論文 平成19年5月 久留米大学法学56号
                              図子善信

税理士の行った虚偽の申告と重加算税賦課(租税判例研究)
                    

最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決

平成17年(行ヒ)第9号 所得税更正処分等取消、国家賠償請求事件

民集60巻4号1611頁

                        

 目次

はじめに

1 本件事例の概要

2 問題点

3 検討

4 関連判決

5 結論(重加算税制度の趣旨は何か。)

 

はじめに

 最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決(以下「本件判決」という。)は、税務署に勤務した経験を有する税理士が、譲渡所得の申告の依頼を受け、納税資金を受領しながら、虚偽の事項を記載し税額を0円とした申告書を提出し、納税資金を領得したという極めて悪質な事例に関するものである。その税理士は、その後逮捕され、贈賄、所得税法違反等の罪により実刑判決を受けている。一方、税法上、隠ぺい仮装の事実を基に過少の申告をした場合には、納税者に重加算税を課すこととされている。税理士に依頼した納税者には、脱税の意図は無かったのであるが、このような場合にも重加算税を課すことができるか否かが問題となる。

 本件判決および同税理士による類似事件についての2つの最高裁判決が、この問題について見解を示している。本件判決は、重加算税の賦課決定処分を違法としているが、その結論が正しいものか否か、他の2判例も参考としつつ検討する。本件訴訟の争点は他にもあるが、本稿では重加算税の問題に限定して考察する。

1本件事例の概要

(1)事実の概要

ア X(大正9年生まれ、原告・被控訴人・被上告人)は、平成8年に、10年を超えて所有していた居住用財産である練馬区所在の土地建物(以下「本件物件」という。)を9600万円で譲渡するとともに、大田区所在のマンションおよびその敷地共有部分を5780円で購入して転居した。

イ Xは、本件物件の譲渡に係る所得税の確定申告手続きを夫のAに依頼したところ、Aは、雪谷税務署に相談に行き、税務職員から税額が国税と地方税を合わせて800万円程度であるといわれた。

ウ Aは、納税額について長男に相談したところ、同人からも同様の説明を受けたが、計算方法や申告書の記載方法が分からなかったため、長男の妻の母親が確定申告を依頼しているB税理士に相談した。B税理士は、長男の作成したメモに記載されていた税額804万円について「大体、そんなものでしょう。」と述べた上、みずからメモを作成しながら「550万円で税金はあがるでしょう。その他に10万円を手数料として事務員に渡してくれ、全部で560万円。」と言った。Aは、どうしてそんなに安くなるのかと聞いたところ、B税理士は、「私は、長いこと税務署に勤めていたから、素人とは計算が違う。ちゃんと計算ができるから間違いありませんよ。」と答えたため、さらに質問をすることはなかった。Aは、確定申告手続きをB税理士に委任することとし、その旨をXに伝え、翌日同税理士の事務所を訪れて560万円を同税理士に交付した。XおよびAに脱税の意思は認められない。

エ B税理士は、Xが住所を練馬東税務署管内に移した旨の虚偽の通知をした上、同年3月5日、顔見知りの練馬東税務署資産課税部門統括国税調査官に対し、他の2件の確定申告書と共に、税理士名欄を空欄とし、Xの住所欄に練馬区内の虚偽の住所を記載し、虚偽の必要経費等を記載した上、課税譲渡所得金額および納付すべき税額をいずれも0円とする確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出し、併せて、本件物件を平成2年に1億0600万円で取得したとの虚偽の記載をした「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面を提出した(以下この確定申告を「本件確定申告」という。)。B税理士は、550万円を納付せずに取得した。

オ B税理士は,平成9年10月に逮捕され、贈賄、所得税法違反等の罪により懲役刑の実刑判決を受けた。XおよびAは、確定申告手続きをB税理士に依頼した後、平成9年10月に東京国税局査察部による調査があるまで、同税理士に対し、確定申告書の控えや納税にかかる領収書等の交付を要求したり、申告について税務署に問い合わせたりはしなかった。

カ Xは、平成9年11月14日、雪谷税務署長に居住用資産の長期譲渡所得の課税の特例を適用した修正申告書を提出した。雪谷税務署長は、平成10年2月3日に修正申告に係る税額について重加算税の賦課決定処分を行い、同月4日特例の適用を否認した更正処分と更正に係る増加税額について重加算税賦課決定処分を行った。

キ Xは、更正処分の取消と、平成10年2月3日と4日の重加算税賦課決定処分の取消を求めて訴えを提起した。

 

