宝永山(ほうえいざん)                              [富士山周辺] 2693m

 

 静岡県側から富士を見上げると、いつも目につく宝永火口。秀麗な円錐形にあいた巨大な「あばた」、と嫌う人もいるけれど、これもまた富士の姿のひとつ。そばまで行って、ちょっと覗いてみたくなるのは、自然な感覚だと思うよ。

 夜10時に富士宮口の新五合目駐車場に到着。眼下に富士宮方面の夜景が美しい。途中の富士スカイラインではキツネ、シカ、テンが道路を横切る。

 車中泊の支度をしていると、この時間から登っていくグループがある。山頂で御来光を拝もうとすると、この時間になるとは思うけど、今夜はかなり寒いよ。車の温度計は7℃を指している。 頭上には夜景に負けず星が瞬いている。

登山口 (下山後に撮影)
 


 
朝、目が覚めるとすぐに空を見上げる。ガスが出ていて日の出は見えない。
 カップラーメンを食べて外に出てみると、ガスが薄くなってきている。そばの売店の展望台に行ってみるとみるみるガスが晴れて、陽が射して来た。広い、長い斜面の上に富士の山頂が見えている。あまりにも広くて山腹という感じがしない。
 点在する、オンタデの黄葉が朝日に光っている。

 

駐車場から山頂を見上げる 色付く斜面

 

 五合目駐車場がちょうど森林限界あたりのようで、登山口の階段を登るとすぐに砂礫の道になる。富士山のメインルートのひとつだから、かなり広い。
 前後して登る4人組の老齢なグループは大阪から来たと言われる。山頂は見えてはいるが標高差は1000m。まあ、ばてたら帰ってきます。とのこと。

 本当は、9月10日から静岡県側の登山道は閉鎖になっているのだが、まあ、山慣れた人なら自己責任でいいのではないかと思う。富士山はあまりにもいろんな人が登ろうとするために、こんな措置になっているのであって、浅間山の登山禁止とはちょっと違う。 ただ、トイレも閉鎖されているので、環境面の配慮は必要かもしれない。

 六合目の小屋の先で山頂と宝永山への登山道が分かれる。山頂への道はバリケードで封鎖されていたが、横に踏み跡があって迂回できそうだった。

六合目に向かう

 


 六合目からは山腹をトラバースしてすぐに第一火口の縁に出る。もう目の前が宝永山だ。富士山自体が大きいので、想像していたほど火口は大きくは感じない。

 火口内の山頂側の斜面になぜか穴が開いている。スケール感が狂っているので良く分からないが、直径は数十メートルくらいありそうだ。穴の下の斜面には流れ出したような形で土砂が溜まっている。帰ってからインターネットで調べてみたら、 この穴は去年はなかったらしい。雪解け水が噴き出してできたらしいが、詳しいことは分からないようだ。
 

火口の向かいが宝永山 不思議な穴

 

 
 火口縁からは一旦、火口の底に降り、向かいの斜面を登り返す。
 火口の中の道は砂礫が厚く積もっており、傾斜がきつくなるとズルズル滑るようになる。一歩踏み出してもわずかしか登れず、高度があがっていかない。これはなかなかしんどい。
 馬の背の稜線に近づくにつれ、火口壁の上部に飛び出した岩脈が頭上に迫ってくる。

 車を離れるときは気温が9℃だったが、風が出てきてかなり寒い。登りでも体が温まってこないので、フリースの薄手のセーターを着込んでウインドブレーカーも羽織るが 、それでも寒い。
 

馬の背へ向かう火口内の砂礫の道 火口壁の岩脈

 

 
砂礫の道は途中でふたつに分かれていて、馬の背へは行かず、直接、宝永山の山頂に向かう右手の道を辿る。尾根に出たらすぐに山頂だった。

 山頂からの眺めは雄大の一言。ほんとに富士はでかい。ここから眺めると宝永火口も本当に大きい。麓からでもよく見えるはずである。御殿場側の斜面も広大に広がっていて、茫漠とした感じさえする。
 それにしても風が強くて寒い。風よけがないので山頂標識の土台に身を寄せるが、大した効果はない。のんびりしたいところだが、仕方なく下山する。

 

宝永山山頂
 
富士の上のうろこ雲

 

 帰りは馬の背経由で帰る。馬の背へは広い尾根を5分程。ここからは一段と富士の山頂が大きく迫って見える。御殿場ルートの八合目あたりの小屋もよく見える。 

馬の背の標識

 

第一火口底
 
オンタデの斜面

 



 火口の底を通り、第一火口縁まで戻ってきたがまだ時間があるので、火口巡りをしてみることにする。

 富士山は宝永山あたりで何度も噴火しており、第一から第三まで三つの火口があって、山腹に縦に並んでいる。標高の高い方から順に第一〜第三となっていて、火口の大きさもこの順番。噴火の順番は第二、第三、第一の順らしい。普通、宝永火口と言えば、第一火口のことを指す。

