<検討ケース>
(1)在宅でネグレクトを受けていたケースが在宅に戻るための関わり
古河赤十字病院 高橋泰子
87歳の女性。子宮癌の再発と認知症のあるケース。三女と二人ぐらし。尿路感染のため本年春に入院。4月に退院した後、しばらくは訪問診療と訪問看護を受けていたが、「医療費がかさむから今後利用しない」と三女から連絡あり、訪問介護のみの利用となっていた。しかし、ヘルパーが訪問すると、おむつは前日交換したままで多量の失禁状態という日が続いていた。さらに、介護保険の再申請をしなかったため、その訪問介護も利用できなくなった。ケアマネが訪問すると、失禁だけでなく仙骨部の褥創が最大径6cmを超える状態になっていたため、緊急入院。その後、褥創は軽快してきたため、家族に退院の話をすると、「在宅は考えられない」と。入院後2か月が経過したため、今後、療養病棟の利用の可能性も考慮しつつ、介護保険の再申請を促し、ショートステイを利用しながらの在宅復帰が可能かどうかを検討している。
(2)手術しないという治療方針の受け入れができていない在宅末期癌の1ケース
福祉の森診療所赤荻栄一
71歳の男性。末期腎癌。脳転移、肝転移、副腎転移がある。肩のしびれから脳腫瘍との診断を受け、開頭術の結果、腎癌の脳転移であることが判明。原発巣の腎臓の摘出も受けた。外来で経過を追っているうちに副腎転移が明らかとなり、摘出術の予定が予定が立てられたが、膵臓への浸潤が強いことが判明し、中止になる。また、肝臓の多数の転移も明らかとなったため、化学療法を行うことになった。しかし、副作用が強く、これも中止。余命3か月と言われ、緩和ケアの方針となった。腹痛と背部痛の増強のためモルヒネ剤を開始、退院となった。
夜間せん妄の状態との連絡あり、訪問する。意識はもうろう状態だが会話は可能。腹部を指差し「ここを切って欲しい」と。オキシコンチン1日量20mgを服用しているが、これでは痛みが治まらないと。したがって、30mgに増量し、レスキュー(痛みが強くなった時に頓用すること)にオキノ―ムも服用するよう指示。
本人の気持ちには腎癌を治したいという気持ちが強い。また、家族も同じ気持ちを持っているように思える。さらに、自分の思い込みで薬の飲む飲まないを決めている。つまり、オキシコンチンとレスキュー剤の服用が指示どおりになっていない。痛みのコントロールがついていない上、癌を治したいという思いが強い患者と家族であり、このまま在宅を継続するのは困難と思われたが、翌週の訪問を待たずに、どうしても具合が悪いと家族が病院に連絡し再入院となった。つぎに退院するときには、在宅の主治医を交えた退院前カンファを行うか、本人家族への十分な説明を行い、よく理解してもらった上で帰してもらうことが必要。