平成18年9月  久留米大学法学55号
第二次納税義務者の主たる課税処分に対する
不服申立期間の起算日(租税判例研究)
                           図子善信

最高裁平成18119日第一小法廷判決

平成16年(行ヒ)第275号裁決取消請求事件

(裁判所時報第1404号74頁)
                                

事実の概要

1  麹町税務署長は、A社に対し、平成14年3月29日付けで法人税の決定処分および無申告加算税賦課決定処分(以下「本件課税処分」という。)を行い、同年4月3日、本件課税処分の通知書が同社に到達した。

2  東京国税局長は、X(原告、被控訴人、上告人)に対し、同年6月7日、A社の本件課税処分に基づく滞納国税につき、国税徴収法39条(無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務)に基づく第二次納税義務の納付通知書を発し、同月8日、上記納付通知書がXに到達して、第二次納税義務の納付告知(以下「本件告知」という。)がされた。

3  Xは、同年8月6日、本件告知に対して異議申立てをするとともに、本件課税処分に対しても異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。

4  東京国税局長は、同年10月11日、本件告知に係る異議申立てについて納付限度額変更の異議決定をしたが、本件異議申立てについては、同月17日、不服申立期間は本件課税処分がA社に送達された日の翌日から起算して2か月を経過する同年6月3日までであり、本件異議申立ては不服申立期間を経過した後にされたものであるとして、これを却下する旨の決定をした。

5  そこで、Xは同年11月8日、本件課税処分について審査請求をしたが(なお、同日、本件告知についても審査請求している。)、国税不服審判所長(被告、控訴人、被上告人)は、同15年4月7日、本件異議申立ては不服申立期間を経過した後にされた不適法なものであり、本件課税処分に係る審査請求は適法な異議申立てを経ないでされた不適法なものであるとして、国税通則法92条に基づき、これを却下する旨の裁決をした。

6  なお、A社も、同14年7月22日、本件課税処分に対する異議申立てをし、同年10月17日、東京国税局長から、不服申立期間を経過した後にされた申立であるとして、これを却下する旨の決定を受けたため、同年11月15日、本件課税処分について、審査請求したが、同年12月、上記審査請求を取り下げている。

7  Xは、第二次納税義務者がする主たる課税処分の不服申立ての不服申立期間の起算日は、第二次納税義務者の主たる課税処分の知不知にかかわらず、第二次納税義務賦課決定の納付告知書の送達を受けた翌日と解すべきであるとして、訴えを提起した。

8  第一審(平成16年1月22日東京地裁判決)は、第二次納税義務者は、本来の納税義務者に対する課税処分(以下「主たる課税処分」という。)の取消しを求めるにつき法律上の利益を有し、その適否を争う地位を認められるべきものであるところ、第二次納税義務者が主たる課税処分に対して不服申立をする場合の不服申立期間の起算日は、主たる課税処分が本来の納税義務者に告知された日の翌日ではなく、第二次納税義務者に納付告知がされ、第二次納税義務が発生した日の翌日と解すべきであるとして、本件裁決を取消した。

9  控訴審(平成16年6月15日東京高裁判決)は、第二次納税義務者は、主たる課税処分に対する不服を申し立てる適格を有せず、本件裁決に違法はないとして請求を棄却すべきものとした。これに対しXが上告したものである。

 

判決要旨(破棄自判)

1 原審は、以下の理由により上告人の請求を棄却すべきものとした。

(1)             「第二次納税義務制度は、本来の納税義務者との間に実質的な一体性を肯定しても公平に反しないような利害共通の関係がある第三者に補充的に納税義務を負担させるものであり、権利救済の面においても、主たる納税義務を争う第二次納税義務者の訴権は、本来の納税義務者によっていわば代理行使されるものとみて、主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有する第二次納税義務の納付告知により、第二次納税義務者に対し、本来の納税義務者との間で確定した主たる納税義務の存否および数額を所与のものとしてその履行責任を負担させるというものである。」

(2)             「そうであるとすれば、納付告知を受けた第二次納税義務者は、あたかも主たる納税義務について徴収処分を受けた納税義務者と同一の立場に立つものであるということができ、本来の納税義務者とは別に、主たる課税処分について不服を申し立て又は訴えを提起する固有の利益は有しないものと解するのが相当である。」

