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ひるがえる「神のマント」をつかめ!

 11月3日、核兵器廃絶市民講座が開かれ、共同通信記者の太田昌克さんが「岐路に立つ日本の非核—朝鮮半島情勢も踏まえながら」と題して講演。朝鮮半島関係の部分を紹介します。

<情報機関が主導した米朝会談>
 米朝首脳会談から5か月経つが具体的な話が進んでいないのは会談が情報機関主導だったこと、北朝鮮に対する米国政府の根深い不信感が要因である。
 「経済路線に転換」というキム・ジョンウンの新年の辞を機に韓国のソ・フンと北朝鮮のキム・ヨンチョルが水面下で交渉を始める。ともに情報機関のトップで、首脳の側近中の側近である。最終的にこの二人の間に当時のCIA長官のポンペオが入り、大きな枠組みは示したが詳細は外交当局に委ねられることになった。
 終戦宣言とその波及効果をめぐって米国政権内で「ねじれ」がある。トランプ大統領vsボルトン補佐官・マティス国防長官ら側近/官僚=安保政策のエリートという構図。ポンペオはトランプの名代として行動している。また関係国内でも北朝鮮・中国・韓国・トランプvs米国の政策エリート・日本という構図になっている。

<北朝鮮側の不信感>
 よく北朝鮮に騙され続けたと言われる。しかし北朝鮮にしてみれば騙されたのは自分だ。
①94年に米朝間で枠組み合意ができ、ヨンビョン核施設の凍結と米国のエネルギー支援が決まった。だが米国を信用できない北朝鮮はウラン濃縮を検討。クリントン政権はその兆候をつかんでいたが関係正常化で片づくと思っていた。2000年訪朝での和解を念頭にマレーシアでミサイル交渉を始め、北朝鮮も期待したが、時間切れとなった。その後、北朝鮮を敵視するブッシュ政権が誕生し、2年間、何の交渉もしなかった。北朝鮮は「騙された」と感じた。
②05年の六ヶ国協議で北朝鮮は検証可能な方法で核を放棄し、米国は安全保障を与えることが決まった。しかし4日後、米国の金融当局が北朝鮮幹部の口座が50ほどあるマカオの銀行に制裁を行った。政権内の連携不足が招いた事態だ。北朝鮮は騙されたと感じ、1年後に初の核実験を行った。

<歴史的好機を逃すな!>
 「神のマントが歴史の中にひるがえる時、飛びついてつかまえなくてはならない」—宰相ビスマルクの言葉で、東西ドイツを統一させたコール首相が後に使った。チャンスがうまいタイミングで巡ってくる時がある。政治家はその好機をつかまないと人類にとっての幸福と平和を実現することができないという意味だ。
 いろいろ邪心はあっても米朝が握手したのはものすごいこと。「神のマント」がひるがえっている。米朝の相互不信を乗り越えて非核化、朝鮮半島の恒久的平和をつくらないといけない。徴用工裁判が批判されているがなぜ朝鮮半島が分断されたのか考えなくてはいけない。植民地政策の帰結であり、日本は歴史的責務を負っている。訴える痛みを理解しないと何も進まない。日本も「神のマント」をつかむプレーヤーになるため政治的リーダーシップが問われている。

(2018年11月4日)