在宅ケアネットワーク古河会報第6号(平成21年5月発行)

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T 在宅ケア講演会

(古河さしまケアマネジャー研究会との共催)

517日 午後140分から

    古河福祉の森会館ホールにて

     「高齢者の自立に向けた支援とは」

   講師:高室成幸(たかむろしげゆき)氏(ケアタウン総合研究所長)

 
昨年に引き続き、ケアタウン総合研究所長の高室成幸氏に在宅ケア講演会の講師をお願いしました。昨年もご紹介しましたが、高室氏は、21世紀の日本の地域福祉を支える「地域ケアシステム」づくりと新しい福祉の人材育成を掲げて活躍中の方です。「わかりやすく、元気がわいてくる講師」として全国のケアマネジャー、行政・社協関係、在宅介護支援センター、民生児童委員等の研修会などで注目されています。会員は参加費無料です。お誘い合わせの上、ご参加ください。

U 在宅ケアネットワーク古河平成21年度総会及び定例会
                                     在宅ケアネットワーク古河 代表 赤荻栄一

 平成2147日、古河福祉の森会館で、在宅ケアネットワーク古河平成21年度総会と定例のケース検討会が開かれました。本年度の総会では、前年度の事業報告、とくに当ネットワークで提供している在宅医療の現状について報告されました。
 当ネットワーク参加医療機関での本年1月の1か月間の在宅医療提供者数は394名で、これは1年前の253名と比べて著明に増加しています。また、本年1月の在宅での看取り数が14名、昨年1月が7名であり、同様に増加しています。ただし、これは当市の2007年の年間死亡者数が1159名なので、一か月に換算すると96.6名になることを考えると、まだ、その14.5%という程度でありまだ少なく、市民への在宅医療のさらなる周知活動の必要性が示されていると考えます。 当ネットワークの定例会は、昨年からネットワークに参加している4病院にもご協力いただき、持ち回りで開催しています。そのため、その前の1年間に比べて、定例会の参加者数が延べ102名から158名と著しく増えています。これは、持ち回り会場となった各病院に勤務する方々の参加が増えたためです。病院勤務の方々に在宅ケア・在宅医療の現状を理解していただくことは意義のあることと思います。病院に入院している患者さんたちの退院後の指針を示すのが病院勤務の医師を初めとする医療従事者です。その人たちの意識の中に在宅ケア・在宅医療の考えがなければ、患者に対してその方針が示されることはありません。患者自身にとって、家に帰りたいと思っても主治医の口からそれが示されない限り、自分からは口にできないことです。
 本年も前年同様に各病院の持ちまわりで定例会を開催します。62日が友愛記念病院、84日が総和中央病院、106日が古河赤十字病院、121日が古河病院、明年22日が福祉の森会館の予定です。さらに多くのご参加を期待します。

