ニールス・ボーア「アインシュタインとの論争」
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 随分昔のニールス・ボーア他著の「アインシュタインとの論争」(1969年/東京図書刊)の一部をご紹介します。
 
アインシュタイン:彼ら(ボルン、パウリ、ハイトラー、ボーアおよびマージナウなど)は、すべての粒子の二重性格(粒子性と波動性)の謎が、本質的には、統計的量子論のなかで解決されていると確信している。この理論の成功によって、ある体系に関する理論的に完全な記述は、本質的に、この体系の測定可能な量に関する統計的な主張しか含まないことが証明されたと彼らは考えている。・・・・。
私が現在の理論物理学者の大部分の人たちと同じ意見を抱くことができないでいる理由を、これから述べていこう。
現在の量子論の本質的に統計的な性格は、もっぱら、この理論が物理系を不完全に記述しているという事実に帰せられるべきだ、と私は固く信じている。・・・後略・・・
 
窪田:アインシュタインは、このように物理現象を統計的、確率的、測定可能域に限定することを一生嫌っていました。イデアの世界に鎮座する決定論者であり、測定不可能であっても “思考実験” で押し進めて「である筈だ」と断定する人物です。
 
窪田:ジェームズ・フランク宛のアインシュタインの手紙には次の一文があります。
アインシュタイン:私は自然法則のない世界を神が作ったとはとうてい考えられません。それは要するに “混沌” です。統計的法則が最終的であり、神がクジを引くという考えはまったく気に入りません。
 
窪田:次の会話はつとに有名です。ニールス・ボーアとの会話です。
『アインシュタインがニールス・ボーアに向かって、“神がサイコロ遊びに頼るなどと本気で信じているのかね”
と言った。ニールス・ボーアは答えた。“古代の思想家は、神の属性を日常の言葉で語ることについて、すでに厳重な警告を発しています”。そばにいたエーレンフェストは友人をひやかすときの親しみのある口調で、“アインシュタインの態度と相対性理論の反対者たちのとった態度が似ている” と述べて、更にエーレンフェストは “アインシュタインと意見が一致するまで、自分の心は安まらないだろう” とつけ加えた。』
 
窪田:同130ページの “アインシュタインの証言” は、私は嘘であると思っています。抜粋ですが、少し書いておきます。
『アインシュタインの論文《運動する物体の電気力学について》(アナーレン・デア・フィジーク誌第17巻811ページ/1905年)を読まれた方はある特異性に気づかれたでしょう。そこには参考文献は一つもあげられてなく、まったく新しい試みであるという印象を受けます。・・・これについてカール・ゼーリッヒがアインシュタインに、「ベルン時代(アインシュタインが特許局に勤めていた1905年頃のこと)に、相対性の問題で最も影響を受けた科学文献はなにか」と尋ねたところ、次のような返事をもらった。
 
窪田:以下がアインシュタインの証言です。
アインシュタイン:特殊相対性原理の発展を回顧してみれば、1905年にはその発見の機が熟していたことは疑い得ません。ローレンツは、彼の名を冠せられている変換がマックスウェル方程式の分析にとって本質的であることをすでに認めており、ポアンカレはこの関係をさらに深く把握していました。私自身について言えば、ローレンツの
1895年の2篇の重要論文《マックスウェルの電磁理論について》および《運動する物体の電気的・光学的現象に関する理論的な試み》は知っていましたが、彼のその後の仕事は知りませんでしたし、ポアンカレの研究にもまったく気づきませんでした。この意味では、私の1905年の論文は独立なものと言えます。
 
窪田:1905年発表時の時代背景前後を注意深く読むと “言い逃れ” であることが分るでしょう。
 論文発表以前に、ポアンカレが、その著書や講演、論文等で、すでに述べていたものですから。詳細は《ジャン・ラディック著「アインシュタイン、特殊相対論を横取りする」/深川洋一訳、丸善》を参照。
 
 追加:この書は非常に詳しくフランスの世界的数学者・物理学者であるポアンカレの業績を紹介しています。何月何日にポアンカレが、こういう論文をすでに発表していたとか、アインシュタインがなぜ自分のものにしたかったので盗作したかなど、読み応えのある書です。ポアンカレは温厚な人で、ローレンツ変換も自分達で作ったのに、その変換を仲の良かったローレンツの名にしたそうです。
 ミンコフスキーも特殊相対論の次元空間を次元に拡張したのは、ポアンカレの時空論文の横取りだった事が示されています。
 この書の特徴は「特殊相対性理論は正しい理論である」ことを強調しているようです。ジャン・ラディック氏自身もフランスの物理学教師であり、相対論に傾倒しています。 −t = t’−t も出てきます。この式は正しいものとしてアインシュタインもポアンカレも数式展開しています。
 量子論に関しては殆ど触れてない。なお、本書は平成17年(2005年)刊行。
 
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 以上「アインシュタインとの論争」(1969年/東京図書刊)は本当に有為な書物です。現在は絶版になっていますが、
ぜひ図書館、古書店などで探して読んでください。量子論の発展史でもあり、相対論の内部矛盾を的確に記述している部分が多数あります。
窪田登司/2017年10月10日/2023年11月13日
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<窪田登司 自伝>はこちら   相対論以降は参考になると思います。読んでくださると光栄です。
                子供の頃はどうでもいいですから(*^_^*)