大室山(おおむろやま)                              [富士山周辺] 1468

 

 富士山の山頂から北北西方向と南南東方向には寄生火山、側火口が並んでいる。その最大のものは宝永山だが、おそらく次に大きいのは大室山だと思う。
 富士山という大岩にくっついたフジツボのような、または青木ヶ原樹海に浮かぶ小島のようなこの山が以前から気になっていた。

富士クラッシックホテル附近からの大室山
(帰りに撮影)

  道の駅「朝霧高原」で車中泊し、陽が登ってから県道71号を通って、登山口に向かう。精進湖から吉田口五合目に登る精進口登山道と県道が交差するところが登山口になるのだが、駐車場らしきものが見当たらず、一度通り過ぎてしまい、引き返した。
 登山口には精進口登山道を示す腕木の標識があるだけで、案内板や舗装された駐車場はなかった。わずかなスペースに駐車するが、他に車はない。ネット情報では富士風穴などのケービングツアーなどもここから入る らしいので、もっと込み合うのかと思っていたが、今日は貸し切りらしい。

登山口 (すぐ先にゲートがある)

 

 歩き始めるとすぐに車止めがあるが、ゲートの脇を抜けて精進口登山道を進む。登山道は2m幅くらいの広い道で、砕石が敷かれたような感じで歩きやすい。登山道は平坦だが、周りは溶岩流の起伏があり、苔に覆われた溶岩の上にツガ 、バラモミ、ヒノキなどの針葉樹がびっしりと密に生えている。
 ここの溶岩は平安初期の貞観年間に富士山腹の割れ目から流れ出したものなので、その上に成立した青木ヶ原樹海はもっと太い樹が林立しているのかと思っていたが、細めの木の方が多い。溶岩で根が張れないので、大きくなると風で倒れてしまうのかもしれない。

 

精進口登山道

 

登山道の周りの樹海の森

 

 10分ほど行くと道の脇に立派な石柱が立っていて「富士風穴」とある。踏み跡を少したどると左側に巨大な穴が落ち込んでいる。穴の側壁に 、これまた大きな割れ目が口を開けており、これが富士風穴のようだ。
 側壁に陥没穴の底まで階段状の道が作ってあるので降りてみると、周りを溶岩に囲まれ、その上になおも樹が壁のように立ち並んでいて、深い井戸の底に落ちたようだ。自分の耳鳴りしか聞こえるものはなく、静かで落ち着いた、そして怖い感じもする。
 許可なく風穴内に入ることはできないし、閉所恐怖症なのでそんな気はさらさらなく、ここまでで風穴体験はおしまい。

 

富士風穴 風穴の反対側の壁

 

 登山道に戻ってなおも進むと、何やら甘い匂いがする。カラメルのような匂いと言えば桂の落ち葉が知られているが、足元にはタカノツメの黄葉した葉が落ちていた。そう、タカノツメも匂うのだ。針葉樹に混じってわずかに落葉樹も生えていて、粋な演出をしてくれる。

 

富士風穴近くの 波打つ溶岩

 

タカノツメの落ち葉

 
 また10分ほど歩くと分かれ道で、左に精進口登山道を見送り、ゲートを越えると通称「ブナ広場」と呼ばれる大室山の北麓の開けた空間に出る。疎林の中に「やまなしの森林100選 大室山のブナ林」の看板が立っている。
 大室山は貞観の噴火よりも古い時代に活動した側火山なので、長い年月をかけて岩の上に土壌が出来てブナ林が成立するまでになり、貞観の溶岩流にも飲み込まれず、針葉樹の樹海の中にブナの森が島のように残っている。しかし、この広場のあたりはブナの純林という訳ではなく、モミやミズナラの巨木も混じっている。
 広場に足を踏み入れたら、ピーッという鳴き声と共にシカが三頭、白いお尻を見せながら斜面を駆けてあがって行った。

板根状になったミズナラの巨木の根元 苔むした倒木

 

 ここからははっきりした道はなく、下草のほとんどない山腹のどこを登っていってもいいのだが、取りあえず雨水がつくった溝に沿って登り、大室山と隣の小山との間の鞍部を目指す。
 溝の脇は崩れかけていて滑りそうなので、ブナの森の中を樹を避けながらを歩くのだが、斜面は一面ブナの落ち葉に覆われ、枯れ枝もやたら落ちているのでこちらも歩きにくい。

鞍部あたり

 

 鞍部に近づいてきたら方向を変え、山頂から北東に延びてきた尾根に取り付く。といっても、山腹と変わらないくらい広い尾根なので、どこでも歩ける。
 所々テープがついているがテープがまばらで、それをたどることはできない。踏み跡があるのかもしれないが、ここも一面ブナの落ち葉に覆われていて、とにかく高みに向かって登るしかない。直登ではしんどいので、ジグザグを切りながら、ブナを避けながら登っていく。
 見上げるとブナの梢の先は真っ青な空だ。

北斜面のブナ林

 

 だんだん尾根が狭くなってくると傾斜が緩くなり、踏み跡も集約されてはっきりしてくる。林床に笹が現れ始めてきて、その中の踏み跡をたどると大室山の山頂だった。樹林の中の山頂で、ブナの木に掛けられた山名板の横に ぶら下がった寒暖計は4.5℃を指していた。
 ここが大室山の最高点なのだが展望はないので、南にある三角点に向かう。

