乾徳山(けんとくさん)                              [奥秩父] 2031m

 

 一日目は甲府周辺の観光。山梨県立美術館でミレーと萩原英雄を見て、恵林寺で名勝指定の庭園を見て、万力公園で霞堤を見た。県立美術館には富士山の版画で知られる地元出身の萩原英雄記念室があるのだが、「三十六富士」の作品が展示してなくて、少々がっかりした。NHKの「日曜美術館」で紹介されていて、一度見てみたかったのだが。

 暗くなってきたので中華屋で腹ごしらえをして、車中泊をすべく、登山口にあたる徳和集落の駐車場へ。既に何台か止まっているが、車中に人がいる気配がなく、単なる駐車と思われる。
 家を出るときは台風一過で好天の予報だったが、山梨に着いてから雲が多くて不安になる。富士山も見えない。カーラジオの気象情報では明日は曇りとのこと。予報が変わってきてしまった。今日は皆既月食ということだが、月も見えない。

 目が覚めてすぐに空を見上げると、どんよりと曇っている。一瞬やめようかとも思ったが、目ぼしいところは昨日観光してしまったし、ここまで来る手間と費用を考えると、やはり登らずに帰るわけにはいかない。カップうどんで簡単に朝食にし、歩き 始める。
 

 民宿もある徳和の集落を抜けると、村はずれに乾徳神社がある。小さな神社だが、無事の登山をお願いしてお参りをする。

 神社から未舗装の林道になり、20分程歩くと登山口に着く。林道はまだ続いていて、そちらへの標識は徳和渓谷となっている。 聞いたことのない渓谷だが、どんなところだろうか。

登山口

 

 登山口からしばらくは杉の植林地を登る。銀晶水の水場を過ぎると林道を横切り、それからはカラマツが多くなる。このカラマツも植林のようで、登るにつれて、古い林道の跡を何度も横切る。
 だんだん尾根が広くなり、傾斜もゆるくなって楽になってくるが、単調な尾根のつづら折りが続く。 

 

樹林の下に岩場


 
乾徳山は奥秩父の主稜線から伸びる尾根の上のコブでしかなく、山としての見栄えは良くないが、昔から登山口に民宿ができるほどハイカーに親しまれている。山頂付近の岩場、扇平の草原、山腹の樹林地と変化に富んだコースが人気の理由のようだが、ここまでの道は単調極まりない。

 

 しかし、錦晶水附近まで来ると落葉樹林が広がり、明るい感じで気持ちがいい。どこから集まってくるのか少々不思議なくらい、水が豊かに流れている。

 錦晶水からは流れに沿って少し登っただけで、すぐに国師ヶ原だった。高原のような感じの場所で白樺が目立つ。朝方よりも雲が薄くなり、わずかながら青い部分をにじませた空をバックに、やっと乾徳山の山頂が姿を見せてくれた。山頂付近は確かになかなか険しそうな岩場で、山腹はきれいに黄葉している。右手の尾根の草地が広がっているところが扇平のようだ。


晶水

国師ヶ原から見上げる乾徳山 国師ヶ原のミズナラと白樺


 国師ヶ原からもさほど時間がかからず、扇平の草原の端にたどり着いた。振り返ると垂れ込めた黒い雲に今にも覆い隠されそうな感じで富士が見えた。朝方の天気では富士山は見えないだろうと思ってたので、とても嬉しい。甲府盆地の上も雲が覆っていて、富士は雲海の上に顔を出している。

 それにしても、扇平は気持ちのいいところだ。白い穂のススキの原が広がり、所々岩が点在している。真ん中に月見岩という巨岩があり、その上に上がると富士が真正面に見える。草原と富士の組み合わせは、もう随分昔のことなので確証はないが、大菩薩峠の雰囲気に似ているのではないだろうか。背後は樹林に囲まれていて 落ち着いた感じだ。
 右手の樹林の上に乾徳山の山頂が見えるが、雲がかかりはじめてしまった。谷間からガスが吹きあげてきて、残念ながら山頂での展望は無理のようだ。
 

甲府盆地の上に富士 扇平のススキ原の向うに富士遠望

 気が付くと、乾徳山と反対側の樹林から登山者が現れた。聞いてみると、大平 牧場から登ってきたとのこと。昨日は奥秩父の国師ヶ岳に登ったが何も見えなかったが、今日は富士がきれいで良かったと言う。

月見岩と登山者

雲がかかり始めた乾徳山山頂 ススキと白樺


 扇平から樹林に入ると、とたんに岩が多くなる。黄葉しかけた樹林地の下を、大きな岩を巡りながら登る。鎖場や梯子も現れ、どちらから登ろうか迷うところもあるが、ペンキのマーカーがしっかり付いている。
 最後の天狗岩の鎖場はスタンスが少なく、少々強引に体を引き上げ、山頂にたどり着いた。

 

岩場 天狗岩の鎖場


 山頂はやっぱりガスで、何も見えない。ガイドブックでは富士山、南アルプス、奥秩父、大菩薩と360度の大展望という事になっているが、周りは一面の白。まあ、よくあることで、扇平から富士が見えただけ儲けものと思わなければ。

 

