次の日、興大王は小碓尊(オウスノミコト)にコビと共に出雲に赴くように命じ、兄である大碓命(オオウスノミコト)にはナガスネヒコを牽制するように命じた。大碓命は生来温和な性格で、弟の小碓尊のような激しい気性の持ち主ではなく、大きな戦闘となるような遠征には不向きであることを興大王はよく承知していた。
「小碓尊よ。今日からおまえは倭武尊(ヤマトタケルノミコト)と名告るがよい。ヤマタノヲロチを征伐してくるのだ」
 コビはもちろんヤマトタケルノミコトと同行することに異義はなかった。
 一千人近い完全武装兵士をその日のうちに召集する力は絶大なものである。葛城一族、蘇我一族、平群(へぐり)一族などが競って大王の手柄になるよう兵を出した。それぞれの首長はヤマトタケルノミコトのもとでは統率されるが、いったん個別行動を起こすと、兵士達はすぐ敵にもなりそうな軍団である。軍旗が一族ごと異なるのが一層コビには不気味に見えた。
 馬に乗っているのは、ヤマトタケルノミコトと数十人ごとを統率する指揮官、それにコビだけである。歩いての進軍である。
 出雲に行く道程は、当時は瀬戸内海から山陽に入り、吉備を北上して大山(だいせん)を越えて行く道と、大和から北上して角鹿(つぬが)から但馬(たじま)経由で日本海側を行く方法があったが、ヤマトタケルノミコトは但馬経由で行くことにした。ヲワケの臣が、このコースを行っているはずであることと、帰りに大山経由で吉備に出ることを計画していたからである。
 旅は強行軍であった。しかし、途中の村々での歓迎は大変なものだった。都から、悪い鬼を退治に来た皇子(ミコト)ということで、厚いもてなしを受けた。悪い鬼というのは、言うまでもなく悪政をしていると言われる土地の豪族、村長、首長のことである。
 実際、ミコトは村々に入るごとに、村人にそこを支配している豪族の政事(まつりごと)を聞いて回り、民、百姓の生活ぶりを見て回った。少しでも大和大王の命令なく兵を起こしている豪族、首長が見つかると、容赦なく一刀のもとに首をはねて殺していく。こうして中央のミヤコに君臨する大王の権力は地方に浸透していった。とくにヤマトタケルノミコトの遠征は地方の豪族に恐れられた。
 
 丹後の天の橋立まで来た時のことだ。一人の老婆がヤマトタケルノミコトの前によろよろと転がり出て嘆願した。
「娘が悪神に捉えられ洞窟にとじ込められています。どうかお助けを!」
「娘の名は何と申す」
「モモヒメと申します。どうかお助けを」
「わかった。ひと刀で退治してしんぜよう。案内いたせ」
 ヤマトタケルノミコトは兵士達を宮津湾の海岸に休息させ、一人で老婆に道案内させて行った。
 よもつ平坂を通り、姪子山に来たところで、ふと見るともう老婆の姿はどこにもなかった。辺りを探すと小高い丘があり、人一人が入れるほどの小さな洞窟の穴があった。
「ここか!」
 ヤマトタケルノミコトは剣を手に中に入って行った。壁にはどくろの壁画があちこちに見える。更に奥に入ると小部屋があり、一人の少女が座っていた。
「お前がモモヒメか?」
「はい」
「助けに来た。すぐここから出よう」
「もう少し早く来てくれればよかったのに。私はもう外には出られません。たった今、黄泉(よも)の食べ物を食べてしまいました。ここは黄泉の国(よものくに)です」
と、涙ながらにモモヒメは言った。
「黄泉の国?」
「はい、そうです」
「悪神がそなたをこの洞窟に閉じ込めたと聞いたが」
「はい、黄泉の神々です」
「すぐ、出よう。悪神などひと刀で切り捨てようぞ」
「それでは、黄泉の神々の怒りを静めるよう話をしてきますから、ここで待っていてください。決して覗いてはいけません」
 そう言ってモモヒメは奥の部屋に入って行った。しばらく待っていたが、戻って来ない。更にいっときが経った。
しかし、何も音沙汰がないので、しびれをきらしたミコトは決して覗いてはいけないと言われていた奥の部屋に入ってみた。
「うっ、これは!」
 モモヒメの美しい顔だけが残り、手足や体はずたずたに腐って蛇がトグロを巻き、こちらを睨んでいる。今にも飛びかからんばかりである。
「ギャー」
 さしものヤマトタケルノミコトも、これには驚いて逃げようとすると、黄泉の女神ヨモツシコメが追ってきた。逃げようとしても足がすくんで思うように走れない。やっとのことでヨモツ平坂まで来たところで、コビに出会った。コビはヤマトタケルノミコトが一人で出掛けたのが心配で、あとをつけて来たのだった。
「おー、コビどの。そなたの呪力で退治してくれ!」
