EL38 5極管接続+カソードNFB シングル・パワーアンプ 最大出力7.5W (2026年2月)
最大出力 (クリップ前) 7.5W (整流管GZ37使用時)
周波数特性 (-1dB) 13Hz〜30kHz
ひずみ率 (1kHz, 1W時) 0.13%
ダンピングファクタ (1kHz時) 6.3(12AX7), 4.5(12AT7), 4.2(E80CC), 3.7(12AU7)
残留ノイズ (A補正なし) 0.15mV
入力感度 (最大出力時) 0.64V(12AX7), 0.82V(12AT7), 1.1V(E80CC), 1.6V(12AU7, 12BH7)
回路図 電気的特性
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 本機はUL接続によるEL38 UL+カソードNFBシングルパワーアンプを5極管接続に変更したバリエーション版です。
 1995年に「ラジオ技術」誌で発表した5極管接続EL38シングルアンプの正常進化型と言えるかもしれません。実用性の高いアンプに仕上がったので当サイトで2026年2月に発表しました。雑誌への掲載はありません。
 以下の解説の半分はUL接続版から流用していますが、必要に応じて変更・改訂を行なっています。
 2026年5月に音質調整を各部に施した最新回路図と新しい内部配線写真に更新しました。スクリーングリッドに高域共振抑制抵抗を入れたほか、NFB回路の微分補正を変更しました。各部の電解コンデンサに対する音質対策も微調整しました。右欄にその説明を追加しました。
 2026年8月にNFB回路の微分補正を強化しました。可聴外高域に発生していたかすかな発振がなくなり、高域端がきめ細かくなりました。改良がうまくいったので当サイトの回路図を更新するとともに、特性グラフも更新しました。
 改良後の雑音ひずみ率グラフを見ると、10kHzのひずみが改善したことがわかります。発振の原因となっていた周波数特性の120kHzあたりの盛り上がりはなくなってはいませんが、1dBほど抑えられています。
 実際に試聴してみると、クラシック音楽でもポピュラー音楽でも音像の明快さはこれまでどおりですが、よりきめ細かく鳴るようになりました。ヤマハのブックシェルフ型スピーカーNS-B330で再生すると色彩感が出てきたように感じました。これなら私の日常用途として申し分ありません。

 本機は英国Mullard製出力管の音を鑑賞するためのパワーアンプです。「Mullard」は英国人創業者の名前ですが「マラード」と発音します。
 出力管には英国で1960年代に開発、使用されていたEL38を採用し、同じく英国Mullard製の旧型整流管GZ37を使用できる設計にしました。
 実は私は1995年にもEL38を使う小さなシングルアンプを「ラジオ技術」誌に発表しています。本機はその経験を踏まえて発展させた刷新版です。
 EL38と同じく英国Mullard社で製造された出力管には有名なEL34があります。オーディオアンプに使用されたほか、大規模なライブ公演で使う大出力ギターアンプにも多用されてきました。
 しかし英国での真空管製造は1980年代に終了しています。大量の在庫もどんどん消費され続けたため、現在ではまともに動作する英国製EL34を入手することは困難になってしまいました。
 その点EL38は同じMullard製ですが、EL34とは用途が異なるためギターアンプには使われません。そのため現在でも入手が容易です。真性の英国Mullardサウンドを手軽に聴くことができます。
 英国Mullard社が製造した初期のオーディオ用5極管にEL37という製品があります。EL38はその兄弟管で、テレビ受像機に使われていたブラウン管の水平偏向回路に用いられました。なお同社はブラウン管自体も製造していました。
 EL38がオーディオ用EL37と特性面で一番異なるのは、入力感度(gm)が格段に大きいことでしょう。
 この特性をオーディオアンプの観点で見ると、カソードNFB(KNFB)が大きく掛かるというメリットがうまれます。このときEL38は動作時の内部抵抗が大幅に減り、特性がオーディオ用3極出力管に近づきます。同時に多極管としての高出力も維持できます。
 UL接続から5極管接続に変更した理由はUL接続版の音質調整に苦労したためです。UL接続(特にシングルアンプ?)ではスクリーングリッドに直列に小さな抵抗を入れないと耳を刺激する高域成分が出現します。
 この刺激感を効果的に抑える抵抗値を見つけ出すのが非常にたいへんでした。音質調整がもっとらくに決まる「余裕」がほしいと思いました。そこでEL38本来の使い方である5極管接続版への変更を決めました。
 本機はUL接続版にはないスクリーングリッド電源を増設しました。この電源はステレオ音場を悪化させないために左右チャンネルで独立させる必要があります。
 スクリーングリッド電源においてもB電源と同様に電源品質が音質に大きな影響を与えます。電解コンデンサだけでは音に張りが不足する印象でした。そこでフィルムコンデンサを並列に抱かせることにしました。セラミックコンデンサの追加も試しましたが、音を聴きながら不要と判断しました。
 カソードNFBが15dBも効くため、実用上NFBはこれだけでも十分でしたが、UL接続版との違いを出すために、出力トランス2次側から初段に帰還をかけるオーバーオールNFBを加えました。
 オーバーオールNFBは帰還量が増えれば出力インピーダンス性能(ダンピングファクタ性能)が上がりますが、やたら上げればいいというものではありません。音が不自然に硬くなることがあります。本機は試聴しながら適切な聴き心地になる帰還量を探した結果、3.5dBに落ち着きました。
 結果としてダンピングファクタはUL接続版の3.0から4.5に上がっています(12AT7使用時)。
 UL接続版でも書きましたが、旧時代の整流管に対応するには回路上特別な注意を要します。
 たとえば本機で使いたいGZ37はわずか4μFに制限されています。米国製の直熱型整流管5R4GYも同様です。これを守らないと整流管が急速に消耗して故障の原因となります。
 4μFというのはB電源の平滑には小さすぎるためにリップル低減の能力不足以外にも難しい問題が出てきます。具体的には、10Hz以下の低周波の不規則な電圧変動がB電源に現れることです。
 そこでシミュレーション実験で探した特別な構成のπ(パイ)型フィルタでこの問題を解決しました。すなわちB電源平滑の入力コンデンサ(1段め)と次段コンデンサの間のデカップリングにチョークコイルではなく、固定抵抗器を用いたことです。
 なお整流管にはGZ34(5AR4)を使わないでください。整流効率がたいへん高いため、EL38のプレート損失が許容ぎりぎりとなって寿命を縮める恐れがあります。

