「MJ無線と実験」6回連載シリーズの第3弾となったEL34シングルパワーアンプです。2020年11月号から2021年4月号にかけて発表しました。EL34を5極管接続で用いて、家庭用としては大出力な8Wを確保しています。
----EL34 5極管接続シングルパワーアンプの連載内容----
2021年11月号 EL34の開発と製造の歴史
2021年12月号 EL34のリモートカットオフ特性を考察
2022年1月号 EL34に適するNFB回路2タイプを検討
2022年2月号 シミュレーションを使ってアンプ回路を設計
2022年3月号 実機を製作して電気的特性を測定
2022年4月号 発振防止と音質調整を施して試聴 雑誌発表後、動作の大幅な改良を行ないました。当サイトで発表するのはこの改良版です(雑誌未発表)。
本機をお譲りしたオーナー氏によると、特にピアノ、ギターの再生音が気持ちよいとのことでした。また、各種の出力管を入れ替えての「球転がし」が楽しみともおっしゃっていました。 最大の改良点は出力管負荷の見直しです。雑誌上ではシミュレーションを利用して設計しましたが、実機で試聴と動作実験を繰り返した結果、回路を修正することにしました。
外見上一番大きな変更は、EL34に最適な負荷と、KT88に最適な負荷を使い分けられるように、スピーカー端子を増設したことです。これに伴って回路の細かい部分を最適化しています。
この結果、もはやEL34アンプというよりも、多極管万能アンプと呼べる多用途なアンプとなりました。EL34、KT66、6L6GCを利用するときは出力管負荷3.5kΩのスピーカー端子を使います。KT88の場合だけ出力管負荷2.5kΩで使います(いずれも公称インピーダンス8Ωのスピーカーに接続)。
本機は雑誌発表時から、出力管に対して出力トランス3次巻線によるカソードNFBをかけています。EL34のリモートカットオフ型特性を緩和して音質の向上を図るためです。
副次現象として低域に持ち上がりが生じやすいので、出力管に対して固定バイアス方式を採用しました。カソードは0Vに置き、コントロールグリッドにバイアス電圧(負電圧)を直接印加します。これにより出力管カソードにバイパスコンデンサを入れる必要がなくなり、出力トランス3次巻線との直列共振を排除できます。
この二者の組み合わせにより、低域から高域までの広帯域で出力インピーダンス(あるいはダンピングファクタ)を一定に保つことができました。この特性は再生音の正確性に寄与します。
また、EL34のスクリーングリッドを保護するための抵抗を追加しました。ロシア製と中国製のEL34の内部電極に不具合が生じた経験から必要と判断したものです。その後真空管が故障を起こすことはなくなりました。 |
本機は出力管のバイアス電圧を手動で調整します。測定器を用意しなくてもアンプ単体で調整できるように、メーターを備えました。赤く光るデジタルメーターの値がたとえば0.80であれば、出力管のプレート電流が80mAに近いことを指します(あくまで目安)。
初めての出力管を使用する(交換する)ときは必ずバイアス調整をやり直します。電源を入れない状態で天板上の左右のバイアス調整つまみを左いっぱいに回しておきます(最低値になる)。電源スイッチを入れて出力管が十分温まってメーター値が安定したら、左右のつまみを右に少しづつ回してメーターの値を上げていきます。
EL34であれば0.80、KT88は0.90、KT66は0.70、6L6GCは0.60付近に調整すれば、最大8W〜10Wくらい出せるようになります。
真空管の個体差を考慮して厳密にバイアスを調整したいときはオシロスコープが必要です。出力波形のクリップ点を観察しながら最適バイアスを定めます。このようにすると最大出力を最適化できますが、日常用途であればここまでこだわる必要はありません。 写真で使用しているロシア製EL34B(茶色ベース)は通常のEL34とは微妙に電気的特性が異なるようです。音も通常のEL34より低音が太く感じられます。
本機の音はどのタイプの出力管を挿しても、それぞれのタイプなりにしっかりした低音が出ます。これは出力インピーダンスが広帯域で一定であることが寄与したものです。
KT88はEL34よりスケール感のある音を出します。KT66は音色がよく出る傾向があり、個人的には魅力に感じました。6L6GCは滑らかでほっとする聴き心地です。
初段管のEF86にはアルミ製のカバーを採用していますが、ノイズ防止と音質向上の効果で採用しました。各種銘柄のEF86はどれも似たような音で鳴ります。入手しやすさで選べばよいでしょう。
整流管の銘柄でも音が微妙に違って聴こえますが、それほど大きな違いはないようです。
総じて音源に忠実ではっきりした傾向で鳴ります。デジタル音源の高域が暴れにくいので音量を上げても聴きやすく、堂々としたピアノやオーケストラを聴けます。 改良前の旧型になりますが、製作の詳細と実体配線図は「MJ無線と実験」を参考にしてください。 |