乾徳山山頂 谷間を俯瞰する


 ガスが晴れるのを待ちながらパンを食べていたら、先に降りて行った登山者が戻ってきた。この先の岩場が危ないので登ってきたルートで降りると言う。Webの山行記などでは山頂から北に尾根をたどり、鞍部から西側の山腹を巻いて 国師ヶ原に下るルートが紹介されているが、あまり危険という感じはなかった。しかし、もう一度扇平に寄ってみたいと思っていたので、僕も来たルートで下山することにする。

 

 登るときにも気になっていたのだが、岩場の登り始めのあたりに髭剃岩という二つに割れた大岩がある。
 割れ目の隙間はちょうど体が通れるくらい。ザックを下ろして、割れ目に入ってみるが、かなり狭く、圧迫感があって戻ってしまった。しかし、どうも、割れ目の先が気になる。

 散々迷ったあげく、意を決して再度割れ目に進入。途中から体を横にしないと進めなくなるくらいの狭さ。岩の壁にへばりつき、足元の岩を乗り越え何とか割れ目の先に出た。予想通りと言おうか、割れ目の先は 足元がスッパリ落ちた崖。乳白色のガスを透かして、黄葉した木々が見下ろせる。国師ヶ原から見上げた時に見た、山頂近くの大岩かもしれない。結果は想像通りではあったが、満足。

髭剃岩

 

 登ってきた岩の尾根を下っていくと、何組かのグループとすれ違った。ウィークデイではあるが、そこそこ登る人はいる。

 扇平は登って来た時よりもガスがひどく、富士はもちろん周りはほとんど見えなくなっていた。吹きあげるガスがススキをなびかせている風景もなかなか捨てがたい。

 

ガスが流れる扇平 月見岩のそばのマユミの実

 扇平からは道満尾根を下る。落葉樹の多い明るい尾根で、ツツジが多いので花の季節は華やかだろうと思われる。ほとんど平坦な山道を進み、傾斜がきつくジグザグを切って下り始めると、林道に出会う。この道は大平牧場から国師ヶ原に続いているもので、山道はつづら折りの林道を串刺しにして下っている。周りはミズナラの純林と言っていいくらいで、気持ちがいい森になっている。

 一旦離れた林道に再び近づき、かすめるように下っていくポイントには大平への標識が立っている。月見岩で出会った登山者はここから登ってきたようだ。再び傾斜が緩くなり、マツタケでも出そうな綺麗な赤松の林を進むと道満山に着く。標識があるだけの尾根上のコブで、何の特徴もない。一休みしていても、時折遠くからかすかに聞こえる鳥の声以外何も聞こえない。

ツツジのトンネル

道満山近くの赤松林 徳和の集落を見下ろす


 道満山を下り始めると、すぐに木々の間から徳和の集落がチラチラ見え出すが、ここからが長かった。尾根道は徳和集落の横を抜け、膝が笑い出す頃にやっと登山口の林道に出た。
 集落に向かって林道を下っていくと、フェンスに行く手を遮られてしまった。あれ、出られない。と思ったら獣害よけのフェンス扉で、鍵はかかっていなかった。山に近いところなので、猿や鹿の食害が多いのだろう。人家近くの畑の周りにも囲いがしてあった。

 集落の家の間の細道をなおも下ると、バス停の駐車場は近かった。止まっている車は数台しかなく、途中で出会った登山者は大平牧場から登ったのだろうか?最近は標高差の少ない大平からがメインで、こちらのルートはクラッシックルートになってしまったのだろうか?

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[山行日] 2014/10/9(木)
[天気] 曇り    2014年10月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 8日 甲府昭和IC (R20、 R140号)→ 徳和入口 (県道) 乾徳山登山口バス停駐車場(車中泊)    [約32km]
      
・バス停横の駐車場に30台程駐車可能。
・道路を渡った乾徳公園に水洗トイレあり。
[コースタイム]
          4:45起床
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:00 6:05 乾徳山登山口バス停駐車場 出発   13℃
6:35 登山口    
6:55 林道横断    
7:05 銀晶水 0:10  
0:50 7:15  
8:05 錦晶水 0:05  
0:45 8:10  
8:20 国師ヶ原    
8:55 扇平・月見岩 0:15  
1:00 9:10  
10:10 乾徳山山頂 (2031m) 0:30  
0:40 10:40  
11:20 扇平 0:15  
  0:55 11:35  
12:20 林道かすめる    
12:30 道満山 0:05  
0:45 12:35  
13:20 乾徳山登山口バス停駐車場 到着   全行動時間
5:55     1:20 7:15
[ガイドマップ] 「日本二百名山登山ガイド」上巻 (山と渓谷社)

 

[温泉] ほったらかし温泉
・フルーツパークの中を通り抜けた先にある温泉。
・「こっちの湯」と「あっちの湯」があり、行き来はできず別料金。「こっちの湯」は富士が正面に見える。「あっちの湯」は湯船が広い。今回は「あっちの湯」に入浴。
・入浴800円。
・石鹸、シャンプー、リンス、ドライヤーあり。
・露天風呂から甲府盆地を広々と見下ろすことができる。
・県外客も多い人気の温泉のようだ。
・営業時間が長く、湯船から日の出、夜景も見られる。