天狗山(てんぐやま1882m、 男山(おとこやま)1851m                     [奥秩父]

 

 天狗山、男山は昔から気になっていた山だった。学生時代に買ったブルーガイドブックスの「ベスト・ハイキング100コース*春夏秋冬」(実業之日本社、1975年発行)にも載っていて、展望がよく、シャクナゲとスズランが見られる山として紹介されている。稜線で結ばれた二つの岩峰は奥秩父の西端に位置していて、八ヶ岳との間には広い高原が広がるだけで遮るものが何もなく、いかにも山頂からの眺めが良さそうだ。
 これまで登る機会が全くなかった訳ではなく、2009年の6月に清里に泊まって近くの山に登ろうと思った時に、天狗山、男山も候補に挙がったのだが、お隣の200名山の御座山を優先してしまった。それからまた10年。学生時代から考えれば40年以上たって、「そろそろ登らないと死んじまうぞ。」と 思い、やっと実現することとなった。

野辺山高原から夕陽を浴びた男山(左)、天狗岳(右)

  野辺山高原の八ヶ岳ふれあい公園で車中泊し、天狗岳の登山口である馬越(まごえ)峠まで車で上がってきたら、既に駐車スペースは4台の車でいっぱいになっていた。ナンバーを見ると山梨、湘南、名古屋などいろいろ。平日なので大丈夫だろうと高を括っていたが、予想外の事態。幸い、峠を越したすぐ近くに3台程のスペースがあり、こちらに止める。
 古いハイキングコースで今は人気がないのかと思っていたが、そうでもないらしい。

登山口

 

 登山口から疎らな林の山腹を登っていくと、すぐに尾根に出る。最初は樹林帯だが、じきに赤松の生える岩尾根になる。眼下に川上村の役場あたりの集落が見下ろせる。右手前方の遠くには後立山の白い峰が連なっていて展望が期待できる。稜線歩きだが風が弱く、暖かい。今朝はマイナス5度まで下がり、朝方は寝ていられないほど寒かったので、陽射しがありがたい。

 

岩尾根(帰りに撮影) 東側からの天狗山

 

 1時間ほどで天狗山の山頂に到着。樹木が山頂ギリギリまで迫っていて、山頂部は想像していたよりも狭い。岩で覆われた山頂には 山名板の他に三角点と石造りの小さな祠がある。
 展望は予想通り素晴らしく、尾根の行く手には男山が双耳峰のように立ちあがっており、その向こうは広い山麓を隔てた八ヶ岳が視界を遮る。その右手には先ほどから見えている後立山の白い峰々。さらに右に頸城の山々。そして大きく浅間山。背後には御座山が競り上がっている。

天狗山山頂

 

男山と八ヶ岳 浅間山

 

 左手に目立つのは南アルプス。北岳は真っ白だが、甲斐駒はまだ黒々としている。
 南側の眼下には川上村の広い谷間が広がり、畑の間にパッチワーク状にカラマツ林が点在して、周囲の山々も含めて黄色に埋まっているようだ。北側の立原高原は一面にカラマツで黄色い海になっている。いやー、すごい。

 

間ノ岳(左)、北岳(右)

川上村俯瞰

 

 さて、ここで満足していてはいけない。まだ先がある。
 山頂から男山に向かって稜線を進んでいくと、どんどん左に逸れていってしまう。おかしいなあと思って地図を見ると、一旦左に進み、岩壁の下をトラバースして主稜線に戻るようになっていた。
 主稜線に戻ったところに標識があり、南側の大深山遺跡に降る方向は白く塗りつぶされていた。地図には破線が残っているが、廃道になってるようだ。地図には他に役場付近から天狗山と馬越峠の間に登ってくる道も記載されているが、これも良く分からず、登山前に調べたところでは山行記録などは見つけられなかった。
 ヤマレコなどに掲載されている記録のほとんどは馬越峠から天狗山、男山を稜線伝いに往復するもので、一部北側の立原高原からのものが含まれている程度で、最近は南側からはあまり登られていないようだ。

 

 立原高原への道を右手に分けて、緩く登っていくと樹林に覆われた1797m峰。山頂標識には「垣越山」という地図に載ってない山名が書かれていた。誰が命名したのだろうか。

 ここからは再び岩尾根になり、小さなアップダウンが多くてなかなかしんどい。登山前の予想以上に岩稜の箇所が多く、ここまでの行程もコースタイムでは収まらず、ややオーバー気味だ。

