1.ケース検討
在宅で最期を迎えた家族性痙性対麻痺の1ケース 古河福祉の森診療所 赤荻栄一
(1)家族性痙性対麻痺とは
・ 脊髄小脳変性症のひとつで難病指定。根治療法はない。
・ 遺伝性性(常染色体優性遺伝)。発生頻度は10万人に2〜3人といわれるが、人口15万人の古河市
に一人。(ちなみに、E.I.さんは大阪出身で、発症した家族も大阪在住
・
発症年齢は、小児から高齢までさまざま。また、性差はない。
・ 下肢の痙性脱力を主徴とする、進行性の歩行困難と反射亢進。感覚機能や直腸膀胱機能は障害さ
れない。(E.I.さんは、前立腺肥大症で尿閉となった)
・ 具体的な症状は、歩くときにつま先がひっかかる、下肢がつっぱったようなぎごちない歩行。
・
この疾患で致命的になることはない。
・ 視神経萎縮や精神遅滞、認知症を伴うことがある。
(E.I.さんも認知症発症。これが命取りになった)
・
痙縮に対する対症療法(薬物療法)が主体。
(2)ケース:64歳男性。子どもたちは結婚して別居し、妻と二人暮らし。
現病歴と経過
平成8年頃から、足を引きずって歩くようになった。平成11年には、つまずくことが多くなり、早く歩くのが困難になった。また、手すりがないと階段の昇降ができなくなった。同僚から歩き方が変だと言われ、整形外科を受診し、東京医科歯科大神経内科を紹介された。同科でのMRIで小脳に萎縮を認めた他に異常はなく、上記診断となった。家系内で発症の判明したのは、伯母、その長男と次男である。それ以前の家系調査はできなかったため、不明。鎮痙剤の投与とリハビリで症状が改善したため、退院となった。
平成12年12月、同薬の投与を外来で継続するとして、当院に紹介となった。足の引きずり歩行は徐々に進行。平成19年7月、前立腺肥大症による尿閉を起こし、導尿からバルーンカテ挿入となる。同時にこのころから、認知症の症状が出現。夜間不穏になり、しばしばバルーンカテを自己抜去。リスパダールでは低量でも効きすぎ、デパスで安定したため、続けた。また、歩行はほとんど不可能になり、日中はイスに座ったままの生活となった。デイサービスとショートステイを利用し、当院には外来通院。
平成21年1月、興奮してバルーンカテ自己抜居。本人は、この時の記憶なし。リスパダールの併用で落ち着く。この時点で、HDS-R:22点。
平成22年夏、ショートステイ中に妄想からか、職員への暴力行為や異常行動(施設の備品や貼付物をはがす、ベッドのボードをはずす、他人の胃瘻チューブをはずす、等)が出現。再び、リスパダール投与で落ち着く。しかし、次第に認知症は進み、11月になると食事を摂らなくなり、下旬には意識低下。30日に死亡。自宅で死亡確認。死亡の前日まで、奥さんの付き添いで外来通院を通した。
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経過上の問題点
・神経難病であり、基本的に在宅ケアを続けることを第一とするケース。
・やはり、本人には、ずっと家で過ごしたいという気持ちが強かった。
・ そして、奥さんにも、夫の病は不治の病なので、本人の気持ちに応えたいという気持ち。
・ また、奥さんには、遺伝性の病気であると聞き、子どもたちに分からないようにしようという気持ちが強かった。そのため、子どもたちには父親の介護をさせないことにした。
・したがって、介護のすべてを自分でやろうと決心。デイを利用して、昼間は働きに出、夜には介護。そのため、認知症の周辺症状が激しくなった時には、共倒れ寸前の状態になった。これは、向精神薬でなんとか乗り切れた。
・ほとんど食べられなくなった時にも、入院はせずに家で見ることにした。
・本人の希望通り、最期まで家で過ごせた。しかし、子どもたちの将来の発病の可能性を考えると不安。 |