銚子ヶ口(ちょうしがくち)  水舟の池                        [鈴鹿] 1077m 

  

 「銚子ヶ口」は2万5千分の1地形図には山名が書かれていなくて、鈴鹿の山の中ではあまり知られていない存在かもしれないが、1978年(昭和53年)発行の「山渓アルパインガイド」にも載っていて、古くから登られていた山のようだ。「コンサイス日本山名辞典」には「銚子ヶ口岳」と記載されているが、最近はいろいろな媒体で「銚子ヶ口」と表記されていて、こちらが本来の呼び名らしい。ちなみに山頂に三等三角点があり、点の記は「佐目」で、山麓の地名が付けられている。
 地形図に山名がないので山自体は目立たないのだが、三角点から南西へ向かう稜線近くに池があるのが気になる。鈴鹿の山上や稜線上にある池としては、御池岳の「真ノ池」や三池岳の「お菊池」などが知られているが、地形図に水面として表示されているのはこの銚子ヶ口の「水舟の池」だけだ。(御在所岳の山上に人工のため池はあるが、これは論外。)
 台高の「池小屋山」や奥美濃の三周ヶ岳の「夜叉ヶ池」など、山上に池のある山は好きなので、この水舟の池も一度見たかったのだが、登山口の杠葉尾(ゆずりお)は石槫峠を越えなければならず、二の足を踏んでいた。鈴鹿の主稜線を越える石槫峠は国道とはいえ一車線で、峠にはギリギリ一台通れるだけの幅で、コンクリートブロックが据えられていた。
 しかし、2011年に石榑トンネルが開通し、杠葉尾はぐっと近くなった。これなら三角点から池まで足を延ばしても日帰りで行けるので、やっと懸案の「池見の山行」に出かけることにした。

 中日新聞社発行の「地図で歩く鈴鹿の山」には一般的な北尾根をたどるコースの他に風越谷林道から林業用のモノレールに沿って登るコースが紹介されていて、こちらの方が時間短縮になるのでこれを登るつもりだったが、到着したら神崎川林道の入口がゲートで封鎖されていた。風越谷林道は神崎川林道を2qほど行ったところから分岐する林道なので、ゲートから歩くのは少々つらい。
 結局、東員ICまで延伸された高速道路と石榑トンネルのおかげで予定より早く到着したことから時間に余裕ができたので、少々コースタイムは長いが通常ルートの北尾根から登ることにした。

杠葉尾の銚子ヶ口登山口

 

 銚子ヶ口の登山口には駐車スペースが3台分しかないと聞いていたので着くまでは心配だったが、幸運にも自分の車が最初の一台で、すぐに二台目がやってきて止まった。ゴールデンウイーク期間中だが平日なので、それほど登山者はいないのかもしれない。そばに小型水力発電の金属製の水車が回っていて、本来はこの水車の管理用のスペースなんだろう。

 登山口からつづら折りの坂道を登ると、やや開けた植林地の中を行くようになる。杉や檜の植林地でやや薄暗い。
 やがて登山道は左下がりの山腹をトラバースしながら登っていく。小さな谷が道を横切っているところは、場所によっては少し道が崩れかけている。基本的に植林地が続くが、所々落葉樹の明るい林のところもあり、キビタキのさえずりがいかにも初夏の山らしい。カラ類も鳴き交わしながら、頭上を過ぎていく。

杉の植林地を登る

 

キビタキ

 

イワカガミ

 

 標高720mあたりで登山道は尾根の上に出て、しばらく平坦な尾根の上を進む。道の両脇にはイワカガミが多い。

 登山道沿いには200m毎に小さな白い標識が立っていて現在位置を知らせてくれる。200m間隔で最終は15番なので山頂までは3kmのはずだが、実際にはもっと遠い。それに前半は間隔が長くて、山頂に近づくにつれて間隔が短くなるような感じがする。
 救助の際に位置を知らせるためのレスキューポイントの黄色い標識も所々設置されている。

200mポイント板、119レスキューポイント板

 

 道は尾根から一旦はずれ、今度は右下がりの山腹道になり谷に近づいていく。北尾根の西側を流れる須谷川の源流部で、それに沿って道は登っていく。
 谷が二俣に分かれるところで、道は左手の支流の方に入り、流れを数回渡りながらしだいに源頭の急斜面に取付く。源頭部はまだ芽吹いたばかりの明るい林で、広い谷はまるでカールを見上げているような感じだ。
 斜面を登りきるとそこは銚子ヶ口東峰の直下の稜線で、一気に展望が開ける。

明るい源頭部

 

御池岳、藤原岳、竜ヶ岳方面

 

釈迦ヶ岳

 

 霞んでいるが鈴鹿の主脈の山々がパノラマになって広がる。北は御池岳から南は御在所岳までずらりと連なり、御在所の右肩には鎌ヶ岳の尖峰が少し覗いている。正面には釈迦ヶ岳が大きい。鈴鹿の展望台と言われるだけはある。

 岩稜を少し登ると銚子ヶ口の東峰山頂。灌木が少し邪魔だが北側も展望が開け、雨乞岳も見えるようになる。鈴鹿のセブンマウンテンの入道ヶ岳以外は全部見える。

銚子ヶ口東峰を見上げる

 

銚子ヶ口三角点 (三等)

 

ハルリンドウ

 

 東峰から平らな稜線を少し行った三角点は展望が利かないので、先に進む。稜線にはハルリンドウが多い。ミツバツツジも咲いているが、シャクナゲはまだつぼみ。
 一旦下って登り返した小ピークが中峰。左手に伸びるなだらかな尾根に足が向きそうになるが、木に懸けられた標識に気が付き右手に進む。踏み跡が錯綜して分かりにくいが、テープを頼りに少し下ると植林の境にはっきりした踏み跡があり、それを辿って下って行く。北峰との鞍部あたりは落葉樹の明るい林で非常に気持ちがいい。

 

トウゴクミツバツツジ?

