克彦

 D・H・ロレンスによる原作小説は未読だが、ジュスト・ジャカン監督によるシルヴィア・クリステル主演映画['81]を四十一年前に観て、ケン・ラッセル監督によるジョエリー・リチャードソン主演映画['93]を二十八年前に観ている。それからすれば実に久しぶりとなるわけだが、たそがれの情事を観て『チャタレイ夫人の恋人』に言及したからでもないだろうが、たまたまネットの連鎖で流れてきたものだから、ついつい観てしまった。

 '91年のフランク・デ・ニーロ版は、コニーでもメラーズでもなく、ジョエルとチャールズで、チャタレイのチャの字も出てこなかったが、下半身不随ではなくとも落馬事故で不能になった夫フランツと、使用人の庭師チャールズに溺れるジョエルという設えから邦題をそうしただけのようだ。

 なんじゃこりゃのお話はともかく、風景から花々、女体とフォトジェニックな画面が、途切れることのないバックミュージックと共に延々と繰り広げられる。ジョエルを演じていたのがマルだと思われるが、なかなか艶っぽくて、なまめかしい姿態に魅せられた。メイドはともかく、モデルを演じていた娘もとても綺麗な肌をしていたように思う。


 翌日観た『レディ・チャタレー』は、そのマルが今度はまさしくクリフォード(モーリス・ポリ)の妻コニーとして登場する作品で、正真正銘のポルノ映画だった。

 クリフォードの遺産を継いだコニーが、ポルノ作家と呼び、ハーバートと呼ぶ旧知のD・H・ロレンス(ブルース・ウィリアムズ)に語って聞かせる話となっているところが、ちょっとした意匠を凝らした点なのだろう。だが、それによって新たな何かが浮き彫りにされているわけでもない、至って普通のポルノ映画だったように思う。それでも、森番のメラーズ(カルロ・ムカーリ)とのセックス・シーンは、なかなか力が入っていて、けっこう目を惹いた。


 東京との冠がついた日活ロマンポルノ『東京チャタレー夫人』は、志麻いづみが「(新人)」と添え書きされてトップにクレジットされた翻案もので、交通事故で車椅子生活を余儀なくされた、富裕事業家一族の息子である夫の加納達則(真家宏満)が不能になっていた。その妻美緒を志麻いづみが演じ、何の後遺症も負っていない自分が車を運転していたことに自責の念を抱いているという設定が、少々目を惹く構成になっていたように思う。

 事故の直接の原因が何なのかは明らかにされてはいなかったが、ちょうど事故を起こしたときに助手席から夫が痴戯を仕掛けてきていて、運転に集中しにくい状況になっていたのだから、彼女が自責の念に駆られる必要はないように思われるのだが、原因が何にあるかということよりも、現状において何の後遺症も負っていない自分と絶望的な不具に陥った夫とのバランスの悪さが彼女に負い目を与えていたのだろう。

 既に密かに関係を持ってしまっていた元土木作業員の使用人である新田(椎谷建治)の眼前で、夫から命じられたとおりに全裸を晒していた時点においては、それが新田に対する達則のマウンティングであることを悟ったうえで従っていた美緒の側に、ある種の疚しさがあることが窺えた。自分はあくまで達則の妻だという意思表示でもあったような気がする。だが、夫の会社の従業員や使用人に対する冷淡で見下した態度に加えて、夫が家政婦(梓ようこ)と痴戯に耽っている姿を目撃したことで、それまで囚われていた負い目が吹き飛んだことが、最も大きな要因になっての美緒からの別離だったように思う。

 確かに、家政婦との情事を目撃した後で新田と抱き合い、横たわった新田に跨って交わりながら、男の乳首に自分の乳首を擦り合わせて激しく身を捩り、大きく仰け反って達した後、あたしたち、さっき一緒に終わったわね。こんなこと初めてと感慨深げに洩らしていたが、先に加納家を去った新田を追ったわけではないことは、結婚指輪を外して夫に一人になって考えてみますと告げた台詞だけではなく、舗装道を歩いている新田を見つけながら車を止めることなく走り去っていたエンディングによって示されていたような気がした。

 もっとも人によっては、新田を抜き去った美緒の微笑みに「一足先に行って待ってるからね」との加納家から解放された満足を受け取り、その意を察した新田の笑みで終わっているように観るかもしれないけれども、僕は、加納家からだけではなく、新田からも解放されているように感じた。'60年代と違って社会性を排した“個人的な解放”を謳い上げていた覚えのある'70年代後半という時代の作品には、そのほうが似つかわしい気がするからだ。

 それにしても、本作がロマンポルノ・デビュー作だという志麻いづみの、とても二十四歳とは思えない﨟󠄀たけた夫人ぶりに大いに感心した。
by ヤマ

'23. 1.25. GYAO!配信動画
'23. 1.26. GYAO!配信動画
'23. 2.23. GYAO!配信動画



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