 弱音を吐いてヤマトタケルノミコトはコビの後に隠れてしまった。しかしコビには何も見えない。ヤマトタケルノミコトが何を恐れているのか分からなかったが、コビは洞窟の入り口に大きな石を積み上げて、穴をふさいだ。と同時にミコトは夢から覚めたように正気に戻って、二度とこの塚には近付かないように口走った。
 兵のいるところに戻ったミコトは皆に恐ろしい体験を話して、二度と絶対に黄泉の国には近付かないように念を押した。
 この話は後世まで語り継がれ神話となっていった。黄泉の国とは王や豪族の墓である。横穴式古墳なのである。モモヒメの死体のあった部屋は玄室で、ヨモツ平坂は羨道、コビが大きな石でふさいだ入り口というのが羨門の扉石である。墓荒らしによって、埋蔵されている剣や鏡、勾玉など宝物が盗まれるのを防ぐために神話となって語り継がれたのである。
 
 一行は出雲の国の肥の川の上流、鳥髪にやってきた。八岐大蛇(ヤマタノヲロチ)が出ると噂されているところである。
「大王、箸が流れてきました。この上流には人里があるでしょう」
 指揮官の一人が竹でこしらえた箸を拾ってきた。
「いかにも、これは箸だ。敵のものかも知れぬ。上流を調べてまいれ」
 さっそく、数人の兵が偵察に行ったが、まもなく一人だけ大火傷をおって、命からがら戻ってきた。そして間もなく、
<真っ赤な目・・・>と、かすかに言葉を残して死んだ。
「やはりヤマタノヲロチが出たのだ!全軍出発!」
 ヤマトタケルノミコトは先頭に立って上流に向かった。兵士達も今こそミコトに認めてもらうチャンスだとミコトに続いた。
 やがて一軒の貧しい住居があった。竪穴式住居ではなく、木造の平屋住居である。ミコトは敵の兵舎と見て、足で戸を蹴破って中に突進した。中では意外にも老夫婦と美しい娘がおびえて泣いているだけだった。
「この家にはそなた達三人だけか!」
「はい。どうかお助けを・・・」
 老夫婦はぶるぶる震えながら答えた。
「なぜ、そんなに怯えて泣いているのだ」
 ミコトは優しく聞いた。
「娘を連れに来たのではないのですか」
 老婆が娘を後手にかばいながら言った。
「何のことだ」 
「私どもには八人の娘がおりましたが、七人までヤマタノヲロチの生け贄になり、とうとう最後の、この娘、クシナダヒメを今日中に生け贄として差し出さないといけません。それで途方に暮れているのでございます」
「そうであったか。われは興大王の皇子ヤマトタケルノミコトである。そのヤマタノヲロチを退治するためにやってきた。
ヲロチはどんな姿をしているのか」
「はい、眼は真っ赤なほうずきのよう、胴は一つで、頭が八つ、尾も八つあり、身体には苔や杉が生えており、谷八つ、丘八つに渡るほど巨大な蛇でございます」
「安心して待っておれ。わしがヲロチを退治してやる」
 そう言うが早いか、ミコトはすぐに兵士に命じて村々から酒樽を集めさせた。それをヲロチが出ると噂される八つの谷に置いた。
 次の日の朝早く、夜が白々と明けようとする頃、兵を八つに分けて、それぞれの谷に突撃。そこには蛇ではなく、ヤマタの軍勢が酒を飲んで酔いつぶれてぐっすりと寝込んでいるのだった。一気にミコトはヤマタの軍勢を滅ぼしてしまった。
 八つの谷には製鉄所があり、鉄を鋳造している場所であった。ヤマタの首長は産鉄民と言われた砂鉄から鉄をとる技術を持った渡来人だった。ヲロチの真っ赤なほうづきのような目というのは、溶けた鉄を象徴するものである。そのほか、出雲には昔から銅や青銅の精練も行う技術を持つ新羅系の渡来人が多数住みついていた。
 土着の娘がさらわれたり、いやがる娘と無理矢理結婚させられる例は多数あるだろう。クシナダヒメもその一人であった。
 精練所、製鉄所、刀を作る鍛冶所を制圧したミコトは多数の鉄剣を押収し、都に持ち帰ることにした。そのうちの一刀「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」がのちの三種の神器の一つとなったことは有名である。
 コビはつぶさにこの戦いを見て、スサノオノミコトがヤマタノヲロチを退治した神話を思い出した。この神話のスサノオノミコトはヤマトタケルノミコトであったこと、さらにヲロチという大蛇は製鉄所であったことを知って感動した。ただ、退治するという行為は、相手を滅ぼし、自分の勢力を延ばすという行為そのものであり、出雲勢力圏が中央の大王によって支配される第一歩であったことを理解した。
 ただし、これによって直ちに出雲が中央に屈伏したわけではなかった。
 