2 しかしながら、上告人が主たる課税処分である本件課税処分に対する不服を申し立てる適格を有しないとした原審の判断は是認できない。その理由は、次のとおりである。

(1)             原告適格について

国税徴収法39条に定める第二次納税義務は、「本来の納税義務者に対する主たる課税処分等によって確定した主たる納税義務の税額につき本来の納税義務者に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、前記のような関係にある第三者に対して補充的に課される義務であって、主たる納税義務が主たる課税処分によって確定されるときには、第二次納税義務の基本的内容は主たる課税処分において定められるのであり、違法な主たる課税処分によって主たる納税義務の税額が過大に確定されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額は当然に大きくなり、第二次納税義務の範囲も過大となって、第二次納税義務者は直接具体的な不利益を被るおそれがある。他方、主たる課税処分の全部又は一部がその違法を理由に取り消されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額が消滅し又は減少することになり、第二次納税義務は消滅するか又はその額が減少し得る関係にあるのであるから、第二次納税義務者は、主たる課税処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するというべきである。

      そうすると、国税徴収法39条所定の第二次納税義務者は、主たる課税処分につき国税通則法75条に基づく不服申立をすることができるものと解するのが相当である。」

      「本来の納税義務者によって第二次納税義務者の訴権が十分に代理されているとみることは困難である。」

(2)             不服申立期間の起算日について

「第二次納税義務は、本来の納税義務者に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められるときに、初めて、その義務が成立するものであり、主たる課税処分の時点では、上記のような第二次納税義務が成立する要件が充足されるかどうかが未確定であることも多い。したがって、本来の納税義務者以外の第三者がそのような段階で主たる課税処分の存在を知ったとしても、当該第三者において、それが自己の法律上の地位に変動を及ぼすべきものかどうかを認識し得る状態にはないといわざるを得ない。他方、第二次納税義務者となる者に主たる課税処分に対する不服申立の適格を肯定し得るのは、納付告知を受けて第二次納税義務者であることが確定したか、又は少なくとも第二次納税義務者として納付告知を受けることが確実となったと客観的に認識しえる時点からであると解される。そうであるのに、不服申立の適格を肯定し得ない段階で、その者について不服申立期間が進行していくというのは背理というべきである。」

「そうすると、国税徴収法39条所定の第二次納税義務者が主たる課税処分に対する不服申立てをする場合、国税通則法77条1項所定の「処分があったことを知った日」とは、当該第二次納税義務者に対する納付告知(納付通知書の送達)がされた日をいい、不服申立期間の起算日は納付告知がされた日の翌日であると解するのが相当である。」

  以上によれば、本件審査請求が適法な異議申立てを経ていないことを理由としてこれを却下した本件裁決は取り消されるべきである。

(3)             泉徳治裁判官の補足意見

「国税局長又は税務署長は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない(国税徴収法32条)。この納付通知書による告知(以下「納付告知処分」という。)は、本来の納税義務者に対する課税処分(主たる課税処分)により確定した国税を徴収するためのものではあるが、単なる徴収手続上の一処分にとどまるものではなく、本来の納税義務者とは別人格の第二次納税義務者に対し、新たに納税義務を成立させ確定させる性質も有している。第二次納税義務者の納税義務は、この納付告知処分によって成立し確定するのである。納付告知処分の要件の一つとして主たる課税処分が組み込まれているが、第二次納税義務者の納税義務と、本来の納税義務者の納税義務とは別個独立のものである。従って、第二次納税義務者は、自己の第二次納税義務の成立自体に関わる問題として、納付告知処分の内容に組み込まれた主たる課税処分の違法性を、独自に争うことができるというべきである。主たる課税処分の公定力は、第二次納税義務者が自己に課せられた納税義務、すなわち第二次納税義務を争うために、その要件の一部を構成する主たる課税処分の違法性を主張することを妨げるものではない。換言すると、第二次納税義務者は、独自に、納付告知処分の取消請求の中で主たる課税処分の違法性を主張することができると解すべきである。そうすると、第二次納税義務者は、自己の法的利益を守るため、主たる課税処分の取消し自体を請求するまでの必要がなく、主たる課税処分の取消訴訟の原告適格を有しないというべきである。」

