釈迦ヶ岳(しゃかがたけ)                                  [大峰] 1800m

  

 長い林道を走り、登山口の駐車場に着いたら消防車両が4台も止まっていた。車両の間には催事用テントも張られていて、5〜6人の消防署員が集まっている。こりゃ遭難だな、と直感。車を降り尋ねてみると 、けが人を救助中とのこと。こんな山中で他の車中泊登山者と一緒だと少し身構えてしまうが、消防隊員ならかえって安心。
 と思ってカップヌードルを食べていたら、その中の一人が近づいてきて窓越しに話しかけてくる。
「60代以上の単独登山者の遭難が多いんだよ。あんた幾つ?この間も愛知から来た女性が弥山で遭難してるんだよ、知ってる?遭難者救助が多くて一般業務に支障が出るんだよ。」とネチネチとしゃべり始める。
 どうも最近大峰山系で遭難騒ぎが多く、この出動も昨日から行方不明者を探していたようでイライラしている様子。とは言っても、愛知から来ただけで先日の遭難者と知り合いでもないし、いかにも他県からの登山者は迷惑という口ぶりで嫌な感じ。
 「奈良県の山には来るなと言うことですか。」と思わず口に出てしまう。消防署員はさすがに言い過ぎたと思ったのかテントに帰って言ったが、大変な仕事をしていただいているのはもっともなので、後ろ姿に「ご苦労様です。」と声をかける。

 小雨も降り出し、あたりがすっかり暗くなった7時半頃に10数人の消防隊員に付き添われて遭難者が下りてきた。自力で歩けているので大事にはなっていないようだ。遭難者は後から登ってきた救急車で搬送され、消防隊員達の引き上げが終わったのは8時頃だった。
 遭難救助に出くわしたこと以上に、先ほどの消防隊員とのやりとりがもやもやして、この夜はよく眠れなかった。結局、他の車中泊登山者は上がってこなかった。

 夜半から風が吹き始めて、時々車が横に揺れて目が覚める。明け方にはかなり強い風が峠を吹き抜けていた。台風14号はまだ九州の南の海上にあるが、大きな台風なのでもう影響が出始めたようだ。大峰の主稜線には雲がかかっている。

 簡単な食事をして6時少し前に登り始める。あたりは明るくなってきたが風が強く、心がザワザワする。風に吹かれるのは体温が奪われるし、木々のざわめく音で 耳からの情報が入りにくい。昨日の遭難騒ぎもあり、気分が落ち着かない。
 さほど気温は下がっていないが、フリースにウインドブレーカーを羽織って歩く。薄暗い樹林の中、木の根の張った登山道を緩やかに登っていく。

 

明るい尾根に出る

 

ブナの森を行く

 

 1434mのピークまで登ると日が差し始め、明るい尾根道になった。一気に気分が軽くなる。風は強いままだが、明るい森と低い笹原の中の踏み跡のような登山道を進んでいくのは気持ちがいい。
 前方の主稜線は雲の中だが、大日岳が雲に頭を押さえられながら、尖った姿を見せている

大日岳

 

 旧道の分岐を過ぎ、小さなアップダウンを繰り返しながら少しずつ高度を上げる。どこまでも笹原の道が続く。傾斜が緩くて歩きやすい。

 斜面に突き出た露岩から尾根を振り返ると、紀伊山地の山並みが続いている。主稜線を越えてきた雲が頭上をすごい早さで通り過ぎていくが、風下側の山々は日に照らされて明るい。

 

露岩から尾根を振り返る

 

 古田の森が近づくと笹原の向こうに釈迦ヶ岳が見えてくるが、山頂部は雲がかかったまま。先ほどよりも雲底が高くなった気がするので、もう少しすれば雲が取れるかもしれない。
 しかし相変わらず風は強く、少々帰り道が心配になってきた。駐車場までの林道は険しい山腹に切り開かれているところが多く、一カ所山側の崖が崩れて道が狭くなっていたところがあった。この風で木の根が揺すられてまた落石が起きてしまうような気がする。道が塞がれると帰れなくなってしまう。道が通れれば下から登山者が上がってくるはずだが、そんな様子はな く、だんだん心配になる。大日岳はパスして早く帰った方がいいかもしれない。などと考えながら進む。

 

古田の森へ

八経ヶ岳を越える滝雲

 