(2)当事者の主張

ア 原告の主張

 本件確定申告は無効である。仮に本件確定申告が有効としても、B税理士が原告と無関係に行ったものであり、Xには仮装・隠ぺいの故意はなく、また代理人の選任・監督にも過失がないから国税通則法(以下「通則法」という。)68条(重加算税)は適用されるべきではない。同条の適用に故意を要件としないとしても、重加算税を課することが相当でない特段の事情がある。

イ 被告の主張

 本件確定申告は、Aが550万円で申告手続きをうまくやってあげる旨のB税理士の誘いに安易に乗り、申告手続きの一切を任せっぱなしにすることによってされたものにほかならず、同税理士が税額を0円とする虚偽の本件確定申告書および本件お尋ね文書を練馬東税務署長に提出し所得税を免れさせたものであり、この虚偽記載等の事実が、国税通則法68条1項に該当することは明らかである。

 納税者が自らの判断と責任において第三者を選任し、申告手続きを委任した以上、第三者が納税者に代わって行った申告行為は、納税者が行ったのと同様に扱われるものであるから、これに付随する重加算税の責任も、納税者が不適正な申告について認識していたか否かにかかわらず、当然負うべきものと解される。もし、そう解さないとしても、同税理士の選任、監督について、極めて重大な落ち度があったというほかない。

(3) 判決要旨

ア 一審判決(更正処分を維持 重加算税を全額取消)(注1)

 「重加算税(通則法68条1項)の制度の趣旨は、課税要件事実を隠ぺいし、または仮装するという不正手段を用いたという特別の事由が存する場合に、過少申告加算税(同法65条1項)等より思い負担を課すことによって、隠ぺいまたは仮装したところに基づく過少申告等による納税義務違反の発生を防止し、もって申告所得税制度の信用を維持し、その基礎を擁護するところにあるものである。

 ところで、納税者の意を受けて第三者が申告事務を行った場合において、当該第三者が、隠ぺい、仮装行為を行ったときは、当該第三者が納税者の使用人である場合や納税者自身がこれを明示または黙示に認めていたときは格別、納税者から委任を受けて申告手続をした者が、専ら自己又は第三者の利益を図るため、納税のためと称して納税者から金員を騙取しようと企て、虚偽の書類を作成する等の隠ぺい、仮装行為を行ったようなときには、通則法68条1項の適用に当たり、受任者の行為を納税者自身のそれと同視することは妥当でない。受任者は、納税者の家族や使用人のように単なる履行補助者の立場にとどまるものではなく、納税者の意図や監視・監督を離れ、独自に行動したものというべきであって、納税者自身が隠ぺいまたは仮装行為を行った場合とはその責任非難の程度が大きく異なるし、このような受任者の行為を委任者の行為と同視することは、委任という法律関係の性質に反するばかりか、受任者の公法上の義務違反を理由に委任者に重い負担を負わせることは近代法の責任主義の原則にも反することになるからである。」

「受任者たる税理士の法律行為の効果が委任者である納税者自身に帰属することと、受任者の行った仮装隠ぺいという事実行為を委任者の行為と同視できるか否かということは、本来別個の事柄であり、また、隠ぺい又は仮装行為とは、納税者の故意による行為を想定したものであって、前述した重加算税の趣旨に鑑みれば、納税者の受任者に対する選任・監督行為の過失の有無という納税者の過失を捉えて、隠ぺいまたは仮装行為と同様の責任非難の根拠とするのは相当でないから、被告税務署長の上記主張が前提とする立場自体がそもそも失当といわざるを得ない。」

 

イ 控訴審判決 (更正処分自体を取消 修正申告に係る税額に対する重加算税を全額取消)(注2)

理由 一審判決を引用

ウ 上告審・本件判決(修正申告に係る税額に対する重加算税賦課処分の取消のうち過少申告加算税相当分に関する部分を破棄し、その余の上告を棄却)

理由

(ア) 「国税通則法68条1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課することとしている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。」

(イ) 同項は、「納税者が・・・・隠ぺいし、又は仮装し」と規定し、隠ぺいし、又は仮装する行為(以下「隠ぺい仮装行為」という。)の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠ぺい仮装行為の防止を企図したものと解される。しかし、納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる。そして、納税者が税理士に納税申告の手続きを委任した場合についていえば、納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せず隠ぺい仮装行為が行われ、それに基づいて過少申告がされたときには、当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ、重加算税を賦課することができると解するのが相当である。他方、当該税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで、当然に当該税理士による隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することはできない。」