「クシナダヒメよ。大王の使いとして、ヲワケの臣という家来がこの地に来たのだが、知らぬか。百人ほどの軍勢を率いている」
「聞いております。葦原の中津国(あしはらのなかつこく)に行き、そこで戦争になり、天日槍(アメノヒホコ)に捕らえられたとのことでございます」
「なに!」
 ヤマトタケルノミコトは怒りに震えて腰の剣をぐっと握りしめた。コビも一瞬はっとしたが、<ヲワケの臣はまだ殺されてはいない。もし殺されたら、その瞬間に私もどうなるか分からない。大丈夫よ!頑張って!>、すぐ落ち着いてクシナダヒメに尋ねた。
「その葦原の中津国は、ここから遠いのですか?」
「急いで参りましても、一日かかります」
「大王、すぐ参りましょう。そしてヲワケの臣を助けてください!」
「もちろんだ。ただちに出発だ!」
 
 その頃、ヲワケの臣は天日槍(アメノヒホコ)に捕らえられ、激しい拷問にかけられていた。アメノヒホコは祖先が朝鮮・新羅であり、国にいれば王子の身であるが、美しい少女アカルヒメのあとを追って倭の国出雲まで来て結婚し、ここを支配するようになった豪族である。その本拠・斐川宮殿の裏手にある調べ処で、ヲワケの臣は裸になって鞭で打たれていた。
「言わぬか!大王はどの道を通ってくるのだ!」
「知らぬ。殺すなら早く殺せ!」
「お前の言葉には百済の発音がある!先祖はどこだ。新羅なら許してやろう」
「新羅なんかではない!遠い昔、百済からやってきた者だ。倭の国は大和大王のものだ。お前なんかに倭が国を任せられるか!」
 ヲワケはありったけの声を喉から絞りだして言ったが、なおも鞭から竹ざおに変わってメッタ打ちに打たれ続けた。
「水を、いや海水を身体にかけよ」
 そう言ってアメノヒホコはヲワケの背中をひと蹴りして悠然と出て行った。傷付いた身体に海水をかけられると死ぬほど苦しい。その痛みにヲワケは必死に耐えた。
 
 ヤマトタケルノミコトはヤマタの兵士をも傘下におさめ、総勢一千五百を超える軍団となり、葦原の中津国の近くまでやってきた。峠を超えると斐川宮殿が見えるという所まで来たところで、ミコトは兵士をかくまった。このまま突っ込んでいけば、必ずヲワケは殺されるに違いない。
 コビはヤマトタケルノミコトが指揮官とともに策を練っているところに進み出て、言った。
「大王。私に行かせてください。私なら怪しまれずに敵陣に入れるでしょう。巫女として役に立つ時です」
「そなた一人でか?それは危険だ」
「私が護衛について行きましょう」
と、指揮官の一人、栖軽臣(すがるのおみ)が申し出た。
「二人で大丈夫か」
ミコトは心配そうにコビに言った。
 コビは本当は一人の方が救出しやすいと思ったが、万一の不測の出来事を考えて一緒に行くことに同意した。
「はい、スガルノオミ殿、お願いします。でもその格好では・・・怪しまれないためには鎧や兜などすべての武装は解いて、巫女の付き人としての服装が良いでしょう。」
「・・・わかった」
スガルノオミは丸腰になることにちょっと躊躇したが、すぐコビにしたがった。
「そちは阿知臣(アチノオミ)を父に持つ文筆の優れた武勇。漢字が読め、論語が分かる朝臣(あそ)である。コビと共に渡来人に成り済まして入り込むとよい。そしてヲワケの臣を何としても助け出すのだ。・・・おー、安否が気遣われる・・・」
 一夜明けた肌寒い朝もやを通して、ミコトは全権を二人に託すように言った。さらに、
「もし、万一、二日経ってもここに戻ってこない場合は、全軍で攻め入るつもりだが、それでよいか」
と、念を押すように言った。
 コビは絶対の自信があったので、
「そうしてください」
と、きっぱりと言って、スガルノオミの方を見た。スガルノオミは失敗したら殺されることを意味する<二日経っても>というミコトの言葉に、コビがこれほど自信を持っていることにむしろ驚いた様子だったが、
「もちろんです。そうしてください」
と、力強く返事をした。
 二人は旅を重ねてやっと出雲に辿り着いた渡来人に成り済まして、渡来系の服装に替えた。この頃は朝鮮半島や中国からの渡来移民が多く、地方の豪族は競って彼らの獲得に躍起になっていた。それは単に鏡や宝剣などの貢ぎ物が欲しいという目先だけのものではなく、優れた文化をもたらす人々ということで歓迎されたのだ。地方の豪族が、この頃になると平地式の木造住宅になっていったのは、渡来人の中にそういった設計技術者がいたからであり、たとえば養蚕やはた織機を伝えたのは渡来人・秦氏である。