  しかし、以上の見解は、最高裁昭和50年8月27日第二小法廷判決の変更を必要とするものであるが、本件は納付告知が争われている事案ではなく、上記判決変更に適切な事案ではないので、多数意見の結論に同調する。

 

解説

 判決は正当と考える。以下、その理由およびこの判決から導かれるいくつかの事項について述べる。

1 原告適格

(1) 主たる納税義務の課税処分に原告適格を認める必要性

   第二次納税義務は、納税者(主たる納税義務者)の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足がある場合に、納税者と特定の関係にある者に対して、課されるものである。判決文中に「前記のような関係にある第三者」とは、国税徴収法33条から41条に定める納税者と特定の関係のある者のことであり、無限責任社員、人格のない社団の財産の名義人、国税を納付しないで残余財産を分配した精算人等が定められている。本件で適用された国税徴収法39条は、滞納者から滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に無償又は著しい低額で財産を譲り受けた者等を第二次納税義務者と定めている。しかし、第二次納税義務の前提となる納税者の税額は、第二次納税義務者の関知しないところで決まるものであり、その税額に誤りがあった場合に第二次納税義務者はどのように争うことができるのかが問題とされてきた。

   最も便宜な方法は、第二次納税義務を課す納付告知処分の取消しを求め、そこで取消原因として主たる納税義務の税額の誤りを主張することである。しかし、主たる納税義務の税額が課税処分により確定した場合、行政行為の公定力により課税処分の違法を第二次納税義務の告知処分の争いで主張することはできないと考えられている。

これに関する、最高裁昭和50年8月27日第二小法廷判決(以下「50年最判」という。)(注1)は、地方税法の第二次納税義務についてであるが、「その納付告知は、形式的には独立の課税処分であるけれども、実質的には、右第三者を本来の納税義務者に準ずるものとみてこれに主たる納税義務についての履行責任を負わせるものにほかならない。この意味において、第二次納税義務の納付告知は、主たる課税処分等により確定した納税義務の徴収手続き上の一処分としての性格を有し、右納付告知を受けた第二次納税義務者は、あたかも主たる納税義務について徴収処分を受けた本来の納税義務者と同様の立場に立つに至るものというべきである。したがって、主たる課税処分等が不存在又は無効でないかぎり、主たる納税義務の確定手続きにおける所得誤認等の瑕疵は第二次納税義務の告知処分の効力に影響を及ぼすものではなく、第二次納税義務者は、納付告知の取消訴訟において、右の確定した主たる納税義務の存否又は数額を争うことはできないと解するのが相当である。」としている。

差押等の徴収処分の取消の争訟において、滞納に係る税額を確定した課税処分の違法を争えないとするのが定説であるが、その根拠は課税処分に認められる行政行為の公定力にあると考える(注2)。

以上のとおり、最も便宜と考えられる方法は、行政行為の公定力の論理により許されないのである。そのため次善の方法として、主たる納税義務の税額を確定する課税処分を、第二次納税義務者が争うことができるか否かが問題とされた。

(2)             主たる納税義務の税額確定処分に対する原告適格の有無

   第二次納税義務者が、主たる納税義務の課税処分を争うことができるか否かは、第二次納税義務者が主たる納税義務の課税処分の取消訴訟について、原告適格を有するか否かの問題として議論される。取消訴訟の原告適格が認められれば、不服申立の適格も認められるべきであるからである。

   この問題について、大阪高裁平成元2月22日判決(注3)(以下「元年大阪高判」という。)は、「主たる課税処分等と第二次納税義務の告知との関係及びその間に違法性の承継が認められないことなどに照らすと、第二次納税義務者は、主たる課税処分等そのものの取消を求めるについて、前記説示にかかる法律上の利益を有する者にあたるものというべく、したがって、第二次納税義務者の救済のために、主たる課税処分等そのものに対して第二次納税義務者が取消訴訟を提起することができるものと解するのが相当であり、この理は、第二次納税義務を課されるおそれがある者が現実に納付告知を受けるまでの間においても、これを別異に解する要をみないものというべきことは、前記無効確認訴訟について説示したところと同様である。」として、原告適格を広く認めている。この判断は、上告審判決(注4)で維持されている。判決文中の「前記説示」とは、行政事件訴訟法9条の「当該処分又は裁決の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者」の解釈について、反射的利益あるいは事実上の利益の侵害がある場合はこれに該当せず、法律上保護された利益を有する者に限り原告適格を有するとの見解である。

