845低電圧型シングル・パワーアンプ 最大出力8W (2023年)

オーナー:中国、広東省、茂名市のdhmchyさん

 NFB6.6dB時
最大出力 (クリップ前) 8W
周波数特性 (-1dB) 8Hz〜25kHz
ひずみ率 (1kHz, 1W時) 1.1%
ダンピングファクタ (1kHz時) 3.2
残留ノイズ (補正なし) 0.2mV〜0.4mV(最大出力とのSN比86dB)
入力感度 (最大出力時) 1.1V
回路図 電気的特性
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 2023年11月に発売された「ラジオ技術」2023年5/6月号に掲載したアンプです。当サイトでは雑誌に先立つ7月に先行発表しました。回路図と外観およびシャーシ内部写真は、記事原稿提出後の調整を反映した当サイトのものが最新・最終です。
 本機は大型出力管845のフィラメントの輝きを鑑賞するために作ったパワーアンプです。大パワーをめざすよりも、845を普段使いしやすいように設計しました。
 前作845シングルアンプで得た知見を生かしており、無理なく完成度の高いアンプに仕上がりました。
 845はその昔、アメリカの映画館や大ホールなどの音響設備に使用されていました。1000ボルトものB電源で大パワーを出せるのが最大の特徴です。この動作仕様で私が自作したのが、既作の845プレートチョーク・シングル・パワーアンプ(最大出力20ワット)です。
 しかし日本の家庭用としては、そこまでの大出力は必要ありません。そこで自作家の間では半分の500ボルトでの用法が試されており、「低電圧動作」などと呼ばれています。
 本機はこの500ボルト動作を採用しました。その結果、家庭用として十分な出力(8ワット)を備えながら、発熱が大幅に低減しました。重量面でも扱いやすくなっています。
 ただし500ボルトという電圧は一般的な真空管アンプから見ればけして低い電圧ではありません。通常の2倍の電圧が使用されていると考えるべきです。発熱もこれに比例して倍くらいあります。
 845という出力管は、大出力無線送信用の211をオーディオ用に設計変更したタマなので、両者は同じ素材で作られています(ただし動作条件が異なるので挿し替えはできない)。
 このような事情で、845は211の送信管としての特徴を一部受け継いでいます。すなわちコントロールグリッドをプラスの領域まで励振することができます。
 本機はこれを利用して、通常ならクリップ前6ワットどまりである最大出力を8ワットまで上げています。出力波形の片側が底つきクリップするのをかまわず入力を上げていくと、10ワットを超える動作が可能です。

 製作に先立って作成する初期回路は電気的な動作を設計するものであり、聴感的な音質までは担保できません。そのため私の場合は実機の組み立て後に音質調整を行います。
 アルミ電解コンデンサはアンプ内部で多用される部品ですが、高域応答能力に原理的な限界が存在しており、音質に大きく影響します。私の音質調整では主にこれの改善に時間を費やします。さまざまなジャンルの音楽を試聴し、いずれかの音源で納得いかない点が見つかれば対策します。
 過剰な対策で音質を悪化させないことも重要であり、試行錯誤しながら時間をかけて調整を行います。
 本機は出力管に固定バイアス方式を採用しています。そのため845を交換するときは必ず手動によるバイアス調整が必要になります。6FQ7が845用バイアス電圧を発生させているため、6FQ7を別の個体に交換するときも調整し直す必要があります。
 本機のバイアス調整には測定器が必要ですが、安価なテスターでかまいません。
 バイアス調整は次の手順で行います。アンプの電源を入れる前に6FQ7ソケットの両脇に備わる調整つまみを左いっぱいに回しておきます。テスターを0.5V〜1.0Vの範囲を測るレンジに設定し、プローブを黒色と赤色の測定端子に挿し込んで測定を始めます。すべての真空管を挿した状態でアンプの電源を入れます。7秒ほどでテスターの電圧値が上がり始めます。上昇が止まったら手動調整を始めます。調整つまみを右に回すと電圧値が増えます。
 この電圧値は出力管845のプレート電流を示します(0.6Vなら60mAを示す)。音質的に一番バランスがとれるのは0.67V(67mA)近辺です。
 なお本機のバイアス調整は設計上の制約から0.7V(70mA)を超えないでください。音質的にも70mAを超えると高域の伸びに悪影響が出ます。
 その他の注意として、6FQ7の銘柄によっては測定電圧が過大に出て調整範囲を超えることがあります。本機で推奨する銘柄は写真に掲載した3銘柄です。
 前段の2種類の電圧増幅管は、どの銘柄を組み合わせるかにより本機の音調にはっきりした違いが出てきます。写真の組み合わせは初段に旧ソ連製EF86、カソードフォロワ段に米国GE製6FQ7の組み合わせですが、解像度が高く空間の再現性に優れたサウンドです。初段に現代ロシア製のEF806 SGを使うと音色がはっきりして力感が出てきます。JJエレクトロニック製のEF806Sは純度の高いサウンドです。
 このタマ選びを含めて十分な調整を行うと、本機はトリタンフィラメントの3極管らしいきめ細かさと透明感、そして大型管のゆとりあるサウンドが聴けます。ジャズ、フュージョン、クラシック、ロックとジャンルを選びません。特にピアノは美しい響きを奏でます。
 価格的に手が届きやすいのは中国製845ですが、ダイナミックな表現とステージの再現力が長所です。ドイツ製のERLOG ER845という高価な845を借りて本機で聴いてみましたが、中域の音色が美しく香り高いサウンドでした。財布が許すのであれば間違いのない選択だと思います。
 本機にはNFB(負帰還)を入り切りできるスイッチを設けました。鑑賞する音源やスピーカーとの相性などで切り替えることができます。
 無帰還は音色が際立つ傾向があり、ジャズやロックと相性がよいようです。大編成のオーケストラならNFBを入れたほうが空間的表現が深くなるように感じます。

製作の詳細と試聴記、および実体配線図は「ラジオ技術」誌をご覧ください。


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