在宅ケアネットワーク古河会報第3号(平成19年10月発行)
T 在宅ケアネットワーク古河第11回定例会報告
在宅ケアネットワーク古河 代表 赤荻栄一
パネルディスカッション「病院から在宅へ」
〜病院ケースワーカーからの報告と討論〜
(パネリスト)
古河赤十字病院地域医療連携室 尾花久江さん
友愛記念病院相談支援センター 渡邉希代光氏
古河病院地域連携室 松浦崇氏
総和中央病院医療福祉相談室 野沢あゆみさん
当ネットワークでは、古河福祉の森会館で毎偶数月の第一火曜日18時30分から定例会を開催しています。今月は、2日に第11回定例会が行われました。今回は、いつもの症例検討は行わず、当ネットワーク会員の病院ケースワーカーの方々にパネリストになっていただき、「病院から在宅へ」というテーマでパネルディスカッションを行いました(当日参加されなかった一般会員の方々には、発表資料をこの会報に同封しております)。
在宅への橋渡しの最前線で活躍しているのが病院のケースワーカーの方々です。その方々から現場の生の声で現状と課題を語っていただき討論を深めることによって、在宅への移行を阻害するものが何なのかを探り、在宅に向かうためのヒントを見つけることができるだろうと考えました。実際に、当ネットワークに参加している4病院のケースワーカーの方々から、熱いメッセージが送られました。それを以下に要約します。
まず、古河赤十字病院地域医療連携室の尾花久江さんから、在宅への退院ができなかったケースと在宅に退院のできたケースを紹介していただいた後、まとめとして、連携室に相談のあった18年度のケースのうち在宅に戻ったケースの割合は32%であったこと、そして、それらのうち自宅に戻れなかったケースについて、戻れなかった理由を話していただきました。自宅退院できなかった理由は、入院前と退院時では患者さんの状態のギャップが大きいために家族が受け入れ難いことがある、家族が仕事を持っているなどの理由で介護する気持ちになれないことがある、初めから介護は負担だと思ってしまう、あるいは親類などから入院させてやらないのかなどという苦情を言われてしまうことがあるなどが主なものだという結論でした。また、自宅退院させることができた困難ケースのケアマネジメントを担当したツクイ古河の栗野五十鈴さんから、病院からの退院ケースでは、連携室を通すことによって主治医や看護師などとの連携がスムーズに行えたこと、そして退院後かかわりを持つデイサービスの看護師に褥創処置の指導を行ってもらえたことがいい結果につながったと報告されました。
ついで、友愛病院相談支援センターの渡邉希代光氏からは、友愛病院、特に緩和ケア病棟の概要と相談支援センターの紹介をしていただき、相談支援センターの業務の中では在宅支援よりも転院支援の方が多いことが示され、その理由として、急性期治療終了後の患者さんでは回復期リハ病院へ転院することが多いこと、また気管切開やIVHが施行され医療依存度の大きい患者さんが多いこと、短い期間のうちに急性期治療が終わりすぐに今後のことを決めなくてはならなくなるため、すぐに在宅の決心がつかないことが多いなどがあげられました。
在宅の決心を鈍らせる理由としては、核家族化の進行や二世代同居でも子ども夫婦が仕事を持っているとか親子の関係が希薄なことがあること、また初めから介護できないという気持ちになっていることが多いこと、さらに介護の方法が分からないということがあることが示されました。そして今後の課題としては、自宅で介護しようとする家族の強い気持ちをつくること、介護する家族を支援する頼れる専門職を確保すること、在宅介護を支える社会体制が整備される必要のあること、必ず訪れる老いに備えて家族内で話し合っておくことが重要ではないかとまとめられました。
つぎに、古河病院地域連携室の松浦崇氏から、古河病院の障害者病棟についての紹介と療養病床の現状について報告されました。その中で、療養病床の退院患者の分析から、在宅退院が困難な原因は、家族の受け入れようとする気持ちの欠如と入院依存度の高さにあるとし、特に前者では、そもそも家族関係に問題があったり、在宅から離れる期間が長くなったなどの理由で、家族内の人間関係が希薄になっていること、核家族化や生活のレベルの向上により家族単位で介護するという意識が薄らいでいることなどがあげられました。それを乗り越えるための今後の課題としては、病院の職員全体が在宅退院という意識を持って当たること、入院時から早期にコンタクトを取ること、そして家族全体を退院支援の対象とするべきであることが重要であるとまとめられました。
最後に、総和中央病院医療福祉相談室の野沢あゆみさんは、病院の退院患者のうち在宅退院患者が、この2ヶ月では半数以上を占めるほどになっていることを報告。在宅にスムーズに移行できる場合としては、入院時にケアマネが決まっていること、家族の受け入れもよく介護保険サービスも決まっていること、身体機能低下が少ないこと、機能低下が高度でも介護力がありさまざまな在宅サービスを使うことができることなどをあげられました。反対に、在宅への移行が困難な場合としては、介護保険の申請もしていないこと、家族の介護力がないこと、病院への依存度が高いこと、身体機能低下が高度であること、重度の認知症があること、独居であること、家族関係がよくないことなどがあげられるとされました。次に、この根拠となった、在宅への移行がスムーズに行えた2ケースと移行困難だった1ケースを紹介していただきました。
病院から在宅への橋渡し役として第一線で活躍しておられる病院ケースワーカーの方々の発表は、切実で最も説得力があり、多くの課題のあることが如実に示されたと思います。在宅への移行の困難な場合に共通することは、家族の介護力の低さであり、医療依存度の高さであるといえます。家族の介護力は、初めから介護しようという意識がないということから、介護しようにも知識がないために身を引いてしまっているということや、家族内の意見が合わないためにどうしようもなくなっているなど、さまざまな状況のあることが示されました。従って、在宅への移行を考える際には、患者本人だけでなく、家族全体を対象にすることが必要だという意見は重みのあるものと思いました。
また、医療依存度が高いということは、家族の介護力と密接に関係します。医療依存度が高いほど、多くの家族は、介護は無理と初めから身を引いてしまいます。これには、在宅サービスの質の向上とその使い方の指導とが重要ということになると思います。誰でも使える良質の在宅サービスがあれば、医療依存度の高い患者でも無理なく在宅に移行できるようになる可能性は高まります。その意味で、現状はまだまだ不十分であり、今後の重要な課題です。
以上、第11回定例会の報告とします。「病院から在宅へ」は、当ネットワークの永遠のテーマと考えます。当ネットワークだけでなく、国としても、地方自治体としても、また、医療機関自身としても、さらには介護を受ける本人とその家族にしても、最も重要なことです。今後とも、このテーマについて考みなさんと共に考えていきたいと思います。