九州北部税理士会報 平成20年9月号  「論壇」 

消費税に累進性を  
                   久留米大学教授 図子善信
 

はじめに

 所用で6月にオーストリアを訪問した際、売上税(付加価値税)の一般20%、食料品については10%の複数税率の買い物を経験した。わが国で消費税を増税する際には、複数税率の導入が不可避と考えていたこともあり、オーストリアではどのようなものに軽減税率が適用されているか少し調べてみた。

広い軽減税率の対象

売上税法は6条に免税取引を定め、10条の1項で原則20%の税率を、2項に軽減税率を定めている。10%の軽減税率が適用されるものとして、法付表に46項目が掲げられている。内容は、肉、魚、野菜、穀物等の主として食料品であるが木材、書籍、美術品、切手、古美術品等の取引を含んでいる。これらの品目の正確な分類は、我が国の関税定率法別表の関税定率表に相当すると思われるEUの統合分類表(Kombinierten Nomenklatur)によるものが多い。

付表に掲げるもの以外にも芸術活動、法人等の慈善活動、劇場等の興業、テレビ・ラジオ放送、映画、旅客を含む運送、教育、福祉事業等に10%の軽減税率が適用される。

このように軽減税率の適用範囲は相当に広いものであり、贅沢をしなければ軽減税率の範囲内で文化的な生活ができるかもしれない。
複数税率の効果

オーストリアはEUの加盟国であるので、標準税率15%以上、軽減税率は1または2とする付加価値税に関するEUの第6次指令に拘束されている。しかし、わが国はEUの加盟国ではないので、0税率を含め自由に複数税率を導入することが出来る。そうすると基本的な食料品については0%の税率を、他の食品、生活に必要な光熱費、交通費等については現状の5%を、芸術文化活動等については10%を、その他一般は15%、特に奢侈品と思われる貴石貴金属等には20%という税率も可能である。

0税率は消費税額0円から仕入税額が控除されるので、消費者は消費税を一切負担することは無い。英国においては食品、新聞、書籍、住宅建設、運輸、子供用衣類、医薬品等について広く0%の税率が適用されている。

このような複数税率の導入により、高所得者の消費の多くには15%または20%の税率が適用され、低所得者の消費の多くには0%または5%の税率が適用されることとなる。これにより消費税の欠点とされる逆進性が解消され、消費税制度にもゆるやかな累進性が実現すると思われる。0税率の導入は、低所得者にとって望ましい減税となり、格差が拡大しているといわれる現在、弱者救済の税制改正になると思われる。

本末転倒の反対論

しかし、政府税制調査会は、昨年11月の「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」の答申において、軽減税率は高額所得者にもメリットが及ぶため再分配政策の効果は乏しいとし、事業者の事務負担、税務執行コストを考慮すれば、極力単一税率が望ましいとしている。また、軽減税率の導入はインボイス方式の導入が不可欠であるとして軽減税率に否定的である。同様に日税連の税制改革建議も単一税率維持を要望している。

確かに複数税率の導入により品目の分類等の困難は予想されるが、わが国においても複数税率の物品税を50年近く実施した実績がある。また、EUにおいては長期にわたり複数税率が実施されているのである。インボイス方式の導入についても、すでに帳簿及び請求書等の保存が義務付けられていることから、インボイスの保存に困難があるとは思えない。税理士制度も整っていることから、技術的な困難を強調することにより、国民の納得できる税制を忌避することは本末転倒であろう。

おわりに

国債残高の際限なき増加が国民の閉塞感を増進させている現在、財務省も日税連も技術的問題への対策に努め、累進性をもつ消費税制度の導入により財政を再建すべきであると考えるがいかがであろうか。


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