金北山( きんぽくさん)                         [新潟・佐渡] 1172m

 

 二日酔いの頭に朝の到来を知らせたのは雨音だった。やっぱり雨かア。ぼやけた頭は現実から逃避したがるが、 天候は人智の及ばざるところであり、天の配剤は受け入れざるを得ない。

 もともと出発前から天候の悪いのは分かっていて、車二台の8人で来る予定だったのが、「天気がいい時期に延期した方がいい。」という者が多く、結局参加者は4人に半減してしまった。 しかも、今回の佐渡山行を企画してくれた Mo さんも中止を考えていたのだけれど、花の季節に行きたいワタクシメの我儘を受け入れてくれて、何とか車一台分の参加者を集めた、というのが実情のようだった。
 しかしながら、昨日の朝は予想外に天気が良く、新潟からのフェリーの中で薄日の射す空を見上げながら、予定を変更してすぐに山に登るか、予定通り2日目にするかずいぶん迷ったのだ。その時点では降雨確率は高いものの、今日も曇りの予報だったので、「寝不足で登るよりは明日登る方がいいだろう。」と判断して今日の山行を決めたのだ。だから、この結果はすべて自分の判断であり、雨を恨むなんてことは、とてもできた話ではないのだ。

 国中平野から見上げる金北山

 雨の様子を見ながら30分遅れで出発。民宿の車で登山口まで送ってもらう。

 アオネバ登山口からすぐに渓谷沿いの山道になる。いきなり、見たことがないランのお出迎え。エビネかと思ったが、後から調べたらコケイランというらしい。その後はズダヤクシュ、ニリンソウ、オオイワカガミなど花のオンパレード。
 ヒトリシズカによく似た花がたくさんあるが、やけに葉っぱが大きい。何かなと思って歩いていたが、標高が上がるにつれて葉っぱの小さな見慣れたヒトリシズカにな った。下の方は充分育った個体だったのだ。

アオネバ渓谷
 

コケイラン コンロンソウ
 

オオイワカガミ ズダヤクシュ
 

 林の中なので雨はあまり気にならず、 雨具のズボンだけ履き、傘をさして歩く。カメラが濡れる方が気になるが、これだけ花が多いと、撮るのを我慢することはとてもできない。カメラを首にかけたままビニール袋をかぶせ、何度も出し入れしながら写真を撮る。

 最近は日帰り山行が多く、降りそうな天気だと出かけないので雨の中を歩くのは久しぶりだ。雨に濡れてうつむいた花が多いけれど、葉っぱは艶やかで瑞々しい。周りのミズナラ林も新緑が染みるようだ。

ミズナラ林
 

ノビネチドリ ヒトリシズカ
 

ニリンソウ
 
シラネアオイ

 計画ではアオネバ十字路からドンデン高原を往復する予定だったが、天気が悪いし、出発を遅らせたのでパスしてマトネへ向かう。ここからは稜線歩きになるが、相変わらず樹林の中。林床にはニリンソウ、チゴユリ、エゾエンゴサク 、フッキソウなどが咲き、ルイヨウボタンやサンカヨウも現れる。 シラネアオイも多い。
 カタクリはもう花が終わっていて、緑色の実が付いている。最初、のっぺりした葉っぱに見覚えがなくカタクリだと分からなかったのだが、 宿に戻ってから見た地元の本には、
佐渡のカタクリは他と違って葉っぱに斑が入ってないのが特徴だ、とあった。

ルイヨウボタン
 

フッキソウ サンカヨウ
 

 マトネの山頂に着くと、急に空が晴れだした。雲の切れ間から加茂湖が覗き、外海府側の日本海も見える。稜線の先には金北山があるはずだが、いくつもピークが連なっていて、どれだか分からない。きっと一番先の雲の中なのだろう。谷を見下ろすと濃い緑の襞が幾重にも重なって、島とは思えない山の深さを感じる。

