1.患者・家族の希望に沿った在宅支援が可能になったケース
                              古河赤十字病院 西岡絵美子

ケース:83歳女性  主介護者:次男  介護保険認定:未  日常生活:全介助
本人家族の希望・要望 本人:家に帰りたい 家族:できるだけ家で介護したい
家族の状況 夫と次男との同居
現病歴と経過(病名:胃癌、肝転移、高血圧、不整脈、認知症
 平成248月、高度貧血にて当院入院し、胃癌・肝転移と診断。肝転移と認知症があることから、手術や抗がん剤治療の適応はなく、貧血改善後に自宅へ退院する。
 106日内視鏡施行し、胃癌による狭窄を認めたため再入院。再入院時、皮膚は乾燥し、口腔内汚染が激しく、手の爪が1pほど伸びた状態。同居している次男によると、9月下旬から食欲低下し、寝たきりの状態だったと。難聴はあるが会話は可能で、腰の上げ下げも可能だった。しかし、本人には空腹感の訴えがなく、ただ家に帰りたいと言うのみ。入院当日に、サーフロー留置針を自己抜去し、ベッドから降りようとする動作がみられたため、安全対策として、ベッド上臥床時は体幹抑制、また上肢にサーフロー針を留置する場合は両手にミトンを装着し自己抜去防止に努めた。血管が貧弱であり、毎日サーフロー針を刺し替えることが困難な状態だったので、ヘパリンロックを行って数日間続けて使用した。主治医から家族へ胃・十二指腸ステント留置の提案があったが、家族は点滴治療を希望。家族に今後の生活の希望を確認すると、「できれば家で介護をしたいが、点滴をしているのでは無理ですよね」とのこと。すぐに地域医療連携室に連絡し、在宅に向けて調整を依頼した。
 入院中は准看護学院の実習生と共に毎日車椅子へ乗車させ、モーニングケアとして自力での手洗い、歯磨き、整髪を行うことを習慣とし、規則正しい生活を送るよう関わった。次男に対しても、皮膚の乾燥を防ぐため保湿クリームの必要性や仕上げ歯磨きの後に乾燥防止のためオーラルバランスの必要性を説明し、介護上の注意点を指導した。食事においては、通過障害があるため水分を少量づつ飲水させ介助していたが、昼は本人の希望に合わせて棒付きの飴をなめさせて満足感が得られるようにした。
 1029日、長男、長女、主治医、ケアマネジャー、訪問看護師、地域連携室担当者、病棟看護師、看護実習生にて、在宅へ向けてのカンファレンスを行った。退院後は2週間毎の外来通院とし、その際2週間分の点滴及び必要物品を持たせる準備をした。自宅では、ベッドで体幹抑制を行うのではなく、転落の心配のない布団に休んでもらうことにした。退院4日後から訪問入浴ができるよう調整。車椅子とミトンを購入して規則正しい在宅生活と安全に点滴管理が行える環境を整えた。
 114日退院。家族は「病院と同じ治療が家でも受けられることがうれしい」と満足していた。

アセスメント結果または現在の問題点
 今回の事例から、食事摂取困難な患者が、毎日点滴が必要な状態であっても、患者と家族の希望があれば、在宅での治療継続が可能であることが分かった。したがって、今後、スタッフ間で在宅支援に関する情報を共有し、患者・家族へ必要な情報提供ができるよう関わりたいと考える。


2.精神疾患のある主介護者と患者への退院支援
                                 古河赤十字病院  松崎 敦
                          (追加) 県西在宅クリニック  畠山淳也

ケース:66歳女性  主介護者:夫  要介護V  日常生活:一部介助
本人家族の希望・要望 本人:自宅退院  夫:療養型病院転院、施設入所
家族の状況 本人とうつ病の夫(近くにに夫の母親と要介護状態の父親が居住)
現病歴と経過(病名:下肢蜂窩織炎、好酸球性胃腸炎、両側緑内障、腰部脊柱管狭窄症、リウマチ性多発筋痛症、胃癌術後、不安神経症、抑うつ神経症)
・過去2年間で4回の入院歴あり。
・夜間に救急搬送されることもたびたびあり。うつ病を持つ夫は何かと不安になることが多く、主治医との話合いや事務職員との事務手続き上などでトラブルの起こることが多かった。
・平成2461日、低血圧、発熱、食思不振、右下肢痛のため救急搬送。下肢蜂窩織炎、敗血症の診断
77日から退院調整開始。主介護者である夫と面談。
 下肢潰瘍の処置が毎日必要な状態であるが、本人のADLは「ベッドから車いすへの移乗が見守りで可能」であり、在宅に向けてリハビリ意欲もある。夫は父親の介護もあり、妻の介護までは無理との考え。
・夫と再面談。夫は施設への入所か下肢潰瘍の処置が可能な療養型病院への転院を希望。しかし、金銭的な余裕がないとのことで、身障者手帳の申請を行い、マル福に該当すればとの思いも。(当初、リウマチ、腰部脊柱管狭窄症で身障者手帳の申請の予定だったが、3級程度にしか該当しないとのことだったので、視覚障害での申請)近隣の療養型病院への転院を打診。
724日、夫から面談依頼。医療機関への転院に固執していた夫だったが、近隣の療養型病院を見学し、妻が入院するような環境の病院ではない(高齢者ばかり)と判断し、在宅への退院を決意。
・在宅に向け、父親のケアマネジャーに依頼することになった。介護保険は、入院時に腰部脊柱管狭窄症で申請済み。
・下肢の潰瘍処置が毎日必要であったため、退院後は訪問看護の導入を検討。訪問看護事業所の都合で、退院後すぐには対応が難しいため、市内のショートステイを一時利用した後に在宅に移ることを検討
・ショートステイ相談員に下肢潰瘍の処置について相談
814日、当院退院。ショートステイの利用開始。

