<検討ケース>
1.介護力不足と経済的問題を抱えながら自宅退院となったケース
古河赤十字病院 松崎 敦
脳梗塞症のある粟粒結核の70歳男性。言語障害があるが、意思疎通は可能。一人娘がいるが嫁いでおり、妻と二人暮らし。その娘には小さい子が二人いるため、介護には関われないという。
粟粒結核の入院治療を終えたが全身の筋力低下が進み寝たきりの状態であるため、全身管理継続を目的に転院となってきた。転院後、嚥下困難のため胃瘻が造設された。これによって全身状態が安定したため、退院の方針となった。しかし、妻はほとんど病院に来ず、また、収入は二人の年金(月約7万円、うち4万円がローンにまわる)のみ。妻は退院させる気持ちがない。しかし、やっと来院した妻に、前病院にも未支払金があるので転院や施設入所は困難であることを伝え、在宅が最も費用のかからないことを話して、退院を納得してもらった。
ADLは全介助であり、胃瘻からの栄養剤注入も必要であるため、退院前カンファを通して妻に在宅介護の注意点を話し、またおむつ交換や体位変換法など在宅介護で必要なことについて具体的な介護指導を十分に行った上で退院となった。
退院後は、土曜日は訪問入浴、それ以外はヘルパーが入り、ヘルパーの介助で通院することになった。退院後2カ月が経った現在、褥瘡形成し、訪問看護が必要になっているとのこと。妻の介護放棄が心配される。
このケースでは、経済的負担を減らす方法がないかと介護力を増やせないかという点が問題だったが、いずれも解決困難だった。
2. 好きなお酒を飲み続け自宅で最期を迎えた独居膀胱癌の1ケース
福祉の森診療所 赤荻栄一
76歳の男性。身寄りは東京に住む妹一人。しかし、その妹も「生きているうちは会いたくない。死んだら始末はする」という状態。
2年前、血尿で発症。その時点で、既に手術不能の進行癌。化学療法を受けたが、副作用のためかえって具合が悪くなり、本人は治療のせいで病気が悪くなったと思いこみ、そのまま通院しなかった。その半年後、下肢のむくみと腰痛が出現したため、古河赤十字病院を受診。痛みを取って欲しいとのことだった。骨盤内リンパ節に広範な転移が認められ、現在の症状はそのためであると思われた。また、両側肺に転移があり、左は気胸を起こしていた。ただちにオピオイド(オキシコンチン)投与が開始され、疼痛は緩和された。本人も1日も早い退院を希望したため退院となり、その翌週から訪問を開始した。
初回訪問時、痛みがひどく体を動かすこともできず寝たきりの状態だったが、本人の口からは「この痛みをなんとかして欲しい。病院には絶対に入院したくない。入院すると治療されてかえって具合が悪くなる」と。薬の服薬状況を確認すると、定期的に服用するはずのオキシコンチンが服用されておらず、痛みがひどい時に頓用するレスキュー剤のオキノ―ムだけがなくなっていた。したがって、服薬管理のため朝夕2回ヘルパーに入ってもらい、同時に食事の介助もしてもらうことにした。また、服用薬は一包化して管理を簡単にした。このこととオキシコンチンの増量によって痛みは緩和した。その後のヘルパーからの報告によると、毎日ワンカップ酒を2〜3本飲み、その時にレスキュー剤を飲んでいるようだとのことだった。酒を飲むことは制限せず、レスキュー剤を夜1包のみ手渡すこととした。痛みは緩和されていたが、むくみのひどい下肢の付け根(大転子部)に褥瘡形成。これは訪問看護に毎日入ってもらい処置をお願いした。その後血尿と血痰が出現。次第に酒を飲む力もなくなり、「このところずいぶん弱ったよ」を最後の言葉に、訪問開始後6週目に自宅で亡くなった。
平成21年度第6回定例会〜2月2日福祉の森会館〜