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光に対する観測系の見かけ上の光速度について
窪田登司
(エレクトロニクス技術ライター)
はじめに
 自由空間での光速度ないし光速は一定値 c(約299,792,458m/sec)であることは、理論的にも測定上においても事実として確立されたものです。したがって自由空間を運動する観測系にとっては、見かけ上光速度には変化が起きる事も、ドップラー効果などで知られている事実です。
 しかし、アインシュタインの特殊相対性理論では、「光速度不変の原理」という要請によって、「いかなる観測系でも光速度は c である。いかなる座標系でも光速度は c である」と仮定されています。この要請には数学的な欠陥があることを本稿で述べることにします。
 それによって、別のアプローチから得られた「光に対する観測系の光速度」によって「マイケルソン・モーリーの実験」と「ブラッドレーの光行差の現象」を理論的に記述することが本稿の目的です。
 
「特殊相対性理論」の数学的な欠陥
 アインシュタインの特殊相対性理論はよく知られているように、実験で確かめられた事実ではなく、思考実験によって2つの仮定から組み立てられています。それについて述べていきます。
 
 
 その内容の出発点は図1や図2に示した「L、vt、ct、光の直角三角形」、「L、Vt、ct、光の直角三角形」が基礎となっていることは周知の事と思います。
 この「光の直角三角形」には数学的な欠陥があることを次に示します。
 図1は、t=0 で静止系と運動系は原点Oで一致しており、t1 秒後の運動系の位置を示したものです。運動系はX軸の正方向に速度 v で等速直線運動しています。
 いま t=0時に、原点O(運動系のA’ の初期位置)からY軸のC方向に光を発射すると、t1  秒後に光はDに到達するとなっています。なぜ光がこのように横っ飛びに飛んで行き、Dに到達すると考えられたのかは、「すべての物理法則は同等である」として、“物体の運動はこのようになるから、光もこのような運動をする筈だ” とアインシュタインは考えたからです。“物体” の場合を「ガリレオの相対性原理」といい、光でもそうなるだろうという考えが「アインシュタインの特殊相対性原理」と呼ばれる仮定です。
 
 
 
 そうすると、運動系の観測者は光はA’ からDに飛んだと主張することから、「光速度不変の原理」という要請が生じてきます。すなわち、静止系座標での光速度は c で、OD=ct1 となり、運動系でも光速度は c であり、A’ D =L=ct’ であるとされ、“時間” が静止系と運動系では異なるというのが、特殊相対性理論を組み立てる基礎となります。
 もし、この考えが正しければ、図2も同様に成り立つ事になります。図2は V>v となっているもので、その他は座標軸の目盛りの取り方も、時間の推移もすべて図1と同様の条件です。特殊相対性理論では、静止系と運動系の相対速度(これらの図ではv やV )は任意となっているので、これらの図はどちらも正しいことになります。
 
 しかし正しくないことは図を見て直ちに判ります。図1のOD=ct1 と、図2のOD=ct1 は明らかに長さが異なるし、∠ODCも、図1ではθ、図2ではθ’ となり、異なるからです。もっと明白な数学的な誤った記述としては、
図1から、(ct1 =(L)+(vt1 
図2から、(ct1 =(L)+(Vt1 
があります。この2つの式は明らかに間違っています。なぜなら、「長さは異なるのに、長さは等しい」という v=V となる式だからです。非常に奇妙です。
 なぜ、このような誤った事態になったのでしょうか。それは3つの理由があります。
(1)t1 秒後に必ず光は D に届くという、いわゆる「静止系と運動系という異なった2つの座標を何の意味も無く ct で結ぶ」ためです。これはやってはいけない数学的な基礎です。
(2)「静止系と運動系に囲まれた座標の直角三角形に “三平方の定理” を適用している」ことです。三平方の定理は1つの座標内で式を立てなければならない事も数学の基礎です。
(3)「v や V、t1  は任意の “変数” です。こういう変数で “三平方の定理” を使うことはできません。
 
以上の矛盾を解消する式
 
 
 