 せっかく晴れたのでゆっくりしたいところだが、中高年の団体さんに追いつかれてしまったので、先に進む。

マトネ山頂から
 

松倉山方面 オオバクロモジ
 

林と草原が交互に現れる スミレ
 

サドキジムシロ ニシキゴロモ
 

 稜線は小さなアップダウンが続き、所々林が切れて草原が現れる。ドンデン高原の方は牛の放牧が行われているそうだが、このあたりの草原も牛が食べ残したと思われるレンゲツツジが多いので、牛がやって来るのかもしれない。レンゲツツジには季節が早いようで、まだつぼみばかりだ。草原 はまだ冬枯れのままだが、よく見ると枯れ草の中にスミレ、キジムシロ、ニシキゴロモなどが咲いている。草原と林の境目にはウラジロヨウラクが目につくが、これもまだ 、ほとんどがつぼみだ。

オオミスミソウ キクザキイチリンソウ
 

 「こんど佐渡へ山登りに行くんだ。」と言うと、たいがいの人から「佐渡に山なんかあるの?」と言われる。でも、花好きには佐渡の金北山は花の名山として知られている。田中澄江の新・花の百名山にも選ばれている。この季節の佐渡にこだわった ワタクシメの一番の目的はオオミスミソウを見ることだった。オオミスミソウはユキワリソウ に似ているが全体に大きく 、花色が変化に富んでいる。本来はゴールデンウィーク頃がいいらしいのだが、今年は雪が多かったので春が遅く、民宿の主人はまだ咲いているだろう、と言っていた。その言葉をたよりにずっと下を向いて歩いていたのだが、それらしいものは全然見つからず、時々 登山道から外れて雪渓の周りなども探してみるのだが、あるのはカタクリばかり。たまにピンク色の花を見つけて、ハッとするのだが、咲き残ったショウジョウバカマだったりする。
 いいかげん諦めかけていたら、後ろを歩いていた Mo さんが「あったぞ!」と叫ぶ。引き返して見ると、林床のカタクリに隠れるようにピンク色のオオミスミソウが咲いていた。思っていたよりもずっと小さい。ユキワリソウより大きいということでもっと大きな花をイメージしていたのだが、そもそもユキワリソウを見たことがないので、こちらの勝手な思い込みであったのだ。
 いやー、念願かなってホントうれしい。雨にもめげず登ってきた甲斐があったというものだ。この先でもっと見つかるかと思ったのだが、結局見られたのはこの一株だけ。Mo さんが見つけてくれなければ、見られないところだった。重ね重ね感謝!

アラゲヒョウタンボク ヤマザクラ ?
 

 先ほどの晴れ間はどこへやら、またガスが流れてきて、雨も降り始めた。正午も回ったので、昼飯にしようと思うのだが、雨をしのぐ場所がない。だいたい、同じような小ピークが続き、どこまで来たのかよく分からない。ちょうど辿りついたピークに「真砂の峰」の標識がたっていて、ここで食べることにする。標識を囲み、傘を差しながら民宿の弁当を食べる。
 なぜかスルメが入っていたが、後で聞くと干しイカが佐渡の名物らしい。うまかったので、帰りに家への土産に買って帰る。

ムシカリ

  ここで金北山からの下山に使う防衛省管理道路の通行許可をもらうために Iwa さんが自衛隊の分屯基地へ電話をかける。本当は前日までに電話連絡が必要、ということになっているので、許可されなかったらどうしようと思ったが、どうやらOKだったようだ。
 金北山の山頂には自衛隊のレーダー基地があって、そこで北朝鮮からの航空機やミサイルを見はっているらしい。そのレーダーの施設管理のために山頂まで車道が通っているのだが、そこを歩くのには許可がいることになっている。許可なしに通ると、ひょっとしたら問答無用で射殺されるかもしれない 、なんてことはないだろうが、見た目があやしい中年4人組では、可能性はゼロではない。

カタクリ群落
 
役行者像
 

 弁当を食べ終え、歩きだしたら雨が止んできた。一番雨がひどい時に飯を食べていたらしい。しかし、金北山に近づくにつれ、だんだんガスが濃くなってきた。下の方では実になっていたカタクリも、標高が高いこのあたりではまだ真っ盛りだ。特に役行者像が立つ前後の巻き道は、歩いても歩いても道の両側にカタクリの花が続く。さすが花の百名山だけのことはある。
 しかし、ガスの立ち込める暗い林床を下を向いたカタクリが埋め尽くしている光景は、なにか妖気が漂うような気がする。花の幽霊なんていう感じさえして、夢に出てくればうなされそうだ。

