納税通信 一筆啓上
図子善信
久留米大学教授(元福岡国税不服審判所長)
理論的サラリーマン確定申告必要説
6月に発表された政府税調の「個人所得課税に関する論点整理」は、給与所得控除の見直しと関連して、サラリーマン(給与所得者)に確定申告をさせることにやや前向きである。しかし、私は、税法理論上の理由で、サラリーマンにも全面的な確定申告制を導入する必要があると考える。
一般に、大半のサラリーマンが確定申告を必要としない理由は、企業(給与の支給者)が、毎月の給与から所得税を源泉徴収し、年末には年末調整により所得税額との過不足を調整して、サラリーマンに課された所得税を代わりに納付しているからと考えられている。
しかし、税法上は、サラリーマンに毎月所得税の納税義務が成立することはなく、したがって毎月課された所得税を企業が代わりに納付するということもありえない。企業は、サラリーマンの所得税とは無関係に、所得税法により、給与を支払った際に同法の規定する金額を源泉徴収し、国に納付する義務を課されているのである。企業に課されるこの源泉所得税は、給与の支払の時に納税義務が成立し、同時に税額も確定し、翌月10日が納期限である。企業に課される源泉所得税とサラリーマンに課されるべき所得税が、別個のものとするのは最高裁の見解である。
サラリーマンの給与所得に対する所得税の納税義務は、国税通則法の定めにより、その年の終了の時に成立する。所得税(源泉所得税を除く。)は、年の終了の時に税額未確定で納税義務が成立し、確定申告をすることにより税額が確定し、その税額が納付される。税額確定により所得税が課されたといえ、これを納付することにより納税したと言える。事業所得者等が行っている方式である。
しかし、確定申告を行わないサラリーマンは、納税義務が成立しているはずであるが、税額が確定されることなく放置され、その税額を納付することもない。したがって、所得税が課され、所得税を納税したとは言えないのである。
それでは、毎月所得税として源泉徴収される金額とは何であろうか。それは、企業に課された源泉所得税をサラリーマンが負担しているものである。消費税の納税義務者が事業者であり、消費者がその経済的負担者であることと本質的に変わらない。この負担額と本来納税すべき所得税額は原則として等しいので、国の歳入上も個人の家計上も何ら問題はない。
しかし、法律理論上は、重大な問題がある。すなわち、現行制度では、国民の大半を占める確定申告を行わないサラリーマンは、所得税を課されず、所得税を納税していないことになるが、これは国民の真意と異なるであろう。また、憲法30条(納税の義務)の趣旨にも反するものと考える。
これを是正するためには、年末調整を廃止し、サラリーマンにも確定申告を義務付け、各人が所得税の税額確定を行う制度を導入する必要がある。そして、毎月の源泉徴収額を、税法上で国に対する前払金と明確に位置付け、確定申告による所得税額から前払金額を税額控除として控除する制度とすべきである。