平成23年度第3回定例会
(8月2日総和中央病院にて)

1.ケース検討
 「病状の悪化に家族の気持ちが揺らぎながらも在宅で看取ることができた認知症を伴う肝硬変症の1ケース」
                                        古河福祉の森診療所        赤荻栄一
                                        白英荘居宅支援事業所       飯島 梢
                                        訪問看護ステーション「サルビア」 遠藤育子
                         
<ケ-ス>83歳、男性。主介護者:妻と長女
<病名>肝硬変症、老年性認知症、脳梗塞症
<日常生活自立度C2(すべて全介助)
<認知症自立度>Ⅲb(会話は困難)
<本人家族の希望>本人は入院したくない。家族は、入院させたくないが、具合が悪くなった時にどうしたらいいか分からないので、不安。
<家族状況>妻と長女一家
<現病歴と経過>
 平成22年10月、脳梗塞と高血圧の薬をもらいに行くだけだった近くの病院から、当院へ転院を希望して来院。当院では往診をしてもらえると聞いてのことだった。この時点で、白英荘で週3回のデイサービスを受けていた。デイでは、いつも楽しそうにしていた。しかし、徐々に腹部膨満が進んでいるのが気になっていたとのことだった。
 当院初診時、右半身の不全麻痺と廃用性下肢機能障害があり、歩行は困難。また、腹水貯留と下肢のむくみがあり、長時間の座位保持も困難な様子だった。この時には、白英荘のデイサービスは、腹部膨満のため送迎バス内で座っていることができなくなったとのことで、休止となっていた。
 平成23年3月下旬、右大転子部と右下腿外側部に褥瘡形成。これを機に訪問診療を開始。また、「サルビア」に訪問看護を依頼。訪問看護の契約時には、夜間・休日の緊急対応はいらないとのことだった。
 初回訪問時、右下腿褥瘡は黒色壊死、右大転子部は発赤のみだった。また、腹部膨満と全身浮腫はさらに増悪していた。これは、肝硬変症の悪化と食事量が少なくなっていたためと思われた。さらに、むせが見られ、誤嚥と喉頭部での喘鳴を認めた。
 4月下旬になると、一時右下腿の褥瘡は乾燥し軽快傾向だったが、右大転子部褥瘡は感染し、膿瘍形成。毎日の処置が必要になった、この時点で訪問看護緊急対応の契約に応じた。この頃から昼夜逆転状態となり、夜間譫妄が見られ始めた。精神薬のリスぺリドールをごく少量投与したところ、翌日の日中も眠気が残る様だとのことだったので、家族がどうしてもつらい時だけ服用させるようにした。
 今までの介護疲れにもよるのだろうが、妻の膝の状態が悪化して、介護に積極的に関われなくなってきた。そのように家族全体の介護疲れが目立ち始めたため、近くならば大丈夫ということで総和中央病院のデイケアを始めることにした。デイケアでは、可能な限り日中は起こしていることとしたが、食事は摂らなかったため、好きな果物を食べさせるようにした。
 しかし、食事摂取量はさらに減り、意識も混濁がちとなり、全身状態は極めて不良となった。それを見て、家族はこのまま見ていくことに強く不安を感じ始めた様子だったため、いつ急変してもおかしくないこと、しかしそうなったとしてももう治療法はないこと、つまり、もう最期を看取るだけの状態であることを家族に告げ、急変時にはいつでも主治医の携帯電話に連絡をしていいと伝えた。それを聞いた家族は、それならばこのまま家で見て行くとして、最期まで家で見ることを決めた。その1週後の6月10日朝、家族に見守られ、家で静かに息を引き取った。
<アセスメントと問題点等>
・当院への転院理由が往診を希望とのことだったため、訪問診療の開始は問題なく始められた。
・ただし、家族は急変時の不安を抱えているままのようだったため、最期までこのまま見ていくかどうかの確認は行わないまま、訪問を続けることとした。
・そしてやはり、全身状態の悪化や昼夜逆転が始まると、家族の不安が高まった。さらに妻の膝の悪化は、それに追い打ちをかけた。
・したがって、病院に入院すれば全部見てもらえるという気持ちと入院を望まない本人の思いを大事にしたいという気持ちの間で板ばさみ状態になって、家族の気持ちが揺らいだ。
・しかし、主治医からなにかあったらいつでも連絡していいと言われたこと、そして訪問看護がいつでも来てくれることを確認できたことで、最期まで家で見ていく気持ちが固まった。
・末期で家族の気持ちが揺らいでいる時こそ、関わりを持つすべてがその状況を共有すべきだが、ケアカンファを開いているひまはない。したがって、主治医の訪問時に関係者が可能な限り同席して、家族の気持ちを確認するようにするのがいいと思われた。
・最期まで関わった訪問看護からは、「最期まで在宅で見た家族は、ほとんどが満足し落ちついて死後のお清めにも関わる」という感想が述べられた。

2.次回の定例会
 次は10月だが、一般市民も巻き込んだパネルディスカッションを考えている。テーマは「胃廔」。日時は、一般市民の参加を考えると、平日の夜ではなく、土曜日の午後にしたい。
 詳細が決まったところで連絡をするが、場合によっては胃廔のケースについてのケース検討を通常通りやることになるかもしれない。
 

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