西穂高岳(にしほたかだけ                        [北アルプス] 2909m

 

 新型コロナウイルスの感染拡大で、今年の山小屋は営業期間を短縮しているところが多い。南アルプスの山小屋は非常事態宣言解除後もほとんど閉鎖になったままである。富士山などは登山道も閉鎖されて、今年は完全に登れなかった。山小屋では基本的にスペースが限られるので、どうしても密は避けられず、対応が難しいのだろう。営業している小屋は完全予約制にして、宿泊者数を減らすなどの対応をしているようだ。
 いろいろ噂は聴くが、コロナ禍の山小屋の実態はどうなのだろうか?感染リスクはあるが、好奇心が抑えられず、紅葉も見られそうな西穂に行ってみることにした。前日電話をしてみると、幸いなことに宿泊の予約ができた。

北アルプス大橋から錫杖岳(左)、笠ヶ岳(中央奥)、抜戸岳(右端)

 鍋平高原の登山者用駐車場に車を止め、ゴンドラが新しくなった新穂高ロープウェイで山上駅に上がる。ロープウエイの係員の話では、今年は酷暑のためか紅葉が遅れていて、しかもあまり綺麗ではないとのこと。中腹のダケカンバの黄葉などはこれからだろうが、千石園地のナナカマドなどは葉が傷んで落ちてしまっているものが多い。
 軽食コーナーで雲海うどんを食べて出発する。

 

ロープウェイ駅展望台から槍ヶ岳(左奥)、西穂高岳 展望台から西穂山荘遠望

 

 千石園地を抜けると観光客の姿がなくなり、山道になる。小さなアップダウンが続き、所々現れる湿地には木道がある。
 毎度のことだが、歩き始めは足が重い。今日はもう右膝が攣りそうになっている。こんなことで大丈夫か?だんだん歳を感じるようになってきた。

 

 周りはコメツガ、シラビソの 森で、黄色く色づいたダケカンバも混じっている。針葉樹林特有の松やにの匂いが漂っていてうれしくなる。この匂いが既にここが高山であることを教えてくれる。
 小鍋谷分岐を過ぎると少しずつ傾斜が急になるが、道は岩が階段のように整えられていて歩きやすい。ウィークデイにもかかわらず多くのハイカーが下山してくる。高齢者が多いが、若者のグループや外国人の家族なども混じっている。

ガマズミの実

 

ツルリンドウ シラビソ林

 


 
1時間20分で西穂山荘に到着。足は重かったが、コースタイムより少し早かった。

 受付を済ませて、丸山まで歩いてみる。大岩がゴロゴロした道だ。まだ下山してくる人も多い。
 ガスが出てしまい、展望が効かなかったが、一瞬ガスが切れて広いハイマツの斜面の上に西穂の岩峰を望むことができた。

シラタマノキの実

 

丸山付近から西穂(左から2峰目)、独標(右端)

ダケカンバの黄葉

 

 さて、小屋の様子である。
 受付であらかじめ小屋のHPからダウンロードして用意しておいた、連絡先と体調チェックの用紙を提出し、宿泊手続き。受付にはビニールシートが下がっている。
 小屋内ではマスク着用。予約の際にマスク、消毒液、体温計の持参を求められたが受付時に検温はなかった。あちこちに消毒液のボトルが置いてあって、持参した小型スプレーの消毒液を使うことは無かった。
 部屋は相部屋だが布団がひとつ分間を空けて敷かれていて、定員の半分になり、ゆとりがある。小屋によってはインナーシーツやシュラフカバーの持参を求めるところもあるようだが、ここでは布団用と枕用の不織布が提供されていて、気になる人はそれを敷くようになっていた。どのくらい感染防止に効果があるかは分からないが。
 驚いたのは食堂で、各席にアクリルパネルが立っていて、飛沫防止になっていた。御飯や汁物のお代わりは自分でよそうことができず、空になった器をカウンターに置くと、スタッフが別の器に入れて出してくれる。パネルがあるので何となく話しづらく、皆もくもくと食べている。数えてみると宿泊者は45人くらいのようだ。
 別館の喫茶室兼談話室が7時で閉鎖されてしまい、9時の消灯までやることがない。持っていったウィスキーをロビーのストーブのそばで立ったまま飲んだ。図書コーナーは閉鎖されていないので、漫画は読める。
 山小屋での楽しみは見知らぬ人との山の話題のおしゃべりだが、部屋で小声で話す程度で、これは少々寂しい。