(ウ)「本件確定申告書の内容をあらかじめ確認せず、申告書の控えや納付済みの領収書等の確認すらしなかった点など、被上告人にも落度はあるものの、これをもって同税理士による前記隠ぺい仮装行為を被上告人本人の行為と同視することができる事情に当たるとまでは認められないというべきである。」

(エ)「過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であり、主観的責任の追及という意味での制裁的な要素は重加算税に比して少ないものである。」国税通則法65条4項は、正当な理由があると認められるものがある場合には、過少申告加算税を課さないこととしているが、「過少申告加算税の上記の趣旨に照らせば、「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。」 これを本件についてみると、被上告人には落度が認められ、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできない。過少申告加算税相当分についてまで取り消すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

2 問題点

 通則法68条1項は、「第65条第1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(同条第5項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは」、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じた重加算税を課すると定めている。

 通則法の65条1項では、期限内申告書が提出された場合において、「修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第35条第2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。」と定めている。第35条2項の規定により納付すべき税額とは、修正申告または更正により納付すべき税額のことである。

 なお、65条第4項では、事実が税額の計算の基礎とされていなかったことについて「正当な理由があると認められるものがある場合には」、過少申告加算税の対象としない旨を定めている。

 本件事例で問題となるのは、確定申告事務を受任した税理士が自己の利益を図るために虚偽の申告書を作成して過少申告を行った場合、納税者に68条1項を適用できるか否かである。

本件判決の正否を明らかにするため、次の点について検討する必要がある。

(1)  虚偽の申告書を作成することが、隠ぺい仮装に該当するか。

(2)  過少申告について、故意を必要とするか。

(3)  第三者が隠ぺい仮装行為を行った場合、納税者が隠ぺい仮装行為を行ったと解することができるか。

3 検討

(1)虚偽申告書と隠ぺい仮装 

ア 通則法68条1項は、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、」と隠ぺい仮装の対象を計算の基礎となるべき事実としている。そして、「その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは」の規定の意味は、隠ぺい仮装されたところを真実の事実として課税標準等または税額等を計算し、その申告書を提出していたときと解せられる。

 通常、隠ぺい仮装の例として、二重帳簿の作成、領収書の偽造、架空契約書の作成、他人名義の使用等を想定するのであるが、これは税務調査を受けても容易に発見できないような工作である。このような工作に対し、重い負担を課すべきとの考えによれば、単に申告書に虚偽の記載をすることは、税務調査により直ちに発見できることであり、基礎となるべき事実の隠ぺい仮装に該当しないとの解釈になる。すなわち、申告書の虚偽記入は、計算の基礎となるべき事実の隠ぺい仮装とは異なるとの見解も有力であった(注3)。

イ しかし、この問題については、最高裁平成6年11月22日第三小法廷判決(注4)(以下「平成6年最判」という。)が、申告書に虚偽の記載をした場合に通則法68条の適用を認めたことにより、実務的には解決されたといえる。

平成6年最判は次のように判示している。

「本件各確定申告の時点において、白色申告のため当時帳簿の備付け等につきこれを義務付ける税法上の規定がなく、真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺいのため具体的工作を行うことも予定しつつ、前記会計帳簿から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱濾し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことは明らかである。したがって、本件各確定申告は、単なる過少申告にとどまるものではなく、国税通則法68条1項にいう税額等の計算の基礎となるべき所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出した場合に当たるべきというべきである。」

 これは、文理上の解釈として、申告書に虚偽の収入金額、虚偽の必要経費等を記載することを以って、計算の基礎となるべき事実の隠ぺい仮装とし、その申告書の提出を隠ぺい仮装したところに基づき納税申告書を提出したときとするものであろう。このような解釈を無理とするのが前述の有力説であるが、文理上、かろうじて成立する解釈と考える(注5)。

(2)過少申告について、故意を必要とするか。

ア 通則法68条を適用するために、納税者の過少申告を行うことの故意を必要とするか否かが問題となる。故意の要否については、品川芳宣教授がその考え方について@客観的に隠ぺい又は仮装と判断されるものであれば足るとするものA課税要件となる事実を隠ぺい仮装することについての認識があれば足り、過少申告についての認識は必要としないB過少申告等についても租税を免れる認識を必要とするに区分している(注6)。

