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芽桜(MEZAKURA)前編



「・・・はぁ・・っ・・・・」

大きく吐息を漏らすと、体の力も一緒に奪われていく
これで何度目・・・?

一度・・・二度・・・何度数えても同じ数字ばかりを繰り返している
頭の中に靄がかかりそこから先を数える思考がない

いつからこうしているのだろう・・・
こんな行為こそ嫌悪していたはずなのに
恥もなく嬌声をあげている自分がいる

両親や、義兄に対する罪悪感さえおぼえながら抱かれている
むしろ求めているのは自分の方ではないか・・・?
大きく割り開いた足を高原の体に絡めて

「・・あ・・ぅ・・」

喘ぎ声さえ出させてもらえない
日樹の唇に高原の唇がピタリ合わさり塞がれ吸い付くように貪ぼり求めあう
それが長く、激しく、強く
わずかに開いた隙間から、どちらかのものか知れず合わさった唾液がつーっとこぼれると、
高原の指がそっとぬぐっていく

重ね合わせた肌の体温の差が一人でなく二人でいることを実感させる
少し熱を帯びた高原の体は日樹の白く細身の体とは対照的で
小麦色の焼けた無駄のない筋肉質の体
その胸は日樹の体をすっかり包み込むほど逞しい

その腕の中にいるとなぜか心が安らいだ

「ん・・・っ」
長い接吻からやっと解放される

だがすぐに次の束縛に捕まるのだ
唇から首筋に移ったそれはゆっくりと落ちてくる

「・・・諸藤・・・」
耳元で一度囁かれた



日樹の入院中、高原は毎日のように見舞った
償いだから・・・
誠実な高原だからこそ、そうせずにはいられなかった

何を話すでもない
許された時間を日樹のベッドの傍らにじっといただけ

学年も違えば、部活の練習中にもたいした会話などしたこともなかった

日樹が事故に遭ってしまったのは
部長の自分が陸上部をまとめられなかったからだと、そう思えてならなかったのだ

「・・・たか・は・・・・さ・・・んっ・・」
高原の唇は日樹の小さな胸元の突起に達していた

「・・あん・・・っ・・・」

日樹の背がしなる
走ることを捨ててしまった日樹は体を持て余していた
だからどんな小さな愛撫にも順応してしまう

しかし高原の目当てはそこではない
がっしりと大きな手のひら
高原の指も唇と一緒にそれを求めることをやめない

さらに日樹の柔肌を這わせる


高原の吹きかける熱い息がいつもと同じ道筋をたどりながら
日樹の体を下肢へとむかっていく
揺れる黒髪、その髪と揃いのくもりの無い正義の瞳
見つめられるだけで射抜かれる

「・・・きれいだな・・・」
「・・いや・・だ・・・そんなに・・・」

上体を起こし、日樹の体を足元からゆっくりと順に眺め上げる
綺麗だという言葉は女に対して使う言葉かもしれない
しかし日樹の体はその言葉に全く見劣りしなかった
均整のとれた体、細い腰、引き締まった長い足

中性的な容姿の日樹だが、すでに勢いよく形を変えている高原と同じものを持ち合わせ早くも弾けたがっている
高原のそれは、慈愛する場所を変えるたびに
自身の潤んだ先端を日樹の体のいたるところに敏感にタッチさせていき
その度、日樹は腰をうねらせる

「・・やっ・・・・は・・あ・・んっ・・・」

淫らな声色は自分ではないように思えた
甘ったらしく啼く
そんな表現がぴったりだった

身をよじらせ、言葉で嫌だと言いながらも
体はもっと深みと刺激を求めている
ベッドのシーツも波打ち、枕などとっくに役目を放棄している
何かに縋りたく日樹の指が彷徨う

巧みさよりも激しさが勝る高原の愛撫
ぎこちなくてもなぜか優しさを感じる
自分の欲望を満たすよりもどこかに相手を思いやりながらの行為は

『愛している・・』
そんな言葉よりもよほど信憑性があった

そして足の付け根まで降りてきた高原は
あいさつ程度に日樹のモノをくびれまで口に含む

「・・・!?・・・んっ・・」

日樹はビクンと体をよじらせる

熱い舌で弧を描くように舐め擦られる
だが高原の求めるものはそれではない・・・






窓の外はもうすっかり闇と化している



“自分さえいなくなれば・・・もう誰も傷つかない”
そんな思いだった

もう何にも関わりたくない・・・
関わらなければ何も起こらない
それにこんな孤独にはもう十分慣れていたはず

自分が退部すれば陸上部の人間は何に気遣うことなくやっていける
ただ、部長の高原にだけはそれで済まなかった

事故の責任を感じている以上、日樹が退部となれば益々心を痛めることが明白
ならば部をはなれても高原のそばにに身を置くことを代償にすればいい

入院中に見舞ってくれた高原と過ごしたわずかな時間はとても居心地が良かった
もしかしたらもう一度、人を信じることができるようになれるかもしれない
そんな気持ちにもしてくれた
だから・・・