 では、図1や図2はどのように解析すれば良いのでしょうか。
 まず考えられることは、光の発射方向です。t1 秒後(図3)、t2 秒後(図4)に、D で受光できるように装置を調整して OD 方向に発射する事です。これは有名な「マイケルソン・モーリーの実験」や「リングレーザージャイロの干渉縞デバイス」などから得られる事実です。
 そうすると、図1や図2の ct’ というのは意味が無くなります。つまり、「そういうものはない」ことになります。光路はODの1本だけだからです。それを図3、図4に示します。
 
 次に重要な事は「自由空間の光速度は一定値 c である」という事実です。
 図1や図2の静止系というのは、特殊相対性理論では「慣性系座標」ですが、図3、図4の静止系は「光速度が c である系」です。これは光を発射した原点から座標を定義したもので、光線そのものが基準座標になっています。
 このように光によって定義された基準座標の光速度は c であり、OD=ct1 (図3)、 OD=ct2 (図4)です。
運動系は、これに対して速度 v (図3)、速度 V (図4)で運動していると計算できます。
 
 ここまで考察を進めると、運動系の光速度は c ではないことになります。図から判るように光速度は cosθ だけ影響を受けることになり、
図3ではc−vcosθ     
図4ではc−Vcosθ2     
であります。
 
 ちなみに図3は運動系が光速の約44%、秒速約13万2千[km/s]、θ ≒63° で運動している例であり、運動系の見かけ上の光速度 c’ は
c’ ≒ c−vcosθ ≒ 24万[km/s]です。
 図4は運動系が光速の約58%、秒速約17万4千[km/s]、θ≒55° で運動している例で、光速度c’ は
c’ ≒ c−Vcosθ≒ 20万[km/s]です。
 
 c’=c−Vcosθ の発見は1992年の春でしたが、発表したのは翌年1993年のNHK出版「エレクトロニクスライフ誌」3月号でした。
 
 これはまさにマックスウェル電磁力学に於ける光速 と、ニュートン力学に於ける物体の運動 とを統合した式であります。
 
 
 
 
 
 
 
 
応用例                  
 光速度 c’を、「マイケルソン・モーリーの実験」と「ブラッドリーの光行差の式」に応用した例を次に示します。
 
(1)マイケルソン・モーリーの実験への応用
 
 マイケルソン・モーリーの実験はよく知られているように、東西方向と南北方向に光を飛ばして、その時間差があるかどうかを調べるものでした。
 装置および実験の計算の仕方等は、多くの特殊相対論の教科書に載っていますが、ここでは従来とは異なった計算を示します。
 東西方向の光の往復に要する時間は
 南北方向の光の往復に要する時間は
 
であり、(1)式 ≒(2)式となり、干渉縞の移動は殆ど生じないことが示されます。完全に(1)式 =(2)式とならないのは、実験装置は多数の反射鏡で構成されているからです。
 ここで、は光源から反射する鏡までの距離であり、図1や図2の L とは異なります。また、V は測定光に対する変位速度で、θ は光軸と鏡のなす角度。
 ニアリイコールから分かるように、完全に干渉縞の移動がないわけではなく、実際の実験でも若干の干渉縞の移動があったことを示しています。
 また、この式は任意の方向で成り立つものです。装置を東西方向と南北方向に向けなくても、任意の方向で実験は行えます。装置を正確に直角に動かして干渉縞の移動数を確認すれば良いのです。
 当然のことながら、精密な測定になればなるほど地球の自転の検出を行うことにもなるので、干渉縞の移動数は赤道付近での実験か、北極や南極での実験か等で異なってくることが予想されますが、もともとマイケルソン・モーリーの実験は宇宙にエーテルなる物質があるかどうかの検出実験でしたので、「無かった」という結論で良いのではないでしょうか。
 