 

右手のピークが中峰

 

 もう一度登り返したところが西峰。ここからは東峰からは見にくかった雨乞岳が良く見える。正面に横たわっているのはイブネ、クラシの台地で、鈴鹿の秘境。いつかは行ってみたい。

 西峰からは一層踏み跡が分かりにくくなる。スパッツを着けて歩いている人がいたが、確かにあった方がいいようなところもある。ザレた急な斜面を慎重に下って、水舟の池への分岐のある鞍部に降り立つ。

西峰から正面にイブネ、クラシ
左手遠くは国見岳、御在所岳、右手奥は雨乞岳

 

メギの花 (西峰山頂)

 

水舟の池分岐の鞍部を見下ろす

 

 分岐からは西に向かって、暗い植林地の中の小さな尾根の踏み跡を下る。稜線から100m近く下ると左下に水面が光るのが見えて、水舟の池の北東の岸に出た。

 東峰で追い抜いて行った登山者あったので、先に着いているのかと思ったが、イブネの方へ向かったのか、池の周りに人の姿はなかった。辺りはしんと静まり返り、水面が鏡のように対岸の杉林を映している。
 これが水舟の池か。

水舟の池

 

 池の端に腰を下ろし、改めて池を見る。池は一辺が50mくらいのおにぎり型をしていて、東側の岸からは土砂が流れ出して出来たような洲が突き出ている。周りは植林された杉林で池の周りにわずかに落葉樹が残っている。杉林に囲まれているためか、水面は明るいのに全体に暗い印象を受ける。植林されて雰囲気が暗くなってしまっているのは残念だが、よくこんな奥まで植林したものだと感心させられる。

 静かで生きものの気配は感じられなかったが、よく見ると浅瀬にはサンショウウオかイモリのようなものがゆらゆらと動いている。池の西寄りにはヒルムシロのような水生植物も生えているようで、意外にしっかりした生態系になっているのかもしれない。

イモリ?

 

 のんびりと食事をした後、池を一周してみようとしたが、池の北側は灌木が生えていて回り込めず、あきらめて東の植林地を抜けて池の反対側に出た。ここからは対岸の杉林の上にわずかに西峰が覗いている。こちらから見た方が空が開けて明るい感じがする。
 降りてきたルートを戻らず、ここから大峠を目指して稜線に登り返す。こちらの踏み跡も薄くて、ルート取りに迷うが、小さな尾根を外さないように高度を上げ、最後は落葉樹の急斜面を強引に登って稜線に出る。出たところは意外にも大峠の標識のそばで、このルートで合っていたらしい。

 

大峠

食害にあったと思われるヤマツツジ

 

 大峠は苔の美しい場所だったそうだが、今は所々塊が残るだけで、踏圧なのか鹿の食害なのか、ザレた裸地が広がっている。付近のヤマツツジは鹿の食害で小枝がなく、サボテンのような感じになっている。
 峠は明るく開けていて、綿向山や西隣の990m峰(水谷岳)が良く見える。霞の向うに広がるのは近江盆地だろう。

 峠からは1067mの水舟の頭を経て分岐に戻る。そこからは来た道を戻って下山する。明るい稜線は本当に気持ちがよく、新緑の山肌にはパステルグリーンの風が吹いているようだ。遠くではアオバトが鳴いている。もう少し簡単に稜線まで登れたら、何度も歩きたくなるいいところなのだが・・・。また来ることがあるだろうか。

綿向山

 

水舟の頭付近の稜線

新緑の山肌

 

 今日はコースタイムよりも速くて時間に余裕があるので、下山はのんびり。須谷川の流れのそばで休憩してゼリーを食べる。
 小さな淵があったので期待もせずに覗いてみたら、何と魚が泳いでいるではないか。動きが素早いのではっきりは分からないが、黒っぽいのでアマゴではなくイワナではなかろうか。しばらく見ていたら同じ淵に二匹いた。すぐ下のもっと小さな淵にも一匹。鈴鹿にもイワナがいるんだなあ、と驚いてしまう。
 今日はキビタキ、イモリ、イワナと珍しく生きものにいろいろ出会った一日だった。

須谷川源流部

 

フモトスミレ

ナガバノスミレサイシン

 

 

銚子ヶ口 ルートマップ


[山行日] 2018/5/1(火)
[天気] 快晴        2018年5月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 新名神・東員IC (R365号、R421号、石榑トンネル ) → 銚子ヶ口登山口     [約23km]
      
・登山口の小型水力発電水車の横に3台。少し離れたスペースに3台程度。
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:05 7:30 銚子ヶ口登山口(340m) 出発    
8:35 巻き道(710m付近) 0:05  
0:50 8:40  
9:30 ポイント12/15 (910m) 0:05  
0:20 9:35  
9:55 銚子ヶ口東峰 0:05  
0:45 10:00  
10:05 銚子ヶ口三角点(1076.8m)    
10:30 銚子ヶ口西峰    
10:35 水舟の池分岐    
10:45 水舟の池 (950m) 0:35  
0:30 11:20  
11:35 大峠    
11:50 銚子ヶ口西峰 0:05  
1:00 11:55  
11:25 銚子ヶ口東峰    
12:55 須谷川出合 ポイント10/15(800m) 0:20  
1:15 13:15  
14:30 大貝戸登山口駐車場 到着   全行動時間
5:45     1:15 7:00
 
[地図] 竜ヶ岳、御在所山(1/25000)