赤岳(あかだけ)2899m、阿弥陀岳(あみだだけ)280 5m              [中信・八ヶ岳] 

 

 台風一過。空は快晴。久々の山行で気分はいい。
 美濃戸口のバス停のそばの駐車場に車を止め、車道を歩きはじめる。この先の美濃戸山荘まで車は入れるのだが、御小屋尾根を降りてくるのでここに置いておく。
 台風が通り過ぎ、やっと残暑も一息ついたばかりで、周囲を見回してもまだ秋の気配はあまりない。道端のチョウセンゴミシの実がわずかに秋の彩りを感じさせてくれるくらいだ。

左が美濃戸山荘方面、
右が御小屋山の登山口がある別荘地へ続く舗装道路
 
チョウセンゴミシの実

 赤い実に触発され、頭の中で「小さい秋見つけた」のフレーズが止まらなくなって困った頃、美濃戸山荘前に到着。ここから南沢コースの山道に入るのだが、何と入口に通行止めの札が貼ってある。読むと、台風18号のため道が崩れ、19日まで復旧工事をするとのこと。あれまあ、鼻歌気分もしぼんでしまう。
 行者小屋へは北沢コースの赤岳鉱泉経由で行くことになるが、それだと40分余計にかかる。ちょっと赤岳頂上山荘まで行くのはしんどくなるなあ。

 今回は未登の阿弥陀岳に登るのが主目的なので、行者小屋泊まりでも構わないのだが、こんなにいい天気だとやっぱり展望の効く稜線に上がりたい。まあ、行者小屋まで行ってから考えることにしよう。

林道横でも苔の森。さすが八ヶ岳。
 

 北沢コースは最初は荒れた感じの林道で、途中の橋で左岸に渡ったところから沢沿いの山道になる。沢は台風の影響からか、かなり水量は多い。
 何度か沢を渡り返しながら、奥に進むが、赤岳鉱泉が近づくにつれ、沢が広がって空が開けてくる。

 横岳の大同心らしき岩峰が見えてくると、じきに鉱泉に到着した。
 

こんな桟道もある。
 

 鉱泉横の木陰で横岳を眺めながらコンビニの助六寿司を食べていたら、小柄な中高年登山者から声を掛けられた。駐車場で僕の車のナンバープレートを見たらしく、隣の豊田に住んでいると告げられた。その人は頂上山荘泊まりの予定で、翌日は本沢温泉へ行くとのこと。こんな天気にもう一泊 できるとはうらやましい。

赤岳鉱泉。背後に横岳が迫る。左端の岩峰が大同心。
 

 赤岳鉱泉の建物の間を抜けて、中山乗越への登りにかかる。さほど急な道ではない。
 北沢コースを歩いている頃から前後して歩くようになった韓国の若者グループに追いついてしまい、しばらく後ろに付いて歩くことになった。仲間内でしゃべっているときは韓国語だが、すれ違う登山者とは日本語で会話している。どうやら今日は天望荘に泊まるらしい。
 最近、韓国では登山がブームで、日本の山にも韓国人の登山者が目につくと聞いてはいたが、実際に遭遇するのは初めてだ。日本語がかなり達者な人もいるので、ひょっとしたら在日の人も混じっているのかもしれない。すぐ前を歩いているグループは4人だが、全体で10数人の団体のようだ。
 少々へばり気味の人が先頭を歩いているので、声を掛けて先に行かせてもらったら、中山乗越で本隊の団体さんが休憩して待っていた。 ソウルへ行ったときにも思ったが、韓国の人はどこへ行っても賑やかでバイタリティを感じさせる。
 

行者小屋前
 
行者小屋から赤岳を見上げる

 さてさて、行者小屋に着いてしまったが、これからどうしようか。まだ1時過ぎなので、時間はある。ただ、久々の山行で脚は少々疲れ気味。迷った末に予定していた文三郎道ではなく、地蔵尾根を登ることにした。地蔵尾根なら、途中でバテても天望荘で泊まることができる。それに地蔵尾根はまだ歩いたことがない。
 先ほどの豊田の人は文三郎道を登ると言っていたので、小屋の前のベンチで休んでいた姿を見つけ、声を掛けて別れた。