垣越山近くの稜線、左はカラマツ、右はコナラ

 

 岩の上から振り返ると、天狗山がカラマツの海から頭を持ち上げた海坊主のように、稜線の上に立ち上がっている。

 山麓にはゴルフ場があったはずだが、工事が行われていて土の地肌が見えている。よく見るとコースがはがされて、太陽光パネルが設置されているようだ。ゴルフ場は潰れてしまったらしい。
 南向きの斜面で太陽光発電にはもってこいの場所だが、景観的にはあまり喜ばしくはない。環境にやさしいクリーンエネルギーではあるが、場所によっては環境破壊になりかねない。まあ、もともとがゴルフ場だから、どっちもどっちだが。

天狗山を振り返る、眼下は旧ゴルフ場

 

 男山手前のピークは右側から巻く。巻き道はコメツガの樹林になっていて、岩が苔むしている。奥秩父の雰囲気が少しだけ感じられる。
 左手に信濃川上駅への道を分け、少し登ると男山の山頂。こちらも樹林からわずかに岩が頭を出した山頂だが、天狗山よりも広い。最後の登りで下山者二人とすれ違ったが、山頂には誰もいなかった。登山口に車が4台あったのに、後の2台分の登山者はどこに行ったのだろうか

 

男山山頂から八ヶ岳

 

権現岳(左)、赤岳(右)

 男山は標高は天狗山に及ばないが、展望はその上を行く。鋭い岩峰からの眺めはまるで鳥になったようだ。眼前には遮るものがなく広大な八ヶ岳の山麓が広がる。八ヶ岳はかつて富士山より高かったという話があるが、この山麓を見るとそれを信じたくなるほど広い。昨日、中央道から見た東側の赤岳は雪を纏っていたが、こちら側は積もりにくいのか、溶けてしまったのか、岩肌が見えるばかりで、わずかに硫黄岳付近が白くなっている。
 南アルプスの左手には天狗山では見えなかった富士山がひときわ高くそびえている。手前の瑞牆山はシルエットてになっているが、山頂近くの大ヤスリ岩が稜線から飛び出しているのが良く見える。
 北アルプスは後立山連峰が蓮華岳あたりから白馬岳あたりまで見えているが、展望アプリで調べてみると、蓮華岳の左に見えているのは立山や剱岳だった。
 頸城の山々で白く見えるのは焼山と火打山。高妻山と妙高山は黒っぽく見える。浅間山の右手には谷川岳辺りと思われる白い山々が遥かに見えるが、はっきりしない。背後の御座山も光が回ってきて、山頂付近の岩壁が良く分かる。
 それにしても360度の大展望だ。これを独り占めできるとは、何という幸せか。

 

瑞牆山の右に富士

 

南アルプス、北岳と甲斐駒

後立山連峰

 

鹿島槍(左)、五竜(右)

北側はカラマツの海

 

御座山

 帰りは同じ稜線を馬越峠へ戻る。普通なら帰りは下りだけだが、ここはそうはいかず、同じだけ下って登らなければならない。精神的に辛いなあと思っていたが、帰りは道の状況が分かっているので、意外に気にならずに戻ってこられた。
 天狗山にはまだ下から登ってくる人がいて、山頂は賑わっていた。最後の展望を楽しんで馬越峠に下った。すでに4台の車はなく、自分の車の隣に新しく2台止まっていた。

川上村大深山から見上げる天狗山

 

天狗山、男山ルートマップ


[山行日] 2020/11/5(木)
[天気] 快晴             2020年11月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 野辺山高原「八ヶ岳ふれあい公園」 →(レタス街道)→ 川上村大深山 →(県道2号)→ 馬越峠  [約20km]

・川上村大深山から峠までは1.5車線の舗装道路。
・峠近くに駐車スペース7台程。トイレ、登山届ポストなし。

 
[コースタイム]  
行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:55 8:00 馬越峠 発    
8:55 天狗山山頂(1882.0m) 0:10  
0:40 9:05  
9:45 垣越山(1797m) 0:05  
0:40 9:50  
10:30 男山山頂(1851.4m) 0:45 10℃
1:25 11:15  
11:50 垣越山    
12:40 天狗山山頂 0:20  
0:40 13:00  
13:40 馬越峠 着   5℃
4:20     1:20 5:40
往き 2:15        
帰り 2:05        
 
[地図] 信濃中島、御所平(1/25000)