日樹の胸のうちを感じ取ったのか
次の行為へ移るためか
高原はそっと日樹を解き放つ

「・・・・たか・・は・・・」

高原が求めていたもの・・・
それは日樹の足
そしてその左足の大腿部に20センチほどある縫合傷を端から端まで静かにゆっくり触れ撫でる
それこそが高原にとって最も愛しいものなのだ

「あっ・・・」
「オレはここが・・・好きだ・・・」

一度は栄光をともに手に入れた
出来ればもう一度、一緒にその手に受け止めたかった
高校生活最後の夏をもう一度一緒に走りたかった・・・
高原のその願いは叶うはずもない
どんなに願っても、傷は消えない
日樹の足は元には戻らない

高原は
『辞めるな、完治したらまた走れよ』
日樹にそう言うことが出来なかった

だから・・・

「諸藤・・・覚えてるか?・・・」
「・・・・」

高原が去年の夏の大会のことを言っているのだろうと日樹は察する
西蘭から転入してこの西星高校に入学して始めた陸上
顧問が声を掛け誘ってくれた

最初は過去を忘れるために夢中になれる何かが欲しかった

走っている時は何もか忘れられた
タイムレコードが更新されるたびに、
自分の努力が成果となって得られる実感が爽快だった
やがてそれが大きな自信となり空の心を埋めていった
体力の差で長距離選手は無理だろう、短距離むけの体だとアドバイスを受けた
その後、高原と組んだリレーがことのほか良い成績を残した

だが栄華はそう長くは続かないのだと
始まりがあれば、いつか終わりがくる
走ることを断念する日が訪れ思い知らされた

「・・お願い・・きて・・・」
高原を求めてしまう自分
だが言って、心の中でその言葉を打ち消した
きっと今日も無理だ・・・
受け入れることはできない


初めてだから
痛みを伴うから
高原の体格に比例する大きなものを咥え込めないから
そんな問題じゃなかった・・・

今度は大丈夫だから・・・
何度も試しては、そのたびに高原に嫌な思いをさせてしまった


あの時の記憶がまだ残っているから・・・
恐怖と悲しみ、裏切りに体が拒んでしまうせいで高原をいまだに受け入れられない


日樹は高原の手を引くと
自分の方へ導き、同時に今度は自分が高原の上に被さった
最後はいつも高原に自身の始末をさせてしまう
高原はそれを決して咎めたりすることをしない
逆にその姿を見るのが切なくて

そんな思いを抱く時点で、日樹は高原に別の感情を抱き始めていることを自覚する
その上高原は、自分の思惑を全て承知の上でこうしてくれているのかもしれないと
思わずにいられなかった

「・・口で・・・」
伏目がちに伝えると、今度は日樹が高原のものを咥え、決して器用にとはいかない奉仕をはじめる

「・・・くっ・・・」
高原が低い声を漏らす

いつも高原がしてくれるように日樹は高原に尽くす
時折漏れてしまう
水気を帯びた音が躊躇いもなく静寂な部屋に響く

「・・しなくていい・・・」
腰を引いてそれを制する高原

「でも・・・」
「無理するな・・・」
日樹の柔らかな髪に指先で触れ撫であげる

「自分で慰めるオレの姿がそんなに哀れか・・・?」

高原を達せてやれない後ろめたさと申し訳なさでいっぱいの日樹を前に
本人高原はいとも冗談ぽっく装う

「・・・うううん・・・」
哀れだなんて思うはずがない
むしろ、すまない気持ちでいっぱいなのだ

星明りだけの薄暗い部屋で
高原が今どんなに穏やかな表情を日樹に向けているか、残念ながら見とることはできなかった

瞬間、高原はくるっと体制を入れ替えた
そして二人のものを一緒に握ると同時に根元からしごき始める
握りこまれ触れ合うそれが
繋がりあわななくとも交わり同化していくように思えた

「・・あぁ・・っ・・いい・・・」
日樹は高原の首に両腕を絡め体を密着させる

「もっと・・・あ・・・ん・・っ・・」
「・・諸藤・・・っ・」
一番感じるリズムを知っている指は
擦りあげてはまた引き戻し、気づけば日樹も自然と腰を揺らしている

「・・や・・っもう・・・」
動きは段々小刻みに強く早くなりその部分はヒクヒクと痙攣しだす
それは直に高みへ到達する証拠


「・・くぅ・・っ」
同時に達するタイミングを求め
少しずつ高原の息も荒くなってきている



いつか・・・
受け入れられるときがきたら・・・
その時でいい・・・









朋樹
芽桜・後編