 歩き始めはシラビソやダケカンバの樹林の中。 だんだん木が低くなり、視界が開けてくる。ド快晴かと思っていたが、いつの間にか阿弥陀岳にガスが掛かりはじめている。
 やっぱり脚はお疲れで、特に左足が攣りそうだ。休み休みゆっくり登る。

阿弥陀岳の山裾に行者小屋が見える。 はしごや鎖が連続する。


 
地蔵尾根は横岳と赤岳の間の稜線に突き上げる尾根で、稜線近くなるにつれて傾斜が急になる。 危険な所ははしごや鎖がついているが、脚に力が入らない状態ではなかなかつらい。はしごは一段一段が高くて、手摺りにしがみついて、体を引き上げる。高度感もあり、かなり怖い。それでもすれ違う人が少ないので、マイペースでぼちぼち登る。


 何とか地蔵尾根を登り切り、赤岳天望荘前まで来た。疲れてはいるものの、ここまで来たら、やはり当初の予定通り山頂山荘まで行こう。韓国の団体さんは天望荘泊まりだと言っていたので、あまりうるさい団体さんとは一緒になりたくない。それに上に行けば豊田の人とまた会えるだろう。

 天望荘からの赤岳の登りも鎖があり、しんどかったが、なんとか30分で登り切った。

赤岳頂上山荘が見えてきた。
 

 赤岳に登ったのは30年ぶり。30年前はゴールデンウィークに2泊3日で天狗岳から縦走してきた。結婚して1年目の女房を連れて、よくもまあ、残雪の横岳を抜けてきたものだと、今になって思う。
 その時も頂上山荘(当時は頂上小屋と言っていたと思うが)に泊まったが、ほとんど当時の様子は覚えていない。唯一、覚えているのは「 あなたたちでは真教寺尾根を下るのは危ないから文三郎道で降りなさい。」と言われたことくらいだ。まだ若かったので少々シャクに障ったが、女房連れだった こともあり、忠告に従って文三郎道から南沢コースを通って美濃戸口に下山した。。

雲が晴れてきた横岳
 

 ウィークデイにもかかわらず、山荘は随分混んでいる。今日は70人くらい泊まるらしい。文三郎道を登ってきた豊田の人にも再会し、偶然にも蚕だなの蒲団が隣り 同志だった。

 苦労して登ってきた甲斐があったというもので、山頂からの眺めは素晴らしい。日没は6時10分。乗鞍岳の左手に陽が沈む。阿弥陀岳の右側に白い座布団のように諏訪湖の湖面が光っている。横岳の稜線は赤く染まり、清里高原に赤岳の影が青く伸びる。
 ただ、そんなに強くはないものの風は冷たい。フリースを着こみ、ウインドブレーカーを羽織ってもまだ寒い。
 夕食後は食堂から清里方面の夜景を楽しんだ。

 

夕陽に染まる横岳
 

赤岳
 
阿弥陀岳の向うに沈む夕日

 日の出は5時25分。昨日の反省を踏まえてダウンベストまで着込んで日の出に臨んだが、それでもやっぱり寒かった。おそらく気温は0℃近くだろう。

 天気が良すぎて雲が少なく、あまり朝焼けしなかったのは残念だが、北アルプスの山々が茜に染まっていくのは素晴らしかった。南、中央、北のアルプス。頸城山塊、浅間、上州の山々、奥秩父、富士。名立たる山々がすべて見える。そして、足元には八ヶ岳の主脈が蓼科山に向かって伸びている。

