遅延選択量子消去実験 (delayed choice quantum eraser) は本当なの?

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光子は本当に粒子なの? ベルの不等式の破れとの関係

ホィーラーの遅延選択実験は 古典的な電磁波で説明できる。

我々は 本当に過去の出来事を変える (遅延選択) することが可能なのか??

ホィーラーの遅延選択実験 (delayed choice experiment) は 1978 年に john Wheeler によって提唱された 思考実験で 後に実験によって確かめられた。
驚くべきことに、この実験においては 我々は 光子の過去の状態を 何と未来から変える (= 遅延選択)ことが可能なのである。
これはつまり、我々が 未来から 過去の情報をコントロールできることを意味している。
しかし、この現実の世界で こんなことが果たして本当に起こり得るのであろうか??
ここでは、これらの奇妙な現象の ”トリック” について説明することにする。

(Fig.1) 光子 (photon) の”粒子性”が観察された ?

Fig.1 は マッハ・ツェンダー干渉計である。
Fig.1 では、単一光子が ハーフビームスプリッター 1 ( BS 1 ) で分離されている。
( 基本的には ハーフビームスプリッターでは、光のほぼ半分が 反射され 残りの半分が通過する。)
もちろん、量子力学的な解釈では、単一光子は スプリッターで分離することはできない。
つまり、量子力学によれば 単一光子は ビームスプリッターの後、2つの通路のうち 1つの通路のみに存在する。
我々が 光子検出器 ( D1, D2 ) で光子を検出するとき、同時に D1 と D2 の両方で単一光子を検出はできない。
D1 か D2 のどちら一つのみで 光子を検出することができる。
この実験結果は 光子が粒子であることを示している。
Fig.1 では、D1 で 単一光子を検出したとき、そのことは その光子が A の通路を通過してきたことを意味する。
( D2 で 光子を検出したときは、それは B 通路を通過してきたことを意味する。)
つまり、Fig.1 においては 光子がどっちの通路を通過したという情報 (= which-path information ) を手にすることができる。そしてこの場合は 光子が 粒子 (= particle )の性質を示す。

(Fig.2) 光子の "波" の性質が観察された ?

Fig.2 では、ビームスプリッター 2 ( BS 2 ) も挿入した。
ビームスプリッター 2 ( BS 2 ) では Fig.2 に示すように 下方への反射 (青い線) のときのみ 波の位相が逆になるとする。
( 通過光は特に変化しない。)
結果として、A と B の通路からの電磁波の干渉によって、D2検出器側で 必ず 単一光子を検出することになる。
D1 検出器側では、A と B の通路からの電磁波が 互いに打ち消し合うため、光子を検出することができない。
これは ビームスプリッター 2 を 挿入することによって、光子が "波 (= wave )" の性質を示すことを意味している。

これはとても奇妙な現象である。
Fig.1 によれば、光子が ビームスプリッター 1 ( BS 1 ) を通過後に、その光子は 粒子になったことを示している。
しかし、光子が BS 1 を通過に もし ビームスプリッター 2 ( BS 2 ) を挿入したとしたら、光子という粒子が 何と波に変化してしまうのである !
これはつまり、我々は 未来から 過去の出来事 ( 粒子か波か ) を変化させる (= 遅延選択) ことができることを意味している。
しかし、この現実の世界で 果たしてそんなことが可能なのだろうか?

(Fig.3) 我々は 未来から 過去の出来事 (粒子か波か) を変化 (選択) することが可能か ?

遅延選択実験は 古典的な電磁波で説明可能である。

実は、我々は 遅延選択実験の 奇妙な現象を 古典的な電磁波で説明可能なのである。
ここでは このメカニズムを説明することにする。

このページで示したように、光の強度 (light intensity) が "6" あるとき、光子検出器で 単一光子を認識できると 仮定する。
(つまり、光の強度が 6 未満のとき、電磁波がたとえ存在したとしても それは単一光子として検出することはできない。)
例えば、最初の光の強度を 10 とし、それが ビームスプリッター ( BS 1 ) で 6 + 4 の波 に分離するとする。
( 10 は 2つの光子 (= 12 ) ではなく 単一光子として検出される。)
すると、検出閾値のために 4 の側では 検出されず、6 の側 ( D1 か D2 ) のみで 単一光子として検出される。
( もし 電磁波が 5+5 に分離されたとすると、光子はどこにも検出できない。この場合はまったく認識されないので、無視されたケースとなる。)
つまり、我々は 古典的な電磁波によって、Fig.1 の 光子の ”粒子”像を説明することができた