   本件第一審および上告審判決は、元年大阪高判及び最高裁判決の結論に則し、第二次納税義務者に原告適格を認めたものであり、正当と考える。

(3)原告適格の限定

元年大阪高判は、第二次納税義務を課されるおそれがある者は、第二次納税義務の納付告知前であっても原告適格を有するとしており、その判断は最高裁においても維持されていた。しかし、そのような段階で法の保護する利益の侵害があったといえるかは疑問があった(注5)。また、本件第一審判決が、主たる課税処分がされたにすぎない段階で、後に第二次納税義務者となる可能性がある者に不服申立(原告)適格や不服申立て(訴え)の利益を認めることにつき、「このような段階で不服申立の利益を容認すれば、主たる課税処分につき第二次納税義務が発生するか否かが不明の段階でかえって多くの者が予防的に不服申立をする可能性が広がることとなり、被告のいう徴税の安定と能率を妨げる結果となると考えられる。」と疑問を呈するように、元年大阪高判は、不必要に原告適格の範囲を広げていたと考えられる(注6)。

本件の第二審判決は、元年大阪高判の原告適格を無限定に拡大する論理的な不備を突くものであり、また最高裁平成6年12月6日第三小法廷判決(以下「6年最判」という。)(注7)が50年最判より主たる納税義務者と第二次納税義務者との一体性を強調するものであったこともあり(注8)、法の保護する利益を厳格に解したものであろう。しかし、従来の行政事件訴訟における判例の傾向は、法の保護する利益説の立場をとりつつ比較的広く原告適格を認めており、第二審判決はこの流れに反するものといえる。

   本判決は、第二次納税義務者に原告適格を認めつつも、広く原告適格を認める元年大阪高判およびそれを維持した最高裁判決と異なり、納付告知を受け第二次納税義務を課された者、又は少なくとも第二次納税義務者として納付告知を受けることが確実となった者に限り原告適格を認めるものである。それは、元年大阪高判およびその上告審判決が判示した原告適格の範囲を狭く修正するものと考えられ、その点でも正当であると考える。

 

2 不服申立期間の起算日

(1)通則法77条の「処分があったことを知った日」の意義

  通則法77条1項は、不服申立期間の起算日について「処分があったことを知った日(処分に係る通知を受けた場合には、その受けた日)の翌日」と定めている。本判決は、「不服申立ての適格を肯定し得ない段階で、その者について不服申立期間が進行していくというのは背理というべきである。」として、原告適格の成立の時を不服申立の起算日の基準としている。 そして、原告適格は納付告知を受けた時または納付告知を受けることが確実となった時に成立する。すなわち、第二次納税義務が課される可能性があるとしても、それが未確定な場合は仮にその処分があったことを知ったとしても、不服申立期間は進行しないとするのである。特に徴収法39条の第二次納税義務者の場合、処分があったことを知った日を、第二次納税義務者に対する納付告知がされた日と特定している。

   処分の不服申立期間の起算日を、別の処分を基準に決定することは異例であるが、判決の論理は説得力があり妥当と考える。「処分があったことを知った日」の解釈を、事実として知った日ではなく、その処分が自分の法律上の利益を侵害するものであると認識した日と実質的に解するもので、この論理が広く適用できるのであれば行政争訟において影響が大きいのではないだろうか。少なくとも課税処分に係る第二次納税義務者の権利救済の面では、次に述べることからも、ほぼ満足すべき結果となる。

(1)             1年経過の「正当な理由」

   本件で問題とされた不服申立期間は、国税通則法77条1項が定める処分があったことを知った日の「翌日から起算して2月以内にしなければならない。」との規定の適用の問題であった。しかし、不服申立期間は77条1項に定めるだけではなく、同条4項が、「不服申立ては、処分があった日の翌日から起算して1年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」と定めている。