 役行者像を過ぎた先で登山道が雪渓に埋もれて分からなくなった。雪の上の踏み跡もはっきりしない。雪渓前の道の延長線上のヤブを探っていたら、雪渓の下の方から声が掛かった。雪渓の一番下から道が続いていた。このあたりは稜線が広くなっていて地形が複雑だ。どうやら鏡池に近づいてルートは一旦下るらしい。
鏡池はガスで幻想的な雰囲気。池の対岸にも雪が残っている。

 湿地状のあやめ池の先で雪の壁にぶち当たった。急な斜面を真っすぐステップが切られている。傘を杖がわりに一気に登り、雪壁の上の藪を漕いで登山道に復帰する。正規の登山道は雪壁を右から巻いているようだ。

鏡池のほとりを行く Su さん
 

妙見 山頂の神社
 

 雪の壁を越えたらじきに山頂だった。山頂手前で急にガスが流れ、緩く弧を描く真野湾の海岸線が見えた。行く手の妙見山方面も雲に浮かぶ島のように見える。
 山頂には大きな社殿の神社が立っていてどこが三角点だかよく分からない。しかも社殿を両側から挟みこむようにレーダー基地の建物が迫っている。神社はともかくとして、レーダー基地は山頂の雰囲気をかなり損なっている。建物の中に何やら人がいるような気配もあるが、妙見山の方に新しいレーダーができたそうだから、こちらの建物はもうお役御免で壊してもいいのではないだろうか。
 また雨が降り出したので、神社の社殿の陰で最後の休憩。Iwa さんから沸かしたてのコーヒーをご馳走になる。へばり始めた体に暖かいコーヒーが染みわたり、つくづくうまい。インスタントのドリップだけど、下界の専門店で飲むくらいの価値がある。

防衛省管理道路から金北山山頂を振り返る 霧のブナ林
 

山頂から少し降りると建物前のフェンス門に出て、そこからは防衛省管理道路になる。アスファルト舗装はしてなく、砂利道なので膝に負担がかからなくて助かる。

 こんな車道の脇にもエンレイソウ、シラネアオイなどが雑草のように生えていて驚かされる。本当に花の多い山だ。
 昨夜民宿で食べた山ウドのてんぷらがとてもうまかったので、道端に生えているそれらしき茎を折ってかじってみたがとても苦かった。ウドによく似ていたが、どうもウドではなかったようだ。ウドのような香りもしたが、強烈な苦さが口の中に残った。

エンレイソウ

 ガスはますます濃くなってきて、白雲台に着いた時には視界が10m程。霧の中を苦労して登ってきてくれた民宿の車に拾われて、宿に戻った。 
 日本海を見渡すような展望は得られなかったけれど、花に関しては大満足。はるばる来た甲斐がありました。
 

 

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[山行日] 2011/5/28(日)
[天気] 雨時々曇り
[アプローチ] 26日 名古屋IC →(東名、中央道、長野道、上信越道、北陸道:460km
27日 → 新潟西IC
→ 新潟港 →(佐渡汽船フェリー)→ 両津港 →(島内観光)→ 佐渡市金井町の民宿

28日 民宿 →(R350、県道81号:佐渡縦貫線)→ アオネバ登山口 [約17km]

[コースタイム] 28日 8:35 アオネバ登山口 (0:55) ユブ (0:40) アオネバ十字路 (0:40) マトネ (1:05) 12:20 真砂の峰 12:40  (0:50) 天狗の休場 (1:25) 15:05 金北山 15:35  (1:15) 白雲台展望台 16:50    (計7:10)
*花の写真を撮りながらなので参考程度のタイム。
[帰り] 28日 白雲台展望台 → 民宿  [約8km]

29日 民宿 →(島内観光)→ 両津港 →(佐渡汽船フェリー)→ 新潟港 → 新潟西IC →(北陸道、上信越道、長野道、中央道、東名)→ 名古屋IC

[地図] 両津北部、金北山 (1/25000)