乗鞍岳(のりくらだけ)                               [北アルプス] 3026m

 

 今年の1月に大腸がんの切除手術を受け、それ以来9ヶ月ぶりの山歩き。がんの進行がステージ1ということもあって、手術については軽く考えていたのだが、術後に排便が思うようにならず、またコロナ禍ということもあり、なかなか山に行く気分になれなかった。
 しかし、最近ようやく排便回数が減ってきたので、足慣らしをしようと乗鞍に登ることにした。乗鞍岳はスキーで登ったことはあるが、その時の山頂は一面のガスで展望ゼロ。それ以来無雪期には登ったことがないし、上までバスで行けて病み上がりには持って来いのお手軽コースが取れるし、またコースの途中にトイレが何ヶ所かあることから乗鞍に決めた。

  乗鞍高原観光センターの駐車場で車中泊。夜の間に数十台車が増えた感じで、まだ車が入ってくる。
 食事をしてまずはトイレ。しかし出ない。
 昨日恵那峡SAで昼食に食べたかき揚の油が良くなかったのか、途中のSAに3回も立ち寄ってトイレに行ったので、出尽くしてしまったのか。
 まあ、出なければ出ないでいいし、畳平にもトイレはあるので後ですればいいと、バスの乗車券売り場に向かう。

乗鞍高原観光センター駐車場から

 

 今日は天気がいいのでAダイヤで6:10分が始発のバスになる。飛騨側の降水確率が40%未満だと、約1時間に1本バスが出る本数の多いダイヤになる。
 計画では位ヶ原山荘で下車して山頂を目指すつもりだったが、昨日の様子だと雲が湧くのが早いので、展望のためにまずは畳平まで上がり先に山頂に立ってから位ヶ原に下山する逆コースにすることにした。
 係員の説明で往復乗車券の方が安いということで、購入して列に並ぶ。
 6:10分のバスはほぼ満席で出発。乗客はマスクはしているが、ソーシャルディスタンスはとても取れていない。

バス車窓から(穂高連峰とダケカンバの黄葉)

 

  畳平に着いてまたトイレに行くが、少ししか出ない。残便感が気になるが、まあ何とかなるだろう。肩の小屋にもトイレはあるし。
 紅葉の時期なのでカメラマンたちは車道を戻っていき、ハイカーは窪地の斜面に付けられた登山道をトラバース気味に最高峰の剣ヶ峰を目指す。肩の小屋に続く車道に出て摩利支天岳の尾根を回り込むとやっと剣ヶ峰が見えてくる。手軽に3000m峰に立てる乗鞍岳だが、1時間半は歩かないと山頂には立てない。
 風が冷たくフリースの上からウインドブレーカーを着込む。雲海の上の南アルプスや八ヶ岳連峰がシルエットで美しい。

畳平バスターミナルを振り返る

 

左から剣ヶ峰、蚕玉岳、旭岳 南アルプス、甲斐駒、鳳凰三山、北岳方面

 

エコーラインを登るバス 宇宙線研究所と肩の小屋(帰りに撮影)

 

 しかしながら、肩の小屋から登りに取り掛かる頃から急に飛騨側からガスが流れてきた。見る見るうちに剣ヶ峰は雲の中。いやー、今度も何も見えないのか。とガッカリしながら山頂にたどり着く。
 山頂の乗鞍本宮の小さな祠には何と人が詰めていて、御札や御守りなどを売っている。無事の登頂を感謝してお参りし、未練たらしく周りをウロウロしていたら雨がパラついてきた。ありゃあ、しょうがないなあと雨具を着込む。しかし、逆コースにしたので時間はあるし、ガスも流れているので辛抱強く待っていたら次第に 明るくなってきた。
 始めに北側の大日岳(奥ノ院)や高天ヶ原のピークが見え始め、次第に南側の登って来た畳平の方のガスも切れてきた。北アルプスの穂高連峰や槍ヶ岳の雲はなかなか取れなかったが、30分程で何とか見えてきた。頭上は雲が覆っているが、中央アルプス、御岳なども見え、 360度の展望に満足して山頂小屋まで降りる。

 

剣ヶ峰山頂の乗鞍本宮

権現池

 

畳平方面もガスが切れてきた

 

穂高連峰と左奥に槍ヶ岳

  バッジや飲み物を売る山頂小屋の陰で風を避けながら紅茶を飲んでいると次々とハイカーが登って来る。高齢者が多いが若者のグループや単独行者もかなり混じっている。さすがに登山者層は幅広い。
 緊急事態宣言が2日後には解除されるということもあるのか、思っていた以上に人出は多い。

 さて、ここからは下るだけ。登ってくる人をよけながら、久しぶりの山歩きには似つかわしくない軽やかなステップでザレ道を下って行く。

山頂から位ヶ原山荘俯瞰

 