V 定例会での検討ケースの概要
 前号では、昨年10月開催までの定例検討会での検討ケースの概要を報告しましたので。本号では、それ以降のケースの概要を報告します。
 昨年122日、古河病院で平成20年度第5回定例会が開催され、4ケースが報告されました。第1のケースは、「癌治療への抵抗感が強い本人と依存的な家族に対する説明に時間を要したものの本人の希望通り在宅での看取りのできた進行胃癌の1ケース」と題して、古河病院福江真隆先生から報告されました。71歳の男性で、胃癌の骨盤内転移浸潤があり抗癌剤治療に強い抵抗感のあるケース。妻と三女との同居。お金のことを含め、すべて本人が取り仕切ってきたこともあり、妻も三女も依存的で、「できるだけ病院にいて欲しい」という気持ちが強い。主訴は強い腰痛で、本人は自宅で最期を迎えたいという気持ちが強い。デュロテップによって疼痛コントロールがついて退院。経過中に血尿が出たとして救急入院したが、止血後、本人が退院を強く希望。訪問診療と訪問看護を行うことで家族も納得し退院。本人の希望通り自宅で最期を迎えることができた。医療側の説得によって、家族の気持ちは変えられるということでした。
 第2ケースは、「異食行為がある認知症の排便コントロール〜最後まで自宅で過ごしたいと願う息子のために〜」として、ゆうりんの小村平安子さんから報告されました。ケースは82歳の女性で、50代の息子と二人暮らし。現在、介護保険認定要介護4。運動機能に問題なし。ただし、認知症の周辺症状は重く、目に入ったものは何でも口にしてしまう。特に家では、朝方排便後に便を食べてしまう。これさえなければ自宅で見て行けるので、息子はデイサービスの利用時に排便をさせてもらうようにできないかと希望。薬剤服用や浣腸までして排便コントロールを行おうとしたが、できなかった。何かいい方法はないかとの問いかけに、会場からオムツをやめることによって定期的な排便習慣をつけることが可能になったケースや、デイの利用時に自由に扱ってくれたので、2年ほどかかったがデイの時に自然に排便ができるようになったというケースを経験したという発言がありました。
 3番目のケースは、「胃瘻増設した認知症患者の夫との関わり」として、古河赤十字病院の岡山ひとみさんから報告されました。ケースは75歳のアルツハイマーの女性で、嚥下障害のため肺炎を起こし、一時人工呼吸器を装着。そのため胃瘻増設。当初、家族(夫と次女)は在宅を希望していたが、本人が認知症のために気に入らないことがあると人格が変わったように暴言や暴力を行うことと、胃瘻のあることを夫が受け入れられずに、病院入院継続を希望。次女は在宅を受け入れていたが、結局施設入所となった。夫が自分一人で介護するということにこだわり、自分が手伝うという次女の言い分を聞こうとしなかったため、在宅にはつながらなかった。
 4番目は「10年以上に亘り配偶者の介護を受け自宅で看取られた認知症の1ケース」として、福祉の森診療所から私が報告しました。アルツハイマーの70歳女性。寝たきりとなった10年前、仙骨部と坐骨部に深いポケットを有する褥創を形成し当院紹介となる。訪問入浴と自宅での毎日の洗浄を開始。医療処置の必要な時に訪問看護を利用して、8年後に軽快。しかし、その頃から舌根沈下が出現。その2年後に死亡した。長い経過中、訪問介護を利用しつつ、介護のほとんどを夫が行ってきたケース。
 平成20年度第6回定例会は、本年23日福祉の森会館で行われました。第1ケースは、「難病の長女が父の在宅介護を決意するまで」として、古河赤十字病院の生井明美さんから報告されました。左大腿骨転子部骨折の89歳男性。骨折は手術をくりかえして何とか軽快し、全負荷可能になった。しかし、認知症は悪化、家族の付き添いがないと感情失禁による不穏が激しくなり、また、家族を見ると「家に帰る」と言うようになった。ところが、同居の娘は筋ジストロフィーで、自分でも手すり歩行の状態。それでも、可能な限り自分も在宅で介護をしたいとし、夜だけの介護なら可能だとのことで、日中は介護保険の在宅サービスを利用し、週末には孫の協力を得て、なんとか退院ができることになった。在宅サービスをうまく利用することによって、介護力が不十分でも在宅が可能だという報告でした。
 第2ケースは、「ショートステイ利用で在宅生活が可能になった認知症の事例」として、ゆうりんの小村平安子さんから報告。78歳女性のレビー小体型認知症。夜間の周辺症状が強く、徘徊、幻視・幻聴、脱衣行為、放尿、暴言・暴行など多彩。家族から本人の生い立ちについての情報を得、本人の気持ちに合わせた対応を細かく行うことにより、ショートステイ中、次第に落ち着いてきた。また、その様子を見て、家族が対応法を理解し、なんとかできそうだというまでになったというケースでした。
 3ケース目は、「病診連携と妻の介護で長期の在宅を続けた高度認知症(レヴィー小体型)の1ケース」として、私が報告。75歳の男性。64歳時、高度の認知機能障害に陥り、会話ができなくなった時点で当院紹介となって訪問開始。誤嚥と尿路感染を繰り返して、そのつど古河赤十字病院に入院。肺炎での最初の入院時に気管切開、胃瘻増設および膀胱内カテーテル留置。その後、訪問介護と訪問看護を利用しつつ、妻が気管内吸引と器具管理を昼夜分かたず行ってきた。最終的に誤嚥性肺炎によって死亡したが、褥創は死亡直前にわずかにできただけだった。 本年度第1回目の定例会では、「血液透析を導入した視力障害を持つA氏の在宅への支援」として古河赤十字病院の森田初美さんから第1ケースが報告されました。糖尿病による慢性腎不全の67歳男性。経度の知的障害のある次女との二人暮らし。尿毒症のため血液透析となった。網膜症のため視力障害もあり、右が0.02、左は光を感じる程度の状態。性格は頑固で乱暴。入院当初は、気に入らないことがあると暴言を吐き騒いだ。しかし、透析開始後は病状が安定するとともに次第に落ち着き、「自分で歩き、トイレ・入浴を自分でやりたい」と言うようになったので、ウマの合う次女と自宅での生活が送れるよう準備。すでに透析開始前に利用していた在宅福祉サービスの利用再開と、次女への栄養指導を行い、また送迎サービスを導入することによって、外来透析にスムーズに移行できた。在宅に向かうにはタイミングと周到な準備調整が必要であり、以前から利用していたサービスをうまく使うことが効果的だという報告でし
た。

 ついで、「在宅を希望しながら最期を病院で迎えたケース」として、私が2ケースを報告しました。1ケース目は、「本人は在宅を希望していた末期癌の1ケース」。食道癌の86歳女性。認知症はない。4年前、のどのつかえ感で発症。年齢を考え手術は行わず、放射線治療のみを施行。その後一人暮らしで、しばらくは落ち着いていたが、昨年秋に再発し、胸痛と嚥下困難出現。それに伴い娘のいる古河に移ってきた。2月に訪問開始。その時点で、右の呼吸音は聞こえ難く、また左には著明なラ音を聴取。酸素飽和度は95%。本人は「苦しくはない。病院には入院したくない」と。翌週の訪問時、自覚症に特変はないが呼吸音が同様に悪いので、このままだと肺炎につながる可能性が高いこと、及び肺炎は命に関わることを娘に伝えた。その翌日、呼吸困難ということで入院し、1週間後にそのまま亡くなった。最後をどこでどう迎えるかを介護者を含めて最初に確認することの必要性とその確認のないまま予後不良の話をすることの問題を痛感した。
 2ケース目は、「介護者は自宅で看取ることを決めていた認知症の1ケース」。101歳の認知症。昨年末から食事を摂らなくなり寝たきりとなって、仙骨部と踵に褥創出現。ショートステイを利用し始めて食事を摂れるようになったが、褥創が悪化したため当院紹介となり訪問開始。次第に良好な肉芽が盛り上がってきたが、再度食べなくなり、ショート利用中に突然の血圧低下。救急入院となり、消化管出血及び脳梗塞と診断。そのまま特別な治療をせず点滴のみで様子をみることとして、1週後に死亡。認知症の高齢者の精密検査とショーステイ利用中の急変時の医療の在り方についての課題を提起するケースでした。

62日の次回の当ネットワークの定例会は友愛記念病院で行われます