元年大阪高判は、第二次納税義務者に主たる納税義務の課税処分についての原告適格を認めたのであるが、それによる第二次納税義務者の権利救済は限定的であると考えられてきた(注9)。その理由は、本件第一審判決において、「主たる課税処分がされた後、主たる納税義務者の財産の滞納処分に着手し、第二次納税義務発生の要件を具備することが確定するまでには相当の期間を要することがありうることは被告も認めるところであり(前記第2,3(1)イ)、ほとんどの場合第二次納税義務の告知処分がされる際には既に不服申立期間が経過してしまうことが想定され、第二次納税義務者の不服申立権は事実上封殺されることとなる。」と指摘されているとおりである。

しかし、本判決の論理によると、原告適格が成立していなかったことは、4項の定める「正当な理由」となるであろう。そうすると、第二次納税義務者は、主たる課税処分から1年を経過した場合でも、常にその処分を争うことが可能となる。結果的には、第二次納税義務者の権利救済のため最も便宜な方法である、第二次納税義務の告知処分の取消争訟において主たる納税義務の課税処分を争うことを許容するのと同じ結果となる。

その場合、主たる課税処分を争うのであるから公定力は問題とならないが、同時に課税処分が長期にわたり不可争性を有しないこととなり、行政の不安定をもたらすことになる。これに伴う種々の問題に対して何らかの制度上の措置が必要となるであろう。

 

3 補足意見について

  泉裁判官の補足意見については、課税処分の公定力の理解に関して疑問がある。

泉裁判官は、「第二次納税義務者は、独自に、納付告知処分の取消請求の中で主たる課税処分の違法性を主張することができると解すべきである。」と最も便宜な方法を主張している。そして最も便宜な方法が許されない理論的問題である公定力について「主たる課税処分の公定力は、第二次納税義務者が自己に課せられた納税義務、すなわち第二次納税義務を争うために、その要件の一部を構成する主たる課税処分の違法性を主張することを妨げるものではない。」として公定力を制約している。その理由として、「第二次納税義務者は、自己の第二次納税義務の成立自体に関わる問題として、納付告知処分の内容に組み込まれた主たる課税処分の違法性を、独自に争うことができるというべきである。」と述べる。

  公定力は行政行為に認められる効力として理解するのではなく、大量、迅速処理という行政の特色から定められた争訟の方法、期間の限定などの法定の制約の結果であるとの有力説(注10)は、説得力に富むものである。その見解の下では、争う手段を認められていない者に対しては、公定力は働かないとの解釈も成り立ちうると考える。しかし、税法を含むわが国の行政法が、公定力をそのように限定的に解する前提で構成されていると考えることには疑問がある。少なくとも従来の判例は、公定力を行政行為に認められる効力として理解しているものと考える。

泉裁判官の見解は、このような公定力の限定解釈に立つものとは異なり、公定力を否定

する理由を主たる納税義務の税額が第二次納税義務の課税要件事実となっていること

に求めている。しかし、公定力を「行政行為は、たとえ違法であっても、無効と認められる

場合でない限り、権限ある行政庁または裁判所がそれを取り消すまでは、一応法効力が

あるものとして通用し、相手方はもちろん他の行政庁、裁判所、その他第三者もその効力

を承認しなければならないという効力。」(注11)と解する限り、行政行為によって確定され

た主たる納税義務の税額は、それが取り消されていない以上別の処分である第二次納税

義務の納付告知処分の違法性を審理する行政庁、裁判所はその効力を否定できないと

いうべきである。

 

4 関連する問題

(1)納付告知処分の意義について

    50年最判は、第二次納税義務の納付告知処分を形式的には課税処分であるが、実質的には徴収処分と位置づけた。6年最判は、納付告知処分を徴収処分と断じており、それが形式的に課税処分であるか否かには触れていない。

   本判決は、「納付告知によって自ら独立した納税義務を負うことになる第二次納税義務者の人的独立性を、すべての場面において完全に否定し去ることは相当ではない。」として、納付告知処分を課税処分と判断している。