 秦氏はヤマトタケルノミコトの祖父に当たる讃大王のとき百済から渡来した貴族・弓月君(ゆづきのきみ)であったことはよく知られている。百人以上の百姓や、はた織技術者を従えて大和の地に来て、讃大王から山城に永住権を与えられ勢力を伸ばしていった。当時の百済は扶余(ふよ)族系の貴族と韓(かん)族系の貴族が互いに勢力争いをして宮廷内の内紛が絶えなかったし、また高句麗や新羅からの外圧もあって、百済での生活は平和なものではなかった。それで平和だとされていた倭の国に移住してきたわけである。
 スガルノオミの父・阿知臣(アチノオミ)は大王の家庭教師として漢字や詩歌を教えた文人としてよく知られている。その他ヤマトタケルノミコトの父・済大王の時代にも百済から陶工、画工が数多く渡来している。
 もちろん倭国大王も元を正せば大陸からやってきた貴族だったのであるが、徐々に国内を平定して大和朝廷を確立させていったのである。出雲はそのうちでも、かなり朝廷に逆らった国であった。理由は出雲の支配者が新羅系の武人だったからである。朝廷は言うまでもなく百済系である。
 
 コビとスガルノオミの二人は峠を下り、いよいよアメノヒホコの支配する葦原の中津国にやってきた。広々とした水田が拓けて、住宅はほとんどが木造になっている。今まで旅をしてきた山深い地域では竪穴式住居であったのが、一変して木造葦拭き屋根になっている。かなり独自の文化を発展させた地域であることがすぐ分かった。
 二人は集落が十軒ほどまとまっているところがあったので近寄って行った。そしてある一軒の農家らしい庭先に入って行った。二人の気配を感じたのか、すぐ中から女児が飛び出してきた。布一枚を身にまとっただけの清楚な服装である。五、六才か、朝鮮系とか大陸系などと言えない独自の日本人の可愛い顔立ちである。
「ここは葦原の中津国ですか?」
コビは優しい声で聞いた。
「・・・」
「父上か母上はいますか?」
「・・・」
「言葉が分からないのかしら」
「そうかも知れない。この地方は倭の言葉と新羅の言葉が入り交じって独自に発展しているので、こういう小さい子供では言葉が通じないのかも知れない」
 そこで、二人は手真似でだれかいないかを尋ねたが、にこにこするだけで、時折、「ヤン」とか「コ」、「ヨンイル」という言葉を口に出す。しばらくの間、そんなやり取りをしていると、家の中から母親らしい女性が出てきた。はじめはコビ達二人に警戒したのか、子供を急いで自分の手元に引き寄せて、無言のままじろじろ見ていたが、コビ達の服装が倭人とはちょっと違った旅姿で、しかもコビの髪型は巫女のそれであり、スガルノオミは高貴な人のする美豆羅(みづら)である。二人の落ち着いた態度と笑顔に、あわてるように子供と共に地面に座り込み、土下座した。
「何も驚くことはありません。遠い国からやって来た旅人です。葦原の中津国のミコトに会いに来たのです。宮はどこにあるのか教えてくれませんか?」
 コビは一層優しい声と眼差しで、ゆっくりした口調で言った。
「はい、そこの川を渡って、森を過ぎたところにあります」
「ミコトの名は何と申すか」
スガルノオミが聞いた。
「はい、アメノヒホコ様でございます」
「出雲の国を治めている大王か」
「いえ、この一帯、葦原の中津国のミコトでございます」
「そなたたちに良い政務(まつりごと)をしているか」
「はい、新羅の国と貿易を盛んにして、米もよく取れて。・・・私たちはアメノヒホコ様のお陰で暮らしております・・・
しかし・・・」
「しかし、何だ」
「先日、大和の大王からの使いの者という方が兵を進めて来て、戦争になり、多くの死者がでました。・・・この子の父親も、その戦争で死にました。・・・」
「それで、その大和から来た使いの者というのは、その戦争でどうなりました?」
コビが心配そうに一歩前に進んで言った。
「あなた方は大和の国の人ですか?」
「違う!何も知らぬ。だから聞いておるのじゃ!」
「・・・」
母親は、スガルノオミの意外な剣幕に、子供を抱えて黙ってしまった。
「心配しなくていいのよ。私たちはあなたの味方。で、その者はどうしました?」
コビは優しく肩に手をかけて覗き込むようにして言った。
「・・・ミコトの捕虜になっていると噂されております・・・」
<やはり>と言いかけて、ぐっと口を結んだ。やはり、などと言うと、すでに知っていたことになる。コビはスガルノオミに目配りして、急いで宮殿に出掛けることを目で語った。
「大儀であった。・・・戦争のない平和な国になることを私たちは願っている。達者で暮らせ」
 スガルノオミも、さっきの強い調子から優しい声になり、子供の頭をひとなでして、その場を立ち去り、宮殿へ向かった。