 古田の森を越え、少し下って登り返すと左手に小さな池が現れた。千丈平の池のようだ。平坦地で水はけが悪いのか、笹に替わって苔が地面を覆っている。
 少し進むと「隠し水」の小さな標識があり、右手に踏み跡が続いている。これが深仙の宿に続く巻き道のようだ。あたりには幕営の跡のような裸地も見える。

千丈平の池

 

苔の絨毯に張ったブナの根

 

大日岳への分岐

 

 千丈平からは山頂に向けて最後の登りになる。稜線の雲の中に入ってしまったようで、周りのトウヒの森は霧に煙って幻想的だ。
 山頂手前に深仙の宿を経て大日岳に向かう分岐があり、ここで大峰奥駆道のルートに乗ったことになる。
 分岐を過ぎるとしだいに岩場の道になり、傾斜が緩くなると釈迦ヶ岳山頂だった。

 

 山頂には石積みの上に有名な青銅製の釈迦如来像が立っている。伝説の強力が一人で担ぎ上げたと言われるものだが、光背まで含めれば3mくらいありそうで、こんなものが人の力で担げるとはとても信じられない。台座くらいは別になっているのだろうか?
 釈迦の立つ蓮華には弥勒菩薩や役行者などの浮き彫りが施されており、台座の一番下は何匹かの象が支えていた。なかなか凝った造りになっている。

 山頂は時々青空がみえるものの、雲がかかったままで、強い風にあおられた雲が頭上を踊るように流れていく。たまに雲が切れると、北の八経ヶ岳や南へ続く奥駆道の稜線がチラリと見える。
 風下の西側方が雲の切れ間が多く、登ってきた尾根や旭ダムの貯水池が時々見える。

 

釈迦如来像

 

 ゼリーを食べながら30分ほど山頂にいたが、雲が取れそうにないので下山することにする。展望が利かないのなら行くまでもないか、と大日岳はパス。来た道をそのまま下っていく。
 千丈平を過ぎたあたりでやっと下から登山者が登ってきた。ああ、林道は塞がってない、とちょっと安心。結局、駐車場までにすれ違ったのは4組5人だけだった。

 

千丈平のトリカブト

倒木

 

 古田の森の登り返しでふと振り返ると釈迦ヶ岳の山頂が見えている。稜線の雲が取れていた。気温が上昇して雲の底が上がったのだろうか。山頂からの展望は残念だったが、まあ、山容が眺められただけでも良かったことにしよう。

釈迦ヶ岳(左)と大日岳(右)

 

枯れ木

マムシグサの実

 

 古田の森でパンを食べてノンビリし。あとは下るだけ。風も少し収まってきてだんだん暑くなり、ウインドブレーカーを脱ぎ、フリースを脱ぎ、山シャツも脱いでTシャツとベストだけになって駐車場に降り立つ。
 ガイドブックのコースタイム以上に時間がかかったが、大日岳をパスしたたので予定よりもかなり早く下りて来られた。温泉で汗を流し、柿の葉すしを買って帰ることにしよう。

峠の登山口駐車場とトイレ

 

 

 釈迦ヶ岳 Route Map


[山行日] 2022/9/16(金)       2022年9月の天気図(気象庁)
[天気] 曇りのち晴れ時々ガス
[アプローチ] 15日 京奈和道  五條IC (R168号)→  十津川村、旭 (林道)→ 峠の登山口駐車場 [約61km]

 *旭からの林道は奥吉野発電所を過ぎると幅員が狭くなり、崖沿いの道になり落石注意。登山口に近くなると再び広くなる。全線舗装。
 *登山口の駐車場は10数台くらい駐車可能。水洗ではないが新しいトイレあり。天水の手洗いのみで水場なし。

 
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
2:15 5:55 登山口 出発(1300m)    
6:20 1434mピーク    
6:40 旧道分岐    
7:20 古田の森(1618m)    
7:45 千丈平    
8:10 釈迦ヶ岳山頂(1799.9m) 0:35 12℃
0:45 8:45  
9:30 古田の森 0:10  
1:05 9:40  
10:10 旧道分岐    
10:45 登山口 着   全行動時間
4:05     0:45 4:50
登り 2:15      
下り 1:50      

 

 

[温泉]
 天川薬湯センター「みずはの湯」(吉野郡天川村山西298-3)
  ・おんせんではないらしい。
  ・木曜定休、入浴料700円。(ボイラー故障で露天風呂に入れない
   ということで500円にまけてもらう。)
  ・石けん、シャンプーあり、露天風呂あり。
  ・休憩室あり。レストランなし。
[ヤマスタスタンプ]