『卓球温泉』['98]
監督・脚本 山川元

 先ごろ亡くなったダイアン・キートンは、原則一女優一作品の我が女優銘撰での最多作品を挙げている女優なのだが、日本映画で最多となる松坂慶子の三作品のうちの一本が本作で、観た年度のマイベストテンにも挙げながら、日誌を綴っていなかった作品だ。

 お話としては他愛なく、御都合主義という言葉を寄せるのも筋違いだと思えるほどに展開の都合など眼中にない堂々たる造りが気持ちの好い映画だと改めて感じた。競技卓球の対極にある温泉卓球を材に、温泉について語る園子(松坂慶子)の言葉を借りて、心身の「健康の回復とコミュニケーション」の人にとっての大切さを、笑いと共にストレートに投げ込んでくる“Love All”な映画だったように思う。

 当時四十路も半ば過ぎていた松坂慶子は、僕より年上だったが、今だとニ十歳も下になる。混浴と知らずに入っていた露天風呂で、独りをいいことにアーティスティックスイミングの真似事をしていたところを目撃した客(大杉漣)が、驚き恥じ入る園子に狼狽しつつ言った若くて綺麗な人に苦笑していたけれども、本当に若くて綺麗で可愛らしく溌溂とした本作での姿に魅せられた。そして、その芸達者ぶりにも改めて感心させられた。

 また、ピンポン球とラケットのアドバルーンが寄り添うショットを懐かしく観つつ、卓球映画と言えば、ピンポン['02]の四年前となる本作の窪塚洋介【園子の息子】の初々しさが目を惹いた。併せて、運命じゃない人['05]で神田を演じて印象深かった山中聡がそういうのはいけません。そういう思いやりのない球はいけませんと園子から言われる高田屋の公平を演じていたことに気づいた。

 大旦那を演じていた桜井センリもなかなか味があって好く、俺がいなくたって会社はつぶれん。だが、母さんがいないと家が潰れるんだと言って息子を連れて卓球温泉に向かう藤木を演じた蟹江敬三も印象深い。実に目出度く、好い映画だと思う。玉手箱の湯煙が招く奇跡にも素直に乾杯だ。

 監督・脚本の山川元は、この後東京原発['02]を撮った後、とんと音沙汰がなくなった。べらぼうに面白い映画だっただけに何とも惜しいというか、勿体ない。もしかすると、干されたというか、潰されたのだろうか。
by ヤマ

'25.10.30. YouTube配信動画




ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>