 道筋、どのようにしてアメノヒホコの宮殿に入るか、そしてヲワケの臣にどうやって近付き、そして助け出すかを話し合った。コビは巫女としての本当の修業などしたわけでないが、そのことをスガルノオミに言うわけにもいかず、とにかく巫女に関しては自力で思うようにやるしかないことを心に決めた。ここでヲワケの臣を助け出さなくては、歴史が変わってしまう。もし殺されては、稲荷山古墳もなくなってしまう。そうすると自分は無事に麻美のいる丸墓山古墳のところに戻れるかどうかも危うくなる。決死の覚悟でヲワケを救出することを心に誓った。
 
 その頃、ヲワケの臣は何日間も食事は与えられず、身体は衰弱し切っていた。数人の兵と共に宮殿の裏手にある拷問部屋の中でぐったりとしていた。アメノヒホコが入ってきたのが、ぼんやりと分かったが、もう殺されようと、どうなろうといい、という不思議な気分になっていた。
「ヲワケの臣よ。大和の皇子がオロチを攻め落としたそうだ。そして、こちらに向かったという報せがあった。もうお前には用はない!・・・処刑部屋に連れて行け!」
 そう言って、アメノヒホコは剣を抜いて家来に命令したが、家来の一人が耳打ちをした。
「・・・そうだな。・・・ヲワケよ。皇子は何人の軍勢を率いているのだ。お前は百人くらいだったな。皇子もそのくらいか」
「・・・」
「答えろ!そうすれば命だけは助けてやる!」
「何が答えるものか!百人だと?五万だ!」
ヲワケの臣はかすれた声で、うつろな目でアメノヒホコを睨み付けて言った。
「よい度胸だ。処刑するには惜しい男だ。お前を見殺しにするかどうか皇子の出方を見ることにしよう。人質にしておく。ありがたいと思え!」
 そう言って、またヲワケの背中をひと蹴りして、手にしていた剣を収めながら出て行った。
 
 一方、コビ達は宮の周りを取り巻いている堀の所まで来ていた。入り口が見えない。おそらく正門と裏門の二つくらいしかないのだろう。太陽の方向から南の方に回って行った。門らしいたたずまいをしているが、どう見ても正門とは思えない。塀の上のあちこちに物見やぐらがあり、すでに番兵がコビ達の挙動を監視していた。二人はそれに気が付いたが、慌てた様子は見せず、同じ足取りで北の方に回った。あった。立派な門だ。真北ではなく、やや北西に向いているようだ。おそらく故郷・朝鮮半島の方角にしたためであろう。
 二人が正門前に到達した時には、すでに門衛兵が幾人も出てきて、ガヤガヤと騒いでいた。
「遠い国から旅をして来た者。アメノヒホコ大王に会いたい」
と、スガルノオミはコビよりも一歩前に出て言った。大王という敬称は、すでにこの頃、大和大王にしか使えない言葉であったが、アメノヒホコは大和に反抗している豪族であるため、あえて相手を安心させるため、そう言った。
「しばらく、お待ちを。そちらの人は?」
と、門衛長らしい男がコビを指差して言った。
「あらゆる占いのできる巫女にございます」
・・・二人はずいぶん待たされた。しかも門を入って、再び堅く閉ざされたままであるため、もう逃げる事は不可能となっている。この中にヲワケの臣も捕われているのだ。二人はいささか不安になったが、いまさらどうすることもできない。大和宮殿ほど立派な建物ではないが、すべてが左右対称に造られているのがひときわ目立っている。中央のいちばん立派な建物は、屋根が青銅で葺かれている。その鮮やかな輝きは大和宮殿を凌ぐほどである。アメノヒホコがどれほどの勢力を持っているかが想像できる。これでは大和大王も目の上のたんこぶとして、一日も早く征伐したいだろう。コビはそんな事を考えながら、なおも門衛兵などのしゃべっている言葉に注目した。
 たしかに大和地方とは異なる。また今から約三〇〇年前の耶馬台国に行った時の言葉とも異なっている。独自の文化圏であることがよく分かる。
 やがて門衛長らしい男と、役人がコビ達を案内して、中央の最も立派な建物に連れて行かれた。広い飾り気のない、ガランとした部屋に通された。中央に多分アメノヒホコだろう人物が椅子に座っている。部屋の両側には武装した兵が立って並んでいる。女官など女性は一人もいない。大和で興大王に初めて謁見した時のような優雅な雰囲気はまるでない。ものものしい武官たちばかりであった。
 板張りの床にコビとスガルノオミは座ったが、スガルノオミの方が二メートルほど後方に座り、コビの方があくまで上座である。そして、二人は同時に、恭しく床に頭が着くようにお辞儀をした。
「おもてを上げい・・・わしがアメノヒホコである」
「ははー」
