西沢渓谷( にしざわけいこく)                              [奥秩父] 1400m

 

 西沢渓谷に来るのは二回目。以前来たのは、学生時代の1976年の6月。もう37年も前のことになる。
 その時は西沢渓谷探勝のために来たのではなく、東沢の遡行が目的だった。笛吹川東沢はナメ滝が美しい沢で、ガイドブックを読むと沢登りの経験があまりなくても遡行できそうだったので、 友人と二人で挑戦することになった。
 昔の山行記録を引っ張り出してみると、夜行列車を塩山で降り、早朝のバスで渓谷手前の新地平まで入った。そこから歩きはじめ二俣で西沢渓谷と分かれて東沢に入ったのだが、増水した流れの渡渉で疲れ果て、雨まで降ってきたので、倒壊寸前だった東沢小屋に 転がり込んで一夜を明かした。東沢小屋はまだ沢のほんの入り口だったが、翌日も沢は増水したままで遡行を断念。尾根を越えて西沢渓谷にエスケープしたのだが、途中から天候が回復し、遡行できなかった無念さが一杯で西沢渓谷の記憶はほとんど何も残っていない。唯一、七ツ釜五段の滝だけが立派な滝として印象に残っている。
 そんな事で、ほとんど初めて訪れるような渓谷に、両神山に行く前に寄ってみようと思った。

 早朝に家を出て中央高速を走り、甲府昭和インターを出て渓谷近くに着いたのは11時過ぎ。道の駅「みとみ」のレストランの豚丼で腹ごしらえをして、渓谷入口に移動。何とウィークデイなのに、駐車場が一杯。 売店が経営する有料駐車場もあるので、そちらに行こうかと思ったら、ちょうど一台帰る車があり、そこに駐車する。
 昨夜から冬型の気圧配置になり、この秋一番の寒波襲来ということで、フリースのジャケットにニット帽をかぶる。防寒具は持ってきたのだが、なぜか手袋を忘れてしまい、軍手をはめて出発。
 

林道を歩きはじめる
 
ミズナラの黄葉


  
駐車場を出るとすぐに道路の下をくぐる。これは雁坂トンネルに続く道。両神山に行くにはこの道をいくことになる。
 その先に車止めがあり、ここからはハイカーのみコースになる。紅葉を期待して来たのだが、もうほとんど落葉しかけている。わずかにミズナラの黄葉が明るく映えている。

 

 林道わきにコンクリート製の小さな橋脚が立っていて、そばに解説板あった。
 それによれば、昭和28年頃から山梨県がこの先で珪石を採掘していて、それを運び出すための軌道の橋脚の跡とのこと。こんなものが残っているのだ。

軌道の橋脚
 

 休業中の西沢山荘の前を過ぎると、道は谷に向かって下っていく。西沢と東沢の合流点に出て、吊橋で東沢を渡る。橋の上から右手を見上げると鶏冠山が鋭い稜線を 突き上げていて、迫力がある。
 橋を渡ったところで踏み跡が東沢に沿って続いていて、これが東沢遡行の入口なんだろうが、全く記憶がない。

鶏冠山
 

よく整備された階段 三重の滝
 


 道はよく整備されていて、遊歩道という感じだ。階段を上った先に最初の滝、三重の滝がある。名前どおり三段に落ちる滝。
 

沢沿いの遊歩道 母胎淵
 


 龍神の滝、貞泉の滝、母胎淵と過ぎ、方丈橋を渡ると遊歩道は山腹に取り付き高度を上げていく。斜面を登り切ったその先が七ツ釜五段の滝だった。かなり高いところから滝を見下ろす感じ。こんな高いところから滝を見たのだろうか、と少し疑問に思った。
 家に帰って昔のガイドブックを見てみたら、かつてはもっと滝壺に近いところに道がついていたようだ。上から見下ろしたときに方丈橋のところから岩壁に道の跡のようなものが見えたので、それが昔のコースだったのだろう。
 

七ツ釜五段の滝 昔のガイドブックの写真
(山渓アルパインガイド「奥秩父・大菩薩連嶺)
 

 七ツ釜五段の滝の横を抜けると、少し先で渓谷沿いの道は終わる。旧不動小屋跡の標識があるが、かつてはここに温泉小屋があったらしい。こんな山奥でよく営業できたものだと感心してしまう。

 つづら折りの道で山腹を上がったところに展望台があり、たくさんの人が休んでいる。トイレもある。


七ツ釜五段の滝の上部
 


 ここからは山腹につけられた森林軌道の跡をたどって、渓谷の入口に戻る。ところどころまだ軌道の細いレールが残っている。
 周りの森からの落ち葉が一面に散り敷いていて、遊歩道を埋めんばかりだ。

軌道のレール
 

落葉した山腹 落ち葉に埋まる遊歩道
 

 途中に大展望台というところがあり、奥秩父の稜線が見渡せる。展望板によれば、残念ながら甲武信ヶ岳は木賊山の陰になって見えないらしい。

 対岸の斜面はほとんど落葉していて、カラマツの黄葉だけが、鮮やかに目を引く。

木賊山
 


 山腹を巻く森林軌道跡の遊歩道を半ばまで来たあたりで、奥秩父の稜線に湧いた黒い雲がみるみるこちらに迫ってきた。急に森がざわめき始め、枯れ葉が雨のように降ってくる。地面の落ち葉が地吹雪のように流れ出し、地面全体が動いているようだ。
 風に乗ってバラバラッと時雨が降り出す。部分的には白っぽく、みぞれが混じっているのかもしれない。やはりこれは紅葉の山ではない。もう一気に冬の気配だ。雨具を着るほどではないが、ジャケットの襟を立て足を速める。周りのハイカーも駆け出さんばかりだ。

再現されたトロッコ
 


 森林軌道跡の遊歩道から林道に戻る頃には、時雨は止んで、また弱いながら陽が射してきた。駐車場まで戻ってきたが、すっかり体が冷えてしまったので、どこかで温泉に入らねば。それにしても、この寒波の中で車中泊は大丈夫だろうか。少々不安になってきた。
 しかし雁坂トンネルを越えた道の駅「大滝温泉」で温まり、小鹿野町のレストランでカツ丼を食べたら元気が出てきた。現金なものだ。まあ、何とかなるでしょう。

両神山に続く

 


[山行日] 2013/11/11(月)
[天気] 曇り時々晴れのち時雨    2013年11月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 甲府昭和IC (R20、 R140号)→ 西沢渓谷入口     [約40km]
      
・無料の市営駐車場に50台程駐車可能。
[コースタイム]
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:35 11:20 西沢渓谷駐車場 出発    
11:45 二俣の吊橋    
11:55 三重の滝    
12:25 母胎淵    
12:40 七ツ釜五段の滝    
12:55 森林軌道遊歩道起点の展望台 0:10  
1:15 13:05  
13:30 大展望台    
14:20 西沢渓谷駐車場 出発   全行動時間
2:50     0:10 3:00
[地図] 山梨市観光協会HPガイドマップ

 

[温泉] 大滝温泉 遊湯館
・R140号、秩父市大滝 「道の駅 大滝温泉」内
・入浴600円。(JAF会員証提示で50円引き。)
・石鹸、シャンプー、リンス、ドライヤーあり。
・地階に露天風呂があり、そちらにも脱衣所、洗い場がある。浴室の窓がないだけの構造で解放感はない。
・温泉隣の食事処「帰路館」では手打ちそばが食べられる。