<ケース検討>
1 天寿を全うし在宅で看取られた89歳女性認知症の1ケース
福祉の森診療所 赤荻栄一
息子夫婦および孫娘と同居。本人は家にいるのが一番と思っており、家族もその気持ちを大事にしてこれまでずっと家でみてきた。物忘れが気になり始めたのは5年前から。翌年からアリセプト服用開始。昨年春から症状はかなり進み、鏡に映った自分の顔を見て「これ誰?」。今年の4月になるとほとんど立ち上がることができず、また食事も摂れなくなってきた。4月30日に意識低下。家族はどうしようもなく、救急車を呼んだ。脱水と診断され、入院の上点滴を開始。それによって意識は回復。しかし、それと同時に認知症のため点滴は自己抜去。主治医から、認知症の進行のため食事を摂らなくなったことを説明され、家族は納得し在宅で看取ることとして退院を決めた。
5月14日退院。すぐに様子を聞くと、量は少ないが食事をそれなりに摂っているとのこと。来週往診してもらえればいいとのことだったので、20日に訪問。意識はしっかりしており、ゼリーやアイスクリーム、あるいはジュースなど、本人が好きなものを好きなだけ食べさせているとのことだった。血圧は102/60。脈拍は86/分。舌は乾燥し、脱水状態があると考えられたが、そのまま様子を見ることとした。23日昼過ぎ、呼吸が止まっているのを家族が発見。直ちに訪問し、死亡を確認した。
家族とともに生活し、問題となる認知症の周辺症状を起こすことなく、最後まで家で暮らすことができたケース。ただし、最後の状態で救急搬送される事態を経験した。これは、前もって家族にそのようなことが起こる可能性のあることを話しておけば防げたものと考えられる。認知症では、進行し食事を摂らなくなった時点で、家族に対し最後に起こる可能性のある脱水症状や血圧低下について話し、在宅での対応も十分に可能であることも理解しておいてもらうことが重要と思われた。そうすることにより、わざわざ入院治療を受ける必要がなくなる。しかし、入院治療は第三者の医師によって行われるものであるので、必ずしも認知症に対する対応の仕方が同じとは限らない。その医師から認知症の末期であることが説明されれば、すべての家族がそれ以上の治療は必要のないことを納得できるので、入院治療を行う医師との連携は重要である。それがうまく行けば、在宅での看取りを決めるきっかけづくりがスムーズにできることになる。
2 ターミナル期の在宅療養支援に関わって
古河赤十字病院 猪瀬貴子
71歳の末期胆嚢癌の男性。介護者は妻と長男。家族の希望で本人には胆嚢ポリープと十二指腸の炎症と話した。本人は早く家に帰りたいとの思い。しかし、十二指腸に狭窄があり、激しく嘔吐。退院するには狭窄部にステントを挿入するしかないとして、非常に高いリスクを覚悟で施行。なんとか成功し食事が摂れるようになったため、退院することとなった。その時の本人の満面の笑みが印象的だったと。退院が決まったその日のうちに在宅に向けた支援を開始。準備がすぐに整って、翌日には退院できた。
病診連携室とケアマネジャーとの連携がスムーズで、退院の方針が決まった後、数時間ですべての在宅療養の準備が整った。そして、退院後3日で亡くなった。しかし、長男は「家で死ねてよかった。眠るようでした。母も納得できたようでした」と。
今後の課題として、終末期のほんの短い貴重な時間だからこそ、本人の望む場所で望む人たちのいる中で、少しでもその人らしい生活ができるよう支援することが必要。そのためには、
1)病棟看護師や医師が末期癌に対する在宅支援体制について理解する
2)受け持ち看護師が、早期から本人・家族の意向を知り、ケースにあった在宅支援体制を整える
3)病診連携室と早期に連絡をとり、共同の指導を行い、退院後のストレス緩和を目指す援助を行う
ことが重要と考える。
3 比較的長期間の在宅療養の後、病院で看取った肺癌脊椎転移症例
友愛記念病院 三宅 智
68歳の男性。肺癌の化学療法後、脊椎転移が出現。放射線治療を行ったが、下肢の麻痺を起こした。本人の希望で、外来経過観察とし、退院。希望の在宅療養診療所から訪問診療を受けることとなった。5ヶ月という長期間在宅を続けることができたが、喀痰の増加と労作時の呼吸困難悪化のため、再入院。そして、入院8日目に死亡した。
友愛記念病院では、この地に移転後3年が経過したが、その間に400人が緩和ケア科で亡くなった。しかし、そのうち自宅で亡くなったのはわずか10人に過ぎない。これは、まだまだ病院から在宅に移行するには高いハードルが存在するからに他ならない。そのハードルを越えるには、今後、在宅中の医療の連携の在り方、入院のタイミング、そして在宅での看取り等について経験を重ね、患者・家族のみならず医療者の納得を得ることが必要と思われる。
平成21年度第2回定例会
〜平成21年6月2日 友愛記念病院にて〜