スガルノオミは、上げた頭をもう一度深々と下げた。コビは頭を下げることなく、正面をきちっと向いてアメノヒホコを見たままである。
「そなた達は遠い国から来たそうであるが、どこの国から来たのか」
「はい、新羅の東泉寺から参りました。この巫女はコビと申します。わたくしめはスガルと申します。どうぞ貢ぎ物をお納めください」
と、スガルノオミは言って、銅鏡、鉄剣、まが玉その他貝で造った腕輪を差し出した。もう武器らしい武器は何も持っていない。丸腰になったわけである。コビもヲワケの臣を助けるためだとあきらめて、化粧用に持ち歩いていたミラーの付いているコンパクトを出した。パウダーとパフも入っている。これにはアメノヒホコもたまげた。卑弥呼女王もそうだったが、とにかくこんなに見事に写る鏡はなかったから、驚くのは当然である。
「これは何と言うものだ」
「はい、ミラーと申します」
「ミラー?」
「はい、このミラーの作り方を伝授するために、はるばるやってきました。ぜひこの地に留まるようご配慮たまわりますようお願いいたします」
 コビは下げたくもない頭を丁寧に下げながら言った。
「そうか、余はうれしいぞ。・・・だが、その前に呪術によって、そなたが敵ではないことを示さねばならん」
そう言ってアメノヒホコは、ポンポンと手を打った。
 やがて、一人の巫女と付き添い侍女三人が現われた。巫女はコビとは年格好も同じくらいで、若く、きりっと端正な顔立ちの美人であるが、とにもかくにも派手な衣裳と装飾を身にまとっている。いよいよ来たか!コビは思わず身震いをした。
 侍女の一人が石で作った皿を差出し、数本の骨をその中に入れた。鹿の骨だろうか、猪だろうか、あるいは人骨かも知れないが、長さ二〇センチくらい、幅三センチくらいの骨だ。もう一人の侍女がそれをコビの前に差し出した。三人目の侍女は何の油を燃やしているのか火を持っている
 と、突然、巫女は大きな声で何やら呪文を唱えて骨を交互に指差し始めた。コビはあせった。どういうしきたりで、何をどうすればいいのか全く分からない。これではボヤボヤしていると、すぐバレてしまう。泰山から来たとか、東泉寺から来たとか、ウソであることがすぐ分かってしまう。この時、ふと思い出した。骨による占いは燃やしてみてヒビの入り方で占うのだということを。そのために侍女が火を持っているのに違いない。コビはイチかバチかやってみた。
「トウキョウトブンキョウクリツセイシンチュウガッコウ二ネンイイグミコミヤマナルミ・トウキョウトブンキョウクリツセイシンチュウガッコウ二ネンイイグミコミヤマナルミ」
と、呪文を唱えるような感じで大声で、身体をわざとらしくくねくねさせながら唱えて、唱えている間にも、どの骨を選ぶかを考えた。そしてどれも持ち上げてみた。軽い方がいい。重いとそれだけ水分を含んでいてヒビが入りやすいはずだ。そしてなるべく筋が入ってない方がいい。十数秒のうちにコビはそれだけのことを考え、実行した。
「ヤー」
と言って一本の骨を拾い、別の石皿に載せた。見事にこの動作は当たっていた。トウキョウトなんてアメノヒホコに分かるはずがない。呪文以外の何ものでもないだろう。呪文は二度、三度同じことを唱えなければならないから、無茶苦茶な事を言うわけにいかない。コビの思いついた、とっさの機転である。
 やがて、相手側の巫女も骨を選び、別の石皿に載せ、火で焼き始めた。コビはどきどきしながら見守った。もちろんスガルノオミも同じであろう。と、突然、巫女の選んだ骨にパチッと音を立ててヒビが入った。
「オー」
という声が部屋いっぱいに響いた。コビの選んだ骨は何ともない。
「コビどのの呪術しかと拝見いたした。巫女として当宮殿に留まってもらいたい」
 
 こうしてコビとスガルノオミはアメノヒホコの宮殿に入り込むことに成功。しかし、二日経っても戻って来ない場合は、ヤマトタケルノミコトが攻めてくることになっているので、ゆっくりしているわけにいかない。二人は与えられた部屋は別々であったが直ちに行動を開始した。
 捕らえられている他国の兵士ということで、つまりヲワケの臣達の牢の場所を聞き出すことは容易だった。しかし、牢舎には武装した番兵がいつも交替で二人はいる。しかも、用もないのに、牢舎に近寄ることはできない。
 ところが、その夜、思わぬ事態が起きた。牢の中の兵士の一人が死にそうだというのだ。何人かの役人が行ったり来たりして、善後策をアメノヒホコに聞いたり、右往左往している。コビはヲワケの臣ではないかと心配した。気が気ではない。
 スガルノオミは、
「医術者である、その病人を見てしんぜよう」