イ これについて、最高裁昭和62年5月8日判決(注7)(以下「昭和62年最判」という。)は、次のように判示している。

「国税通則法68条に規定する重加算税は、同法65条ないし67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから(最高裁昭和43年(あ)第712号、同45年9月11日第二小法廷判決・刑集24巻10号1333頁参照)、同法68条第1項による重加算税を課しうるためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に対し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。」

すなわち、品川教授の区分のAの見解をとっている。判示では「故意」の用語を使用しているが、この行為自体は犯罪ではないから刑法38条の「故意」ではなく、一定の行為を認識して行うとの国語辞典的意味で使用しているのであろう。「隠ぺい」または「仮装」とは、その用語自体が意図的であるとの意味を含んでおり、当然の解釈と思われる。したがって、脱税目的ではなく社内監査や他の行政監督上の調査を欺罔する目的で隠ぺい仮装した場合にも、当然通則法68条の隠ぺい仮装行為となると解せられる。法人税実務においても、申告を担当する経理部門にも秘匿し営業部門で隠ぺい仮装行為が行われることは通常見られることであり、その場合は過少申告の意図は無いものと思われるが重加算税は賦課されていることと整合する。すなわち、昭和62年最裁は、過少申告についての意図は68条適用の要件では無いとしており、正当であると考える。

 なお、判示中の参照判例は、重加算税のほかに刑罰を科しても憲法39条に反しないとの判決である。

ウ 前掲の平成6年最判も、過少申告について故意を必要とするとは判示していない。しかし、判示の文章中の「真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、」が、「内容虚偽の確定申告書を提出したこと」にかかると解すれば、過少申告について意図的であることを通則法68条適用の要件としていることとなる。しかし、「確定的な意図の下に」が、「前記会計帳簿から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱濾し」にかかると解すれば、申告書への虚偽記載という工作についての意図を要件としていることになり、昭和62年最判と同旨となる。判然としないが、後者の解釈が正しいと考えるので、昭和62年最判は変更されていないといえよう。

エ 過少申告について、65条第4項の「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当すれば、過少申告加算税の対象とはならず、当然に過少申告加算税に代えて課される重加算税の対象にもならない。したがって、隠ぺい仮装があったとしても、過少申告につき不可抗力等の正当な理由があると認められれば、重加算税を課すことはできないと解せられる。

 通則法65条、68条の適用において、過少申告についての責任の有無を問題とする故意、過失は要件とされていないが、不可抗力のような完全な無過失である場合は、「正当な理由」がある場合に該当するものとして、加算税の賦課は避けられているのである。

 その点から、本件判決が、「正当な理由」を否定しつつ、重加算税の賦課を否定しているのは疑問である。

(3)第三者が隠ぺい仮装行為を行った場合、納税者が隠ぺい仮装行為を行ったと解することができるか。

ア 通則法68条は、「納税者」が隠ぺいし、又は仮想しと規定している。この「納税者」とは、通則法2条に定義されている「納税者」である。通則法で定める納税者とは、所得税法、法人税法等の実体法で定める納税義務者とは異なる意義である。各税法に定める納税義務者は、各税法の適用の結果により必ずしも国税を納付する義務を負うとは限らない。しかし、通則法の納税者は、各税法を適用した結果、「国税を納める義務がある者」および「源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者」を指しているのである。すなわち、納税者とは租税法律関係における租税債権債務の当事者を意味し(注8)、法人であれば法人自体が納税者である。したがって、法人自体は行為をすることはできないので、法人税の場合は、隠ぺい仮装の行為をする者は、常に納税者とは人格の異なる第三者であり、例えば機関としての代表者であったり、取締役であったり、従業員であったりする。

 所得税の場合は、納税者は自然人であるので納税者自身で隠ぺい仮装を行うことができる。そうであっても家族や従業員や委任により業務を任せた者が隠ぺい仮装の行為者となることが可能であるのは、法人の場合と全く同様である。したがって、第三者が隠ぺい仮装を行った場合、納税者の行為とすることができる場合があることは当然である。このことは、多くの判例、学説の承認するところである(注9)。

イ では、第三者の隠ぺい仮装を納税者の行為とすることができる場合とは、どのような場合であろうか。それは、その第三者の行為が、納税者の行為と認められる場合であろう。例えば、会社の従業員が会社の帳簿書類を隠ぺいし、または仮装した場合、その理由が従業員の横領を隠ぺいするためであったとしても、会計監査、行政上の調査においては、会社の行為として措置されるであろう。自然人の場合であっても、家族や従業員が同様の行為をすれば、会社の場合と同様にその自然人の行為として措置されるであろう。