黎明の槍穂連峰
 

阿弥陀岳に赤岳の影
 
赤岳山頂


 山荘で朝食を食べて出発。三角点のある赤岳南峰で改めて景色を眺める。キレット越しに権現岳が険しい姿を見せている。権現岳は7年前に登っているが、西岳、編笠山とセットで登ったので、キレットは歩いていない。このコースを歩くことはもうないかもしれない。
 ここからは、やっと本来の目的の阿弥陀岳に向かう。

権現岳の背後に北岳、甲斐駒、千丈
 
天狗岳(左奥)と硫黄岳

  少しキレット方面に歩き、標識に従って稜線から文三郎道の分岐に向かって岩だらけの道を下る。ここもはしごや鎖が架かっているが、地蔵尾根ほど急ではない。しかし、下山者が多いので落石は禁物。慎重に下る。

中岳からの阿弥陀岳
 

 文三郎道分岐を過ぎ、中岳に登る。味気ない名前だが赤岳、阿弥陀岳の両巨頭に挟まれていては仕方がない。

 中岳から鞍部に下り、最後の阿弥陀の登りにかかる。鞍部から眺める阿弥陀は圧し掛かってくるようで、「こりゃ大変だ。」と思ったが、登り始めてみるとさほどでもない。はしごも掛かっており、岩場は険しいのだが、まだ歩きはじめで足元がしっかりしているので、昨日の地蔵尾根ほどきつくはない。

コケモモの実
 

阿弥陀岳山頂の阿弥陀様?
 
赤岳

権現岳を挟んで富士と北岳
 
富士山

 阿弥陀岳の山頂は意外に広く、三角点の横に阿弥陀様らしき石仏がある。ここも眺めがいい。赤岳山頂では当然見られない赤岳そのものをここでは眺めることができる。横岳の岩峰群も見ごたえがあるが、残念ながらまだ日陰になっている。

 八ヶ岳に最初に登ったのは学生時代で、友人と二人、テント泊まりで北横岳から天狗岳まで北八ツを縦走した。それから登山やXCスキーで何度も八ヶ岳には来たが、阿弥陀岳だけが残ってしまっていた。原村あたりから見上げる冬の阿弥陀岳は北アルプスにも負けない名峰の貫禄があり、いつかはと思っていたがなかなか機会がなく、転職した今年にやっと念願が叶った。

  さてここからが今回の山行の最大のポイント。阿弥陀岳から西に延びる御小屋尾根を下るのだが、このコースはサブルートでウィークデイはあまり登山者が通らない。万一怪我をしても助けが得られ にくいので、単独行者としては慎重にならざるを得ない。

 しかし、山頂にいた単独行の人が自分も御小屋尾根を下ると言う。これは心強い。バスの都合があるからと山頂でゆっくりしているその人よりも、先に下り始めることにする。

阿弥陀岳、犬返りの岩
 

 はい松のかぶる踏み跡を辿ると目の前に岩峰が現れる。犬返りの岩と言われている岩峰で、はしごで登り、反対側の緩い傾斜の一枚岩を 滑らないように気を付けて下って乗っ越す。もう一つ先の岩峰 (摩利支天、あるいは西の肩)は根元を巻いてしまうので、心配した程危なくはない。尾根への下降点も標識があって迷うことはなかった。

 ここからは急な斜面を慎重に下る。岩場にはザイルが張ってあってありがたい。ザレ場もあって気を抜けない。

御小屋尾根
 

 はい松帯からダケカンバや背の低いシラビソの樹林地に入ってくると、だんだん傾斜が緩やかになってくる。ここから先は樹林地の尾根道でちょっと緊張も緩む。
 不動清水入口の標識を過ぎると、傾斜はさらに緩やかになり、少し登った後、ほとんど平らな道になる。尾根道なのにシラビソの林床には苔が生えて、北八ツのような森だ。雪が多く、湿度が高いのかもしれない。シャクナゲも目立つ。 

阿弥陀岳を振り返る
 

苔の生える尾根道
 
まるでオブジェのような林班界の杭?

