クリスマス島の名ガイド 故ポラウに捧げる。
 
 クリスマス島の続きを書こうと思いながら何年も着手せず、記憶は薄れていくばかり。
とりあえずどうしても書き留めておきたいことがあるので、節目として…。
 
 1994年にクリスマス島で過ごした一週間の間にポラウ、ティンギラ、ナレウ、チャバキにガイドしてもらった。この他にもガイドとしてはお世話にならなかったが変な日本語で良く話しかけてくれたのがタイロン。そして新婚旅行の私達にいろいろと気を使ってくれたチーフガイドのエディ。
 
 ティンギラはとても眼が良く、沢山の魚を見つけてくれた。特に2日目の午後に偏光グラスを船に忘れてフラットに降り立ってしまった私に、魚の方向と距離を的確に指示してくれ、その正確さには驚かされた。(夢の楽園 参照)
 
 ナレウはティンギラほどの眼は持っておらず、当時は私以下の性能かな?しかし私が自分で見つけたボーンにキャストしようとした際に「俺が見つけたあっちの魚を釣れ!」みたいな場面があった。明らかに私が見つけたボーンの方が大きかったのだが、そこはプロのガイドとしての意地みたいなものがあったのだろう。
 ナレウは貨物船の乗組員として働いたことがあるらしく、尾道に寄港したこともあるとのことで、なんとなく縁を感じたガイドでも有る。
 
 チャバキはがっしりとした体で、外海での釣りの時に、波に翻弄されてバランスを失いがちな私のために防波堤として働いてくれた。なかなか魚が見つからない時、「Cast this way 40feet!」っと叫んで10時の方向へ手を伸ばす動作は今でも明確に思い出せる。
 
 最後に、どうしても書き留めておきたかったのがポラウ。
 ポラウは私のサイトフィッシングに最も影響を残したガイドだ。
 クリスマス島に着いた初日にポラウがガイドしてくれたのだが、@魚に向けてロッドを真っ直ぐに構え、Aゆっくりとした長いストリップを行い、B魚がフライを銜えたらラインを真っ直ぐ後ろへ引いてしっかり合わせた後にロッドを煽って追い合わせを行う。という3つの基本をこの時にポラウから学んだ。
 5日目だったと記憶しているが(4日目だったかもしれない)、再びポラウにガイドしてもらった日があった。
 午前中はサメが沢山いるフラットで釣り、午後から細長い狭いフラットに移動した。
 このフラットで早速型のいいボーンをポラウが発見したのだが、このボーンなかなか手ごわく、至近距離にプレゼントしてもなかなか反応しないばかりかフライパターンやカラーをあれこれ変えても動じず、そのうちどこかへ行ってしまった。次にポラウが見つけた魚はかなり小さなボーンだった。その次も、その次も小さなボーン、そしてもっと小さな魚に対してニヤニヤ笑いながらしきりに「あれを釣れ」っと言うので、しぶしぶキャストし、釣れたのはゴートフィッシュと呼ばれるヒメジに似た魚だった。そしてまた型のいいボーンを見つけたのだがそれも反応が悪く釣ることができなかった。その後がまた小さなボーンばかり。極めつけは、25cmに満たない極小ボーンを見つけ、私はそのボーンにキャストしたくなかったのだが、「あれを釣れ」っと強引に投げさせられ、その極小ボーンを取り込んでいる最中にポラウが「Ken!Big Trevally!」と叫ぶのでふと視線を上げると、5mほど先をでかいトレバーリがゆっくりと通り過ぎて行った。その時に「この極小ボーンに投げずに待っていればこいつがわしの竿を曲げてくれたはずなのにー!」っと怒りモードになったのは言うまでもない。
 その後も狭いフラットの中を徘徊し、小さなボーンを何尾か釣り続けた後、ようやく型のいいボーンを見つけた。強い風が右から吹いておりポラウが左にいる。入れ替わってバッククロスで投げたかったのだが、魚を驚かしてはいけないということでポラウが動かない。しょうがないので竿を高く上げてポラウの頭上に慎重にループを作ってフライをプレゼントし、ようやく型のいいボーンを掛ける事ができた。
 このボーンはティンギラと釣ったボーンに比べ一回り小さい魚で、私的にはそう驚くほどのサイズではなかったのだが、ポラウはこの魚を私に釣らせたことがとても嬉しかったように見えた。
 
 このフラット内でポラウが私に行ったガイディングについては、私自身サイトフィッシングの経験が浅かったことや極小ボーンとデカトレバーリの悔しい記憶の方が勝っていたこともあり、これまで深く考えることができなかったのだが、八重山や奄美、沖縄本島でサイトフィッシングの経験をそれなりに積んだことで、多少なりともその時のポラウの行動について考えることができるようになった。今では次のように解釈している。
 
 その時にフラットにいた大型ボーンはおそらくその一尾だけだった。
 そしてポラウはその一尾にこだわり、距離をとりながらも見失わないように、でも客を退屈させてはいけないので場荒れしないような小型のボーンだけを狙って時間をつぶさせながら、幸運の女神が振り向く時を待ち続け、最終的に結果を出したのだ。
 
 本当のことはポラウ本人にしかわからないのだが、悲しいことにそれを確かめる術はない。
 そもそもポラウが生前に私のことを覚えていたかどうかさえ怪しいのだが、少なくとも私はポラウを忘れないし、心の内にポラウはこれからも生き続るだろう。
 
Hey Ken ! 2 o'clock 18 feet !
Do you see that fish ?
 
20080804:up
 
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