「ラジオ技術」に2015年から2017年にかけて合計7回にわたる記事を掲載していただいたアンプです。初期版から2年に及ぶ改良を経て完成しました。重量は32kgもあるので、移動させるには相当な筋力が必要です。最大出力はシングルアンプでありながら20Wもあります。845が現役時代だった昔なら映画館や大ホールで使われていたようなアンプです。これを家庭で使うのは贅沢の極みと言えるでしょう。
845と外観が瓜二つの真空管として211という管種があります。845がオーディオ用であるのに対して、211は元来、無線送信用として設計されています。オーディオ用にも使えますが、動作条件が異なるので単純な挿し替えはできません。 ドライバ管6BM8(5極部の3極管接続)に対してプレートチョークを使った理由は、ドライブ段のプレート電圧を確保するためです。チョークコイルの直流抵抗は固定抵抗を使ったときと比べて10分の1〜8分の1と格段に小さいので電圧降下が小さく、ドライバ管の動作範囲を広く取れます。
ドライバ管にとっての実質的な負荷は845のグリッド抵抗を兼ねる12kΩの抵抗です。ここは音質の要となる場所なので、Vishay-Dale製の精密無誘導巻線抵抗を使っています。
初段とドライブ段を直結したので、真空管保護のために整流管6CA4をB電源に入れました。電源投入時にB電源の電圧上昇を遅らせる役割です。
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音は比較的普通のハイファイ志向です。しかし一聴して底力にゆとりがあるところが違います。一音一音に芯が通っており、パワーが必要な場面をあいまいにしません。それでいて微妙なニュアンスを描き分けるデリケートさも備えています。手なずけるのに2年を要しましたが、1000V直熱管の味わいはやはり他機と一線を画すものがあります。
試聴した845真空管3種類はすべて最近の中国製で、昔と比較して品質がかなり向上しています。845BというタイプはAmperex AB150をめざした製品のようで、低音の力感に重点を置いた音がします。グラファイトプレートの厚みが通常の1.3倍くらいあることが効いているのかもしれません。どちらかというとトランジスタアンプ的な音に聞こえます。
845Cというタイプはプレートがグラファイトではなく金属(おそらくニッケル)の板でできています。元々は米国人発案の製品ですが、WEの284Dや英国のDA100をめざしているのかもしれません。音は高域の浸透力と繊細さに特徴があります。
通常版の中国製845は両者のいいところをとった中間的な音がします。値段が安いのですが、これはこれで魅力的な音だと思いました。 製作の詳細と実体配線図は「ラジオ技術」をご覧ください。 |