 先ほどよりも踏み跡ははっきりしているが、倒木に塞がれているところもあり、稜線(火口壁)からあまり外れないように注意しながら進む。 

大室山山頂

 

 周りが気持ちのいい疎林に変わったあたりで、左に薄い踏み跡をたどると笹薮の中に三角点があった。なおも藪を進むと前方が草原になりドンと富士山が現れる。遮るものは何もなく、ただ視界は富士山で占められる。鹿に食べ残されたのかやたらノイバラが多く、棘をよけながら座れる場所を探して落ち着く。

 富士山頂までは直線距離で約10km。宝永山は別にして、今までで一番近い位置から眺めていると思うのだが、何となく富士山が遠くに感じられるのはなぜだろう。逆光気味で山体がアンダーになっているからか、それとも裾野に踏み込んでしまっているために裾野の広がりが視野からはみ出してしまっているためなのか。
 富士との間に片蓋山など他の寄生火山がポコポコ出っ張っているので、視線がスムーズに流れないからかもしれない。

 南斜面は日陰がなくて暑いくらいで、ちょっとカップラーメンを食べる気にならず、サンドイッチだけつまむ。

大室山三角点

 

富士の手前は寄生火山の片蓋山
 
山頂アップ

 

裾野越しに杓子山、御正体山

 

ノイバラの実

 

 下りは大室山の火口に降りてみようと思い、三角点に戻って火口側を覗いていたら山麓からダーンと銃声が響いた。遠くに感じられたがちょっと躊躇する。すると、もう一発もっと近いところから銃声が聞こえた。おいおい、禁猟区ではないのか?藪をゴソゴソ分けていて鹿と間違われて撃たれるのは嫌なので、諦めて登って来た道 を降りることにする。

 鞍部付近まで下ってきてふと思いつき、このままではあまりにも早く登山口に戻ってしまうので、風穴巡りをしながら、北側の山裾をぐるりと回ることにした。

火口側を覗く

 

 鞍部近くの神座(しんざ)風穴に向かって地図上では破線が延びているが、標識は何もなく、分岐がよく分からない。スマホのGPSで目安を付けて森に分け入ると、道らしきものが現れた。少し辿ると富士風穴と同じような石柱が立っていて、古びた解説板もあった。富士風穴よりもかなり規模は小さいが、この辺りにはこの様な穴がいくつもあるらしい。

 なおも進むと県の造林事業の標識が立っていたので、どうもこの道はその頃の作業道のようだ。ただ、年月が経っているので、倒木は多いし、藪に埋もれかけているところもあるし、GPSがないと不安で歩けない。 

神座風穴

 

木に塞がれそうな道

 

ブナ広場近くの道

 途中にあったはずの蒲鉾穴は気付かずに通り過ぎてしまい、大室洞穴は木が多くて穴の底が見えず、たいした風穴巡りにはならず、ブナ広場に帰ってきた。
 ブナ広場は朝よりも陽が射して一層輝きを増していた。

 

ブナ広場

 

ブナ広場

毛無山、雨ヶ岳、竜ヶ岳
(県道71号沿いの展望台から)

 

本栖湖越しの白根三山
(同左)

雑木林の上に富士が覗く
(富士クラッシックホテル附近から)

 

富士ヶ嶺交差点附近からの富士

 

大室山ルートマップ


[山行日] 2018/11/15(水)
[天気] 快晴         2018年11月の天気図(気象庁)
[アプローチ]

14日 新東名・新富士IC ( R139号) → 道の駅「朝霧高原」      [約30km]  
      ・トラックが多くてアイドリングの音が少々うるさいが、トイレは暖房便座で快適。

15日 道の駅「朝霧高原」 ( R139号、町道) → 富士ヶ嶺 ( 県道71号) → 精進口登山道入口    [約14km]  
     ・せいぜい4〜5台くらいしか止められない駐車スペース。目立つ看板などはない。

[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:10 8:10 精進口登山道入口 発   2℃
8:20 富士風穴 0:10  
0:30 8:30  
8:40 ブナ広場    
9:00 鞍部 0:10  
0:20 9:10  
9:30 1400m付近 0:05  
0:30 9:35  
9:50 大室山山頂(1468m)   4.5℃
10:05 大室山三角点(1447.3m) 0:40  
1:20 10:45  
11:00 大室山山頂    
11:25 神座風穴    
11:50 大室洞穴    
12:05 ブナ広場 0:05  
0:15 12:10  
12:25 精進口登山道入口 着   全行動時間
3:05     1:10 4:15
 
[地図] 鳴沢 (1/25000)
[ガイドブック] 富士山ハイキング案内/伊藤フミヒロ著 (東京新聞)

 

[博物館]

静岡県富士山世界遺産センター  <富士宮市宮町5-12>
・300円、9:00〜17:00、第三火曜定休。
・富士山の自然、文化を紹介する博物館。平成29年12月開館。
・屋内のスロープを登り、疑似登山を体験しながら展示を鑑賞。
・最上階の展望室は半屋外になっていて、天気が良ければ富士山本宮浅間大社の鳥居の上に富士山が眺められる。