 御小屋尾根をまっすぐ尾根通しに下ってしまうと美濃戸口を行き過ぎてしまう。御小屋山の三角点から北へ派生する尾根があり、この北尾根をたどらなければならない。
 尾根上に広場のようなところがあり、地形図ではこのあたりなのだが分岐の標識がない。赤ペンキで北の方角のシラビソの幹にマーキングがしてあるが、踏み跡が 頼りなさ過ぎる。どうここれは林班界のマークのようだ。
 もう少し下ってみるとすぐ先の右側に三角点があり、そこに分岐の標識が立っていてホッとする。後はこれを下るだけだ。

御小屋山の分岐
 

 北尾根に入っても歩きやすい道が続く。下るにつれてカラマツの植林地が目立つようになる。
 登山口近くまで降りてくると、カラマツ林の笹薮の中を歩いている人々がいる。カラマツに赤松も混じっているので、松茸でも出るのかと思って聞いてみると、普通のキノコ狩りだとのこと。まあ本当だろうが、ひょっとしたら松茸も、と疑ってみないでもない。
 カラマツ林を抜けると別荘地の一番上に出る。ここが登山口。あとは別荘地内の舗装道路を美濃戸口のバス停まで下るだけ。時間も早いし、温泉に浸かって帰ろう。

 今回の山行を計画した時には、御小屋尾根について少々心配していたが、予想よりもずっと歩きやすいコースだった。林相に変化もあって、歩いていて飽きない。登りに使うには嫌だが、阿弥陀岳からの下りには、行者小屋に戻るよりもいいのではないか、と思う。 

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[山行日] 2013/9/18(水)〜19(木)
[天気] 18日 晴れのち曇り、19 日快晴    2013年9月の天気図(気象庁)
[アプローチ] 諏訪南IC(八ヶ岳ズームライン)→ 美濃戸口駐車場    [約10km]
      
・駐車料金500円/日×2日 (蓼科観光 美濃戸登山口駐車場)
[コースタイム] 18日
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
0:50 9:25 美濃戸口出発 (1490m)    
10:15 美濃戸山荘 (1720m) 0:05  
0:35 10:20  
10:55 北沢 1880m付近 0:05  
1:15 11:00  
12:15 赤岳鉱泉 (2220m) 0:15  
0:40 12:30  
13:10 行者小屋 (2350m) 0:10  
1:20 13:20  
14:40 赤岳天望荘 (2720m) 0:05  
0:30 14:45  
15:15 赤岳頂上山荘着 (2899m)   全行動時間
5:10     0:40 5:50

19日
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
  6:20 赤岳頂上山荘出発    
    ↓ 赤岳山頂 (2899m)    
0:40 6:35  
6:55 文三郎道分岐    
7:15 中岳山頂 0:05  
0:10 7:20  
7:30 中岳・阿弥陀岳コル 0:05  
0:25 7:35  
8:00 阿弥陀岳山頂 (2806m) 0:35  
1:05 8:35  
9:40 不動清水入口 0:20  
0:40 10:00  
10:40 御小屋山三角点  (2137m) 0:15  
1:15 10:55  
11:50 別荘地内登山口    
12:10 美濃戸口着 (1490m)   全行動時間
4:15     1:20 5:35
[地図] 八ヶ岳西部 (1/25000)
[ガイドブック] アルパインガイド34「八岳・北八岳」  山と渓谷社

 

[小屋] 赤岳頂上山荘
・1泊2食 8,500円。
・食事は普通。お湯は500mlで100円で分けてもらえるが、水はペットボトルのものを買うしかなく、400円。
・展望抜群。食堂から山麓の夜景が見える。
[温泉] もみの湯
・入浴料500円。
・石鹸、シャンプー、リンス、ドライヤーあり。
・露天風呂もあるが展望は利かず眺めは良くない。
・洗い場は狭い感じがするが、ウィークデイだったので貸し切り状態。