第二次納税義務の納付告知処分が、納税者と別人格の第二次納税義務者に一定金額の納付を求めるものである限り、債務を発生させる処分であることは否定できない。その意味で第二次納税義務制度は、すべて形式的には課税処分として構成されているといえる。

本判決は、そのことを再確認するものであり、これにより第二次納税義務制度を民法上の保証債務に類似した債務の体系として位置づけることが可能となると考える。第二次納税義務については、保証債務と同様に主たる納税義務に対する付従性、補充性が認められるとされ、徴収実務においても保証債務類似の理解をしていた面があり、そのような理論構成に実務上の困難は少ないと考える。

ただ、現行の第二次納税義務制度は、納税者と別人格の者に一定債務を発生させるけれども、別人格とはいえ実質的には同一人格と捉えられる関係のものに限定している建前であることから、第二次納税義務者が主たる課税処分の違法を争う方法を定めていないのである。けれども、本判決が指摘するように国税徴収法39条の第二次納税義務者の場合は、実質的に同一人格として捉えることに無理があり、その意味では第二次納税義務制度に不備があると考える。本判決により、課税処分に係る第二次納税義務者の権利救済は可能となるが、制度の不備は修正されることが望ましい(注12)。その方法としては、本判決に則して第二次納税義務者に一定の限定付の不服申立期間の特則を設けることも一方法と考える。

 

(2)第二次納税義務の発生

   国税について国税通則法は、成立と同時に確定する場合も含めて納税義務の成立と税額の確定を区分している。しかし、国税通則法は、第二次納税義務の成立について規定していない。 第二次納税義務についても、納税義務すなわち債務の成立と税額の確定に区分して理解する必要があるであろうか。

   義務の成立と税額の確定を区分する実益は、所得のように課税標準の算定に一定の時間と判断を要する場合に、その課税標準の確定以前に税額未確定のまま債務を成立させ、場合によっては繰上保全差押により納税者の財産を保全し、もしくは相続を可能とするところにある。第二次納税義務について、一般の国税のように課税要件を充足したときに納税義務が成立すると考えると、第二次納税義務の課税要件は「滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるとき」である。「認められるとき」は、理論的には認識できるはずであるが、現実には税務行政庁が認めたときとなるであろう。そうであれば、税務行政庁が認めたときに債務が成立し納付告知により税額が確定すると解する必要はないものと考える。むしろ、税務行政庁がその認識を明示した納付告知により成立・確定する、すなわち、納付告知により第二次納税義務が発生すると解するのが合理的と考える(注13)。その点で、泉裁判官の「第二次納税義務者の納税義務は、この納付告知処分により成立し確定するのである。」との見解は正当である。債務の成立は、第二次納税義務者の主たる納税義務の課税処分に対する原告適格の成立と関連すると考えられることから、納付告知以前に第二次納税義務が成立すると解する必要はない。6年最判および本判決の論旨も、これと矛盾するところはないものと考える。

(3)国税徴収法39条以外の第二次納税義務

   本件の第一審判決では、原告適格および不服申立期間の起算日に関して、国税徴収法39条の第二次納税義務に限定せず、第二次納税義務一般の問題として論理を展開している。それに対し、本判決は、「国税徴収法39条所定の第二次納税義務者は、主たる課税処分につき国税通則法75条に基づく不服申立てをすることができるものと解するのが相当である。」とし、また国税徴収法39条の第二次納税義務者の不服申立の起算日は納付告知の日の翌日と判示するなど、国税徴収法39条に限定して判断しているように見える。

   確かに、本判決は国税徴収法39条の第二次納税義務者を他の第二次納税義務者と性質が異なると判断しているようであるし、「第二次納税義務者の人的独立性をすべての場面において完全に否定し去ることは相当ではない。」として人的独立性を否定する可能性を認めていることから、国税徴収法39条以外の第二次納税義務者には異なる判断がされる可能性は否定できない。しかし、それはまさに納税者と第二次納税義務者が実質的に同一と解することができる場合であろうから、第二次納税義務制度の建前どおりであり、権利救済の面で欠けるところはないであろう。

