三瓶山(さんべさん) 男三瓶山                            [中国] 1126m 

 

 大阪あたりからポツリポツリ降り出した雨は、岡山県に入るあたりから本降りになってきた。
 三瓶山の行きがけに、比婆山のそばの吾妻山にでも寄ろうかと思っていたが、雨の中を歩く気はしない。予定を変更して、帰路に寄るつもりだった足立美術館を先に訪れ、庭園と日本画 でちょっと高尚な気分になってから三瓶山麓に向かう。
 三瓶山の西の原の駐車場に着いたのは午後7時。既に三瓶山は闇に沈んでいるし、他に車はない。雨は小降りになったが、風が出てきて駐車場の周りの木々がざわめいている 。車中泊なので風は問題はないが、明るい街灯が点いていて、かえって落ち着かない。
 ウイスキーの水割りを飲みながら明日の行程を地図で確認し、シュラフに潜り込む。

 5時10分起床。既に外は明るい。ちょっと寝過ごした。カップヌードルを食べて6時20分出発。昨夜吹いていた風はほとんど収まっている。

 県道を横断し、向かいの牧野の中の踏み分け道を、男三瓶と子三瓶の間を目指して歩きはじめる。
 麓に近づくと牧柵の中に牛が放牧されていた。なぜか一頭だけ柵の外に出ている。かなり大きな牛で、草を食みながら興味深そうにこちらを見ている。 こちらとしてはあまり関わり合いにはなりたくないので、目を合わせないように通り過ぎる。

三瓶山に向かって出発
 

 牧草地から樹林地に入るとすぐに分岐がある。まず左へ北の原に向かう中国自然歩道を分け、すぐ先で今度は右へ室の内 (むろのうち)への道を分ける。男三瓶へはこれを左に曲がりカラマツ林の中を登る。

 登山道にはカラマツの折れた枝が落ちていて、それが幾つも現れる。昨夜の風はかなり強かったようだ。

男三瓶山登山口
 

 

西の原を見下ろす 子三瓶山(右)と孫三瓶山(左)
 

 山腹をジグザグを切 って高度を上げると、樹林が切れて西の原が見下ろせるようになる。牧草地の向うの駐車場に止めた自分の車が見える。駐車場の背後には浮布池(うきぬののいけ)が見え、その池の水を使 っているのか、高原なのに意外にも水田が広がっている。
 登山道が男三瓶の山頂から西に延びた尾根をたどるようになると、右手の子三瓶山が谷を隔てて大きく見えるようになる。
 

山頂間近
 
男三瓶山山頂

 男三瓶の山頂は起伏のある平原のような感じで、強いて言えば鈴鹿の藤原岳や御池岳に似ている。最高地点に一等三角点があり、その先に立派な展望デッキが北を向いている。残念ながらすぐそばにあるはずの海岸線も霞んでいて、日本海の大展望とはいかない。 出雲大社近くの稲佐の浜もかすかに見えるだけだが、その先の島根半島は意外な高さで霞の中に淡いシルエットとなって浮かびあがっている。
 出雲風土記の国引き神話ではこの三瓶山を杭とし、稲佐の浜を綱として海の向こうの新羅から島根半島を引き寄せたことになっているが、確かに、この三瓶の頂に立てば、そのようなイメージが湧かないでもない。
 

室の内を見下ろす 山頂避難小屋


 
山頂の南の端にもやや小さめの展望デッキがあり、こちらからは左手の女三瓶、右手の孫三瓶、子三瓶に囲まれた室の内を見下ろすことができる。

 三瓶山は男三瓶、女三瓶、子三瓶などお椀を伏せたような形をした山が環状に並んでいる独特な山容をしている。こんな山は日本中探しても他にはないと思う。はるばる600kmも車を 転がしてでも来たくなる三瓶山の一番の魅力は、この山の形にあるのだ。
 一つ一つの丸っこい山は地質学上では溶岩円頂丘(昔、鐘状火山、トロイデ火山という名前で習ったものと同じらしい。)と呼ばれるもので、雲仙普賢岳の噴火で有名になった「溶岩ドーム」とでき方は同じようだ。どうして環状に並んで溶岩ドームができたのかは良く分からないが、その山々に囲まれた中央部の窪地で、噴火活動の最終段階に起きた爆発的な噴火により出来たのが眼下の室の内ということらしい。
 三瓶山の成り立ちは、 「おおだwebミュージアム」の「さんべ学テキスト」に詳しい。

 

 男三瓶山からは避難小屋の脇を通り、稜線伝いに女三瓶山に向かう。
 左手の北の原側の山腹はパステルグリーンの明るい樹林が広がっている。ブナを主体とした自然林は国の天然記念物に指定されている。