 高域端での刺激感に対策するため、スクリーングリッドに直列に抵抗を入れました。組み上がり当初は必要ないはずと思っていましたが、どうやら違っていたようです。
 EL38がたいへんGmの高い性格であるために、高域での微小な共振が発生しやすいのでしょう。UL接続であるか5極管接続であるかを問わず、抑制抵抗を必要とするようです。
 測定上では変化が見られないのですが、聴感的な効果は明らかです。この処置に呼応してNFB回路の微分補正も調整し直しました。
 電解コンデンサに対する音質対策も調整し直しています。スクリーングリッド電源電解コンデンサの応答改善のために並列に入れているコンデンサを、フィルムコンデンサのみとしました(容量と銘柄も変更)。
 また、出力段カソードバイパスの電解コンデンサでも同様に、セラミックコンデンサではなくフィルムコンデンサ(マイラーコンデンサ)のみを並列に入れることにしました。
 B電源関係では、整流管直後の入力コンデンサに並列にフィルムコンデンサとセラミックコンデンサを追加しました。聴感上、高域端の刺激感が静まります。電源トランスに紛れ込む外部の高周波ノイズを吸収する結果ではないかと想像しますが、拙宅だけの問題かもしれません。
 本機を直熱型整流管(5U4Gや5R4GYなど)で運用する場合は、以下の手順で電源投入します。B電源が一時的に過大な電圧に達するのを防ぐためです。
 @電源スイッチを入れる前に整流管スイッチが切られていることを確認する。A電源スイッチを入れて18秒ほど待ってから整流管スイッチを入れる。B電源スイッチを切るときは整流管スイッチも切っておく。
 傍熱型整流管の場合は整流管スイッチを入れっぱなしで電源スイッチを入り切りしてかまいません。
 本機のサウンドはUL接続時と同じ傾向で鮮明ですが、ダンピングファクタが少し上がっているせいか低音のパワー感はいくぶん上かもしれません。
 ポピュラー音楽のバスドラムのキックには瞬発的なパワー感をけっこう感じます。クラシック音楽では低音楽器が膨らまずに波形が見える方向の聴こえ方です。
 初段管には多用な管種を使えますが、それぞれで音調が変わります。12AT7のサウンドはメリハリが強いのに対して、12AU7はやさしい聴き心地です。
 12AX7は増幅度が高いのでNFB量が少し増えます。そのためダンピングが上がるのですが、意外とふくよかな聴き心地です。
 12BH7のサウンドはメーカーによりかなり異なっています。米国GE製はクラシック向けのピラミッドサウンドを味わえました。一方、現代ロシア製は12AT7と似たような鳴りかたでした。
 欧州管のE80CCは特性としては12AU7と12AT7の中間くらいの管種ですが、爽やかで上品な聴き心地です。
 本機と同時期に発表した6AS7Gトランスドライブ・プッシュプルアンプの試聴記で本機との比較試聴をお読みいただけます。


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