(4)納税申告に係る第二次納税義務

   第二次納税義務者の権利救済の問題は、従来、納税者の税額が課税処分により確定した場合の問題でとして議論されてきた。しかし、納税者の税額が納税者の納税申告により確定する場合も、第二次納税義務者の課税要件事実の基礎をなす納税者の税額が、第二次納税義務者の関知しないところで確定されることになる。

   納税申告を提出した者は、納付すべき税額が過大であるときは、法定申告期限から1年以内に税務署長に対して更正の請求をすることができる。そして、この更正の請求制度が設けられていることから、それ以外の方法は重大に瑕疵があることが明白でない限り、認められないと解されている(注14)。これは、納税申告に行政行為の公定力に類した効力が認められているようにもみえる。一方、第二次納税義務者に対して納税者の納税申告の誤りを正す手段は、税法上認められていない。それでは、納税者の納税申告により税額が誤って過大に確定された場合、第二次納税義務者の権利救済はどのように考えるべきであろうか。

   本判決はこれに関して、「主たる納税義務が申告によって確定する場合には、第二次納税義務者が本来の納税義務者の申告自体を直接争う方法はないのであるが、そのことから逆に、行政権の違法な行使によって権利利益の侵害が生じる場合にまで、これを争う方法を否定する結論を導くべきであるとは考えられない。」としている。すなわち第二次納税義務者が、申告自体を直接争う方法はないとしている。これは、第二次納税義務者が更正の請求ができないこととの均衡から、課税処分についても不服申立適格を有していないとの主張に対する見解である。ここで「直接争う方法はない」と表現している趣旨は、間接的に争うことは認められる可能性があるということであろう。

   本判決は、第二次納税義務が発生する場合には、長期間経過後も課税処分を争うことを可能としているが、すべての課税処分は常に第二次納税義務を発生させる可能性を含んでいる。そうすると、本判決は、課税処分については、実質的には不可争性の成立を否定したとも考えられる。

   公権力の行使であり、公定力を有するとされる課税処分についても、実質的に不可争性を否定する結論から考えると、私人の公法行為たる納税申告に課税処分より強い不可争性を認めることはできないであろう。また、納税申告には、前述のように公定力に類した効力が認められるが、それは争訟の制限による反射的効力と考えるべきで、行政行為の公定力と同視すべきものではない。

そうすると、納税申告により主たる納税義務者の税額が確定した場合の第二次納税義務者は、第二次納税義務の納付告知処分の取消争訟において、主たる納税義務者の納税申告の違法を主張できるのではないだろうか。

 

 

注1 昭和50年8月27日最高裁第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁

注2  小早川光郎教授は、 「滞納処分かに対する訴訟において課税要件の誤認が原

則として滞納処分の違法事由にならないということは、課税処分の本来の効果を後

の争訟において適用せしめる公定力とは別個の、課税要件の存否の主張に関する

遮断効果が課税処分に結び付けられていることの結果として理解すべきであろう。」

と、公定力とは別個とされる。 「先決問題と行政行為」田中二郎古希記念『公法の

理論上』373頁

注3 平成元年2月22日大阪高裁判決 税務訴訟資料169号333頁

注4 平成3年1月17日最高裁第一小法廷判決・税務訴訟資料182号8頁

注5 図子善信 「第二次納税義務者の権利救済について」税務大学校論叢26巻49頁

注6 図子 前掲 税務大学校論叢50頁

注7 平成6年12月6日最高裁第三小法廷判決・判例時報1518号13頁

注8 図子善信 「第二次納税義務の告知処分と国税通則法0条の期間制限」税務事例27巻9号16頁

注9 宇賀克也 判例研究・ジュリスト947号130頁

注10 小早川光郎 「先決問題と行政行為」田中二郎古希記念『公法の理論 上』

373頁

注11 「コンサイス法律学用語辞典」三省堂495頁                     

注12 図子 前掲 税務大学校論叢53頁

注13 大島恒彦氏がその旨指摘している。「第二次納税義務の法的性質と時効」税法学160号15頁

注14 昭和39年10月22日最高裁第一小法廷判決 民集18巻8号1762頁

 

Tax Case Study

The day of reckoning of the complaint period to the main taxation disposal by a Taxpayer with Secondary tax Liability

  

論文目次へ戻る。


トップページへ戻る。