 第二火口は第一火口からも見下ろすことができるが、第一よりも植物が沢山生えている感じがする。 より多くの雪解け水が供給され、水分条件が良くなるからなのだろう。
 

宝永第二火口縁あたりから山頂を振り返る
 

第二火口を上から見下ろす
 
第二火口を下から見上げる。
(上が第一火口)


 第一火口縁から第二火口の西側の縁を下って「山体観測装置」という標識のあるコブまで降りてくると、第三火口が見えてくる。第三火口は草本だけでなく、背の低いカラマツまで生えている。もう森林限界よりも下になるらしい。
 ここから、第三火口を時計回りに一巡りする。

第三火口の中
 
オンタデ


 黄葉したオンタデの生える砂礫の斜面をトラバース気味に下ると、「御殿庭上」という標識に出会う。このあたりはもうほとんど第三火口の底で、カラマツとオンタデが絶妙のバランスで配置されていて、庭園のような趣がある。陽が射していれば、さぞ綺麗だろう。
 今回の行程ではここが一番低く、馬の背とは660m、第三火口の上の「山体観測装置」のコブとは約200mの標高差がある。ということは、200m登り返さないと戻れないということだ。
 第三火口の一番下の縁を、岩に付けられた白ペンキのマークをたどりながら横断し、樹林帯に入る。急に踏み跡が薄くなり、倒木が行く手を遮る。赤テープを探しながら踏み跡を外さないように慎重に進み、尾根道まで少し登る。突き当たった尾根道には「御殿庭中」の標識が立っていた。富士山の三合目に当たる。

フジアザミ

 

第三火口の底
 
倒木が多い


 ここからはカラマツの中を登り返す。カラマツにハリモミなども混じっているようだ。カラマツの林床には意外にもコケモモが多く、どれも赤い実を付けている。

 カラマツ林を抜ければ、すぐに「山体観測装置」のコブだと思っていたが意外とピークは遠く、最後の砂礫の道が辛かった。第三火口を一周するのに一時間かかった。
 改めて見上げる宝永山は、綺麗な円錐形をしている。

コケモモの実

 

山体観測装置のコブからの宝永山

 ここからもう少し登り、宝永第二火口の標識から駐車場に戻るべく樹林帯に入る。若干の上り下りはあるが、ダケカンバとカラマツが主体の、気分の良い気楽な道である。
 お昼近い時間になって、お年寄り主体のツアーの40人の団体と小学生100人の団体とすれ違う。小学生の団体は駐車場から宝永火口まで行き、六合目を経由して一回りしてくるようだ。登山シーズンが終わって、ハイキングツアーや遠足にはいい時期なのかもしれない。

 駐車場に戻ったら、かなり車が止まっていた。観光客らしき軽装の人が多く、西洋系、東洋系の外国人も多い。さすが世界遺産の富士である。

小学生の団体さん
 

 

 実際に宝永火口を歩いてみて感じたのは、想像以上に変化にとんだ富士を見られたということ。これは富士の「あばた」ではなく、ちょっと大きめの魅力的な「えくぼ」なのだよ。

 

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[山行日] 2014/9/17(水)
[天気] 曇り時々晴れ    2014年9月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 新東名・新富士IC ( R139号、富士スカイライン) → 富士宮口新五合目駐車場        [約41km]
      
・何か所かに分かれてかなり広い駐車場あり。公衆トイレあり。
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:35 6:25 富士宮口新五合目駐車場出発 (2390m)   9℃
6:50 六合目(2490m)    
7:00 宝永第一火口縁(2460m) 0:10  
1:00 7:10  
8:10 宝永山山頂(2693m) 0:15  
0:05 8:25  
8:30 馬の背(2720m) 0:05  
0:45 8:35  
9:15 宝永第一火口縁(2460m)    
9:20 宝永第二火口縁(2380m) 0:05  
0:05 9:25  
9:30 山体観測装置(2352m) 0:20  
1:00 9:50  
10:10 御殿庭上(2160m)    
10:20 御殿庭中(三合目)(2170m)    
10:50 山体観測装置(2352m) 0:05  
0:05 10:55  
11:00 宝永第二火口縁(2380m) 0:05  
0:20 11:05  
11:25 新五合目駐車場着 (2390m)   全行動時間
3:55     1:05 5:00
 
[地図] 富士山、須走 (1/25000)
[ガイドブック] 富士登山パーフェクトガイド〈大人の遠足BOOK〉 (JTBパブリッシング)

 

[風景印] 富士宮局
 (静岡県富士宮市若の宮町475)


・図案
  富士山、重文・富士山本宮浅間神社本殿、サクラ