 目の前の女三瓶山の山頂には沢山のアンテナが立っている。地図からは車道が通じているようには見えないのだが、どうやって建てたのだろうか。

稜線からの女三瓶山
 


 女三瓶山からは東の原が見下ろせる。こちらの斜面はスキー場になっていて、観光リフトが架かっている。リフトが動いていれば、こちらから登るの が一番楽そうだ。
 女三瓶山の標高は953m。どうも向かいの子三瓶山の方が高いように思える。地図を見てみると、子三瓶山の標高は961m。わずかだが子三瓶の方が高い。なんと母親より子供の方がでかいのだ。

 風はそこそこあるのだが、やはり霞は取れず、大山方向も霞んだまま。かろうじて行きがけに寄るはずだった吾妻山、大万木山が紫に霞んで見える。

 

女三瓶山からの男三瓶山 女三瓶からの室の内
 

 女三瓶からなおも稜線を下り、鞍部からいよいよ室の内へ降りる。
 室の内は三瓶山の最後の噴火口の跡ということで、中に降りれば周りはぐるりと山に囲まれた別天地。直径約1.3qの鍋の底だ。これも、なかなか他では体験できない空間ではなかろうか。

 室の内の、男三瓶から一番遠いところに雨水がたまった池があり、室の内池(室内池)と名付けられている。

室の内池と孫三瓶山
 


 池のほとりに立つ解説板によれば池の面積は1.15ha。水深は1.4m。pH5.2の弱酸性だそうだ。
 池の中にはアカガエルとおもわれるオタマジャクシがうようよ。かつて放流されたというコイの姿も見える。よくこんな環境で生きていられると思うのだが、餌が少ないため頭でっかちのコイになってしまっている。

 池のほとりのベンチに腰掛け、水面と向う岸の新緑の斜面を眺めていると、何とも言えず落ち着いた気分になるのだが、男三瓶山の方からチェーンソーのエンジン音が響いてきて、静寂が破られる。池の近くにもビニール掛けした切り株や丸太があって、どうやらナラ枯れ防止作業をしているようだ。全国的にミズナラやコナラが枯れる現象が広がっているが、カシノナガキクイムシという昆虫が媒介する 病原菌によるもので、キクイムシが幹から出る前にビニールで覆って飛散しないようにしているのだ。愛知県でも被害がかなり出ているが、なかなか対策が追い付かない。ここの森は天然記念物なので、力をいれて防除しなければならないのだろう。

 

 

 

室の内池と女三瓶山
 
ナラ枯れの木を切り倒し、茶色のビニールで覆っている


 
室の内池からは男三瓶山と赤雁山の鞍部を目指す。
 途中にクヌギ林が広がっているところがあったが、クヌギはまだ葉っぱがでてなくて、ここだけ冬の装いだ。クヌギは新芽が出るのが遅いのだろうか。
 女三瓶の山頂から室の内を見下ろしたとき、周りの新緑と対照的に茶色い部分が目についたが、このクヌギ林だったのだ。

 

 

クヌギ林
 
ツボスミレ?

  鞍部を越えると、後は杉の植林がされた沢筋を下って、朝通った分岐に戻るだけ。

 西の原に帰り着くと放牧の牛たちはいなくなっていた。暑いから木陰で涼んでいるのだろう。
 こっちも三瓶温泉で汗を流して、帰ることにしよう。

西の原から振り返る男三瓶山(左)、子三瓶山(右)
 

 

アイコンをクリックするとマップがでます。


[山行日] 2014/5/13(火)
[天気] 快晴
[アプローチ] 山陰道・安来IC (8km)→ 足立美術館 →(89km/県道45号、国道54号、県道40号)→ 三瓶山山麓・西の原駐車場     [約97km]
      
・トイレ有(水洗、ペーパー有)。街灯が終夜点灯している。
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
2:00 6:20 西の原駐車場 出発    
6:40 分岐    
8:20 男三瓶山山頂(1125.8m) 0:30  
0:40 8:50  
9:30 女三瓶山山頂(953m) 0:40  
0:15 10:10  
10:25 鞍部 0:05  
0:20 10:30  
10:50 室の内池 0:10  
0:35 11:00  
11:35 西の鞍部 0:05  
  0:45 11:40  
12:10 分岐    
12:25 西の原駐車場 到着   全行動時間
4:35     1:30 6:05
登り 2:00        
下り 2:35        
[地図] 三瓶山東部、三瓶山西部 (1/25000)
[ガイドブック] 日本二百名山 登山ガイド  下  (山と渓谷社)

 

[温泉] 三瓶温泉・鶴の湯

・三瓶温泉の共同浴場。駐車場数台。
・入浴料300円。
・石鹸、シャンプー、ドライヤーなし。休憩室あり。
・赤土のような湯でタオルが染まる。
[風景印] 志学局
 (島根県大田市三瓶町志学口358-2)

・図案
  西の原からの三瓶山。キャンプ場とウシと温泉マーク。