と、番兵に言って、うまく牢舎に入ることができた。コビも巫女という地位で、なんなく入り込むことができた。
 死にそうだという病人は名を聞くとヲワケではなかった。家来の一人である。あまりのむごい拷問のため体中が傷だらけで、しかも食物はなく、衰弱しきっている。
 アメノヒホコは現場には来てなかった。聞くと、明日処刑するから、そのまま放っておけとのことらしい。そんな!コビもスガルノオミも、何としても助けたかった。夜でもあり、篝火もほの暗く、牢内の中は人影程度にしか見えないが、数えると五人いる。そのうちの一人が苦しんでいる。そして一人が手厚い看病をしているのが格子ごしに見えた。
<もしかして、あの人がヲワケの臣では!>、コビは直感した。
「ヲワケ様!」
 コビは呼んでみた。さっとこちらを向いた。
「・・・」
「ヲワケ様ですか?」
「そうだ」
 若い青年の声だ。ほの暗い牢内で、格子ごしに約三メートルほど離れているが、はっきりと互いの顔を見つめあった。コビは胸がじーんとした。会えた!この人がヲワケの臣なんだ!髭は伸び、汚れた顔、みずらの髪結もほつれ、やつれているが、きりっとした目から光る眼光はコビの胸中を貫いた。
<助けに参りました!>、喉から出そうな声をぐっと押さえ、
「その人をこちらへ」
と、手を差し伸べて言った。
「そなたが、看てくれるのか」
「はい、こちらへ・・・」
 すぐ、奥でおびえていた家来達が出てきて、病人を抱いて格子のそばまで運んだ。牢内に入って診たいと頼んだが、開けてくれないので、格子ごしに診ることになる。額に手をやると、ひどい熱である。
「放っておけ!どうせこいつらは明日処刑になる身だ!」
と、牢番がどなったが、コビはそ知らぬ振りで、苦しんでいる家来の顔をハンカチで拭いた。神具として肌身離さず持ち歩いているバッグにはティッシュペーパーやハンカチのほか、月に一度は使うことのある常備薬の痛み止めもある。これは解熱剤でもある。
<一時的にしろ熱が下がれば、みんなを連れてワープしょう>、そう考えたコビは牢番に聞こえないように小さい声で、スガルノオミに、
「水を持ってきて」
と、耳打ちした。コビなら錠剤を水なしで飲み込むことができるが、この苦しがっている家来は水なしでは、まず無理だろう。それに飲んだこともない妙なものを飲まされるのだから、噛みくだすかもしれない。そうすると苦いから吐き出すだろう。
 スガルノオミは牢番や役人の間をするりと抜け、
「どこへ行く!」
と、怒鳴られたが一目散に駆け出した。与えられている自分の居屋に飛込み、竹筒に水を汲み、急いで牢に戻った。役人どもの制止を振り払い、コビに水を渡した。あまりにも手際良いスピーディな動作に牢番も呆気に取られ見守るばかりであった。
 コビは錠剤を二錠、兵士の口に押し込み、すぐ水を飲ませた。水がおいしかったのか、錠剤ともごくごく飲んだ。残った水をハンカチに浸し、顔を何度も拭いた。格子ごしながら、その動作は現代流に言えば、看護婦の手際そのものであり、一部始終を見ていたヲワケの臣はコビを本当に神の使いに思った。
「これで大丈夫よ。しばらくすれば落ち着くと思うわ」
「かたじけない。そなたは一体何者であるか」
ヲワケの臣はコビの顔をしげしげと見つめながら言った。
「コビと申します。巫女として、この地にやってきました。いずれすべてが分かります。今は、この方が元気になることを祈ります」
 そう言って、コビはなおも汗びっしょりになっている兵士の顔を拭き、その手を取り、ぎゅっと握り締めた。
 スガルノオミは一段落したことを察し、
「もう死にそうだなどと騒ぐこともないでしょうから、お役人さま、どうぞお引き取りください。今夜はここで牢人たちを見張っていてあげましょう」
と、コビに目配せしながら言った。
「そうか。だが、お前たちに任せるわけにはいかない。牢番二人は置いておく。・・・よいな、よく見張っておれ」
と、役人たちは牢番に命令して立ち去って行った。
 コビとスガルノオミは、<しめた!>と、同じ事を心の中で叫んだ。ただし、コビの<しめた!>は<ワープできる!>であったし、スガルノオミの<しめた!>は<牢番二人くらい何のことはない!やっつけてやる!>であった。
 牢番はコビとスガルノオミを、アメノヒホコに召し抱えられている者として、さほど警戒することなく、のんびりと駄べっている。それに牢は堅く閉まっているし、病人はいる。すっかり気を抜いて牢の外に出て月夜を眺めたりし始めた。
