蛾ヶ岳(ひるがたけ)1279大畠山(おおはたやま)1178m               [富士山周辺] 

 

 蛾ヶ岳は「ひるがたけ」と読む。本来の山名は「昼が岳」であり、この山が甲府の武田氏の館の真南にあたり、正午に山の上に太陽 が位置するためにその名前が付いたと言われている。
 しかし、蛾は「昆虫のが」であって、「ひる」という読み方はない。血を吸う「ひる」の漢字は蛭であり、丹沢の蛭ヶ岳はまさしくこちら。蛾ヶ岳の方は別名を峨眉山といい、その「蛾」を昼の音に当てたらしい。蛾ヶ岳を遠望したことはないので、蛾の眉(触角のこと)のような整ったカーブを描く稜線を持った山かどうかは分からない。

 ナビに従って中部横断道を六郷ICで降りてしまい、少々遠回りして四尾連湖畔の登山口に到着。増穂ICまで行った方が早かったようだ。
 ちょうど中年カップルが出発するところで、他に車はない。準備を整えて出発する。
 登山道は少し作業道を進み、すぐに右手の山道に入る。ヒノキなどの植林地と落葉樹林が交互に現れる。ジグザグを切って斜面を登り30分ほどで稜線に出る。
 稜線を左に少し行くと大畠山山頂で、先に南アルプスの展望を楽しんでから蛭ヶ岳へ行こうかとも思ったが、今日は暖かくなり靄がかかってくると思われるので、富士山の展望優先で蛾ヶ岳に向かうことにする。

 

稜線のミズナラ林

 

尾根道

 

  蛾ヶ岳へ続く稜線には幾つかの小さなピークが出ているが、基本的に巻き道になっていて、快適に進む。
 次第に周りに雪が多くなり、登山道の上は踏み固められて氷になっている。勾配が緩いのでチェーンアイゼンを履く程ではないが、帰りは滑るかもしれない。

 

 痩せた尾根道の両側はミズナラやシデ類の落葉樹林で展望は利かないが、枝越しに富士山北側の御坂山地の山々が覗く。久々に落ち葉を蹴散らしながら歩くのは気持ちがいい。
 ふと気がつくと右手の木の間越しに真っ白な山が見える。お〜、南アルプスだ。白根三山だろうか。山頂での展望に期待がかかる。

御坂山地の左から節刀ヶ岳、鬼ヶ岳、王岳

 

西肩峠近く 西肩峠の六地蔵

 

 蛾ヶ岳の北側直下の沢を小さな橋で渡り、雪の山腹をトラバースしていくと西肩峠にでる。標識と小さな地蔵が彫られた石板がたっている。
 ここからは最後の急登。落葉樹の中を直線的に登っていく。傾斜はきついが距離は短い。15分ほどで山頂に到着する。

 

 まず気になっていた富士を見ると、予想通り雲の中。今日の天気は全国的に晴れの予報だが、関東地方だけは雨予想。先月の大山に続いて、またしても嫌われてしまった。
 わずかに山頂あたりが雲の動きによってチラチラ見えるが、最後までそれ以上にはならなかった。

山頂だけ見える富士山

 

 一方、反対側の南アルプスは、霞んではいるものの白い峰々が見渡せる。ピークファインダーで確認すると、先ほどから木の間越しに見えていたのは白根三山ではなくて赤石岳と悪沢岳だった。 「こちらから見るとこんな感じに並んで見えるのか」と、ちょっと感激する。
 白根三山はその右手で農鳥岳は見えるが、間ノ岳と北岳は残念ながら雲の中。白根南稜の上に顔を覗かせているのは塩見岳と蝙蝠岳だった。塩見岳は見慣れた西洋兜形よりも尖って見える。
 富士は残念だけれど、南アルプスがこれだけ見れればまあいいか。
 思いのほか幅広く見える釜無川の流れの先に八ヶ岳も見えるが、こちらも霞んでいる。広々とした甲府盆地の向こうに奥秩父の山並みが壁のように立ち上がっているが、雪が付いていないので見栄えがしない。

 

山頂から南アルプス

 

赤石岳(左)と悪沢岳(右)

 

蝙蝠岳(左)と塩見岳(右)

農鳥岳

 

八ヶ岳

蛾ヶ岳山頂、背後は大畠山

 

 山頂からは登山口近くの四尾連湖(しびれこ)も見える。丸い形から火口湖とも言われるそうだが、ここから見るといかにも地滑り地形で、大畠山の南西斜面がずれ落ちて、窪地に水がたまったものと思われる。
 四尾連湖の名前の由来は四つの尾を連ねた龍が住んでいたという伝説から来ているようで、山上に水をたたえていることから雨乞信仰の地でもあったようだ。昔から龍は水を司る神と信じられていたので、龍が住む池とされていたのだろう。
 上空は雲が流れて日射しが遮られることが多いが、風が弱くて意外に暖かく、珍しく1時間以上も過ごしてしまった。

 

 下山は同じ道を下る。下りはチェーンアイゼンが要るかもと思ったが、雪の上に落ち葉が付いて滑り止めになるし、歩幅を狭めて踏みしめて歩けばあまり滑らなかったので、結局アイゼンを履かずに下りてしまった。

 稜線の分岐を通り過ぎて、登りにパスしてしまった大畠山にも立ち寄る。こちらの方が南アルプスがよく見えるかと思ったのだが、木立に遮られて鳳凰三山あたりまでしか見えなかった。その代わり甲府盆地が広々と見渡せる。なかなか甲斐国は広いのだと実感する。

大畠山山頂

 

四尾連湖

 

四尾連湖畔

 大畠山からは落ち葉の道を軽快に下ってきたので、少し時間に余裕ができ、車に荷物を置いた後、四尾連湖の湖畔まで行ってみた。湖畔には古びたバンガローやロッジが建っていて貸しボートまであり、観光案内にある神秘の湖とは程遠い。
 でもまあ、シーズンオフで静かであることは確かで、ロッジの前のデッキでコーヒーをいただき、しばし山行の余韻に浸った。

駐車場から振り返る蛾ヶ岳(左奥)

 

 

蛾ヶ岳 ルートマップ


[山行日] 2022/3/8(火)
[天気] 晴れ         2022年3月の天気図(気象庁)
[アプローチ]

中部横断道・六郷IC (R52号、県道4号)→ 市川三郷町 (県道409号)→ 四尾連湖・水明荘第二駐車場     [約24km]

・水明荘が管理する有料駐車場。駐車場の入り口に軽トラが止めてあり、軽トラ荷台に置いてある箱から紙袋を取り出し、中に駐車料金400円を入れ、ナンバーを書いて軽トラ助手席の窓の隙間から落とし入れるシステム。
・トイレがあるが冬期使用不可。水明荘のトイレを借りる。

[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:25 9:40 水明荘第二駐車場(登山口)出発    
10:05 稜線分岐    
10:50 西肩峠    
11:05 蛾ヶ岳山頂(1279m) 1:10 10℃
0:55 12:15  
12:25 西肩峠    
13:05 稜線分岐    
13:10 大畠山山頂(1117.6m) 0:05  
0:15 13:15  
13:30 水明荘第二駐車場(登山口)着   全行動時間
2:35     1:15 3:50
 
[地図] 市川大門 (1/25000)