夜明け前の雲海(蒲田谷)

 

朝焼け

 翌日は7時前に出発。空は高曇り。谷間は一面の雲海である。目の前の霞沢岳が白い雲の上に島のように浮かんでいる。

 丸山までは昨日たどった道。そこからは広い斜面をジグザグに登っていく。ザレた感じで歩きにくいが、だんだん岩場になって、かえって歩きやすくなってくる。
 斜面を登り切り、緩い尾根を少したどって、短い岩場を登るとそこが独標。

西穂山荘を見下ろす(背後は乗鞍岳、焼岳)

 

 独標に登ると眼前に西穂への稜線が現れる。なかなか険しい岩稜だ。後から分かったが目の前の綺麗な三角がピラミッドピークで、その奥が西穂の山頂だった。 その奥にはジャンダルム、その右にちょっと飛び出しているのが奥穂の山頂だ。吊り尾根に吊られた前穂は美しいが、槍は見えない。

 眼下には雲海が広がり、八ヶ岳連峰、南アルプス、中央アルプスが浮かび、甲斐駒の左肩には富士が覗いている。中アと乗鞍の間に浮かんでいるのは恵那山のようだ。笠ヶ岳の向うには白山も見える。 高層雲が広がっているが、遠望はきく。

独標を見上げる

 

甲斐駒の肩に富士が覗く

 

独標からピラミッドピーク
(帰りに撮影)

霞沢岳と独標

 

焼岳

 ここからはヘルメットを被る。風が冷たいのでクラバクラも被り、雨具のジャケットをウインドブレーカー替わりに着る。

 独標からは本当の岩稜歩きになり、一段と注意が必要。久しぶりで何だがふらつく。バランス感覚がイマイチだ。体幹も弱くなっているのだろうか。
 しかし、危険を感じるのは独標から岩峰をふたつ越えるくらいまでで、ピラミッドピークから先はさほど危険なところはない。マーキングもしっかりしているし、鎖も付いている。

笠ヶ岳

 

 だんだん雲が取れてきて陽が射すようになってきた。風は相変わらず冷たいが、陽射しがあると暑くなってジャケットとクラバクラを脱ぐ。
 陽が射してくると山に陰影が出来てひときわ美しい。隣の笠ヶ岳の山腹の縞模様が良く見える。

 小さな岩峰を幾つも越えて、最後の鎖のない、ホールドの少ない岩場を登りきると西穂山頂に到着。

稜線を振り返る

 

 西穂山頂からはジャンダルムへ続く稜線が真正面に眺められる。険しい岩稜でどこがルートなのか分からない、近くにいた人が基本的に稜線を辿るしかないと教えてくれるが、とても歩けるようには思えない。豆粒くらいの大きさで岩に取り付いている人影が見えるが、そこは道のようには見えない。ちょっと自分の力量では無理だろうな。

 ジャンダルムの左手には独標からは見えなかった槍ヶ岳が良く見える。その手前は涸沢岳だろう。槍のさらに左手には遠く立山の台形のシルエットが見える。
 ジャンダルムの右手は前穂。どこから見てもこの吊り尾根に繋がれた奥穂と前穂の姿は美しいが、ここからの前穂はどっしりと力強さがあって堂々としている。槍ヶ岳側からも美しいが、もう少し細身で鋭さが際立つ。

 いつの間にか雲海は消えて、足元には上高地の谷間が見渡せる。河童橋も見える。上空はだんだんと青空が広がってきて明るくなってきた。素晴らしい展望で何とも気持ちがいい。カップヌードルを食べながら1時間近くゆっくりしてしまった。