Fig.2 に示すように、もう1つのビームスプリッター ( BS 2 ) を入れたとき、"6" 側の光が "3+3" に、"4" 側の光が "2+2" に分離されるとする。
光の振幅 (amplitude) は 光の強度 (intensity) の平方根である。
Fig.2 に示したように、D2 検出側では、干渉によって 光の振幅が増幅して 単一光子が検出される。

(Eq.1) D2 における光の強度。

そして D1 側では 波が互いに打ち消し合うため 光子を検出できない。

(Eq.2) D1 側の 光の強度。

結果として、Fig.2 の 波の性質は 古典的な電磁波によって 自然に説明することができる
これは、光子というものは もとから 電磁波で、粒子ではないことを意味している。( "光子という粒子" は 幻想である。 )
これが 遅延選択実験の トリックである。残念ながら、我々は 未来から 過去の出来事を 変化 させる (= 遅延選択 ) ことはできないのである。

遅延選択量子消去実験は 古典的な電磁波で説明できる。

光子がどっちを通過したか分かると、光子が粒子に変化する?

ホィーラーの遅延選択実験の概念を使って、"遅延選択量子消去実験" が施行された (Phys. Rev. Lett. 2000 84 1-5)。
この 遅延選択量子消しゴム実験では、測定装置に応じて、光子が 粒子か波に変化する。
我々が 光子がどちらの通路を通過したか 知ると、光子は何と 粒子に変化してしまう!
しかし、もし 光子がどちらを通過したかの情報を消去 (erase) すると、単一光子の両通路への重ね合わせ状態が復活して、何と 光子が波に変化してしまうのである。
(= Delayed choice quantum eraser. )
しかし、こんな奇妙な現象が本当に起きているのであろうか??

(Fig.4) 遅延選択量子消去実験

この実験では、単一光子 ( 1 photon ) は アルゴンイオンポンプレーザービームによって生成される。
このレーザー (= 単一光子) は 2重スリット (double slit) で A と B の通路に分離される ( いわゆる "重ね合わせ" である )。
( もしくは、この単一光子は 上 (=B) か 下 (=A) のどちらか一方のスリットを通過する。)
スリット通過後、beta barium crystal ( BBO ) が その光子を もとの半分の振動数の 2つの同一のエンタングルした光子 に変化させる。
つまり、全エネルギーは保存される。
( 驚くべきことに、単一光子の粒子は BBO によって 2つの光子に分離できるのである! )
Fig.4 のケースでは、光の強度が "10" の単一光子 (= 電磁波) が、2重スリットで 6+4 に分離されている。
そして、各通路 ( A と B ) において、もとの半分の振動数の 2つの同一光子のペアが生成される ( 6 → 6+6, 4 → 4+4 )。

2つのエンタングルした光子のうちの 1つは 上のルートに送られ、D0 の検出器で検出される (= シグナル (signal) 光子 )。
( D0 の検出器の位置は Fig.4 に示すように x 方向に動かすことができる。)
そして、もう1つの光子 (= アイドラー (idler) 光子 ) は 下のルートに送られ、BSA, BSB, BS などの ハーフビームスプリッターで分離される。
( もちろん、量子力学によれば、単一光子の粒子は ビームスプリッターで分離することはできない。 )
Fig.4 に示すように、D4 で idler 光子 を検出したとき、我々は その idler 光子が B スリット側を通過したという 情報 (= which-path information ) を知ることができる。
D3 で idler 光子を検出したときは、その光子が "A" 側のスリットを通過したことが分かる。
驚くべきことに、これらのケース ( D3 もしくは D4 での検出 ) では、D0 における signal 光子は 2重スリットの 粒子像を示す !

最後のビームスプリッター (= Fig.4 の "BS" ) では、一方向の反射光の位相のみを反転するとする (Fig.5)。
( 通過光は変化しない。)
(Fig.5)

つまり、idler 光子は "波動" の性質を持っているとすると、D1 側では 2つの通路からの光が打ち消しあうため、光子を検出できない。
また、 D2 で idler 光子を検出したときは ( もちろん この場合は D3, D4 などで idler 光子は検出されない。)、我々は その idler 光子が A か B のどちらの通路を通ってきたか 決められない。
なぜなら、A と B 両通路からの光ともに D2 検出器に入射することができるからである (互いに干渉もできる)。

驚くべきことに、この D2 検出の場合は、D0 検出器での signal 光子の検出パターンは 2重スリットの"波動"としての干渉パターンを示す。
これはつまり、我々が 検出装置 ( D2, D3, D4 ) を選択すると、それに応じて signal 光子が 粒子か波かに変化してしまうのである!
D2 検出器を選択すると、光子が A か B のどちらの通路を通過したかの情報 ( which-path information ) が消去される (erase) ため、単一光子の重ね合わせ状態が復活する。
そのため、量子力学的解釈によれば、signal 光子の自分自身との干渉が起こることになる。
しかし、これらの奇妙な現象は本当に起きているのであろうか??