(2)ブラッドリーの光行差の現象への応用
 
 ブラッドリーが観測上から得た有名な式sinβ=(v/c)sinαを c−vcosθ によって理論的に計算してみましょう。
 
 
 図5において、宇宙空間K系での光速(星Sから放たれた光の速度)は c で、運動系(地球K’ 系)での見かけ上の光速度は(c−vcosθ )であるとするのが本旨です。
ΔABCにおいて、
BC=(c−vcosθ)t・tanβ=vt・sinθ
ですから、
c−vcosθ=vsinθ/tanβ=vcosβsinθ/sinβとなり、簡単な計算から
csinβ=vcosβsinθ+vcosθsinβ=vsin(β+θ)=vsin(π−∠SBA)=vsinα
したがって
sinβ=(v/c)sinα
となり、ブラッドリーの式が得られます。
 
おわりに
 アインシュタインの特殊相対性理論は、「光速度不変の原理」と「特殊相対性原理」が、その理論を組み立てる基礎となっていますが、どちらも数学的に欠陥があることを本稿で示し、その代わりになる c−Vcosθ 説の重要性を述べました。
 今後、優秀な科学者によって更に応用することを期待します。
 
参考図書:
★佐藤文隆「孤独になったアインシュタイン」2004年/岩波書店
★池内 了「物理学と神」2002年/集英社
★カンパニエーツ「理論物理学」1965年/岩波書店
★内山龍雄「相対性理論入門」1978年/岩波書店
★ランダウ・リフシッツ「力学」1965年/東京図書
★メラー「相対性理論」1963年/みすず書房
★矢野健太郎「相対性理論」1964年/至文堂
★砂川重信「理論電磁気学」1965年/紀伊國屋書店
★ヒルベルト「数理物理学の方法」1966年/東京図書
★ニールス・ボーア「アインシュタインとの論争」1969年/東京図書
★Hermann Weyl「SPACE TIME MATTER」1952年/Dover Pub.
★Sir ARTHUR EDDINGTON 「SPACE TIME and GRAVITATION」1920年/CAMBRIGDE UNIVERSITY PRESS
★ERWIN SCHRODINGER「SPACE−TIME STRUCTURE」
★A.D.Fokker「Time and Space,Weight and Inertia」1965年/Pergamon Press.OXFORD
★S.A.EDDINGTON「THE MATHEMATICAL THEORY OF RELATIVITY」1965年/CAMBRIGDE UNIVERSITY PRESS
★E.P.NEY「Electromagnetism & Relativity」1965年/HARPER & ROW
★A.EINSTEIN「The Meaning of Relativity 3rd ed.」1950年/Princeton University Press
★R.C.TOLMAN「Relativity,Thermodynamics and Cosmology」1966年/Oxford University Press
★J.C.MAXWELL「A TREATISE ON ELECTRICITY AND MAGNETISM」1891年/DOVER PUB.
★V.FOCK「The Theory of Space Time and Gravitation」1964年/PERGAMON PRESS
★J.AHARONI「THE SPECIAL THEORY OF RELATIVITY」1965年/OXFORD
★H.A.Lorentz「The Theory of electrons」1909年/DOVER PUB.
★A.EINSTEIN「THE PRINCIPLE OF RELATIVITY」DOVER PUB.
★DE BROGLIE「Matter and Light」DOVER PUB.
★J.JEFFREYS「METHODS of MATHEMATICAL PHYSICS」CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS
ほか
窪田登司(くぼたたかし)
1940年生まれ 岡山県岡山市出身
1964年 東京電機大学電気通信工学科卒
1965年〜1966年 東京大学理学部数学科聴講
1972年 NHK出版「電波科学」誌でオーディオ評論家としてデビュー
1993年 NHK出版「エレクトロニクスライフ」誌3月号〜5月号連載にて c−Vcosθ を発表
     音響芸術専門学校講師(ディジタル技術講座担当)
     芝浦工業大学大学院で講師などを歴任 
       現在フリーの科学技術、エレクトロニクス技術ライター
     音響芸術専門学校評議委員
 
主な著書:
「FETアンプの製作」(誠文堂新光社)
「ビジュアルシステム応用百科」(誠文堂新光社)
「映像用語辞典」(リットーミュージック社)
「半導体アンプ製作技法」(誠文堂新光社)
「アインシュタインの相対性理論は間違っていた」(徳間書店)
 ほか相対論関連数冊
 
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