太郎坊山( たろうぼうやま)350箕作山(みつくりやま)372m                  [滋賀・湖南] 

 

 太郎坊山は滋賀県湖南の岩山である。
 この山の存在は「ふしぎ山」というサイトで知った。そもそもこのサイトを見つけたのは、出張ついでに佐賀県の御船山に登ろうと思って調べていた時だった。このサイトは全国のちょっと見た目が変わっている山に登った記録をまとめてい るもので、その中で比較的近いところにある山で目を引いたのが太郎坊山だった。

 太郎坊山は見た目は険しそうだが、ガイドブックにもハイキングコースとして掲載されていて、隣の箕作山とセットで紹介されている。

太郎坊宮への参道から太郎坊山を望む

 

 太郎坊山の中腹には太郎坊阿賀神社が祀られていてる。通称太郎坊宮と呼ばれていて、聖徳太子が国家安泰と万人の幸福を祈願したと言われている。また京都鞍馬の次郎坊の兄弟子であると言われ、太郎坊山は修験の山であったようだ。
 修験道の修行は岩山で行われることが多く、太郎坊山はいかにもという感じの山だが、おそらくそれ以前の時代から磐座として信仰されていた山だと思われる。

 麓の駐車場に車を止め、石段を登り始める。ガイドブックには逆コースで太郎坊山から下るルートが紹介されているが、太郎坊宮の駐車場に止めたので、まずはお参りをしなければならない。長い 直線的な石段で登りはなかなかしんどいが、下るよりも登る方が膝には優しい。
 途中に神仏習合の面影を残すようにお寺である成願寺があり、なおも長い急な石段を登ると参集殿の下に着く。ここまでは車で登ることができ、駐車場やトイレがある。

駐車場から見上げた太郎坊山

 

 参集殿からは表道、裏道のふたつのルートがあるが、登りは表道の方に矢印があるので、石段をなおも登ると神楽殿、手水舎を過ぎ、夫婦岩の下に着く。太郎坊宮の御神体である夫婦岩はふたつに割れた大岩でその間を通り抜けると本殿の前に出る。 左手の展望台からの眺めがいいが、まずは本殿にお参り。

 お参りした後、夫婦岩の解説板を読むと太郎坊山や三上山など湖東地方にぽこぽこと点在している山々は中生代白亜紀の火山活動でできた山で、湖東カルデラと呼ばれていて、「湖東流紋岩」(流動性が低い火山岩)で構成されているのだそうだ。夫婦岩も湖東流紋岩でできていて、岩の隙間は火山岩が冷えて固まる時にできた節理がひろがったものだとのこと。
 夫婦岩の間を通って参拝する者は病苦が除かれ所願成就するが、悪心ある者は岩に挟まれると言い伝えられているそうなので、一応「悪心なし」とお墨付きが得られたようだ。

長い石段

 

夫婦岩のすきま

 

太郎坊宮本殿

 

 太郎坊山山頂へのハイキングコースは少し戻った手水舎の横から始まる。先日登った奥秩父の岩山である天狗山のように岩の間をよじ登るのではなく、東側から雑木林の巻き道を登っていく。山頂の裏側(北側)に回り込み、分岐を少し南に進むと山頂に到着する。
 山頂は岩場で南側の展望が開けているが、天気が良すぎてもやっている。右手の373.4m峰(小脇山)の山腹が黄色に染まった裾野を広げていて美しい。
 もう一つ南にやや低いピークがあって、そこが下から見上げた時の太郎坊山の山頂になるのだろうが、展望がいいかどうか分からないので、そこまで行くのは止めておく。

 

太郎坊山山頂から 太郎坊山から眺める小脇山

 

 再びハイキングコースに戻り先に進む。地元に人の手作りの休憩所を過ぎ、今度は右手にコースを外れて瓦屋禅寺に立ち寄る。少し下ると金色の観音像があり、さらに下ると瓦屋禅寺の参道に出る。ここまで車で来られるようで、参拝者がそこそこいる。
 ここも太郎坊宮同様に聖徳太子に関係があり、聖徳太子が四天王寺を建てる際に山麓の土を採って瓦十万八千枚を焼かせ、その跡地に寺を建てたのが始まりとのこと。もちろん当時は禅寺ではなく、江戸時代に八日市に仙台伊達藩の領地があったところから、伊達氏の菩提寺である松島瑞巌寺の僧が再興して臨済宗の寺になったらしい。
 境内や参道途中の庭園には紅葉が多く、きれいに色づいていて美しい。

 

瓦屋禅寺本堂

 

色づくもみじ

 また尾根道に戻って先に進む。周りはアカマツ、ツツジ、コナラ、ヒサカキ、ソヨゴなどの雑木林で、特にタカノツメが多く、黄葉が逆光に映える。
 今日は11月下旬とは思えないほど気温が上がり、下山後、最も遅い夏日が各地で記録されたと知る。寒がりの自分でもさすがに暑くて、途中から山シャツを脱ぎ、Tシャツ一枚で歩いていた。

