クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』['01]
クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』['02]
監督・脚本 原恵一

 たまにテレビ放映で見掛けていた野原しんのすけ【声:矢島晶子】のキャラクターとひねた物言いが気に入らなくて劇場版が評判になっても足が向かず、観ているのはクレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!栄光のヤキニクロード['03]だけだ。あまりにシリーズ作の評価が高いことを不思議に思い、遂に検分しに行ったわけだが、水島努監督による同作を観て物語の軸になっているのは、家族の団結なり求心力のようなものだから、俗悪な内容では決してない。また、展開のリズムや画面構成には、なかなかのものがあるとも思う。だけれど、ベースにある僕の生理的な違和感を払拭してくれるほどの見事さでもなかったと記していたら、幾人もの映友から原恵一監督・脚本の「オトナ帝国の逆襲」を是非とも観てもらいたいと言われていた。

 その宿題映画を今回「戦国大合戦」と併せて託され、二十年の時を経て、遅ればせながらクレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』を観ることになったわけだが、20世紀【昭和】の夢よ再びの21世紀東京五輪が桁外れの利権・金権・汚職にまみれていたことが明るみに晒され始め、同じく“夢よ再び”の21世紀大阪万博開催が1000日を切った今になって観るのは、タイミング的には却って悪くないような気がした。EXPO'70を十二歳のときに経験し、泊りがけで大阪の従姉弟たちと幾日か費やして、暑い夏のさなかにパビリオンを回ってスタンプラリーに精出した覚えのある僕には、まさしく同時代と言ってもいいような作品だった。

 そのうえでは、20世紀博のシンボルタワーとして模されていた東京タワーの強調ぶりと、美化した懐古における“におい”をキーワードにしていた点が大いに目を惹いた。まさしく再現された町の佇まいに人々の息づきが宿っていた秀作ALWAYS 三丁目の夕日['05]に始まるシリーズが鮮やかに描き出しながらも、決定的に欠いていたと思われる“におい”を指摘しているように感じたので、観賞後に製作年次を確かめてみたら本作のほうが先行していて驚いた。

 本作が取り上げた'70年万博のちょうど十年後の'80年に暗殺されたジョン・レノンを思わせる佇まいのケン【声:津嘉山正種】たち大人が、ひたすら人間性の損なわれていく一方の「日本の未来」を拒み、過去に逃避する虚弱なメンタリティを美化して称揚する結社イエスタディ・ワンスモアを率いていたが、ケンの相方女性の名がヨーコでも、挿入歌として流れるケンとメリー ~愛と風のように~のメリーでもなく、原恵一と同世代の僕が幼少期に観たTVドラマ“チャコちゃんケンちゃん”から取って来たようなチャコ【声:小林愛】になっているのが可笑しかった。

 そして、'60年代や'70年代をこうして懐古的に偲ぶことのできる我々世代は、戦後荒廃期の生活苦にもロスジェネ世代とも呼ばれるバブル経済崩壊後の格差社会における閉塞感にも、ど真ん中で苛まれることのなかった実に幸運な世代であることを改めて感じた。


 次に観た、十三年前にTOHOシネマズ西宮OSで『BALLAD 名もなき恋のうた』(監督 山崎貴)を観たときのメモに思った以上に面白かった。『戦国自衛隊』も『クレしん』も観てないけれど、自衛隊がタイムスリップする話より余程気が利いているように思った。と残していた“クレしん”たる『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』は、確かに悪くはないけれども、そう取り立てて持て囃すほどのものでもないような気がした。オープニングにねんどアニメ【石田卓也】とともに流れる♪ダメダメのうた♪じゃないけれども、僕には響いて来ない“ダメダメ”のようだ。

 ただ昨今、政権トップからして余りにも出鱈目な政治家の言葉ばかり聞かされているからか、緊張感をもって金打を交わす井尻又兵衛【声:屋良有作】の姿が目を惹いた。政治家の誓いや約束が全くその場限りの方便でしかなくなり、引責どころか非を認めることさえしないで済ますことが横行するようになったのは、“レガシー”に執心し、ひたすら“地位に恋々として”最長不倒記録と思しき在任期間を残した野次宰相の影響だろうと思わずにいられない日々を送っていると、製作時から三十年前の過去を偲んでいた前作どころか、三百年以上も前の過去に遡らなければ「見事じゃ、又兵衛」と言えるような“青空侍”には出会えないのかという気がしてくる。

 原恵一の監督・脚本作品ということでは、名高いアニメーション作品クレヨンしんちゃんよりもはじまりのみち['13]のほうが余程よかったように思う。カレー好きネタが共通する点は、きっと原恵一の好物だからなのだろうと思った。

 今回ようやく両作品を観てみて、二十年前に『嵐を呼ぶ!栄光のヤキニクロード』の日誌にふっと連想したのが嘗ての日活ロマンポルノだった。裸と絡みのシーンを盛り込んでおきさえすれば、後は何を描こうが、かなり自由にやれるところから生まれた佳作群が“ただの裸映画じゃない”といった予想外のインパクトを与えたことから日の目を浴びていったように思われるのだが、子どもが主人公のアニメ映画だから子ども向けの映画だと思っていたら、“ただの子ども向けアニメ映画じゃない”どころか、“およそ子ども向けのアニメ映画じゃない”と思えるようなところがあって、それは間違いのないことだから、次第に脚光を浴びるに至ったのかもしれない。しかし、元々の漫画がそうだったように、そもそも子ども向けのものではなかったのだから、当初からファンの大人たちは何を今更というふうに思っているのではないかという気もしたと綴った点は、何ら変わることがなかった。
by ヤマ

'22. 8.13. DVD観賞



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