 第三者の行為が本人の行為と同視されるためには、第三者と本人の間に何らかの関係があることが必要である。その関係は、家族関係であったり、雇用関係であったり、委任関係であったりするであろう。その関係において代理、履行補助、使者等と看做され、第三者の行為が本人の行為と同視されるものと考える。

ウ 税理士に申告事務を依頼することは、法律上は委任と考えられる。委任とは、「当事者の一方(委任者)が他方(受任者)に事務処理を委ね、他方がこれを承諾することによって成立する契約(民法643条)」と解されている(注10)。委任に関する民法の諸規定は、委任当事者間に特別な信頼関係を認めるものであり(注11)、「受託者は報酬の有無を問わず委託者の身代わりとして行為する。」との見解もある(注12)。そして、委任の理論によれば、受任者が委任の範囲を逸脱した場合、受任者の行為は無効であるが、表見代理の法理が適用される場合はその行為の効果は委任者に及び、委任者の損害は受任者に対する責任追及にとどめられる。納税申告は意思表示であると考えるので、税法の規定で制約されない限り、民法の規定が適用されると考える。この委任の理論を適用したとしても、納税申告が有効である限り、その内容の効果は委任者に及ぶのであり、第三者の行為を納税者の行為と解することと矛盾しない。

 本件の一審判決が、「受任者たる税理士の法律行為の効果が委任者である納税者自身に帰属することと、受任者の行った仮装隠ぺいという事実行為を委任者の行為と同視できるか否かということは、本来別個の事柄であり、」とすることは疑問である。委任は、事実行為も対象に含むものであり、委任者の意図と異なる場合であっても法律行為の効果は委任者に及び、事実行為の効果は委任者に及ばないとの解釈は疑問である。

これは、通則法68条の適用のためには過少申告の故意を必要と解するため、行為の法律上の効果と納税者の責任とを区別するものであろうが、その前提の解釈自体が正当ではないと考える。

エ 税理士法1条は、「税理士は、税務に関する専門家として、独立して公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と規定している。しかし、これは税理士のあるべき使命を明らかにするものであり、この規定によって税理士が国の代行機関として位置づけられるわけではない。税理士は、納税者との関係においては、税務代理(税務書類の作成、申告、申請、請求、不服申立、届出、報告、申し出、申立てその他これらに準ずる行為の代理または代行すること。)を行うのであり(税理士法2条1項1号、税理士法施行令1条の2)、民法上の受任者であることに変わりはない。したがって、税理士が自己の利益のために隠ぺい仮装行為をしたとしても、申告の効果は納税者に生じ納税者のした申告とされるのである。税理士は、本来の業務を依頼されたのであり、当然に本人の行為と同視できるとの経験則が存すると思われる。

(4) 結論

 本件事案について、(1)から(3)の結論を当てはめて行くと以下のようになる。

ア 虚偽の申告書を作成することが、隠ぺい仮装に該当するか。

 本件確定申告書には、所得を隠ぺいするために虚偽の取得価額が記載されており、本件確定申告書を提出したことは隠ぺい仮装に該当し、通則法68条1項の要件を充足する。もし、平成6年最判が適用されないとしても、お尋ね文書に取得時期、取得価額を虚偽記入していることは、隠ぺい仮装に該当すると考える。

したがって、この点で本件賦課決定に違法はない。

イ 過少申告について、故意を必要とするか。

 本件事案では、納税者に過少申告をすることについての故意を認定することはできない。したがって、通則法68条が故意を要件にしているのであれば、本件賦課決定は違法となる。しかし、通則法68条の要件は、隠ぺい仮装に当たる事実が意図的に作出されたものであれば足り、納税者の過少申告についての故意は要件とされていない。

 したがって、この点で本件賦課決定に違法はない。

ウ 第三者が隠ぺい仮装行為を行った場合、納税者が隠ぺい仮装行為を行ったと解することができるか。

 本件確定申告は、納税者の申告と認定されている。第一審の原告の主張において、本件確定申告は無効であるとの主張がされていたが、原告の主張としては、この主張が最も正当である。本件事案において税理士の行為が著しく委任の範囲を逸脱していたとすれば、その行為が無効となる可能性はある。この点において納税者と第三書との関係を考察する必要がある。

しかし、依頼に基づき納税者の記名押印のある確定申告書が提出された場合、現行税法ではこれを無効とすることは著しく困難であろう。本件事案では、申告自体を委任しているのであるから、これを納税者の申告と認めたことは正当であると考える。

