本人家族の希望で退院し自宅での看取りになった肺がんの1ケース(1)
                             福祉の森診療所 赤荻栄一

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本人家族の希望・要望

本人:このまま家にいたい
家族:本人の気持ち次第

家族の状況

奥さんとの二人暮らし。奥さんも胆嚢がんで治療中。長女は車で15分の隣町へ嫁いでいる。

現病歴と経過(病名: 肺非小細胞がん、骨転移   

 平成282月、背部痛で発症。多発脊椎転移と骨盤転移のある肺癌と診断。胸椎に対しては疼痛緩和のための放射線治療とステロイド投与。しかし、両下肢のマヒが出現。続いて抗がん剤投与を行う予定だったが、全身状態の悪化が著明になり、本人が退院を希望したため、自宅への退院となる。ただし、主治医から家族に、胆嚢がん治療中の奥さんのことを考え、近くの病院への紹介状を渡されていた。
 412日の退院と同時に訪問。胸部聴診では異常なし。背部痛があり、退院時にオキシコンチン5r22×とレスキューにオキノーム5rが処方されていた。両下肢は自力では動かせず、臀部には褥瘡形成。退院と同時に訪問看護も開始。
 「家に戻れて、本人は本当に喜んでいる」と家族。
 1週後、頻尿を訴えたため、バルーンカテ挿入。さらに4月22日、痛みが十分にコントロールできていないため、オキシコンチンを10r錠に増量。それにオキノーム2回服用で痛みは落ち着いた。しかし、この頃から飲水量が減り、尿量も減る傾向になり、1500mlの点滴を適宜施行。しかし、全身の浮腫が出現。56日からは利尿剤の投与を始めた。
 59日呼吸困難出現。オキノームで軽減。13日には傾眠状態となり、オキシコンチンをフェントステープに変更。ここで、家族に病院への入院かこのまま自宅で最期を迎えるかを確認すると、家族は「ぜひこのまま家で最期を」と。
 515日真夜中に呼吸停止。早朝、死亡確認。

振り返り
・骨転移があり治療不可能な状態の末期肺癌であり、本人は自宅への退院を希望。
・奥さんも胆嚢がんの治療中で介護力に不安があったが、嫁いで別居している長女が頻繁に訪 れて介護。
・痛みはオキシコンチンとオキノームでまあまあコントロールされていたが、飲水量尿量が減 るのに合わせて点滴を開始。経口摂取量と尿量の少ない時に点滴を行うことにした。しかし 摂取量と排泄量とのバランスがうまく摂れず、利尿剤の投与でも十分な利尿が得られずに浮 腫が悪化して、心不全呼吸不全を起こしたものと考える。
・家族は「あまり苦しまずに家で最期を迎えることができてよかった」と。

本人家族の希望で退院し自宅での看取りになった肺がんの1ケース(2)
                           訪問看護ステーションはなもも 大澤栄子


本人家族の希望・要望


本人
:妻の体調が心配だ。面会も大変だろうし、できるなら退院し自宅で過ごしたい。妻に   迷惑はかけられない。自分のことは自分でしたい。

家族(妻):本人の希望どおりにしてあげたい

家族(娘):両親が心配。希望をかなえてあげたい

現病歴と経過(病名:  肺非小細胞がん、骨転移         
 平成2846日に大学病院入院中に退院時共同指導を行い、本人家族(娘)の希望・要望を確認し、病院からの情報を得て、病状の悪化・排便のコントロール不良・疼痛緩和を問題にあげつつ412日大学病院退院となる。同日より訪問看護導入となる。
 初回訪問時より意識レベル清明も脊髄転移による下肢の痺れがある為、自力での座位保持困難あり。仰臥位にて背部痛あり。常にギャッチアップ30度で過ごされていた。また、食事時のポジショニングによっては、胸のつっかえ感が生じ食欲低下があった為、訪問の度に良位がとれるように、ギャッチアップ法について説明を行い、食欲低下なく3食摂取出来るようになっていった。腹部膨満あり。腸蠕動あり。残便確認にて軟便あり。マグネシウムを朝・晩で服用開始とし、訪問時に残便確認し、浣腸や摘便にて排便コントロールしていた。
 退院後より夜間の頻尿による不眠あり。主治医に報告し、420日の往診の際に尿道留置シリコンカテーテル16Fr挿入となる。その後、良眠あり。尿量10001500ml/日あり。尿もれや尿管のつまりはないが、尿混濁や尿道管内に浮遊物あり。飲水を促すも胸部の違和感あるが15001000ml程度摂取出来ていた。
 428日の12時頃に訪問すると、ウロバッグ内に250ml蓄尿あり。皮膚乾燥と口渇の訴えあり。飲水量200ml程度との事。主治医に報告し点滴の指示あり。ラクテック500ml静脈点滴開始となる。その後、経口から10001500mlのスポーツドリンクや水分が摂取出来ていた。
 52日頃より仙骨周囲と両大腿内側に皮膚硬結あり。洗浄しワセリン軟膏塗布し経過観察していた。仙骨部の硬結が真皮までの潰瘍に悪化あり。主治医に報告する。カデックス軟膏に変更となる。連日、訪問し洗浄と処置を行っていた。意識レベル徐々に低迷し、傾眠傾向であったが、食事はギャッチアップし、軽食を少量摂取あり。体動時に肩甲骨周囲痛あり。オキノーム服用にて疼痛緩和あり。訪問時に残便確認し、浣腸や摘便にて腹部膨満感なく、腸蠕動みられていた。また内服でもマグネシウムを朝・晩で服用し、排便コントロール出来ていた。尿もれやつまりはないが、尿混濁や尿道管内に浮遊物あり。飲水を促すも胸部の違和感ある為、1500ml程度摂取のみであった。尿量が250500ml/日と減少あり。皮膚乾燥と口渇の訴えあり。主治医に報告しラクテック500ml静脈点滴開始となるが、心不全症状あり点滴中止となる。1日尿量が500ml以下で浮腫の症状ある時に、利尿剤服用の指示あり。 
 51021時に妻より意識がないと電話連絡あり。訪問時、声かけ・刺激に容易に開眼あり。経皮的酸素飽和度:7980%。主治医に電話にて報告し、様子観察の指示あり。声掛けに容易に返答あるが、傾眠傾向強く、尿量も250350ml減少あり。全身浮腫増加あり。家人の介護負担も考慮し、連日の訪問とし常に状態に合わせた看護が行えるように努めた。
 513日より内服困難にてフェントス2mgに変更となる。背部痛にて11回はオキノーム5mg服用あり。
 15033分に娘より電話連絡あり。訪問すると脈拍触知できず呼吸停止確認でき、主治医に電話連絡し、早朝主治医訪問にて死亡確認、永眠される。


振り返り

・疼痛緩和ではオキシコンチン5r22×とレスキューにオキノーム5rから始まり、422 日オキシコンチン10rへ増量あり。飲み込み悪く513日フェントステープへ変更となる。
・排便コントロールは連日の訪問の際に浣腸や摘便などで看護師やヘルパーのいる時間帯での オムツ交換にて妻への負担を最小限とする配慮をした。
・大学病院からの継続ケアの一つにリハビリテーションがあり、訪問リハビリを開始し、スラ イディングボードを利用し2回程度車いす乗車出来、夫婦に対し少しの気分転換をもたらす ことができた。