遅延選択量子消去実験の "トリック"

まず D3 もしくは D4 の検出器で idler 光子を検出したとき、なぜ D0 検出で 2重スリットの "粒子像" を示すようになるか説明する。
( ここでは、上のセクションのように 古典的な電磁波のみを用いて、遅延選択消去実験のトリックを説明することにする。)

(Fig.6) Which-path information は 光子を "粒子 (particle)" に変えてしまう??

Fig.6 に示したように、D4 検出器で idler 光子を検出したとき、その idler 光子は "B" の通路 ( "A" でなく ) を通過したことになる。
最初の単一光子の強度は 10 であり、 我々が D4 検出器で光子を検出するためには、その最初の光のほとんどすべて が 上方のスリット (= "B" ) を通過する必要がある。
なぜなら、最初のビームスプリッター (= BSB ) で、光は 約半分に分離されてしまうからである ( 古典的な波で )。
上のセクションで述べたように、単一光子として検出されるには、少なくとも "6" の光の強度が必要としている。

もし、Fig.4 のように、最初の光が 2重スリットで A と B の両方の通路へ分離されたとする ( 例えば、10 → 4 (A) + 6 (B) ) と、我々は D3 と D4 のどちらにおいても idler 光子を検出できない
なぜなら、最初のビームスプリッター ( BSA や BSB ) で、光は 再び分離されて ( 例えば 6 → 3+3 ) しまうため、検出閾値である 光の強度 "6" に届くことが難しいからである。
つまり、D4 ( もしくは D3 ) で idler 光子を検出するためには、最初の光が "B" 通路のみ ( もしくは "A" 通路のみ ) を通過する必要がある。
結果として、上方の "D0" 検出器側においても A と B 通路の干渉 (interference) は起きず、いわゆる ヤングの2重スリットの "粒子像" パターンを示すことになる。

(Fig.7) which-path information の消去 (erase) は 光子を "波" に変えてしまう??

Fig.7 は D2 検出器で idler 光子を検出したときのケースである。
驚くべきことに、このケース ( D2 もしくは D1 検出 ) では、D0 検出器は A と B の光からの干渉パターンを示すのである。
再び、ここでは 普通の古典的な電磁波を用いて このトリックを説明することにする。

もし、Fig.6 のように 最初の光が 2重スリットのどちらか一方 ( A もしくは B ) のみを通過したとき、我々は D2 もしくは D1 で idler 光子を検出できるのであろうか?
答えは "NO" だ。
なぜなら、D2 ( もしくは D1 ) に到達するには、光が 2つのハーフビームスプリッター ( 例えば BSB (BSA) と BS ) を通過する必要があるからである。
そのため、最初の光の強度 "10" が D2 もしくは D1 において、もとの約 1/4 の強度に減ってしまうのである ( 10 → BSB (or BSA) → 5+5 → BS → 2.5 + 2.5 )。
これでは 検出閾値 "6" に到達することは 非常に難しい。

D2 もしくは D1 で 単一光子を検出するためには Fig.7 に示すように ”干渉の力” に頼るしかないのである。
Fig.7 では、最初の光が 2重スリットで 約半分 "5+5" に分離される。
BBO 通過後、idler 光子 (= もちろん 古典的な電磁波である ) は 赤と青の太線の 両方の通路へ入って、BSB と BSA のビームスプリッターで再び分離される ( 例えば、 5 → 3+2 )。

そしてさらに、それらの光は 最後のビームスプリッター ( BS ) で分離される ( 3 → 1.5+1.5 )。
光の振幅は 光の強度の平方根であり、赤と青の線からの光が干渉で増幅される。

(Eq.3) BS 後の 干渉による 光の振幅。

光の強度は 光の振幅の2乗である。
(Eq.4)

結果として、2重スリットで 最初の光が ほぼ半分に分離された場合のみ 我々が D2 で idler 光子を検出することができる。
Fig.7 のケースでは、D0 検出器側でも A と B の通路からの光の干渉が起こり、いわゆる "波のパターン" を示す。
これが 遅延選択量子消去の トリックである。

すでにあなた方は お気づきだと思われるが、もし 光子の粒子的な性質を認めたとしたら、我々は エンタングルメント (もつれ) 、遅延選択実験、多世界様の重ね合わせなどの 奇妙な概念を 受け入れなければならない。
しかし、もし 光子を 普通の電磁波のように扱ったとしたら、これらの奇妙な概念を受け入れる必要がないのである。
あなたがたは どちらのケース ( 光子が粒子もしくは波 ) がより自然か 簡単に判断することができるだろう。

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2011/11/18 updated This site is link free.