そうであれば、税理士の行った隠ぺい仮装であっても、通則法68条の要件を充たしているので、この点で本件賦課決定に違法はない。

エ 以上のとおり本件事案の賦課決定について違法は認められず、賦課決定処分を違法とした各審判決は、正当でないと考える。

 

4 関連事件判決

 本件事案の税理士が関わる類似の事件について、次の2件の最高裁判決がある。

(1) 平成17年1月17日最高裁第二小法廷判決 過少申告加算税賦課決定処分取消等請求事件(注13)

判決 重加算税賦課決定処分を取り消した原判決を破棄し、東京高裁に差し戻し。

理由

「1 原審は、前記事実関係の下において、次のとおり認定判断した。

(1)  被上告人は、A税理士が違法な手段により税額を減少させるのではないか

との疑いを抱いたと推認されるが〔1〕税理士は国が資格を付与し、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものであり、職務違反行為等について懲戒処分が科される我が国の税理士制度の下では、納税者は、一般に、税理士に対し税務申告手続きの煩わしさから開放されるとともに、法律に違反しない方法と範囲で必要最小限の税負担となうように節税することを期待して委任するものであり、これを超えて脱税をも意図して委任するわけではないこと、〔2〕A税理士が税務署勤務の経験を有し、税務当局から不正行為の疑いを抱かれることもなく長年業務に従事してきた税理士であることからすると、被上告人が、上記の疑いを取り除くことなく、同税理士に申告を委任したからと言って、脱税を意図し、その意図に基づいて行動したと認めることはできない。

(2)   したがって、本件は、国税通則法68条1項に規定する課税標準等の計

算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、これに基づき納税申告書を提出した場合には当たらない。

2 しかしながら、原審の上記認定判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

 前記事実関係によれば、A税理士は、本件土地の譲渡所得に関し、被上告人に対し、本件土地の買手の紹介料等を経費として記載したメモを示しながら、800万円も税額を減少させて得をすることができる旨の説明をしたが、被上告人は、上記紹介料を実際に出費していなかったし、出費した旨を税理士に告げたことがなかったにもかかわらず、上記の説明を受けた上で、同税理士に対し、平成2年分の所得税の申告を委任し、税務代理の報酬5万円のほか、1800万円を交付したというのである。そうであるとすれば、被上告人は、A税理士が架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるから、特段の事情がない限り、被上告人は同税理士が本件土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし、又は仮装することを容認していたと推認するのが相当である。原審が掲げる上記1の(1)の〔1〕及び〔2〕の事情だけによって、上記特段の事情があるということはできない。そうすると、被上告人が脱税を意図し、その意図に基づいて行動したとは認められないとして原審の認定には、経験則に違反する違法があるというべきである。」

 滝井繁男裁判官の補足意見は次のとおり。

「重加算税は、効率の加算税を課すことによって、隠ぺい・仮装による納税義務違反行為を防止し、徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の一種の制裁措置である。納税者から申告手続の委任を受けた税理士等の第三者が隠ぺい・仮装行為をした場合において、納税者は、自らその行為をしていないというだけの理由でこの制裁を免れるわけではない。しかし、事実の隠ぺい・仮装についてその一部に意思の連絡があるからといって、必ずしも過少申告となった税額全体について納税者に対して重加算税を賦課することができるわけではないとする考えが十分あり得るのであり、重加算税を賦課することができる範囲は、重加算税制度の趣旨、目的等から見て、慎重な検討を要する問題である。」

 本件判決では、納税者の脱税の意図を通則法68条適用の要件と解し、受任者である税理士と納税者との間に、その意図の連絡の有無を問題としている。

 滝井裁判官の補足意見は、重加算税制度の目的に触れ、その法的性質を「行政上の一種の制裁措置」とするものである。

なお、差し戻しによる東京高裁判決(注14)は、「隠ぺい・仮装の行為が納税者の行為と評価し得る(納税者に帰責すべき)事由が必要である。」とし、本事案については納税者に帰責事由を認めることはできないとして、過少申告加算税を越える部分を取り消した(注15)。

(2)平成18年4月25日最高裁第三小法廷判決 所得税等更正処分取消訴訟(注16)

判決 過少申告加算税部分の賦課を適法とした原判決を破棄し、東京高裁に差し戻す。

理由

「この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。」

「しかし、納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨および目的を没却することになる。」

 「前記事実関係の下では、A税理士の本件不正行為をもって納税者である1審原告本人の行為と同視することはできず、1審原告につき国税通則法68条1項所定の重加算税賦課の要件を満たすものということはできない。」

