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オリジナルBL小説〜GIFT〜・あの夏の日の約束 冷たく乾いた風の中 白い息を吐きながら、くせのない柔らかな髪を揺らし かろやかに俺の目の前を駆け抜けていった妖精 自信に満ち溢れ、他の誰よりも輝いていた ストップウォッチがタイムを刻む等間隔の音 そして鼓動が同じ波長になり、その場面だけが切り取られたスローモーションの別空間になる 春近づきある陽だまりでのできごと、それが彼との初めての出逢いだった |
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日樹(HIJYU) 薫風の春、ゴールデンウィークに突入した 穏やかな陽射しをカーテン越しに心地よく取り入れるマンションの最上階の一室 わずかに開かれた窓から時折そそぐ澄んだ風がゆらゆらとカーテンを踊らしていた 南窓の外には若葉が鬱蒼と茂る緑地公園の風景が一望でき、その緑葉が目を優しく癒してくれる 日樹は勉強の合間の休息からいつの間にか眠りに誘われ、参考書を肘下のクッション代わりにそのまま机に伏し、 思わず生死の呼吸確認したくなるような、そんな静かな寝息をたてていた 部屋のドアを開けた時にその姿を目にした朋樹は日樹を起こさないようにと気遣う 洋室の床にそっと足音を忍ばせながら窓際まで近づきレールに窓を滑らし 今まで自由に行き来していた初夏の風を遮断した 室内は外気ほど気温が高くない そのわずかな気配を察し、日樹が目を覚ます 「・・・義兄さん?」 眩しそうに片方の瞳を開き、日樹は窓際で逆光にたたずむ義兄の姿を確認する 「起こしてしまったか? 悪かった・・・」 朋樹は日樹を静かに包み込むように囁きかけると ゆっくりとした動きで窓際にある学習机の脇のベッドに腰を下ろし、膝の上に指を組む その仕草がごく自然で優雅だ。 「また徹夜の居眠りコースか?」 義弟をからかう 「もうすぐ中間テストだから、欠席した分の遅れを取り戻さないと」 茶色い瞳が笑んでいる 昨晩遅くからずっと机に向かっていた日樹は大きく伸びをしながら体を起こした 「あまり無理をするな」 「大丈夫」 苦笑いをしながら答える日樹は 今年、高校二年生になる 「久しぶりの学校はどうだった?」 「クラス替えもあったし、新鮮だったよ」 日樹が休んでいた学年変わりの数週間のうちに進級時のクラス替えがあったのだ 「そうか。進路もそろそろ詰めていかなければならないな」 「うん」 学生らしく当たり前の言葉が返ってきて安心する自分があまりにも可笑しい朋樹 そして何かを思い出したのか、日樹が深みを含めた笑顔になれば 「何か良いことでもあったのか?」 柔らかな表情で尋ねる 「・・昨日・・・」 そう言いかけて首を横に振り躊躇った 一時、心が砕け壊れてしまうのではないかと義弟を気遣わない日が無かった そう、いつのことだっただろう 今でも微かに残るこの不安が増幅せず思い過ごしであれば良い、そう願う 「そうだ義兄さん、眼鏡のフレームを修理したいんだ」 日樹は机の隅に置いてある細い銀フレームが見事に曲がってしまった眼鏡を手に取り、掛けるしぐさをしてみせる が・・・もはや、眼鏡の役目をはたさないほどの損傷だ 「やっぱり駄目みたい」 「それでは使い物にならんな」 よほどのことが無い限りこんなに変形するはずがない 気にはかかるものの、朋樹はあえて詮索しなかった 聞き正したところで、日樹が真意を話すはずがないと承知しているからだ 「コンタクトだと調子悪くて・・・」 「それなら尚更、修理を急いだ方がいい」 ここしばらくコンタクトを使用していなかったせいかどうも不快らしい 走るのを止められてから一ヶ月、コンタクトはこの先もう必要なくなるという事実は日樹の心だけが知り得る 陸上部に所属していた日樹 もう走らないから眼鏡で良い・・・かたく胸の内に決めていた 「出かけるついでに朝食を外で済ませるか?」 義兄の、まるで恋人に囁くような甘いトーンの誘い 腕時計をちらっと見て時間を確認すると、時刻は午前九時になろうとしていた 「うん。モーニングで退院祝いをしてくれる?」 「そういえば、まだだったな、退院祝い」 忙しさにとらわれそこまで気遣いしてやれなかった せめてもの罪滅ぼしの提案に 日樹が嬉しそうに声を弾ませるのは、配慮に対しての更なる気遣いなのだ 「随分安上がりなお祝いだな」 「でしょ?」 クスッと笑い、義兄とのやり取りを楽しみ、そんな日樹を見て朋樹が微笑返しをする 日樹と朋樹の住むマンションは五階建てと低層の造りではあるが、落ち着いた深いレンガ色の外装が高級感を高めている 実父の会社で重役ポストに就く朋樹の住まいは、セキュリティも万全で分譲価格にしてもかなり値の張る物件である 以前通っていた都内でも屈指の名門私立の付属中学から理由あって隣県の公立中学へ転校、その後 県内の公立高校受験に切 り替えた日樹は、一昨年の一月から一人住まいの義兄、朋樹のマンションで一緒に生活を始めることになった 都会の雑踏を離れて選んだ地 朋樹はここから都内のオフィスに愛車で通う 同居を始めた日樹もすっかりここが気に入ったらしく、都内の実家に帰ることも稀になり 週末の殆どをこのマンションで自由気ままに過ごすことが多くなっていた 4LDKの間取り、南側洋間の一室が日樹の部屋になっている 日樹と暮らし始めるようになってからは他人を出入りさせないようにしていたが、朋樹の忠実な秘書、鏡 静那 彼だけが唯一入室を許されていた ハードな日程から珍しく解放された大型連休の初日、残念ながらこの瞬間に朋樹の今日のスケジュールが埋まってしまった 「車をまわしてくるから支度しておくといい」 「うん」 日樹の入院から一ヶ月ほど過ぎた五月、そろそろ夏の訪れを感じさせる陽射しに変わりつつある いつの間にか大人びた笑顔、一年間で心身共に随分と成長したものだとあらためて思う 返事を確認するとべッドから腰を上げ、朋樹は部屋を後にする 無駄なく整頓された日樹の部屋、その静寂な部屋に朋樹の着衣の布擦れの音だけが響く 精悍な顔つきに逞しい体の朋樹はその名の通り「月」の字二つ並ぶ「朋」の字を そして「日」の字を名前にした日樹 母親が違ってもどこか面影が似つく それでも対照的な二人である 飲みかけのペットボトルの清涼水が、日樹の机の上で陽の光を通し透明度を増してキラキラと光っていた |
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拓真 |