 肩の小屋を過ぎて下山路に入ると、とたんに人の姿が少なくなる。火山らしい岩の多い道の脇にはあまり植物は多くないが、クロマメノキやミヤマキンバイの葉が赤く色づいている。下るにつれてナナカマドが多くなり、ハイマツの縁を彩っている。 ホシガラスがハイマツの実を求めて飛び回っている。

 

大雪渓・肩の小屋口バス停から摩利支天岳

 

ナナカマドの赤い実

 乗鞍高原に下りていく登山道は何か所かでバス道路のエコーラインと交差するが、「大雪渓・肩の小屋口バス停」まで降りてくると人がたくさん道路を歩いている。マイカー規制がかかっているが歩きはOKなのでカメラマンが紅葉を撮りながら下ってくる。自転車も通行可能なのでこちらは力強く登ってくる。中には電動自転車で登ってくる中年夫婦もいる。
 休憩している人も多く、自分も車道の脇の岩に腰を下ろしパンを食べる。バス停近くにトイレがあり、食事後にトイレに行きたくなることが多いので、ここなら安心と思って昼食にしたが便意はなく、なおも下ることにする。

 位ヶ原は広い斜面だが登山道は谷沿いに付いていて、周りの展望が効かない。山も見にくいので、写真を撮るなら車道を歩いた方が良さそうだ。

 

 再び車道に出る手前の右手斜面に仏像が立っている。「宝徳霊神」という名前のバス停があったのでこの仏像がそうだろうと思う。金銅仏と石仏の二体があり現地では気付かなかったが写真をよく見ると、金銅仏の下に宝徳霊神のプレートがあり、石仏の祠の上には秀綱霊神の文字が彫ってある。
 調べてみると、宝徳霊神の方は乗鞍岳を開山した「大宝院明覚」というお坊さんを神として祀ったものらしい。見るからに新しく、最近再建されたもののようだ。
 秀綱霊神の秀綱とは戦国時代の飛騨の武将、三木秀綱のことのようだが、なぜここに祀られているのかは分からない。

 

宝徳霊神

 

ナナカマドの紅葉と摩利支天岳

 

ナナカマドの実と剣ヶ峰

  一旦車道に出てカーブを一つ回り、再び登山道に入る。また沢地形の中を下る。
 このあたりからダケカンバが多くなり、基調は赤から黄色に変わる。ガスが流れてきて眺望は効かないが、ベールに包まれた白い幹と黄色の葉が幻想的で美しい。
 ガスに見え隠れするダケカンバの黄葉、ナナカマドの紅葉を何枚も撮りながら、ますますひと気の無くなった登山道をゆるゆると下って行く。

位ヶ原山荘へなおも下る

 

ダケカンバの白い幹

 

ヒョウタンボクの実

クロツリバナ?の実

 

位ヶ原山荘近くの黄葉

 再度車道に降り立って少し左手に歩くと位ヶ原山荘に到着。山荘前のベンチ近くでハイカーやカメラマンが休んでいる。アルピコ交通の係員らしき人が車で現れて乗車人数を「今のところ7、8人」と携帯で報告していたが、どんどんハイカーが下りてきて30人ほどになり、位ヶ原山荘前からの乗客は連なって下りてきた バスの二台目に乗った。
 結局、歩行途中でトイレのお世話になることもなく、術後最初の山歩きは無事終わった。でも今回は前日下痢気味だったので次回も同じように歩くことができるかどうか分からず、「これで大丈夫」という自信にはならなかった。

 

乗鞍岳ルートマップ


[山行日] 2021/9/29(水)
[天気] 曇り一時晴れ、山頂小雨             2021年9月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 28日 松本IC →(R158、県道84号)→ 乗鞍高原観光センターP  [約40km]

・駐車スペース200台。水洗トイレあり。車中泊禁止だが、登山バス利用者の仮眠は黙認。

29日 乗鞍高原観光センター 6:10 ―(アルピコ交通/往復3,000円)― 7:06 畳平
 

[コースタイム]  
行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:25 7:25 畳平 発   6℃
8:00 肩の小屋    
8:50 乗鞍岳山頂(3025.7m) 1:10 10℃
0:30 10:00  
10:30 肩の小屋 0:05  
0:20 10:35  
10:55 大雪渓・肩の小屋口バス停 0:25  
0:20 11:20  
11:40 宝徳霊神バス停付近のカーブ 0:10  
0:50 11:50  
12:40 位ヶ原山荘 着   全行動時間
3:25     1:50 5:15
登り 1:25      
下り 2:00      
 
[地図] 乗鞍岳(1/25000)

 

[温泉]

乗鞍高原温泉「ゆけむり館」 <松本市安曇鈴蘭4306-4>
・乗鞍高原観光センターのはす向かいにある日帰り温泉。
・硫黄の匂いのする白濁した湯。
・露天風呂あり。
・入浴料720円。(観光センターでもらえる割引券で630円になる)
・第三または第四火曜日定休。

[風景印] 稲核(いねこき)局
   (長野県松本市安曇2785−8)

・図案  
  乗鞍岳、稲核ダム