 以上のとおり、重加算税の賦課決定を違法とするとともに、過少申告加算税の賦課決定について、通則法65条4項の「正当な理由」について次のように判示して原告の請求を認容すべきものとした。

 「同項にいう『正当な理由があると認められる』場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。」

 「しかしながら、本件においては、税理士が本件不正行為のような態様の隠ぺい仮装行為をして脱税をするなどとは通常想定し難く、1審原告としては適法な確定申告手続きを行ってもらうことを前提として必要な納税資金を提供していたといった事情があるだけでなく、それらに加えて、本件確定申告書を受理した税務署の職員が、収賄の上、本件不正行為に積極的に共謀加担した事実が認められ、租税債権者である国の、しかも課税庁の職員のこのような積極的な関与がなければ本件不正行為は不可能であったともいえるのであって、過少申告加算税の賦課を不当とすべき極めて特殊な事情が認められる。このような事実関係及び事情の下においては、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるということができ、」通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認められるとした。

 過少申告加算税の趣旨については、「過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。」としている。

(3) 両判決の意義

 アの第二小法廷判決は、税理士が架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを納税者が了知していた場合は、特段の事情がない限り、納税者が脱税の意図を有していたと認められるとする。すなわち納税者が過少申告について認識していることを要件とするものである。滝井裁判官が補足意見で、重加算税を「徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の一種の制裁措置」と解するのと同じ見解と思われる。差し戻し審の東京高裁判決は、帰責事由が無いと判断しているが、第二小法廷判決は制裁を緩やかに捉えたのに対し、東京高裁は制裁を刑罰に類したものと捉え、責任を厳しく判断したものと考える。第二小法廷判決の方が、正当に近い。

 イの第三小法廷判決は、重加算税制度の趣旨を申告納税制度における適正な徴税を確保するための行政上の制裁としている。過少申告加算税は行政上の措置であり、過少申告の事実があれば原則として納税者の責任を問うことなく課されるのであるが、重加算税は制裁であるので、納税者に帰責事由がある場合に課されるとするものであろう。第三小法廷判決が、重加算税の賦課を不当としていることと、過少申告加算税について「正当な理由」があると認めていることは矛盾がなく結果的に正当である。

 しかし、両判決とも、重加算税を行政上の制裁と捉えていることに問題があると考える。

5 結論(重加算税制度の趣旨は何か。)

(1)重加算税制度に関する各見解

 加算税制度の趣旨について、金子宏教授は「申告義務および徴収納付義務の違反に対して特別の経済的負担を課すことによって、それらの義務の履行の確保を図り、ひいてはこれらの制度の定着を促進しようとしたのが、加算税の制度である。」(注17)と述べられる。昭和62年最判が重加算税について、「違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではない」とするのも、同様の理解であろう。

 一方、佐藤英明教授は、「発覚した脱税に何らかの不利益を加えて、これを罰し、あわせてその他の者による脱税の予防を図るための制度である。これが、本書の考察の対象たる「租税制裁法」である。」とし、「租税制裁法は、租税法上の義務違反行為または租税債権への侵害行為に一定の不利益を課し、そのような行為を未然に防ごうとする予防的機能を持つことになる。」とする(注18)。そして、「行政罰としての重加算税および、逋脱罪に対する刑事処罰が後者に属する。」と重加算税制度を租税制裁法の規定と捉え、そして「制裁」の意義を「義務違反を行った者に対して課せられる不利益」と定義し、この定義は倫理的に中立であるとする(注19)。また、品川芳宣教授も、刑事罰とは明白に区別しつつも「重加算税制度がそもそも納税義務違反に対する行政制裁であること」と重加算税制度を制裁の制度と捉えている(注20)。他にも多くの論者が重加算税制度を制裁の制度と捉えている(注21)。

(2)税としての加算税

 確かに、金銭の納付義務を課されることは苦痛であり、それを罰として受け取る向きもあるであろう。特に重加算税は一般に罰として受け止められ、マスコミも重加算税の賦課された事案を脱税と報じるのが通常である。

しかし、多額の金銭の納付義務を課されても罰ではなく、正に倫理的に中立であり、ある意味で名誉とする場合もある。それが税であり、加算税は、重加算税も含めて全てが税として制度化されている。社会的にそれが制裁として受け止められ、不正行為に対する一般予防的機能を有するとしても、現行実定税法が税として規定している限り、法解釈としては重加算税も税として解すべきと考える。税である以上、加算税も課税要件の充足により自動的に納税義務が成立する。重加算税の納税義務は、法定申告期限の経過のときに何らの行為または処分を要せずに成立するのである(通則法15条2項13号)。賦課処分は、その税額を確定するに過ぎない。