ジャンダルムへの縦走路

 

西穂山頂から遠く槍ヶ岳

 

西穂山頂から奥穂、前穂の吊り尾根

左から水晶岳、龍王岳、立山、野口五郎岳

西穂山頂から独標を見下ろす

 

 登山者が次々に上がってきて山頂が込み合ってきたので、下山にかかる。登りはバランスが取れずふらふらしていたが、慣れてきたのか岩場の下りも脚運びにまったく不安はない。
 登りではシルエットだった霞沢岳が良く見える。標高は低いが、根張りのしっかりした堂々とした山だ。
 徳本峠からかなり時間がかかるが二百名山でもあり、数年のうちには何とか登りたい。
 

 ピラミッドピークまで戻ってきたら岳沢を隔てた前穂、明神岳の岩壁が素晴らしい。重太郎新道がとても急な尾根に付けられているのがよく分かる。

霞沢岳

 

ピラミッドピークにて

 

ピラミッドピークから前穂、明神

 

独標から西穂を振り返る

 

丸山付近からの前穂とダケカンバの黄葉

 

 戻ってきた独標でも景色を眺めながらのんびりしていたが、だんだんガスが稜線に掛かるようになってきた。登山者というよりもハイカーという感じの人々がどんどん登ってきて、今回の山行で一番の密を感じるようになってきたので下山にかかる。
 丸山で山腹のダケカンバの黄葉を愛でた後、西穂山荘で名物のラーメンを食べようかと思っていたが、ここも賑わっているので休まずにロープウェイ駅まで下る。昨日にも増して観光客が多く、ゴンドラはずいぶん混んでいたが、あたりはすっかりガスに包まれてしまって、展望は全くきかなかった。
 (南海上の台風14号の影響で、翌日から3日間雨が続いた。)

 

西穂高岳ルートマップ


[山行日] 2020/10/6(火)〜7(水)
[天気] 6日 晴れのちガス           2020年10月の天気図(気象庁)
7日 高曇り
[アプローチ] 中部縦貫道 高山I.C. →(R158、R471、県道475)→ 鍋平高原登山者用駐車場  [約48km]

・駐車料金1日300円。徴収者がおらず、ロープウエイ駅の券売機で駐車券を買う。
・しらかば平駅まで徒歩10分。

しらかば平駅(新穂高第2ロープウェイ/7分)→ 西穂高口駅 
 

[コースタイム] 6日
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:20 12:40 西穂高口駅   7℃
13:10 小鍋谷分岐    
14:00 西穂山荘(2367m)   全行動時間
1:20     0:00 1:20
      <丸山まで散歩>    

7日
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:15 6:45 西穂山荘 発   3℃
7:05 丸山 (2452m)    
8:00 西穂独標 (2701m) 0:10 8℃
1:20 8:10  
9:30 西穂高岳山頂 (2908.8m) 0:50 17℃
1:10 10:20  
11:30 西穂独標 0:10  
0:35 11:40  
12:15 丸山 0:30  
1:05 12:45  
12:55 西穂山荘    
13:50 西穂高口駅   全行動時間
5:25     1:40 7:05
登り 2:35        
下り 2:50        

 

[地図] 笠ヶ岳、穂高岳(1/25000)

 

[小屋]

西穂山荘  
・1泊2食、10,500円。
・食事は普通。トイレが少ない。
・水、お湯、お茶は無料でもらえる。
・旧館に喫茶室。
・チェックアウト8時半。空身で出かけるときには外の荷物棚を利用する。

[温泉]

神宝乃湯
・ロープウェイしらかば平駅近くの新穂高ビジターセンター内にある日帰り温泉。
・入浴料600円。(西穂山荘で100円の割引券がもらえる。)
・露天風呂のみで、せっけん、シャンプーは使えない。
・周りの景色は見えないが、落葉樹に囲まれていて雰囲気はいい。
・営業時間9:00〜15:00(受付15:00まで)なので注意。