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『八月はエロスの匂い』['72]
『魔性の香り』['85]
『団地妻 女の匂い』['73]
『エロスは甘き香り』['73]
監督 藤田敏八
監督 池田敏春
監督 白鳥信一
監督 藤田敏八

 シリーズ『みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ#102』とともに収録されていたディスクの八月はエロスの匂い【川村真樹・片桐夕子】、魔性の香り【天地真理】、団地妻 女の匂い【宮下順子】、エロスは甘き香り【伊佐山ひろ子・桃井かおり】というラインナップの共通テーマは、「“におい”と“かおり”」。その違いと連想について、みうらじゅんが軽妙な語りを添えていたが、両者に「気」の一文字を添えると一般的イメージは端的になる気がする。多くの人にとっての“におい”が“かおり”になったり、“かおり”が“におい”になったりするところがマニアや人間の面白いところだというようなことを言っていた。+1は㊙色情めす市場['74](監督 田中登)となっていた。

 最初の作品『八月はエロスの匂い』は、二十年ぶりの再見となった。感想としては当時の日誌と変わるところはないが、今回の括りで観ると早々に、全裸でベッドに伏せて、「先生」と呼ぶ男の帰りを待ち、裸の背に掛けられた男の上着の移り香を嗅ぐ中原圭子(川村真樹)の姿から始まっていることが目に留まった。

 次に観た『魔性の香り』は、ちょうど四十年前に劇場観賞して以来の再見となった。青い光を放つ線香花火のショットで始まったタイトルの表示が「魔性の、香り」となっていたが、作品名は専ら『魔性の香り』で流通しているように思う。四十年前に観たときほどではないけれども、花火と水を印象づけるイメージショットが利いているし、三十路半ばの天地真理がなかなか頑張っていて感心した。
 しょせん男女の間に煌めくエロスの高まりは花火の如く儚く、その関係の持続性は願えども叶わぬものとの諦観が身に沁みた秋子(天地真理)にとって、相手は殺人犯なのかもしれないと思いつつも結婚を申し出てくれた江坂(ジョニー大倉)との関係におけるピークを迎えた後の投身自殺は已む無きものだったのかもしれない。ブレッソンのやさしい女['69]のエル(ドミニク・サンダ)、ルコントの髪結いの亭主['90]のマチルド(アンナ・ガリエナ)の自殺を想起した。
 入水自殺の未遂に始まり、投身自殺の完遂で終えた作品を観ながら、幸薄きなか性行為の介在の如何によらず男と交わる時だけ花開いているような秋子の光と影を、オンステージの華やかさとオフステージの暗さが印象深い天地真理が思いのほかよく演じていたように思う。いくぶん投げやりな影射す口調の語りがよく、劇中で時折ふっと見せていた往年を彷彿させる笑顔が痛切だった。シーンとして“におい”や“かおり”が印象に残る場面はなかったように思うが、天井から抜け落ちてくる大量の水や居室にひた寄せる水を映し出した場面に驚き、ロマポ作品とは思えない予算オーバーを感じた。

 三番目の『団地妻 女の匂い』は、今回が初見。ロマポ人気シリーズの「団地妻」の何作目に当たるのかは知らないが、夫妻で監督(信一)・脚本(あかね)を担った本作のどこに「匂い」があったのか見当もつかなかった。ただ「“におい”と“かおり”」と仮名で提示されたテーマについては、臭気や香気と違って「気」の一文字が付かない「匂い」というのも確かにあったなと思ったりした。
 また“におい”や“かおり”と極めて親和性の高いフェティッシュに繋がるものとして、勢いよく放たれる瀑布を浴びるが如き輪姦をアバンタイトルにして始まった本作で、男たちに襲われていた葉子(宮下順子)の腋毛を印象づけていた辺りにそれが窺えなくもないものの、筋立てに何ら絡んでこなかったのは苦しいところだ。
 性被害を蒙ったショックで過去の記憶を失くしている葉子と夫との関係、今や指名手配犯になっているかつての教え子テツとの関係も、まるでピンと来なかった。宮下順子の演じていた葉子よりも絵沢萠子の演じていた波江のほうが愛嬌も感興も優っていたように感じ、元教師で葉子の同僚だった中谷(坂本長利)の葉子への執着の気が知れなかった。作り手は、本作で何を描きたかったのだろう。

 最後は再び藤田監督の『エロスは甘き香り』だったが、二十年前に劇場観賞して以来の再見だ。先ごろ亡くなった長谷川和彦が助監督だった。
 『濡れた欲情 特出し21人』['74]、『㊙女郎責め地獄』['73]との三本立てで観た当時のメモには恒例化しつつある“日活ロマンポルノ傑作選”だが、今回は、いずれも脚本がけっこう滅茶苦茶でゲンナリ。なかでは、『エロスは甘き香り』が、ふっくらしたあどけなさの残る顔の当時21歳の桃井かおりの肢体があられも惜しげもなくて眼福。それにしても毎回のようにストリップ嬢ものが入ってるのは、館主さんの趣味なんだろうか(笑)。今回の『濡れた欲情 特出し21人』は“浅草ロック座”と宝由加里一座がフューチャーされた旅興行ものだったが、いかにも当時の踊娘たちのやさぐれ感が11年後の『美加マドカ 指を濡らす女』との格段の違いとして風俗資料的な面白味があったものの、なんか片桐夕子も冴えず。 とあった。
 前年の『八月はエロスの匂い』と同じく脚本には大和屋竺の名があり、川村真樹が出ているが、本作の見所は二十年前のメモにもあるように柳沢悦子を演じた桃井かおりに他ならないと改めて思った。僕には、エロスも甘きも香りも漂ってこない作品で、まるでピンと来ないのだが、何ともだらしなく奇妙奇天烈な五人の若者は、当時の時代的閉塞感を体現していたのかもしれないとは思う。だが、五人の若者よりも、売れないカメラマン浩一(高橋長英)に秘密の現像を頼む中年男(山谷初男)の謎めいた怪しい風情が気に入った。
by ヤマ

'26. 5. 5~7. スカパー衛星劇場録画



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