 重加算税の課税要件についても、租税法律主義の内容である課税要件明確の原則が守られるべきであり、その原則からも通則法68条は、「隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、」と客観的事実の存在を要件とし、主観的要件は、一切規定していない。これに対して、所得税の逋脱犯の構成要件を定める所得税法238条は、「偽りその他不正の行為により、・・・・・所得税を免れ、」と定め、故意を要件とするとともに、過失犯を罰さない旨を明らかにしている。これは刑事手続きを前提としているからである。更正、決定の期間制限を定める通則法70条の5項「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、」も、同様に故意を要件としている。通則法70条も、課税要件を定める規定ではないからである。隠ぺい仮装の行為と、偽りその他不正の行為が、現実の行為として重複する場合があるとしても、犯罪の構成要件と課税要件とは内容的に全く異なるものである。

(3)  制裁と責任

 制裁とは、例えば過少申告という違法状態の発生について、納税者の責任がある場合に、その責任を果たさなかったことに対する非難とそれに相当する不利益を課すことをいうものであろう。したがって、加算税を制裁と捉えるとすれば、常にその責任の有無を問う必要がある。本来であれば、加算税も社会的な意味と同様に、故意、過失がある場合の制裁として立法化することが妥当であるかもしれない。しかし、故意、過失の認定は、通常刑事手続きの厳密で詳細な手続きにおいて認定されるものである。大量に発生する加算税の事例について、そのような執行を期待することはできないことから、現行税法は加算税を税として制度化したものと考える。

 現行制度も考え方としては、故意の場合は重加算税を、過失の場合は過少申告加算税を、無過失の場合は非課税との立場に立っていると考える。しかし、それを責任の問題としてではなく、隠ぺい仮装の客観的事実がある場合を重加算税、不可抗力に近い「正当な理由」がある場合を非課税、その他の場合を過少申告加算税と、故意、無過失、過失の区分に沿うように課税要件を定めたものと考える。それが完全に一致しないことは、立法技術の問題でもあるが、課税要件として定める場合はやむを得ないと考える。

 

 

注1 東京地裁平成15年6月27日判決 民集60巻4号1657頁

注2 東京高裁平成16年9月29日判決 民集60巻4号1710頁

注3 碓井光明 「重加算税賦課の構造」 税理22巻12号2頁

 池本征男 「加算税制度に関する若干の考察」 税大論叢14号206頁

注4 最高裁平成6年11月22日第三小法廷判決 民集48巻7号1379頁

注5 水野武夫 「脱税意思に基づく過少申告の記載と重加算税の賦課要件」民商法雑誌114巻3号505頁(判旨に反対)

注6 品川芳宣 「附帯税の事例研究第三版」 財経詳報社 288頁

注7 最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決 税資158号592頁

注8 図子善信 「租税法律関係論」 成文堂 101頁

注9 金子宏 租税法第十一版 9版617頁   頁

品川前掲書301頁

 大阪高裁平成3年4月24日 判例タイムス765号216頁 

注10 「法律学用語辞典」 三省堂 56頁

注11 幾代通他編「新版注釈民法(16)債権(7)」有斐閣 206頁 

注12 三宅政男 契約法(各論)下巻(現代法律学全集)青林書院 939頁

注13 最高裁平成17年1月17日第二小法廷判決 民集59巻1号28頁

注14 東京高裁平成18年1月18日判決 

注15 品川芳宣 「税理士・税務職員共謀による不正と重加算税の賦課要件・期間制限」 税研22巻1号98頁(判旨に反対)

注16 最高裁平成18年4月25日第三小法廷判決 民集60巻4号1728

注17 金子宏 租税法 第十一版 弘文堂626頁

注18 佐藤英明著「脱税と制裁―租税制裁法の構造と機能―」 弘文堂10頁

注19 佐藤前掲書 11頁 

注20 品川前掲書 301頁

注21 清永敬次 「税法第六版」 ミネルヴァ書房 309頁 

北野弘久 現代税法講義四訂版 法律文化社 384頁

 木村弘之亮 租税過料法(租税法研究双書2)弘文堂 1頁

英文タイトル

The filing false return by CPTA and Special Additional Tax levy




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