アセスメント結果または現在の問題点
814日退院後、市内のショートステイを10日間利用。施設が気に入ったようで、本人の精神状態は安定し、食欲も上昇。
・在宅にて訪問看護(介護保険)開始するが、金銭的な問題から2回の利用のみ。
・夫の希望であった身障者(視覚障害)2級に認定され、マル福に該当することになったため、訪問診療導入。
・退院後、県西在宅クリニックからの訪問開始。下痢が続き、両眼ともほぼ失明状態。また、痛みが強くオピオイド増量。さまざまな不安から薬物依存の状態。特に、近所に住む姑が見守りに来るため、それが心的な障害になっている。毎日訪問し、それらの不安に対してひとつひとつ相談に乗り、話を聞くことに徹しているうちに受け入れてもらうことができている。このケースにとって最も重要なのは、不安に対してどのように対応するかではないかと、県西在宅クリニックの畠山さんから追加報告があった。


3.最期まで治療を続けながら在宅で死亡した若年直腸がんの1ケース
                                 福祉の森診療所  赤荻栄一

ケース名:47歳男性  主介護者:妻
  介護保険認定:未  日常生活:自立
本人家族の希望・要望 本人:なんとか抗がん剤以外の治療を頑張って続けたい
                 妻:なんとか頑張り通させたい
家族の状況 妻、高校3年の双子姉妹の4人暮らし。主介護者は妻
現病歴と経過(病名:直腸癌骨転移、肝転移
 平成231月直腸癌手術。人工肛門設置。まもなく肝転移が判明し、抗がん剤治療。その後、8月に肝転移巣摘除術施行。また、その直後に仙骨転移出現したため、放射線照射。その後に抗がん剤治療を継続した。しかし本年に入り、骨転移・肝転移ともに増大。さらに、頸椎転移出現。7月には頸部に放射線照射を行った。
 頸部の痛みと腰部の痛みがあるが、もう骨転移に効果のない抗がん剤治療は受けたくないとして、8月当院受診。抗がん剤による吐き気や四肢のシビレには、もう耐えられない、とも。そして、丸山ワクチンの投与と骨転移に対するゾメタ(骨吸収抑制剤)の投与を希望したため、ただちに開始。
 当院初診時、CEA1500以上、CA19-9500以上で、肝酵素は中程度上昇(GOT:102GPT:94)。頸部のブロック注射とMSコンチンの継続で当院での治療開始。しかし痛みの増大あり、デュロテップパッチとオプソに変更。しだいに痛みは軽減したが、吐き気が増悪。それに合わせて、腹部の触診で肝臓の腫大を確認。また、吃逆(しゃっくり)が出現したため、吐き気の悪化は肝転移の増大による症状と診断した。
 治療の甲斐なく、10月に入ると腹部膨満が進み、吐き気と痛みが増悪。肝酵素はGOT:1926GPT:363と上昇。しかし、それでも最後まで通院治療を目指したが、起き上がるとこもできなくなったため、訪問診療と訪問看護を開始。しかし、その翌日昏睡状態となり、自宅で死亡した。
アセスメント結果または現在の問題点
・若年の末期がん患者は、「なんとか治したい」という気持ちが強い。
・しかし、がん治療の副作用にも耐えて治療を続けても、実際にがんの進行を止められないという現実を前にすると、あきらめの気持ちも出てくる。
・このケースでは、少しでも希望の持てる結果を期待して診察を受け、プラスの気持ちになろうと努力した。
・したがって、家で寝ているのではなく、できるだけ普通の患者と同様に通院を続けようとした。
・そして、亡くなる数日前まで、実際に通院を続けた。最後は、本当に力つきたように自宅で最期を迎えた。
・若年末期がん患者の診療に当たっては、家族ともども大きく揺れる気持ちに付き添うことが第一だが、がんを治したいという気持ちを最後まで支援することが最も重要かもしれない。

平成24年度第3回定例会(12月4日古河赤十字病院)

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