『恋に落ちたら…』(Mad Dog and Glory)['93]
監督 ジョン・マクノートン

 最後は提示された4万ドルではなく、警察当局と裏社会それぞれの仲間が取り囲んで囃し立てるなかでの面目を掛けた殴り合いで片を付けるなんざ、まさに西部劇そのもので、その100分を切るランニングタイムからしても、登場人物のキャラクター造形や筋立てからしても、ほぼ確信的に往時のプログラムピクチャーとしての西部劇を1990年代に再現したかのような映画だった気がする。

 父親のようには軽く扱われない職業にということで警察官になったという、弱虫保安官のような“マッド・ドッグ”ウェイン(ロバート・デ・ニーロ)が、町の裏の顔役のようなフランク(ビル・マーレイ)がコンビニで銃を突き付けるチンピラに踏み付けられていた失態から、その命を救った怪我の功名が切っ掛けで奇妙な縁を結ぶことになる訳だが、まさに西部劇から誂えてきたような酒場女たるフランクの店の若きバーテンダー、グローリー(ユマ・サーマン)を押し付けられたことから、黒魔術よりも霊験あらたかな恋の魔術によって、一人前の男になる話だった。

 頭が働き、現場分析を得意とするウェイン刑事の頼りになる相棒マイク(デヴィッド・カルーソ)と、スタンダップコメディアンとして人気を得たいフランクの手下である強面ハロルド(マイク・スター)のキャラクター造形が利いていて、フランク、ウェインともに誰彼なくは明かせない弱みをぼやいていた部分も含め、男子の本懐、度胸や男気なるものを随所に窺わせる造りになっているところが、実に西部劇的だった。

 それにしても、当時二十代前半のユマ・サーマンの量感のある胸には吃驚した。なんとなくほっそりしたイメージがあったのだけれど、そうではなかったようだ。遠い昔に観たきりになっている『バロン』['88]やら『ヘンリー&ジューン/私が愛した男と女』['90]を再見してみたくなった。また、ビル・マーレイは、こんなに巧い役者だったのかと観直した。フランクの孤独で特異なキャラクターを見事に造形していたような気がする。思いのほか、面白い作品だった。

 ジョン・マクノートンは、かねてより『ヘンリー』['86]が気になりながらも未見の宿題映画になっている作り手なのだが、図らずもこちらのほうを先に観る機会を得て、ますます『ヘンリー』を観てみたくなってきた。
by ヤマ

'22. 8.16. BSプレミアム録画



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