 コビは腕時計を見た。薬を飲ませて三〇分は経っている。病人はあれほど死ぬほど苦しがっていたのに、うっすらと目を開け、ヲワケの臣の声にうなづけるほどになっていた。熱はすっかりひいている。さすがである。薬に対する抗体など全くない体だからだ、凄い効き目だ。コビは神以外の何者でもなかった。
 一時間ほど経ったとき、牢番はそれまで交互に歩き回っていたのが、二人とも外に出て行った。今だ!スガルノオミは素早く牢の閂(かんぬき)を抜いた。鉄製の錠前などができたのはずっと後のことで、当時は牢内から手の届かない所にある狭い牢入り口を、太い木材のかんぬきで止めてあるだけである。牢番さえいなければ容易に引き抜ける。
「さっ、早く!」
 スガルノオミは、牢内に入って、座り込んでいる兵士達を抱き起こした。衰弱しているため立つのも容易ならぬ、ふらふらの状態である。
「早く出よう!」
 その時だ。牢番の一人が戻ってきた。
「ややっ。何をする!」
「しまった!」
そう言ってスガルノオミは牢から出て牢番をやっつけようとしたが、コビはさっとそれを制して、スガルノオミを牢に連れ戻し、自分も入って行った。
「コビどの!どういうことだ!」
「いいの!わたしに任せて!」
 大声を聞き付けた牢番の一人も戻ってきて、入り口は閉められてしまった。一人がすぐ駆け出して行った。多分アメノヒホコに報告するためだろう。
「大丈夫。わたしに任せてちょうだい。この中に入りたかったのよ。そうしないと都合が悪いのよ」
「・・・」
「みんな。わたしを見てちょうだい。絶対によそ見してはダメ。一、二、三、四、・・・ヲワケさま、スガルノオミさま、六人ね。わたしを見ていて!」
 コビはパッとワープした。・・・丸墓山古墳に現われた。・・・六人だ。牢番はいない。成功だ!しかし、・・・コビは周りを見渡した。麻美など友達がいると、また面倒なことになる。誰もいない。いや、麻美がちょうど石段を下りて行くところだった。あれから大して時間は経ってない。時間と空間の積は一定値だから、空間が大きくなると時間は小さくなる。
 ヲワケの臣は妙な気分に襲われた。
「幸魂(さきみたま)、さきみたま・・・」
と、辺りを見回してつぶやいた。スガルノオミも兵士たちも一瞬のうちに夜から昼へ来て、しかも見たことのない場所だ。うろたえている。
「みんな。もう一度わたしを見て!目を離しちゃダメよ。いいこと」
 コビはヤマトタケルノミコトのいる葦原の中津国の峠にワープした。月夜の美しい薄明かりが一千以上の軍勢を照らしている。
「やったー」
 コビは喜び勇んで駆け出した。
「ヤマトタケルさま!連れ戻しました!」
「おお、コビどの!どこに?」
「あそこです。こちらに来ます!」
 よろよろしながらも互いをいたわりながら、ヲワケらが本陣中央の皇子のところにやってきた。
「あー・・・オウスノミコトどの・・・残念でございます。・・・家来達は全滅にございます。・・・」
 ヲワケの臣は崩れ落ちるようにヤマトタケルノミコトの前に膝まづいた。
「油断した父上がわるいのだ。必ず復讐してやる!・・・」
「ヲワケさま、オウスノミコトどのは、いまはヤマトタケルノミコトと名告られております」
と、コビは説明した。
「倭(ヤマト)武(タケル)の命(みこと)!おー、この方こそ、倭が大王になられる方です」
 ヲワケの臣がうやうやしくお辞儀をすると、スガルノオミも、
「ワガ タケル大王!ここにあり!」
と、軍旗をひるがえして叫んだ。兵士たちも一斉に、
「ワカタケル大王、万歳!」
と、口々に叫び続けた。
 
 次の日、斐川宮殿は一気に攻め落とされ、コビの必死の願いもむなしく、アメノヒホコは一刀のもとに首をはねられた。葦の中津国はヤマトタケルノミコトの支配下になっていった。神器として大切に保存されていたコビの献上した鏡も取り戻した。また、この時のヤマトタケルノミコトの傍若無人の振る舞いは後世まで語りつがれ、神話となっていった。
 その神話の一つが天の岩戸(あまのいわと)の物語である。荒々しい武勇スサノヲノミコトというのがヤマトタケルノミコトのことである。天照大神(アマテラスオオミカミ)が岩戸に隠れて葦の中津国が真っ暗になったのを、榊(さかき)の枝に鏡を下げて、アメノウズメという女神が岩戸の前で踊り、天照大神の興味をそそぎ、岩戸から出させ、再び中津国が明るくなったという。この鏡が後の天皇を象徴する三種の神器の一つヤタノ鏡である。
 三種の神器とは、ヤタノ鏡、アマノムラクモノ剣、ヤサカニノまが玉である。このうちの二つをヤマトタケルノミコトは手にしたことになる。三つ目のまが玉は三輪の宮廷に保存されている。