「ラジオ技術」2019年7月号で発表した真空管式フォノイコライザ3号機です。パソコンに接続してLPレコードをデジタル化することが想定された設計なので入力セレクタの機能はありません。RIAAカーブのイコライジングと軽い電圧増幅のみを行います。
真空管式フォノイコライザの回路方式には「NF型」と「CR型」がありますが、本機は「NF型」です。低域はNFB量を減らし、高域は増幅度の減衰とNFB量の増加を組み合わせることによって高域と低域の出力電圧を加減する方式です。
本機の「NF型」は英国製プリアンプでよく使われていたEF86を使っていますが、12AU7を加えた2段増幅でイコライジングを行っています。イコライジング回路が増幅も兼ねる構成です。12AU7の負荷には固体抵抗を避け、真空管のコントロールグリッドの電界により電流を制御するSRPP変形型になっている点も特徴です。
終段の6C5には増幅を行わないカソードフォロワ回路を採用しました。パソコンや半導体式プリアンプなどの現代機器に対して低インピーダンスで出力します。 2022年に電源部の改良としてチョークコイルを左右ch分けて2個用いていたのを1個に簡略化しました。特性的な変化は特にありません。
また、出力コンデンサの容量を調整しました。この容量は低域レベルに影響があり、接続先機器の入力インピーダンスに対応して変える必要があります。相手側入力インピーダンスが20kΩの場合は1.5μF、50kΩの場合は0.68μFが適正値です。 入力配線は外部からのノイズ浸入を防ぐために撚り線からシールドケーブルに変更しました。初段12AU7とEF86には空中の電波を拾わないためのカバーをかぶせています。特にパソコンが近くに設置されているとパソコンから漏れ出す高周波ノイズが浸入することがあるので要注意です。
終段はカソードフォロワなので雑音を拾いにくく、カバーは必要ありません。ここには6C5のほかに6J5というタマも使えます。 |
フォノイコライザは非常に微小な電圧を扱うため、ごくわずかであっても電界や電位差の影響を受けやすく、配線上の繊細な工夫が求められます。残留ノイズを減らすことは回路動作の最適化にもつながるので、音質にも好影響があります。
高域の残留ノイズは製作当初から小さかったのですが、低音のハムノイズも改善しました。実用上の残留ノイズがどのくらいあるかというと、普段の音量のときにスピーカーに耳を近づけると、ツイーターから非常にかすかな「シュー」という音が聞こえ、ウーハーからかすかにハムノイズを感じられるという程度です。鑑賞席から残留ノイズに気がつくことはほとんどないでしょう。
本機は高域がきめ細かくしなやかなのが特徴です。上質なアナログっぽさを味わえます。 ダルマ型のST管6C5Gは1940年代に製造されたビンテージ管です。時代的に一番古いのは黒色に塗装されたメタル管で、筒型ガラス管のGT管は1960年代に製造された品種と思われます。いずれも本機に使えます。音色が少し違うのでタマを選ぶことで好みの音作りに活用できます。
真空管式フォノイコライザの音は半導体式とは本質的な違いがあるように聴こえます。半導体式は「パワー感のリアルさ」、真空管式フォノイコライザは「空気感のリアルさ」と言えるかもしれません。スピーカーと鑑賞者の間の空間に音が満ちるような感覚が真空管式の魅力だと思います(再生環境にもよります)。 本機のアース端子は当初飾り程度にしか考えていませんでしたが、シャーシアースに接続して機能を有効化しました。ハムノイズに限らずボソボソというデジタル機器がらみのノイズにも有効な場合があるようです。 製作の詳細と実体配線図は「ラジオ技術」をご覧ください。 |