*『<いのち>とがん』坂井律子
テレビ局の制作者である著者、「病気(膵癌)になって感じたこと、勉強したこと、・・医療に携わる人にわかってほしいこと、健康な人にもわかってほしいこと」のために書かれた一冊。「闘病記はどれも尊い。しかし読み終わったとき、「その人らしく生きた」などと読者が消費しておわることは避けたい。」著者の仕事柄、言葉への信頼、言葉に託するものの重さを感じる。書くことは作者にとって生の終わりまで「生き抜くための心の杖」であった。
*『方丈記私記』堀田善衛
『方丈記』は好きなので繰り返し読み序章は暗唱している。「ゆく河のながれは絶えずしてしかももとの水にあらず。」から朝顔の花と露の物語までである。この『方丈記私記』は1945年3月10日の東京大空襲直後の灰塵の中から長明の生きた天変地異の時代を読み解いていく。無常観というよりももっぱら作者鴨長明に寄り添いその特異な生き方に共感しつつ書き進めていく。
古今、新古今の幽玄美の世界の背後には地震、大火などの災害、飢餓など死の現実があったのだが、その死にまみれた現実が歌に詠まれることはなかった。なぜなのか。
*『80歳の壁[実践篇]』和田秀樹
高齢者の生きる知恵を面白く読ませる。具体的なところがよい。例えば「日記のすすめ」で書くことが何もないと思う一日から書くに値することを見つけること、これは高度な頭の体操になるという。手帳をみながらきのうは何があったかな、などと1日遅れの日記を苦労して書く僕などには学びがある。
*『透析を止めた日』堀川惠子
腎臓透析を受けながら仕事を続け文字通り闘いながら生きている人の姿がパートナーを通してドキュメンタリー風に描かれる。おのずから現在の透析治療への批判的まなざしが痛いほど伝わる。
*『卓越したジェネラリスト診療入門』藤沼康樹
「複雑困難な時代を生き抜く臨床医のメソッド」という副題がある。まさに卓越したジェネラリストである著者のショートレクチャーを勤務医時代に受けたことがある。270頁に及ぶ本書をまだ読み切れていないが、はじめの方のページは、例えばこんな風である。夜間の尿失禁を主訴に来院した高齢者には、まず患者はどのような生活をしているのか、ADL,IADL,認知機能、社会的サポート状況を知ることが第一、超高齢社会の日本において、マルチモビディティかつ多くの心理、社会的、また経済的問題をもつ虚弱高齢者に関してかかりつけ医のスキルアップは急務である。本書の中頃に出てくるキーワードとして「病い」illness。医学的治療が問題解決に至らない場合の病いへのアプローチ。終わりの方では、それを医学化medicalizationすることの問題に触れている。このあたりは普段僕が考えていること、やっていることに重なると思う。
*『認知症の精神療法』繁田雅弘
「アルツハイマー型認知症の人との対話」と副題がある。じっくりと読まなければいけない本でまだ読み通していないが、前半でのキーワードは「自尊感情」と「自己効力感」。この二つの回復を目指して支持的精神療法が行われる。その要点:①誠実であること ②意思を引き出す ③病気に対する認識を意識する ④陰性感情を話題に取り上げる ⑤努力や忍耐に敬意を払い称える ⑥生きがいや過去の達成感を言語化してもらう ⑦自分のニーズに気づいてもらう ⑧身体感覚に関心を向けてもらう ⑨「本人の力になりたい」という家族の想いを本人に伝える ⑩褒めるのではなく共に喜ぶ
認知症の人との「会話」ではなく「対話」とは何か。粗雑な共感と真の共感の違いは何か。さらに読みながら考えていきたい。
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