 尾根を左に直角に曲るとすぐに箕作山の山頂。ここも山頂は岩が出ている。初めて北側が開け、展望図には彦根城や石田三成の居城、佐和山も見えるとあるが、残念ながらもやっていてさっぱり分からない

 

落ち葉の尾根道

 

箕作山山頂

 箕作山からは小さなアップダウンがあるものの、歩きやすい尾根道を進む。
 途中で何組もの中高年グループとすれ違うが、その中には太郎坊宮の駐車場にいたグループも混じっていた。逆コースをたどると、この辺りですれ違うことになるらしい。

 

 373.4m峰のピークには小脇山の山名板がぶら下がっていた。ここは箕作山よりも高く三角点もあるのだが、なぜか国土地理院の地形図には山名がない。この山塊の最高峰であるし、かつては山城も築かれていたようなのに、なぜだろうか。三角点の「点の記」も調べてみたが、点名は北東山麓の字名である「老蘇」だった。

 小脇山からは南側の展望が開ける。太郎坊山の背後に鈴鹿の山々がぼんやりと見える。展望アプリで調べてみると、雨乞岳や綿向山あたりが見えているらしい。
 暑いので木陰で昼飯にするが、こんなに暑いとは思わなかったのでカップヌードルを持ってきてしまった。う〜ん、熱い。けど、うまい。

小脇山から太郎坊山を振り返る

 

 小脇山から少し下ると岩戸山。岩の上に上がると東側から北側の展望が開ける。琵琶湖の湖面がわずかに見えるが、比叡の山並みは霞んで見えない。北隣りには繖山(きぬがさやま)が大きく横たわっていて、繖山との間を新幹線が走り抜けていく音が登ってくる。

 山頂の岩のひとつに矢印が彫ってあるが、これは明治時代に大阪の米相場を旗を振って彦根へ知らせる旗振り場の跡を示すもので、矢印は野洲の旗振り場の方角を指していると解説板にある。

岩戸山から西側の眺め

 

 岩戸山から少し下ると眺めのいい岩場の上に出て、それを右手から回り込んで下りると十三仏のお堂の前に出る。
 ここもまた聖徳太子ゆかりの地で、聖徳太子が瓦屋寺を建てた頃、ここの岩に爪で十三の仏を彫ったと伝えられている。その仏はお堂に覆われて見えないようだが、周りには石仏がたくさん安置されている。

十三仏境内の大岩ともみじ

 

 十三仏からは麓に向かって石段が下っている。これまた長い石段だが、太郎坊宮の石段のように切石ではなく自然石が積まれたものだ。結局膝に優しくない石段下りをすることになったが、まあこちらの方が足元に注意してゆっくり下る分、衝撃は少ない。

 石段の横には石仏が何体も置かれている。なぜか二体ずつペアになっているものが多い。ペアになっている石仏には番号が振ってあるので、かつて各地で見られた霊場巡りの石仏だろうと思いながら下ったら、下の登山口に「新四国八十八箇所霊場」の石碑が建っていた。

石仏と石段

 

南側の田んぼから岩戸山(左)〜太郎坊山(右)のパノラマ

 

 登山口からは貯水池の横を抜け、小山を回り込んで太郎坊宮の駐車場まで戻る。舗装道路を歩くのはつらいので川沿いの砂利道や田んぼ道を選んで歩く。田んぼの中を通ったおかげで、裾野を紅葉で染めた岩戸山、太郎坊山を眺めながら帰ることができた。

 

太郎坊山、箕作山ルートマップ


[山行日] 2020/11/18(水)
[天気] 快晴     2020年11月の天気図(気象庁)
[アプローチ]

東海環状・大安IC (R421号 、石榑トンネル) 太郎坊宮(滋賀県東近江市八日市)      [約42km]  

・太郎坊宮には何ヶ所か駐車場があるが、石段のすぐ下の駐車場に止める。12台くらい駐車可。無料、トイレなし。
・トイレは石段を登った上の駐車場(参集殿前)にある。

[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:25 8:45 太郎坊宮駐車場 出発    
9:10 太郎坊宮(トイレ、参拝) 0:15  
0:20 9:25  
9:45 太郎坊山山頂(350m) 0:10  
0:20 9:55  
10:15 瓦屋禅寺 0:10  
0:40 10:25  
10:40 箕作山(372m)    
11:05 小脇山(373.4m) 0:35 18℃
1:10 11:40  
12:00 十三仏    
12:20 岩戸山、十三仏登山口    
12:50 太郎坊宮駐車場 着   全行動時間
2:55     1:10 4:05
 
[地図] 八日市 (1/25000)

 

[風景印] 八日市局
 (滋賀県東近江市八日市野々宮町1-27)

・図案
  太郎坊山、八日市大凧